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技術資料
凍結融解を受けたコンクリートの各種特性
嶋田 久俊* 野々村 佳哲** 水田 真紀*** 島多 昭典****
1.はじめに
北海道のような積雪寒冷地においては、コンクリー
トの耐凍害性を確保する必要がある。そのためには、
凍結融解を受けたコンクリートの各種特性について明
らかにする必要がある。凍結融解抵抗性向上対策とし
て、混和剤に AE 剤(Air Entraining Agent:空気連
行剤)
、AE 減水剤等を用いることにより、コンクリー
ト中に独立した微細な気泡を3~6%程度連行させた
AE コンクリートが広く用いられている。本資料では、
図-1 凍結融解試験結果(300サイクルまで)
AE コンクリートおよび比較として AE 剤等を用いな
い Non.AE コンクリートについて実施した、凍結融解
後の各種特性試験について述べる。
図-1に300サイクルまでの試験結果の一例を示す。
Non.AE コンクリートの場合、10数サイクルで相対動
弾性係数の著しい減少が生じた。一方 AE コンクリー
2.使用材料および配合
トの場合、300サイクル終了時点での相対動弾性係数
セメントは、普通ポルトランドセメント(密度3.16
が約95% と、高い耐凍害性を有していた。
3
g/cm )を、細骨材は天塩郡幌延町産砂
(S1、表乾密度
2.64g/cm3)お よ び 沙 流 郡 平 取 町 産 砂(S2、 表 乾 密 度
3.2 各種特性値の試験時期
3
Non.AE コンクリートの場合、0、2、4、6、9、
2.72g/cm )を、粗骨材は札幌市南区常盤産砕石(G1表
3
12サイクル後に試験を行った。AE コンクリートの場
3
乾密度2.60g/cm )を用いた。AE コンクリートの混和
合、10×10×40cm の供試体で共鳴振動数により測定
剤は、AE 減水剤を用いた。表-1にコンクリートの
した相対動弾性係数が、100%、約80%、約60%、約
配合を示す。粗骨材の最大寸法は20mm とした。
40% となった0、741、1674、2186サイクル後に試験
乾密度2.67g/cm )および札幌市南区硬石山産砕石(表
を行った。
3.各種特性試験結果
3.3 質量減少率
3.1 凍結融解試験
図-2に相対動弾性係数と質量減少率の関係を示す。
凍結融解試験は、JIS A 1148 A 法(水中凍結水中融
Non.AE コンクリートの場合、ほとんど質量減少がな
1)
解) に準じて行った。材齢による強度増加の影響を排
い状態で相対動弾性係数が低下しているが、AE コン
除するため、
材齢91日以降に凍結融解試験を開始した。
クリートの場合、相対動弾性係数の低下に比例して質
表-1 コンクリートの配合
Non.AE ࠦࡦࠢ࡝࡯࠻
AE ࠦࡦࠢ࡝࡯࠻
න૏㊂(kg/m3)
W/C
(%)
s/a
(%)
C
W
S1
S2
G1
G2
55.0
47.7
308
169
693
238
668
349
46.6
268
147
662
228
668
349
ᷙ๺೷
ࠬ࡜ࡦࡊ
(cm)
ⓨ᳇㊂
(%)
-
7.0
1.1
2.680
7.0
4.8
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寒地土木研究所月報 №742 2015年3月
図-2 相対動弾性係数と質量減少率の関係
図-3 相対動弾性係数と圧縮強度の関係
量が減少している。なお、Non.AE コンクリートの質
量減少率が僅かにマイナスになっているが、ひび割れ
に水が入ることによる増加が考えられる。
3.4 圧縮強度および静弾性係数
図-3に相対動弾性係数と圧縮強度の関係を示す。
圧縮強度試験は、JIS A 1108 1)に準じて φ10×20cm
の供試体を用いて実施した。横軸の相対動弾性係数は、
圧縮強度試験の供試体そのものの相対動弾性係数では
なく、同じ凍結融解サイクル数を経た10×10×40cm
の供試体で測定した相対動弾性係数である。他の各種
特性試験においても同様である。図より、AE、Non.
図-4 相対動弾性係数と静弾性係数の関係
AE とも、凍結融解による劣化に従って、圧縮強度が
低下していることがわかる。AE コンクリートの場合、
質量減少により、断面積が減少しているが、その補正
は行っていない。
図-4に相対動弾性係数と静弾性係数の関係を示
す。静弾性係数測定は、JIS A 1149 1)に準じて圧縮強
度試験時にコンプレッソメーターを用いて変形量を測
定することによってひずみを計測し、圧縮応力とひず
みの勾配から弾性係数を算出した。AE、Non.AE とも、
相対動弾性係数の低下に応じて静弾性係数も低下して
いる。Non.AE の相対動弾性係数約60% の値が、他に
比べて低くなっているが、全体的には、凍結融解によ
図-5 圧縮強度と静弾性係数の関係
る劣化に従って、静弾性係数が低下している。
図-5に圧縮強度と静弾性係数の関係を示す。図中
の実線は、土木学会標準示方書2)に示されている全国
3.5 引張強度
の調査結果を基にした静弾性係数の算出式である。
図-6に相対動弾性係数と引張強度の関係を示す。
AE、Non.AE とも圧縮強度の小さい領域で静弾性係
引張強度試験は、JIS A 1113 1)に準じて φ10×20cm
数が大きく低下しているが、Non.AE の低下が大きい。
の供試体を用いて行った。AE、Non.AE とも圧縮強
一般的に凍害を受けたコンクリートは、圧縮強度より
度と同様に、凍結融解による劣化に従って引張強度が
3)
も静弾性係数の低下が著しいとされている が、本結
低下する傾向がある。なお、引張強度に関しても、断
果も同様の傾向が表れた。
面減少の補正は行っていない。
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図-6 相対動弾性係数と引張強度の関係
図-8 相対動弾性係数と0.002D 時付着応力の関係
図-7 相対動弾性係数と曲げ強度の関係
図-9 相対動弾性係数と付着強度の関係
3.6 曲げ強度
3.8 長さ変化率
図-7に相対動弾性係数と曲げ強度の関係を示す。
1)
図-10に相対動弾性係数と長さ変化率の関係を示
曲げ強度試験は、JIS A 1106 に準じて10×10×40cm
す。長さ変化率試験は、JIS A 1129-3 1)に準じて10×
の供試体を用いて行った。Non.AE、AE コンクリー
10×40cm の供試体を用いて行った。Non.AE コンク
トともに凍結融解による劣化に従って曲げ強度が低下
リートの場合、相対動弾性係数の低下にほぼ比例して
しているが、Non.AE コンクリートの低下度合いが
膨張しているが、AE コンクリートの場合、相対動弾
AE コンクリートに比べて大きくなっている。
性係数が約80% 以降の変化は少なくなっている。
3.7 付着強度
図-8に相対動弾性係数と0.002D 時付着応力の関
係を、図-9に相対動弾性係数と付着強度の関係を示
す。付着強度試験は、JSCE-G 503-2010 4)に準じて8
×8×8cm のコンクリートの中央に D13の鉄筋を挿
入した供試体を用いて行った。凍結融解による劣化に
より、付着強度は低下しているが、低下度合いは、
Non.AE コンクリートに比べて AE コンクリートの方
が大きくなっている。0.002D 時付着応力については、
明確な傾向は得られなかった。
図-10 相対動弾性係数と長さ変化率の関係
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寒地土木研究所月報 №742 2015年3月
図-11 相対動弾性係数と破壊エネルギーの関係
3.9 破壊エネルギー
図-12 共鳴振動数と超音波による相対動弾性係数の
比較 5.おわりに
図-11に相対動弾性係数と破壊エネルギーの関係を
示す。破壊エネルギー試験は、JCI-S-001-2003 4)に準
今回の実験により、凍結融解による劣化が劣化後の
じて行った。凍結融解による劣化により、特に AE コ
各種特性値に及ぼす影響をほぼ明らかにすることがで
ンクリートの破壊エネルギーは減少する傾向は見られ
きた。ただし、耐凍害性の著しく劣る Non.AE コンク
るが、明確な傾向は得られなかった。
リートと、300サイクルでの相対動弾性係数が95% 以
上の耐凍害性に優れている AE コンクリートの2ケー
4.超音波法による相対動弾性係数
スのみの結果であり、さらに凍結融解による重量減少
率を考慮しておらず、実構造物の耐荷力評価等に用い
図-12に共鳴振動数と超音波法による相対動弾性係
る際には、留意する必要があると考えられる。
数の比較を示す。共鳴振動数による動弾性係数の測定
は、供試体形状によっては測定が不可能であり、超音
参考文献
波法により、相対動弾性係数を評価することが広く行
われている5)。今回の実験の範囲では、Non.AE コン
クリートの場合、右に凸となるものの、超音波法によ
る相対動弾性係数は、共鳴振動数による相対動弾性係
数と関係があり、超音波法により、コンクリートの耐
1)土木学会:2010年制定コンクリート標準示方書規
準編、JIS 規格集、2010
2)土木学会:2012年制定コンクリート標準示方書設
計編、2013
凍害性を評価できると考えられる。ただし、AE コン
3)凍害の予測と耐久性設計の現状-凍害と耐久性設
クリートの場合、凍結融解サイクルによる超音波伝播
計研究委員会報告書-、社団法人日本コンクリー
速度の低下が見られなかった。これは、Non.AE コン
ト工学協会北海道支部、pp.22-23、2006
クリートの場合、コンクリート全体の組織が緩み、凍
害劣化を超音波伝播速度の測定により評価できるのに
4)土木学会:2010年制定コンクリート標準示方書規
準編、土木学会規準および関連規準、2010
対し、AE コンクリートの凍害劣化は表面からの剥離
5)緒方英彦、服部九二雄、高田龍一、野中資博:超
によって進行したため、供試体内部の組織は緻密なま
音波法によるコンクリートの耐凍結融解特性の評
まであり、断面中央を透過させた本測定方法では超音
価、コンクリート工学年次論文集、Vol.24、No.1、
波伝播速度が低下しなかったものと考えられる。よっ
pp.1563‐1568、2004
て、今後、断面中央のみでなく、周辺付近の超音波伝
播速度の測定による検討を加えていく必要がある。
寒地土木研究所月報 №742 2015年3月 31
SHIMADA Hisatoshi
野々村 佳哲**
NONOMURA Yoshinori
水田 真紀***
MIZUTA Maki
SHIMATA Akinori
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ
耐寒材料チーム
主任研究員
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ
耐寒材料チーム
研究員
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ
耐寒材料チーム
研究員
博士
(工)
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ
耐寒材料チーム
上席研究員
技術士
(建設)
嶋田 久俊*
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島多 昭典****
寒地土木研究所月報 №742 2015年3月