下部尿路機能障害をきたす主な疾患

日本泌尿器科学会
排尿機能検査士講習会
初級コース
下部尿路機能障害をきたす主な疾患
吉村 耕治
(静岡県立総合病院)
2015年5月9日 @浜松
本日のテーマ

下部尿路機能障害とは!?

下部尿路機能障害の原因となる病気
 前立腺肥大症
 過活動膀胱
 神経因性膀胱
 腹圧性尿失禁
 骨盤臓器脱
 夜間頻尿
下部尿路機能(蓄尿と排尿)
<蓄尿>
<排尿>
下部尿路機能障害のタイプ
1) 蓄尿障害
頻尿,尿失禁など
2)
排尿(尿排出)障害
排尿困難(尿勢低下,腹圧排尿など)
ひどくなると頻尿や尿失禁が出現することがある。
3) 両者の合併
下部尿路症状(LUTS)とは
下部尿路症状(LUTS)
蓄尿症状
排尿(排出)症状
昼間頻尿、夜間頻尿、
尿意切迫感、切迫性尿失禁
尿勢低下、尿線途絶、
腹圧排尿
排尿後症状
残尿感、排尿後尿滴下
下部尿路症状(LUTS)とは、蓄尿(尿をためる)と排尿
(ためた尿を排出する)に関連する機能の異常(下部尿路
機能障害)によって生じる症状。
蓄尿症状、排出症状,排尿後症状 の3つに大別。
下部尿路症状 vs 下部尿路障害
 蓄尿症状
× 蓄尿障害
昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁
 排尿(排出)症状
× 排尿障害
尿勢低下、尿線狭小(尿線の異常)、尿線途絶、
排尿遷延、腹圧排尿(いきみ)、終末滴下(尿
の切れが悪い)
(排尿後症状)
残尿感、排尿後尿滴下
前立腺肥大症
(benign prostatic hyperplasia: BPH)
前立腺の基礎
膀胱
移行域(尿道周囲腺)
精嚢
中心域
線維筋性間質
クルミ大の器官
10~20 g
射精管
辺縁域
 精液の一部となる前立腺液を分泌
→ 精子の運動・保護に関与
 男性ホルモン依存性
加齢と前立腺肥大症
(自然史)
下部尿路症状
前立腺肥大症による下部尿路機能障害
+ 膀胱の構造的、機能的変化
前立腺肥大症の特徴
 LUTS症例でも腺腫も閉塞も
ない症例は少なくない。
 前立腺の大きさと症状の強さ
とは必ずしも比例しない。
BPHはQOL疾患である!
前立腺肥大症に対する基本的評価

問診(症状質問票)

尿の勢いの検査(尿流測定)

超音波(エコー)検査
 前立腺体積,残尿測定

直腸診

血液検査(PSA):前立腺癌の除外

尿流動態検査(UDS)
国際前立腺症状スコア(I-PSS)
とQOLスコア
5回に1回
全くない
2回に1回
の割合より の割合より
2回に1回
2回に1回
ほとんど
の割合
の割合より
いつも
少ない
少ない
くらい
多い
この1か月の間に、尿をしたあとにまだ
尿が残っている感じがありましたか
0
1
2
3
4
5
この1か月の間に、尿をしてから2時間以内に
もう一度しなくてはならないことがありましたか
0
1
2
3
4
5
この1か月の間に、尿をしている間に尿が何度
もとぎれることがありましたか
0
1
2
3
4
5
この1か月の間に、尿を我慢するのが難しい
ことがありましたか
0
1
2
3
4
5
この1か月の間に、尿の勢いが弱いことが
ありましたか
0
1
2
3
4
5
この1か月の間に、尿をし始めるためにお腹に
力を入れることがありましたか
0
1
2
3
4
5
0回
1回
2回
3回
4回
5回以上
0
1
2
3
4
5
とても
満足
満足
ほぼ
満足
なんとも
いえない
やや
不満
いやだ
とても
いやだ
0
1
2
3
4
5
6
この1か月の間に、夜寝てから朝起きるまでに、
ふつう何回尿をするために起きましたか
現在の尿の状態がこのまま変わらずに続く
としたら、どう思いますか
前立腺体積測定
水平断面像
矢状断面像
(横断面)
■前立腺体積(mL)の計算方法(近似値)
縦(cm)×横(cm)×高さ(cm)×1/2
尿流測定 (uroflowmetry: UFM)
残尿測定
水平断面像
矢状断面像
(横断面)
■残尿量(mL)の計算方法(近似値)
縦(cm)×横(cm)×高さ(cm)×1/2
前立腺肥大症の薬物療法
機械的閉塞
 抗アンドロゲン薬
(5α還元酵素阻害薬)
 その他
機能的閉塞
 α1遮断薬
具体的な薬剤名
α1遮断薬



タムスロシン
ナフトピジル
シロドシン



ハルナール®
フリバス®
ユリーフ®
抗アンドロゲン薬



デュタステリド
クロルマジノン
アリルエストレール



アボルブ®
プロスタール®
パーセリン®
その他①(PDE5阻害薬)

タダラフィル

ザルティア®
その他②

エビプロスタット、パラプロスト、漢方薬
など
前立腺肥大症の手術療法
切除、核出
蒸散
内腺を物理的に取り出す
組織を蒸散(溶かす?)
 TURP
 HOLEP
 PVP
TURP
HOLEP
PVP
過活動膀胱
(overactive bladder: OAB)
過活動膀胱とは!?
“尿意切迫感(urgency)を主症状とする症候群
で、切迫性尿失禁を伴うことも伴わないこ
ともあり、通常頻尿と夜間頻尿を伴う”
症状症候群
蓄尿症状
・頻尿
・尿意切迫感
・夜間頻尿
・切迫性尿失禁
過活動膀胱の症状
 頻尿
(トイレが近い)
 夜間頻尿
(夜、就寝時間中にトイレに何度も起きる)
 尿意切迫感
(突然、トイレがしたくなってたまらない)
 切迫性尿失禁
(トイレまで尿が間に合わずに漏れる)
 腹圧性尿失禁
(くしゃみや咳、重い物のもちあげ等、お腹に力が入った時の漏れ)
過活動膀胱の有病率
(排尿機能学会
%
調査)
40
男
35
女
30
25
過活動膀胱
の条件
有病率12.4%
20
排尿回数
1日8回以上
15
尿意切迫感
週1回以上
10
5
0
40s
50s
60s
70s
≧80s
OABの分類
OAB
OAB dry
OAB wet
切迫性尿失禁を伴わない
切迫性尿失禁を伴う
過活動膀胱(OAB)の実数
OAB
810万人
6,640万人
87.6%
40歳以上人口
12.4%
OAB
6.0%
dry
380万人
OAB
6.4%
wet
430万人
過活動膀胱(OAB)の原因
神経因性(10~20%)
脳幹部橋より上位の中枢の障害
脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、認知症(痴呆)、脳腫瘍、脳
外傷、脳炎、髄膜炎
脊髄の障害
脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍、頸椎症、後縦靱帯骨化症、
脊柱管狭窄症、脊髄血管障害、脊髄炎、二分脊椎
非神経因性(80%以上)
下部尿路閉塞
骨盤底の脆弱化
(前立腺肥大症,骨盤臓器脱,尿道狭窄など)
(腹圧性尿失禁,骨盤臓器脱など)
加齢
特発性
過活動膀胱診療ガイドライン:日本排尿機能学会過活動膀胱ガイドライン作成委員会編,ブラックウェルパブリッシング,2005.
吉田正貴 他:Pharma Medica. 24(2):21,2006.
OAB診療のアルゴリズム
尿意切迫感と頻尿±尿失禁
初期評価
問診票・排尿
記録・診察・
検尿
神経疾患(脳血管障害、脊髄障害など)の既往
あり
なし
初期評価
血尿のみ
検尿で血尿、膿尿なし
膿尿
残尿量の測定
尿路感染症治療
改善
治療終了
残尿少ない
不良
残尿多い
行動療法や抗コリン薬などによる薬物治療
改善
治療継続
専門医受診
効果不良
目安:≧50mL
過活動膀胱症状質問票
(OABSS)
過活動膀胱症状質問票 (Over active Bladder S ympt om S cor e;OABS S )
以下の症状がどれくらいの頻度でありましたか。この1週間のあなたの状態にもっとも近い
ものを、ひとつだけ選んで、点数の数字を○で囲んで下さい。
質問
症状
1
朝起きた時から寝る時までに、何回くらい尿をしまし
たか
2
3
4
夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするた
めに起きましたか
急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありました
か
急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことが
ありましたか
合計点数
点数
頻度
0
7回以下
1
8~14回
2
15回以上
0
0回
1
1回
2
2回
3
3回以上
0
なし
1
週に1回より少ない
2
週に1回以上
3
1日1回くらい
4
1日2~4回
5
1日5回以上
0
なし
1
週に1回より少ない
2
週に1回以上
3
1日1回くらい
4
1日2~4回
5
1日5回以上
点
過活動膀胱の治療
生活療法&行動療法
膀胱訓練


骨盤底筋
体操

「排尿したい、と思った時にすぐにしない」
排尿したくなってから、まず15分我慢する。
→我慢の時間を30分、45分と延ばしていく。
肛門・膣口周囲をすばやく絞めて、5秒間維
持。そしてリラックス。
腹圧性尿失禁にも効きます!!
過活動膀胱の薬物療法
抗コリン薬
排尿
副交感神経
骨盤神経
骨盤神経節
抑制
(ー)
3作動薬
蓄尿
刺激
(+) 交感神経
下腹神経
収縮
ACh
(M2,3)
弛緩
膀胱弛緩
膀胱
NA (3)
外尿道括約筋
ACh: アセチルコリン,NA: ノルアドレナリン
蓄尿
体性神経
陰部神経
具体的な薬剤名
抗コリン薬






オキシブチニン
プロピベリン
トルテロジン
フェソテロジン
ソリフェナシン
イミダフェナシン

ポラキス®、ネオキシテープ®
(貼付剤)
バップフォー®
デトルシトール®
トビエース®
ベシケア®
ウリトス® ・ステーブラ®

ベタニス®





β3作動薬

ミラベグロン
神経因性膀胱
(neurogenic bladder: NGB)
蓄尿のメカニズム
骨盤神経:副交感神経、下腹神経:交感神経、陰部神経:体性神経
排尿のメカニズム
神経因性膀胱をきたす疾患
脳
認知症
脊髄
脊髄損傷
(アルツハイマー病) 脊髄腫瘍
脳血管障害
頚椎症
脳腫瘍
脊髄血管障害
脳外傷
多発性硬化症
脳炎
二分脊椎症
パーキンソン病
脊髄係留症候群
多系統萎縮症
脊髄炎
薬剤性
(脊椎変性疾患)
末梢神経
糖尿病
骨盤内手術:
直腸癌/子宮癌
薬剤性
国際禁制学会(ICS)の分類