体内Kの分布と高K血症の病態 - KAYEXALATE.jp

第25回日本臨床工学会 及び 平成27年度公益社団法人日本臨床工学技士会総会 共催セミナー3
日時 2015年5月23日
(土)
場所 福岡国際会議場 4階 第4会場
座長
演者
福岡赤十字病院
副院長
九州大学大学院医学研究院
包括的腎不全治療学 准教授
平方 秀樹 先生
鶴屋 和彦 先生
慢性腎臓病(CKD)では、腎機能低下に伴う尿中へのカリウム(K)排泄の低下に加え、アシドーシスによる細胞
内外のKの分布異常などが生じることで、高K血症の発現リスクが高まる。高K血症はCKD患者の予後を悪化
させるため、早期から十分な対策を講じる必要があるが、尿中へのK排泄が低下しているCKD患者においては
陽イオン交換樹脂製剤を用いたK排泄促進が有用な治療の選択肢となる。そのためには、陽イオン交換樹脂製剤
の特性を見極めた効果的な使用が非常に重要である。
本セミナーでは、九州大学大学院医学研究院包括的腎不全治療学准教授の鶴屋和彦先生に、CKD患者における
高K血症の病態や治療の重要性、ナトリウム(Na)型陽イオン交換樹脂製剤ケイキサレートの有用性などについ
てご解説いただいた。
体内Kの分布と高K血症の病態
通常、体内の総K量は約3,000mEqに保たれており、その
ドステロンが、尿から血中へのNa再吸収と尿中へのK排泄
98%は細胞内に存在している。正常な状態では、細胞内K値
を調節し、体内の水分とNa、Kの均衡を保っている。このよ
は約100mEq/L、血清K値は3.5∼5.0mEq/Lに維持され、約
うな体内での均衡が崩れ、血清K値が異常に上昇する病態
20∼50mEq/日が尿中に、約5∼10mEq/日が便中に排泄さ
が高K血症であり、血清K値5.5mEq/L以上の状態と定義さ
れる。腎集合管では、水分貯留を促進するホルモンのアル
れる。
鶴屋氏は、血清K値に影響を与える因子として、体内の総
清K値が高い患者ほど突然死のリスクが上昇するとのデー
K量の異常と、細胞内外のK分布異常の2つがあると指摘す
タも示されている。
る。前者の場合は、腎不全により尿へのK排泄が低下するこ
とで血清K値が上昇する。
一方、
後者ではアシドーシスにより
細胞内に水素イオン(H+)が流入し、代わりにKイオン(K+)
図1.CKDステージ別にみた高カリウム血症(K≧5.5mEq/L)の頻度
(%)
100
が細胞外へ流出することから、
体内総K量は変化しないものの、
して、米国の一般住民2,103,422例を対象とした大規模疫学
8.0
60
6.0
40
研究が紹介された1)。同研究では、CKDのステージ上昇に比
4.0
20
例して高K血症の発現リスク(相対危険度)も上昇し、ステー
0
ジ4、5では高K血症の発現リスクが非常に高いことが明らか
相対危険度
また、腎不全の進行と高K血症との関係を示したデータと
10.0
80
頻 度
血清K値が上昇する。
12.0
n=2,103,422
2.0
No CKD
Stage 3
にされた(図1)。さらに、すべてのCKDステージにおいて血
Stage 4
Stage 5
0.0
Einhorn LM et al.: Arch Intern Med 169; 1156, 2009より作図
Na型陽イオン交換樹脂は、
カリウム交換効率が高い
高K血症患者の治療としては、致死性不整脈の予防を目的
理論的に違いがある。これは、ポリスチレンスルホン酸樹脂
とした緊急治療と、体内に蓄積したKの除去を目的とした治
に対する陽イオンの親和性が関係している
(図2)
。
療があげられる。緊急治療では、Kの心筋毒拮抗作用を有す
ポリスチレンスルホン酸樹脂は疎水性であり、
水和が弱い
るグルコン酸カルシウムの投与や、血液中のKを一時的に細
陽イオンほど結合しやすい(親和性が高い)という特性があ
胞内へ移行させる目的で炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の
る。Caイオン(Ca+)はK+よりも同樹脂との親和性が高いが、
投与やグルコース-インスリン療法が行われる。しかし、これ
Naイオン(Na+)はK+より親和性が低い2)。そのためCa+に比
らは一時的な対症療法であり、体内の総K量は変化しない。
べて、Na+はK+との交換が起こりやすく、交換効率がより高
根本的な治療としては、陽イオン交換樹脂製剤の注腸/経口
いと言えるのである。
投与や透析療法によって、体内に蓄積したKを除去する必要
がある。
CKD患者においては腎臓からのK排泄が低下するため、
代
償性に大腸内へのK排泄が亢進するが、大腸でのK排泄は電
気化学的勾配に沿った受動輸送であり、
その能力には限界が
ある。陽イオン交換樹脂は、腸管内のK+を吸着し、体外へ排
出させることで、
血清K値を低下させる。
現在、陽イオン交換樹脂製剤には、Na型のポリスチレンス
ルホン酸ナトリウム(ケイキサレート)と、カルシウム(Ca)
図2.ポリスチレンスルホン酸樹脂に対する陽イオンの親和性
リチウム(Li+) 1.00
水素(H+)
1.32
ナトリウム(Na+)
1.58
+
アンモニウム(NH4 )
1.90
+
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムが
カリウム(K )
2.27
2+
マグネシウム(Mg )
2.95
イオン交換しやすい電解質
2+
亜鉛(Zn )
3.13
2+
3.23
コバルト(Co )
3.29
銅(Cu2+)
2+
3.45 ポリスチレンスルホン酸カルシウムが
ニッケル(Ni )
2+
イオン交換しやすい電解質
4.15
カルシウム(Ca )
2+
4.70
ストロンチウム(Sr )
2+
6.56
鉛(Pb )
7.47
バリウム(Ba2+)
0
型のポリスチレンスルホン酸カルシウムの2種類がある。い
ずれも同じ樹脂が用いられているが、両者のK+交換能には
2
4
6
選択係数(リチウムを1として)
8
山辺武郎 編:イオン交換樹脂−基礎と応用− 金原出版,
1962 改変
高K血症とアシドーシスの密接な関係
アシドーシスと血清K値の関係が非常に強いことは古く
から知られている 。健常人の血液pHは7.4に保たれ、血清K
3)
値は4.0mEq/L前後であるが、体内総K量が適正であっても、
血液pHが低下すると、
それに反比例して血清K値は上昇する
(図3)
。
鶴屋氏は、
これについて自施設における臨床試験結果を用
いて解説した。
ケイキサレートを初回から導入した群
(33例)
して、福岡赤十字病院のグループが実施した、高K血症を呈
で は 、血 清 K 値 が 5 . 6 ± 0 . 5 m E q / L か ら 4 . 5 ± 0 . 5 m E q / L
する保存期CKD患者28例に対するランダム化クロスオー
(p<0.0001)と有意に低下し、推定重炭酸イオン(HCO3 )値
−
4)
同試験では、
ケイキサレート
バー試験についても紹介した5)。
は、
20.9±2.6mEq/Lから24.1±2.7mEq/L
(p<0.0001)
と有意に
またはCa型陽イオン交換樹脂を投与し、それぞれの電解質
上昇した
(いずれもWilcoxonの符号順位検定により解析)
。
ま
の変化を検討した結果、ケイキサレート投与時に血清K値の
た、Ca型陽イオン交換樹脂製剤からケイキサレートに変更
低下とアシドーシス補正が認められた。
した群(15例)においても同様に、血清K値が5.6±0.5mEq/L
鶴屋氏はこのような高K血症患者におけるアシドーシス
から4.5±0.5 mEq/L
(p<0.0001)
と有意に低下し、
推定HCO3
−
補正のメカニズムについて、
「上部消化管内でアンモニウム
値も、
21.0±2.3mEq/Lから24.3±2.9mEq/L
(p<0.0001)
と有意
イオン(NH4+)とイオン交換してその排出を促進し、肝臓に
に上昇した
(いずれもWilcoxonの符号順位検定により解析)
。
おけるHCO3−の消費を抑制する。それと同時に、消化管内で
血清K値と推定HCO3−値との間には負の相関が見られ、推定
NaHCO3を生成し、それが血液中に移行することでアシドー
HCO3 が上昇した症例(すなわち、アシドーシスが補正され
シスを補正する」
との仮説
(図4)
を紹介した。
−
た症例)ほど血清K低下作用が高かった。また同様の研究と
図3.血清K値、血液pHおよび体内K総量/容量比変化の関係
(mEq/L)
図4.ポリスチレンスルホン酸ナトリウムによる アシドーシス補正の機序(仮説)
.0
pH7 .1
7
7.2
7.3
7.4
7.5
7.6
7.7
8.0
7.0
6.0
血清K値
5.0
4.0
(上部∼小腸)
分解
NH3
(肝臓)
尿素回路
2NH3
+H+
H2O+CO2
CA
NH4+
ケイキサレート
(Na-resin)
3.0
H + HCO3
+
Na+
‒
HCO3
‒
尿素
H2N
O
C
NH2
+2H20
NaHCO3
アシドーシス補正
(大腸∼)
2.0
1.5
-20
タンパク質
(消化管)
-10
0
+10
+20(%)
NH4-resin 排泄
K欠乏または過剰の百分率
B.H.スクリブナー著、
柴垣昌功訳:体液−電解質バランス 臨床教育のために 中外医学社, 1971
CA:carbonic anhydrase
(炭酸脱水酵素)
監修:医療法人社団望星会 望星病院 院長 北岡 建樹先生
アシドーシス改善による腎不全進展抑制
最後に、
鶴屋氏はケイキサレートによる腎不全進展抑制の
min/1.73m2以上であったCKD患者7例で、同薬投与後に腎不
可能性についても言及した。
海外において、
CKDステージ4、
5
全の進行速度(eGFR低下)が緩和されたことを紹介。こうし
の134例をNaHCO3投与群と標準治療群にランダム化し2年間
た側面からの研究がさらに進められることに期待を寄せた。
追跡した試験では、NaHCO3投与群でクレアチニンクリアラ
同氏は「CKD 患者ではカリウムの管理が極めて重要であ
ンスが有意に改善し(p<0.01、ANOVA)、無透析生存率も高
り、近年、CKD患者においてアシドーシス改善による予後改
かった 。
ケイキサレート投与でも血清HCO 値が上昇するこ
善効果も明らかにされている。ケイキサレートは、K低下作
とから、
同様の効果が期待できる可能性が示唆されている。
用に加えてアシドーシス改善作用が期待されるため、CKD
鶴屋氏は、自施設における観察研究の予備的解析におい
患者の診療において有用な薬剤である」とまとめ、講演を終
て、ケイキサレート投与前6ヵ月間のeGFR低下が2.0mL/
えた。
6)
−
3
参考文献
1)
Einhorn LM et al.: Arch Intern Med 169; 1156, 2009
2)
山辺武郎 編:イオン交換樹脂−基礎と応用− 金原出版, 1962
3)
B.H.スクリブナー 著, 柴垣昌功 訳:体液-電解質バランス 臨床教育のために 中外医学社, 1971
4)
廣瀬幸恵ほか:透析会誌 43; 919, 2010
5)
満生浩司ほか:臨牀透析 29; 715, 2013
6)
de Brito-Ashurst L et al.: J Am Soc Nephrol 20; 2075, 2009
2015年6月作成