プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果

プラスチ・ 材料湾暗動特性の
\
誠験法と評価繕果
、. ..ノ
〈妙丁
安田 武夫*
8−4−2.赤外分光分析
8.プラスチックの鑑別法(続き)
複合材料のマトリックスを形成するプラスチックの
8−4.機器分析による識別
種類の見当をつけるには,もっとも簡便で適切な分析
8−4−1. はじめに
装置である。
プラスチックの分子構造を推定するために利用され
(a)方法の概要
赤外線は可視光より長く,マイクロ波より短い
る機器分析として,主に以下のものが挙げられる。
I.赤外線分光分析(IR)
II.熱分析(DSC,TG/DTA)
0.8∼1,000μmの電磁波で,2.5∼16μm(4,000∼625
III.熱分解ガスクロマトグラフィ(PyGC)
る。この領域の吸収スペクトルは,分子の振動のうち
IV.熱分解ガスクロマトグラフィ
Cm■1)の波長領域が赤外線分光分析に利用されてい
双極子モーメントの起こす振動に起因している。どの
ー質量分析(PyGC−MS)
有機化合物モノマーも赤外波長領域に必ずその化合物
V.核磁気共鳴法(NMR)
の分子構造(多重結合,官能基,シスートランス異性・
高分子成分の分析を行うに当たって,IRにより,プ
芳香環の置換位置等)に由来する固有の振動をもって
ラスチックの大体の見当をつけ,他の分析手段を併用
いるので,その赤外線吸収波長を測定することにより,
して,分子の構造を決定するとよい。
定性分析ができる。しかし,IRスペクトルだけで構造
また,有機成分として添加されている可塑剤,難燃
を決定することは一般的には困難で,他の分析情報と
剤,熱安定剤,紫外線吸収剤,酸化防止剤等を分析す
合わせて,同定を確実にすることが多い。
るに当たっては,プラスチックより添加剤を溶媒との
高分子化合物の分析においても,
I.
高分子化合物のもっている各種の官能基の吸収
溶解性の差を利用して抽出し,薄層クロマトグラフィ
波長を知り,既知の高分子化合物のIRスペク
(TLC)や液体クロマトグラフィ(LC)等にかけて,分
トルと比較することによる樹脂の定性分析
離・精製を行う。次いで,単離した抽出成分を種々の
機器分析にかけ,同定を行う。なお,添加剤の分析は,
専門書をご参照願いたい。
一方,無機成分の推定するには,有機成分灰化や,
II
数種類のモノマーや高分子化合物が含まれてい
る場合には,各成分の官能基の吸収の吸光度を
比較することによる定量分析
溶媒に溶解して有機成分を分離した後,
を行っている。
I.顕微鏡による形態観察
II.X線分析(X線マイクロアナライザ,蛍光X線
(b)測定装置
分析等)
III.発光分析
測定装置を大別すると
I.分散型赤外分光光度計(分散型IR)
II.フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)
IV.赤外線分光分析(IR)
の二種類があるが詳細については省略する。
等の機器分析によって,同定を行う。
(c)試料の調整法およびIRスペクトルの測定法
‡Takeo YASUDA,安田ポリマーリサーチ研究所所長
〒168−0082東京都杉並区久我山4−24−7
Vo1.52,No.11
赤外線吸収スペクトルを測定する際は,その試料の
特性に応じた適当な方法により分析試料を調整する必
91
表6主な高分子化合物のスペクトルの特徴
最強の吸収位置(Cm’1)
参照すぺき他の吸収(Cm■1)
3,450
ユ,010
3,350
1,090
スペクトルの帰属
一〇H伸縮
同上
2,270
一N=C=O伸縮
2,240
一CN伸縮
1,780
1,780&ユ,840
ユ,720&1,780
1,740∼ユ,720
一C二〇伸縮
ユ,260
液晶ポリマー,エコノール等
酢酸ビニル系(PVAC,EVA,VAC−VC等)
930
1,700&ユ,550
2,900付近,1,460
酢酸セルロース類
アクリル酸エステル,メタクリル酸エステル
一C=O伸縮
一C=O伸縮
3,300
1,660
ユ,250
ユ,570&1,500
1,240,3,300
1.500
1,210
1,500
3,300付近
ユ,260&
1,100&1,OOO
800
1,250
600,620
ユ,200
1,600&1,500
一CONH一
1,050付近(二重線)
930&1,090
603
1,640&910&995
2,900付近,1,460
1,000&970
アクリル酸系(EEA等)
アイオノマー
ポリアミド,ユリア樹脂
ポリエーテルエーテルケトン
芳香環
エポキシ樹脂(ビスフェノールA型〕
フェノール樹脂(メボラック〕
Si一アルキル
Si−O−Si
C−O■C(芳香族)
C−F伸縮
C−O−C(脂肪族)
C二C
2,900付近,ユ,460
830
700&760
720&730
系(PMMA,EEA等)
’メラミン
1,200∼1,100
1,380&1,170&
芳香族ポリエステル(PET,PBT等〕
1,240
1,700
1,850&1,550
(PAN,ABS,AS等)
ポリカーポネート
無水マレイン酸系ポリマー
ピロメリット酸系ポリイミド
(ポリピロメリットイミド,ポリアミドイミド,
ボリエーテルイミド等)
各種エステル類
1,260∼ユ,200
1;165
1,650&1,550,
可能性の強いプラスチック
セルロース
ポリビニルアルコール
ウレタンプレボリマー
アクリロニトリル系ポリマー
ふっ素系樹脂(PTFE等)
塩化ビニリデン樹脂
ポリオキシメチレン
ブタジェン樹脂
C−CH。ほか
ポリプロピレン樹脂
力一置換フェニル基
ボリフェニレン樹脂
ポリスチレン
ポリエチレン
mono一置換フェニル基
2,900付近,1,460
ポリメチルシロキサン
塩化ビニル樹脂
ポリフェニレンエーテル
一(CH。)一
要がある。試料の調整法としては,
かな見当をつけると楽である。
I.フィルム透過法
以下に市販されている代表的なIRスペクトルデー
II.KBr法
III.ATR法(多重全反射法)
タ集を示す。
I−IRDCカード:日本赤外データ委員会編集,南
等があるが詳細については省略する。
江堂発行(1977)
(d)赤外線吸収スペクトルの解析法
II.The Sadt1er Handbook of Reference Spectra
IRスペクトルは同じ化合物は必ず同一の吸収パタ
ーンを示すので,既知のポリマーのIRスペクトルと
未知の試料のIRスペクトルを比較対照し,未知の試
料の同定をすることができる。未知の試料のIRスペ
(Infrared Handbook);Sadtler Research Lab.
Inc.(1978)
プラスチックのもつ官能基を利用して,試料の鑑別
を行うための特性吸収帯を表6に示す。また,IRスペ
クトルの同定では,コンピュータによる検索を利用す
れぱ,候補の高分子化合物とのスペクトルの照合は少
系統図を図5に示す。
なくて済むが,利用できない場合,標準スペクトル集
(e)IRスペクトルをみるうえでの注意点
クトルの特性吸収を利用してプラスチックを鑑別する
を一枚一枚見ながら照合を進めることとなり,大変で
①添加剤の影響:プラスチック製品に加えられてい
ある。こういう場合は,各樹脂の特性吸収帯を利用し,
る添加剤は,添加量が通常は少ないので,スペクトル
試料がどのような系統のプラスチックであるか,大ま
の判定に影響を与えることは少ない。
92
プラスチックス
ただ,可塑剤と充填材は添
加量も多く,強レ)吸収を示す
未知資料の1Rチャート
ことがあるので注意が必要で
ある。たとえば,軟質PVCに
加えられているDOP等の可
無 1,780∼1,720cm’l
C二0の吸収
塑剤,充填材の炭酸カルシウ
有
ムやタルク等に注意が必要で
毎1,605,1,587,1,獅㎝■I
ある。
芳香環の吸収
変性エポキシ樹脂
116051115竃7111493㎝一I有830crI芳香族有
②共重合体,ポリマーアロ
有
無 無
イ,複合フィルムの場合:ス
3・500∼3・OOOcm■1有
1,430cm−1に有工,330∼1,210㎝一1有
ペクトルの構成成分が複数の
0H基の吸収
鋭い吸収 C=0の吸収
とき,IRスペクトルは多重の
無 無
構成成分のスペクトルが重な
7601690㎝’Iに 1・050cm’1に有
C−C1の吸収
エポキシ樹脂 3,300cm−I附近に
または複合成分があるかを判
フェノール樹脂
ポリ酢酸ビニル
アクリル樹脂
③劣化した試料の場合:プ
脂肪族ポリエステル
1・100∼1・OOOcm一無
セルロースエステル
ポリウレタン
変性ポリエチレン
に幅広い強い吸収
有
芳香族シリコーン
ポリスチレン系
響を受けて,構造の一部が酸
ABS系
化や劣化や分解が起こり,IR
ポリフェニレンオキサイド
3,300㎝一1附近に無
スペクトルが変化しているこ
ポリサルホン
OH基NH基の吸収
とがあるので,劣化した試料
の識別には注意が必要であ
有
紐
… 1,670Cm’I附近に
る。一般には,試料は劣化に
強い吸収
よって,黄褐色に変色するこ
ポリビニルアルコール
とが多い。酸化された試料で
メチルセルロース
は,1,700cm−1付近に,ブロ
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂
無
ユ,430cm−1に
鋭い吸収
有
1.5刎㎝一一附近に
有2,240cm■1
無
強い吸収
鋭い吸収
。。基の鋭い吸収 1・250cm−1有
有
ードなCOの吸収が現れる。
④結晶化度の影響:結晶性
ポリアミド
アクリロニトリル
ポリマーの場合,スペクトル
ユリア樹脂
共重合体
中に試料の結晶化度によって
共重合物
無
断することは困難である。
比較すると不安定なため,
熱・光・空気中の酸素等の影
ポリ塩化ビニル系
フエノキシ樹脂OH基NH基の吸収有
けから,構成成分が単一化,
ラスチックは,無機化合物と
セルロースエーテル
変性アクリル樹脂
690cm−1付近有
無 有
したがって,IRスペクトルだ
アルキド樹脂
芳香族ポリエステル
ジアリル樹脂
有強い吸収C−0−Cの吸収
って,複雑なパターンを示す。
ポリイミド
ポリカーポネート
芳香環の吸収 φ一置換の吸収
シリコーン
ポリオキシメチレン
ニトロセルロース
ポリサルファイド
ふっ素系樹脂
ポリクロロプレン
特定の波長領域で異なったス
ポリエーテル
ペクトルを示すので,標準ス
エピクロルヒドリン
有工1250∼11000㎝一I
附近の強い吸収
ペクトルと比較する際には注
意が必要である。
有
8−4−3.熱分析(DSC,TG/
ふっ素樹脂
DTA)
プラスチックの識別は,ま
ずIRスペクトルの解析か
ら,大まかにその種類は分類
ポリプロピレン
ポリサルファイド
ポリイソプレン
ボリビニルエチルエーテル
ブチルゴム
変性ボリプロピレン
1,370om−1のCH且
の鋭い吸収
ポリェチレン
ポリブタジェン
図5IRによるプラスチックの識別系統図1〕
できるが,完全な同定は難し
い。そのとき,補助的な手段
Vo1,52,No.11
93
の一っとして,熱分析を行うと樹脂が判定できること
(a)示差走査型熱量分析(DSC)
如多い。
示差走査型熱量分析装置には,その測定原理から,
熱分析とは,物質を一定の温度で加熱または冷却し
た時に起こる物性の変化や,状態の変化を,温度によ
i)熱流東型DSC
ii)熱保障型DSC
って測定する方法で,
の二種類があるが詳細については省略する。
I.示差走査型熱量分析(DSC)
II.示差熱分析(DTA)
(b)測定例
表7に各種非晶性プラスチックの乃および表8に
III.熱重量分析(TGA)
結晶性プラスチックの乃,τ閉の測定例を示す5〕。
IV.熱機械分析(TMA)
8−4−4.熱分解ガスクロマトグラフィ(PyGC)
等がある。ここでは主にI.示差走査型熱量分析につい
て述べる。ポリマーの同定には,示差走査型熱量分析
プラスチックは,樹脂の分解温度以上まで加熱する
と解重合を起こし,種々の低分子化合物を生成する。
(DSC)がもっとも有用で,樹脂ρ融点(^),ガラス転
この熱分解生成物をガスクロマトグラフィにより分離
移点(乃)等を測定する。また,DSCの代わりに示差熱
し,組成分析や構造解析を行うのが熱分解ガスクロマ
分析(DTA,最近は熱天秤(TGA)と一緒になり,’TG/
トグラフィ(PyGC)である。PyGCは,ガスクロマトグ
DTAとなっていることが多い)を用いてもよい。
ラフィ(GC)の注入口に,熱分解装置が直結されたも
ので,プラスチックを通常400∼1,000℃の温度に急速
に加熱し,樹脂全体を均一に分解し,発生する分解生
表7非晶性プラスチックのガラス転移点(乃)
種類
種類
乃(℃〕
成物をGCで,分離定量を行うものである。測定に際し
η(℃)
塩化ビニル樹脂
70∼87
ポリアリレート
<Uポリマー〉
ポリスチレン
80∼100
ポリエーテルイミド
ポリメチルメタク
72∼105
ポリアミドイミド
ては,試料の量をGCの感度が許す限り微量にするこ
ユ93
とが望ましい。
217
PyGC用の熱分解装置として,
〈ULTEM〉
リレート
280∼290
I.フィラメント型
〈TORLON〉
AS樹脂
115
ポリカーボネート
ポリフェニレン
オキサイド
ボリサルホン
ポリエーテルサル
145∼ユ50
II.誘導加熱型
ポリイミド
くKapton,Vespe1〉
III.過熱炉型
∼420
210
くユーピレツクスーR〉
310
285
190
225
ポリアミノピスマレイミド
270
〈PI2080〉
の三種類がある。
PyGCは,あらゆる状態の樹脂に適用でき,何の前処
理もせずに,しかも微量のサンプルで分析を行うこと
ができるので,大変有効な分析手段である。
ホン
さて,熱分解炉で分解された分解生成
物は,N。†He等の不活性ガスをキャリ
表8結晶性プラスチックのガラス転移点乃と融点τ㎜
種類
η(℃〕
τ蜆(℃)
種類
低密度ポリエチレゾ
一ユ20
ポリエチレンァレフタレート
中密度ボリエチレン
高密度ポリエチレン
一ユ20
ポリプチレンテレフタレート
超高分子量
ポリエチレン
一120
ポリプテンユ
一25
ポリプロビレン
一10
50
ナイロン6
ナイロン66
ナイロン46
ナイロン6−10
108∼122
120∼124
一120 127∼134
50
78
50
136
ポリメチルペンテン
ポリフェニレンサ
アガスに用い,GCの分離カラムで分離,
乃(℃〕
263
224
240
285
143
334
一35
45
168∼180
220
一33
327
ルフアイド
100∼ユ25 ポリエーテルエー
テルケトン
∼165
215∼225
ポリふっ化ビニリデン
ポリ三ふっ化塩化
290
213
ポリテトラフルオ
ナイロンユ2
ナイロンMXD6
ボリオキシメチレン
ポリオキシメチレ
ンコポリマー
94
一56
一60
ユ87
178
243
175
165
を推定することができる。
は,低沸点物質から高沸点物質まで広い
芳香族ボリエステル
くエコノールE2000〉
〈Xydar〉
くVectr目〉
るため,既知のプラスチックのパイログ
大部分のプラスチックの熱分解生成物
210
37
37
85
解生成物の役割は,樹脂固有のものであ
250∼280
プロピレン共重合体
ナイロン6−12
ナイロン11
II.末端から解重合を起こすもの
300∼310
キシエチレン
ポリふっ化エチレン六ふっ化
I.主鎖がランダムに解裂するもの
ラムと比較することにより,樹脂の組成
ロエチレン
ポリふっ化アルコ
パイログラムとして記録される。
プラスチックの熱分解には,
の二種類がある。しかし,生成する熱分
エチレン
253∼263
τ蜆(℃)
69
20
25
90
414
421
∼280
範囲にわたり生成するので,GCは昇温
ガスクロマトグラフィを用いると便利で
ある。
パイログラムは,分析条件により異な
プラスチックス
ってくるので,できるだけ分析条件を一定にして・デ
ータを蓄積しておくことが大切である。なお,PyGC.に
質量分析計を直結し,熱分解により生成した分解生成
80
物を同定しておくと,より正確な分析が可能である。
60
図6に測定事例を示す。各種プラスチックの主な熱
①C3以下の成分
②ベンゼン
l00
③1ルェン 冨
④エチルベンゼン
⑤スチレンモノマー
③⑥α一メチルスチレン
①
40
分解生成物を表9に示す。
8−4−5.核磁気共鳴分析(NMR)
1H,I3C,19F等磁気モーメントをもつ原子核は,磁
④ ⑥
20 ②
00
1 ■
70
l0 20 30 40 60
場に入れ適当な周波数の電磁波を与えると,核磁気共
(分〕
鳴を起こし・その電磁エネルギーを吸収する。
図6 ポリスチレンの熱分解ガスクロマトグラム
有機化合物では,主に1Hと1島Cの核磁気共鳴
(NMR)を利用して,分子構造の分析を行っている。
共鳴吸収の起こる周波数は,同種の核でもその周囲
の化学環境によって変化する。この共鳴周波数のずれ
を,ケミカルシフトという。
また・分子中の同じ位置関係にある・Hは,互いに等
価にあるといい,同じ共鳴周波数を示ナ。このシグナ
ルは,通常1本になるが,近くにある他の核の影響を
表9
各種プラスチックの熱分解生成物
種 類
フェノール樹脂
トルエン,ク’レゾール
四ふっ化エチレン樹脂
ポリエチレンテレフタレート
ポリカーボネート
AS樹脂
ナイロン6
受け,分裂を起こし,多重線となる。これをスピンー
ナイロン66
スピン結合という。
EVA樹脂
1H−NMRを測定することにより,
I.ケミカルシフトから,化合物中の各水素の結合
熱分解生成物
ベンゼン,フェノール,キシレン,
セルロース
ニトロセルロース
四ふっ化エチレン(モノマー)
ベンゼン,トルエン,スチレン
ビスフエノール,フェノール
アクリロニトリル,スチレン
ε一カプロラクタム,シクロヘキサ
ン,ピロリジン,ピロール
シクロペンタノン,ピ白リジン,
ピロール
エチレン,酢酸
アセトアルデヒド,アクロレイン,
プロピオンアルデヒド,アセトン
アセトアルデヒド,トルエン,スチレン
形式
II.シグナルの強さから,各水素の相対的な数
長さ180mm,パイレックス製)が一般に使用されてい
III.シグナル分裂から各水素の位置関係
る。PTFE製の栓が付いているので,密封が必要なと
を知ることができる。
き以外は付けて使用する。
したがって,1H−NMRを高分子化合物の分析に用
・溶媒
いると,
I.試料のシグナルに影響を与えない。
I.既知の化合物のスペクトルと比較して,化合物
II.溶解性が高い。
の同定,確認ができる。
III.試料と反応しない。
II.分子構造の推定ができる。
以上が,使用できる溶媒の条件である。
m.共重合体や複数のポリマーのブレンド物の組成」
比やブレンド比の定量分析ができる。
また,ポリマーのNMRを測定する際に注意すべき
(a)測定装置の概略
I.試料の溶解性を考慮し,粘度が高くなりすぎな
NMRの測定装置は大別してContinuous Wa▽e
いよう気をつける。
Method(CW法)とPu1se Fourier Transform
II.高温の測定では揮発性の高い溶媒を使用しな
Method(PFT)の二種類がある。
い。
装置は,っぎの4つの主要部分よりなっている。
III.溶媒の種類によっては,ケミカルシフトが変動
I.強い均一な磁場を発生する磁石
II.小さい範囲で磁場を遵続的に変化させる装置
することがある。
(磁場掃引部):IRの回折格子に相当
変換反応の起こる可能性がある。
III.電波の発振器:IRの光源に相当
]般には,四塩化炭素,二硫化炭素が安価でよいが,’
IV.電波の受信機:IRの検出器に相当
(b)測定
溶解性が悪い。その他,重クロロホルム,重水,重ベ
ンゼン,重アセトンなどが便用される。この際は,’溶
・試料管 ‘
媒に含まれる不純物(たとえばクロロホルムや水)の
市販のNMR用試料管(外径5mm,内径4.2mm,
吸収がでるので注意が必要である。また,重クロロホ
VoI.52,No.ユ1
事項として,
IV.重水素化溶媒では,試料中の活性水素とD−H
95
スタート
■
十
外見上不均一か
分離
炉過沈暇
キャストフィルム
心分離
定
同
乾
十
燥
固徽コロイド状溶液
十
十
クロロホルム、アセ
トノギ で溶液
一
外見上不均一か
分離:選別,炉過
一
粉
プレスで薄膜
十
砕
細
K趾錠剤
十
’
十
十
フイルム化
断
■
桝分光分析スペ外ロスコピ
’’’一璽反射
十分な憎報
十ポリマーの種類不明瞭
十
停
■
質量分析
止
分離:遠心分離.
_分離:抽出,分別.組堕生』 飢分離
■
分散分析
原子吸光,炎光分析
灰化
構造解析,規則性.形態
x線回析
十
■
組成分析
十
■
一
可塑剤
一
十
1
アク1
レー
酸化防止剤
一
紫外線吸収剤
塩化ピニル安定剤樹脂
雄1抽出.分別沈殿
Pb,Sn.C且。
Zn Ba Cdの検出
十
十
HC
ポリエチレンテレフタレート
ポリエーテル ’
■H
エポキシ
ポリウレタン
ゴムを含有し筍撃に強い
■
加
核磁器共鳴分析
十
十
アルカリまたは酸に
よる
ミクロ構造分析
一素分析による定量分析
■
コピー1レーザラマン〕
は結合していない
UVスペクトロスコピー
二者択一事項
0…1
質量分析
一 皿o
各種クロマトグラワィ
各種クロマトグラワィo試料の調整
□固定方法
熱分解質冊分析
十
ヒ学反応による検出
フェノール樹脂天然物
一
レーザマイクロ
スペクトル分析
注1失印のない交差
赤外分光分析スペハロス
蕪分濡伽クロマけラフ{
十
硫
一
走査型電子顕微鏡
一
十
分離:抽出
橋架け構造の詳細
顕微鏡,電子顕微鏡
十
全分析
十
十
図7プラスチック製品鑑別のための分析系統図
ルム以外の溶媒では,溶媒効果のためケミカルシフト
れがあるため,補正の必要がある。
の値が無極性溶媒を用いた場合と異なってくることが
②スペクトルの解析
あるため,解析のときには,注意が必要である。
I、構造が推定される場合
①基準物質
IRスペクトルやその他の情報から,試料の構造がほ
ケミカルシフトを測定するときは,・一般には基準物
ぼ分かっている場合には,既存のスペクトル集や文献
質を同時に測定し,そのピークからのずれを測定する。
のデータと比較を行えぱよい。
基準物質は,溶媒と試料の双方に溶解し,化学的に不
市販の代表的なスペクトル集を紹介すると,
活性で,磁気的にも等方またはそれに近く,容易に見
i)High Reso1ution NMR Spectra Cata1og Vol.
わけの付く位置に,測定試料と重複しないで,ピーク
1∼2(Varian社,1963)
が一本だけ鋭く現れるものが望ましい。
ii)The Sadt1er Guide to NMR Spectra
一般には,基準物質として,トリメチルシラン
(Heyden&Sons社,1975)
(TMS)がもっともよく使用されている。また,溶剤に
II.構造が推定されない場合
重水を使用する時は,2,2一ジメチル2一シラペンタン5
i)ケ■ミカルシフトの位置
一スルホン酸ナトリウム(DSS)が,高温測定するとき
ii)吸収の強度(積分曲線から)
は,ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)が使用され
ている。この方法を,内部基準法という。
iii)スピンースピン結合
以上の3点を検討していくことになるが,本稿では,
また,試料管を二重にして試料と基準物質を別々に
詳細な解析手順は省略する。
入れ,同時に測定する外部基準法もある。試料の受け
8−4−6.その他機器分析
る磁場と外部基準物質の受ける磁場が一般に等しくな
その他の機器分析では,紫外線分光分析,X線分析
いため,ケミカルシフトの正確な値が得られないおそ
等があるがここでは紹介に止めたい。
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プラスチックス
以上概説した各種機器分析法について,赤外分光分
プラスチック材料に加えられている無機成分は,ガ
析による鑑別を中心に,これに核磁気共鳴分析,熱分
ラス繊維,炭素繊維,タルク,炭酸カルシゥム,マィ
析,各種クロマトグラフィ等を併用したプラスチック
カ等の無機充墳材である。これらは,
製品の鑑別のための系統的分析方法を図7’に示す。
i)光学顕微鏡,電子顕微鏡等の形状観察
8−5.無機成分の分析
ii)X線分析によるフィラーの元素分析
プラスチック材料は,高分子化合物,有機系添加剤,
を行うことにより,解析が可能である。
無機成分の複合材料である。したがって,重要な構成
X線分析には,エネルギー分散型X線分析装置
成分である無機成分(充填材)は無視できない。そこ
(EDX)が取扱いの容易さからよく用いられている。
で,無機成分の分析法について,簡単に紹介する。
無機成分の分析は,高分子化合物との分離と充墳材
エピローグ…連載を終えるに当たって
の識別よりなる。
プラスチックの各種試験法と各種プラスチックの特
8−5−1.無機成分の分離
性比較について連載してきた。プラスチックは,一般
充填材を高分子化合物から分離するには,
消費財から耐久消費財に至るまで広範囲に使用されて
i)有機物を乾式または湿式で分解する。
ii)高分子化合物を適当な溶媒に溶解し,炉別する。
いる。したがって,プラスヂックの優れた特徴を活か
特に,乾式分解は,成分によっては飛散,または分
とがもっとも重要なことである。 (了)
解のおそれがあるが,簡便なためよく利用されている。
高分子化合物は,通常60ぴC以上で,ほぼ完全に分解
するので,るつぼに試料を入れ,所定の温度の電気炉
で加熱分解すると,無機成分が単離できる。
揮発性の元素に対しては,硫酸を加えながら分解し,
硫酸塩として固定するとよい。また,A1(OH)窩,CaCO。
して使用するには適正な試験方法により,評価するこ
<参考文献〉
ユ).石渡 皓「続エンプラの読本」,p,162,高分子率材センター
新素材事業部平成3年ユ2月発行
2)佐藤義文、「プラスチック読本」,p.409,大阪市立工業研究所,
プラスチック読本編集委員会,プラスチック技術協会編集,
プラスチックス・工一ジ社発行
のような水酸化物,炭酸塩は分解する可能性があるの
3〕「高分子分析ハンドブック」,日本分析学会,高分子分析研究
で,注意が必要である。
懇談会編,覇倉書店発行
なお,加熱分解では,炭索繊維は樹脂と一緒に消失
してしまうので,注意が必要である。
8−5−2.無機成分の同定
Vo1.52,No.11
4)藤井,山本,茂木他,「総説・食品プラスチックスーその種類,
その見分け方」,p.!44,(社〕日本食品衛生協会発行
5〕「プラスチック成形加エデータブック」,p.30,㈱日本塑性加
工学会編,日刊工業新聞杜,昭和63年3月25日初版1刷発行
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