A-D変換器を使って温度補償をした重量計

「EDN Japan」
A-D 変換器を使って温度補償をした重量計
Albert O'Grady
米 Analog Devices 社(アイルランド)
* 1)
前値との差分を求めて基準
値との大小を判定し、さら
にその差分を求め基準値と
の大小を判定するという動
作を巡回的に順次行う変換
器。
ブリッジ・トランスデューサーの温度と
主出力を同時に測定することで、温度
補償を施した重量計測を実現できる。
従来は、マルチプレクサーに多数の入力チ
ャンネルを接続し、この出力を1つのシグマ・
デルタ*1)型アナログ・デジタル
(A-D)変換器
に入力していた。この構成だと、マルチルプ
レクサーでは入力チャンネルを毎回切り替え、
A-D変換器では前回のチャンネルで用いたデ
ータを消去するという動作が必要になる。こ
のため新たなデータが入力されても、システ
ムはセトリング時間とレイテンシーを加味し
なければならないので、スループットが低下
してしまっていた。
例えば、2次のシグマ・デルタ変調器と3次
励起電圧=5V
IN+
20k
AVDD
OUT+
OUT−
DVDD
AIN1
AIN2
XTAL 1
REFIN(+)
IN−
32kHz
12k
XTAL 2
REFIN(−)
RL1
IOUT 1
RL2
AIN 5
1K7A1
200μA
AD7719
サーミスター
RDY
RL3
AIN 6
SCLK
DIN
RL4
REFIN 2
コントローラー
DOUT
RREF
10k
P1
DGND
AGND
CS
PWRGND
図 1 スループットが高い重量計
2 つのA-D 変換回路が独立して動作するLSIを使用することで、重量測定システムのスループ
ットを高めた。
デジタル・フィルターを備えるA-D変換器を
使った場合は、ステップ入力に対する出力の
セトリング時間はデータ転送周期の3倍にな
る。もしも主チャンネルと、もう1つのチャン
ネル
(副チャンネルと呼ぶ)を同時にモニター
する場合は、チャンネルの切り替え作業が必
要なため、主チャンネルのスループットは1/6
に低下してしまう。
図 1 は、スループット低下の問題を解決す
る回路である。2つのチャンネルを備えるシグ
マ・デルタ型A-D 変換器LSI「AD7719」を使
った。この A-D 変換器は、並列動作が可能
だ。すなわちブリッジ出力とブリッジ温度を
同時に測定できる。さらに両方の測定データ
を並列に出力できるため、複数データを取得
するシステムにおけるレイテンシーの問題を
回避できる。この回路では、主チャンネルは
ブリッジ出力、副チャンネルはブリッジ温度
をモニターしている。ブリッジ出力は、OUT+
端子とOUT−の間で差動電圧の形で得られ
る。ブリッジ・トランスデューサーの感度は
3mV/V。励起電源が5Vのときのフルスケー
ル出力は15mVになる。
A-D 変換器の基準電圧は、電源電圧以下
であれば問題ない。ブリッジ・トランスデュ
ーサーの励起電源を基準電圧として入力する
こともできる。しかし抵抗分割を利用すれば、
入力ダイナミック・レンジの全範囲を使用可
能である。図1 では20kΩと12kΩの抵抗を使
った。励起電源が5Vならば、A-D変換器に
1.875Vの基準電圧を入力していることになる。
主チャンネルの利得(プログラム可能)は128
である。こうしてA-D 変換器の入力範囲のフ
ルスケールと、トランスデューサーの出力範
囲のフルスケールを合わせた。図の下部にあ
るスイッチは、待機モード時にトランスデュ
ーサーへの電源供給を止める役割を果たす。
AD7719 は、製造時に校正を済ませている。
さらに信号線には利得やオフセットのドリフ
トを低減させるためにチョッピングを施して
いるためフィールドでの校正は不要である。
重量計の精度を高めるには、商用交流電源の
周波数である50Hzもしくは60Hz の影響を取
り除く必要がある。AD7719 では、この成分
を除去するために、出力データの転送速度を
19.8Hz にプログラムした。そのときの利得は
128で、分解能は13 ビットである。分解能を
高めるには、更新頻度を下げて、コントロー
ラーにデジタル・フィルターを追加すればよ
い。副チャンネルでは、サーミスターを使っ
てブリッジ温度をモニターしている。LSIに集
積した電流源でサーミスターを励起する。さ
らにこの電流源は、基準電圧の発生源として
使用できる。
この回路は4線のフォース/センサー構成を
採用することで、配線抵抗の影響を低減してい
る。駆動する配線の抵抗は、コモン・モード電
圧をシフトさせるが、回路の性能を低下させ
ることはない。さらにセンサーを接続する配
線抵抗の大きさについては、アナログ入力端子
のインピーダンスが高いため問題にならない。
基準電圧を設定する抵抗(RREF)には、温度
係数が低いものを選ぶべきである。動作温度
範囲は、使用するサーミスターで決まる。ア
イルランドのBetaTHERM 社の「1K7A1」を
使い、サーミスター励起電流を200μAに設定
すると、動作温度範囲は−26∼70℃になる。
リード・ビジネス・インフォメーション株式会社 発行「珠玉の電気回路200選」より