第2部 第 5章 リアルタイム信号処理には初段のデータ間引きが重要! 処理 2:RF 信号を効率よく ベースバンドに落とす 高橋 知宏 高速A-Dコンバータがサンプリング・ レートfS 1で取り込んだ信号はデータ の量がとても多い 0 不要な 信号 フィルタ特性 fS 2 0 − 2 fS 2 2 図 1 最初にやらないといけないこと…RF 信号をベースバンドに 落としてデータを減らさないといけない 高速 A-D コンバータで取り込んだデータは大量過ぎるので,そのままで はリアルタイム信号処理を行えない 本稿では,高速 A-D コンバータで取り込んだ FM 放送の RF 信号のうち,聞きたい周波数成分を,ベー スバンド信号に落として取り出す方法を説明します. マイコン内蔵の高速 A-D コンバータを使ってリア ルタイム処理を行うときは,データ転送速度や処理 速度がネックになります.処理のなるべく早い段階 からデータを間引いてレートを落としていく必要が あります. (編集部) 最初にやらないといけないこと…RF 信号 をベースバンドに落としてデータを減らす 高速 A-D コンバータから取り込まれた RF 信号は, 大量のデータです.このままでは,リアルタイム信号 処理を行おうとしたときに,データ転送や演算が間に 合わなくなります.次々とやってくるデータの山から, まず必要な情報だけを抽出する必要があります.抽出 と同時にデータの量を一気に減らしていきます.これ を担うのが DDC(Digital Down Conveter)です(図 1) . DDC がデータを整理することで,後段の信号処理 を,時間をかけて精度よく行えるようになります. 高い周波数の RF 信号を,DC 近辺の低い周波数の ベースバンド信号に落とすと,サンプリング・レート 64 I M ローパス・ 間引き器 フィルタ (デシメータ) M Q sin 2 DC近辺のベース バンド信号 1 複素化する 実信号 fS 1 周波数 目的の信号のみを取り 出し,必要最小限の サンプリング・レート に変換す fS (< 2 <fS 1) る.fS 2 は小さいので データの量が圧倒的 に減る ミキサ 目的の 信号 不要な 信号 振幅 周波数シフトする cos に間引く I Q 複素 信号 一体で構成する ことが多い 数値的発振器 NCO 図 2 RF 信号の周波数を落としてデータ間引きを行うまでの処理 は低くても十分になります.余分なサンプルを間引く ことでデータを減らすことができます.これらの処理 を全部まとめてやってしまうのが DDC の役割です. 処理の全体像 A-D コンバータから受け取ったデータには,受信し た帯域幅すべての情報が含まれています.目的の信号 の他に,不要な信号が多く含まれています.このデー タの中から,目的の周波数の信号だけを取り出す操作 を,チューニングと呼びます. ここでは周波数シフトでチューニングを行います. 周波数をシフトさせることにより,必要な信号を 0Hz 付近のベースバンドに移動し,さらにローパス・フィ ルタで 0Hz 周辺のみを残す操作を行います.このやり 方を少し詳しく解説します. ● 手順 周波数シフトは次の手順で行います(図 2) .まずシ フトさせようとする周波数の正弦波を発生します.正 弦波ですから単一の周波数成分のみをもった信号で す.この正弦波信号と,A-D コンバータから取り込ん だ信号を乗算することで,周波数変換を行えます. このとき同時に,同じ周波数で 90°位相差のある正 弦波を使って同様に乗算処理を行います.この二つの 信号を合わせて取り扱うことで,位相の回転方向の情 報を含んだ解析信号(複素信号)が得られます. 2015 年 7 月号
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