皮質下構造と皮質構造の架け橋 ―基本動作の持つ意味の再発見―

皮質下構造と皮質構造の架け橋
―基本動作の持つ意味の再発見―
“怖い、怖いと言って固くなり動作ができない患者”、“筋力がつき、中殿筋歩行をしなくなったのに、運動療法
室を出るとまた元の歩行に戻ってしまう患者”は少なくない。なぜそうなるのか因果関係がつかみにくく対応に難
渋するが、そこに潜む最大の問題はバランスであると私は考えている。
バランスに対するアプローチはセラピストにとって関心が高く、これまでも多くの治療時間を割いできた。にもか
かわらず、先のような問題が解決できないのは基本動作の捉え方とバランスの治療法に問題があったのではな
いかと考えている。結論から言うと、セラピストにはバランスの戦略と戦術という概念が乏しく“バランスの戦術に
対してはアプローチできたが戦略を変えるアプローチまでは踏み込めなかった”ということである。
基本動作のバランス戦略選定には患者のやる気や快・不快、安全か危険かなど運動学的要因とは違う多くの
情動的な要素が含まれる。不安があれば無自覚のうちに“安定して動かない”戦略が選択される。その戦略のも
とで全身的な活動が方向づけされてしまう。方向づけされた身体でも意識すれば様々な戦術を使用できる。しか
し、意識することで戦略は変えられない。動作を行う中で患者がやる気を出し、動いても危険でないことに気づ
いて“危険、できない”という思い込みをぬぐい去ることができたときにのみ積極的に動く戦略に変えられる。治
療という行為の最中に患者の情動まで変えるコミュニケーションや接し方が極めて重要になってくる。
恐れ、不安という患者の情動や思い込みを無視して治療は成り立たない。ところがエビデンスに基づいた治療
を進めたいセラピストは論理的、知的になりすぎて患者の情動を無視してしまうことが少なくない。患者の思い込
み、セラピストの思い込みを克服し、両者が共感できる接し方、治療法を工夫でき、治療の最中に患者が情動的
に不安を拭い去り“よしやるぞ!”という動機がもてたとき、“これからの理学療法、作業療法の可能性”は更に
大きなものになると考える。基本動作ができなくなった患者へのアプローチは基本動作ができる患者や健常者
の運動学習とは全く違う点があることを認識できたとき、行動変容を定着、保持できるアプローチに一歩近づけ
るのではないかと期待している。
動作やバランス戦略に秘められた階層構造と戦略、戦術という概念を具体的にどのように取り入れて治療を
進めるか検討してみたい。
藤田保健衛生大学客員教授 冨田昌夫
日常生活の中で行動するとは
階層的な意志決定
*動物と人の行動(動物の脳・人間の脳、ダマシオ)
皮質のない動物でも
動物が意識していない反応選択(意図されていない反応選択)は進化的
合目的的な行動を行っている
に古い脳構造で連続的に起こっている。例えば皮質の存在しないワニは反
応選択を意識ある自己ではなく、一連の神経回路が行っている(定位反
応)。このような反応選択を原始的形態の意志決定と呼びたい。「これを
使って」、これを「土台として」新皮質で理性と意志力を組み立てられる
ようになる。決してこの上にではない。入れ子になった階層構造である。
*人の行動を構成する基本動作(長崎)
人が目的を遂行する、例えば “ベッドに寝ている人が食卓の上に乗って
いるペットボトルのお茶を飲む” 行動の過程は、起きて座る、足がつくよう
に座位のまま移動する、立ち上がる、歩いてテーブルまで行く、ペットボトル
に手をリーチする、持つ、それを口に持って行く、飲むなどいくつかの課題を
達成する行動で系列的に構成されている。これ以上分解すると意味のある
課題を遂行できなくなる行動を動作と呼ぶ。動作はいくつかの運動から構成
される。姿勢を維持して初めて運動が可能となるが姿勢を維持
行動の成り立ち
する筋の活動を筋緊張と呼ぶ。
私たちは行動の構成単位を動作とする。その動作を2種に区
別する。一つは系統発生的に学習し、個体はそれを形成し直す
だけの、誰にでもできるスキル(運動技能)で行える日常動作
(基本動作)である。もう一つは、個体が意識して学ぶ、人と違い
を作る高度なスキルを必要とする意図的な社会的動作や行為で
ある。基本動作は、日常生活の中でボトムアップ的に自己組織化
されるもので、個体の意図や能力で学習の方法が変えられるもの
ではない。行為はいくつもの基本動作で構成され系列的に遂行さ
れる。緊張、運動、動作、行為は階層的に構成されている。
(階層とは:序列、順序)
日常生活の中で行動を開始、遂行するとは
•
自分の意志で開始する(意志決定に先行して活動が開始する)
①目の前のものにリーチして手を届かす
• 情報を検出し選択する(知覚と行動のあいだを行き来しながら意識レベルの判断を準備する)
②写真の情動的な選択、論理的、識別的な選択ではない(下條)
• 見て動く(情報を検出したと意識していない、在るかないかわからない状態で行動が開始)
③リーの揺れる部屋
生活場面で動作の遂行
見て、触って動く(日常生活での現実的な活動、自覚なしに行動が変化する)
戦略と呼ばれる大きな文脈
④マイクロスリップ(砂糖とミルクを入れて転倒、転落せずに美味いコーヒを作る
の中で戦術である要素技術 という戦略は決まっている、具体的にどう作るか戦術は変わる。戦略は同じでも、
は意味を持ってくる(才藤) 戦術は変えられる。戦術を変えても 戦略は変わらないということもできる。)
戦略と戦術
リーチの実験
①
選好注視の実験
②
マイクロスリップ
リーの揺れる部屋
③
④
(佐々木)
行動を開始することのまとめ
*自分の意志で開始すると思い込んでいる行動も、選好注視やリーの動く部屋な
ど見て開始する行動も全ての活動で行動を開始するという意志決定に先行して
無自覚に活動を開始している筋がある。
*入力→検出→形態的特長の分析→意味の認知→出力という従来からの感覚
入力に対する運動反応の概念では揺れる部や選考注視の現象を説明できない。
「何かが見えている」という意識なしに見ることができるし、変化の方向や意味が
分かり反応できる。行動に現れる無自覚の認知過程(暗黙知)と言語的な認知過
程(名称的な知)は別物である。意識的な過程は結局、意識的な過程しか知りえ
ない。
*行動を開始するという意志決定に先行する筋活動は「構え」と呼ばれ、基本動
作を可能にするための準備である。好きなものを楽しく安全に行うという身を守る
本能、情動は全ての行動に共通した戦略である。基本動作ではこの戦略に基づ
いて意志決定に先行して構えが自律的に準備される。構えとは筋緊張や筋の協
調を整え、転倒転落しないで行動するためのバランスを確保する無自覚な活動で
行動の方向付けをする。この方向付けの枠の中で社会的な行為の戦略も立てら
れる。基本動作の戦略と行為の戦略は階層構造になっている。
*バランスは転倒転落の心配をせず積極的に動く(CA)、心配だから土台はあま
り動かさずに安全に動ける範囲だけで動く(CW)、危険だから過剰に防衛し動か
ないようにする(同時収縮)という戦略の中から自律的に選択される。
* 右図でCA、CWは側方に移動するという基本動作の構えとして無自覚に決め
られるバランス戦略で行動を開始するという意志決定に先行して選択される。
*選択した戦略を使って行動し、戦術を変えることは可能だが自律的に選択され
たバランス戦略は動作の最中に意図的に変えることはできない。自分がそのよう
な戦略を選択したことも、その戦略を使って動作をしていることも全く自覚していな
い戦略が、意識して思考できる戦略とは別に存在し、両者は階層構造になってい
ることをしっかり理解しておく必要がある。基本動作が傷害され誰にでもできるス
キルを用いた無自覚に立ち上がる戦略が損傷されたり、制限されたとき、いかに
動作を再構築すべきか今まであまり検討されてこなかったと私は考えている。
バランス戦略
CA
CW
CA
CWの活性化
CAでは開始時支持基底面の正中に
まっすぐ座ったところから全身的な左
右の移動を開始する。 CWを活性化し
た状態では開始時、既に圧を右殿部
に偏らせ、体幹を左に傾けたところか
ら開始する。運動の自由度の逓減
情動と皮質の活動を同調させるメカニズムと報酬(やる気)
重力や空間など力学的、構造的、物理的拘束(生態学的拘束)に定位・適応して生存する活
動と人間社会の礼儀作法のような論理的、社会的拘束に適応して生存する活動を機能的
に連携させているのがモジュレータニューロン群である。神経系だけでなくホルモンまで含
めて調整する。やる気を引き出すにはドーパミン系の活性化が重要である(林)。なにかや
ろうと意識したとき身体の構えは自律的に準備されるので自覚できないが、扁桃体で不安
や恐れを感じると動かない身を守る構えになってしまう。構えとは身体全体の活動の方向付
けである。下図のように扁桃体が決めた方向づけは視床を介して皮質の活動方向まで決め
てしまう。反対に、皮質での思い込みやネガティブな考えが本来の構えよりもずっと強い不
安や恐れの構えを生み出す、過剰な防衛反応も起こり得る。思い込みにより、身体が示す
本来の構えよりはるかに調子よく方向づけられることもある。ホルモンの働きである。
本能(情動)から感情・理性の発生
(ダマシオ)
理性
理性 感情
感情
情動
情動
(木村)
*1:10の意味 皮質は入ってきた情報に対し、予測や思い込みで自分に都合の
良い解釈をするように働きかける。
*高次の視床核(ピンク)の活動性
扁桃体の情動が示す方向性に合わせて活動姓を変える。(皮質の活動性もそれ
に合わせてバイアスする)
*1次の視床核(青) 扁桃体の示す方向付けの影響を受けない。
基本動作の自己組織化(見て触って動いてボトムアップに本能と理性の連携を構築)
本能として授かった運動で環境に働きかけ、支持面と身体の関連を体性感覚と筋の固有感覚(触運動
覚)で探索し身体図式が作られる。 そこに前庭迷路が加わり、持続的な筋緊張を自己組織化する。さら
に視覚を動員し、ペリ・パーソナルスペースの形成や身体図式の強化を図りながら支持面の上に身体を
積み重ねる緊張やバランスを完成する。これが立ち直りで、基本的なスキルでのバランス戦略である。こ
のスキルは行動の基礎となるもので誰もが基本動作に組み込んで学習できる。この能力は動作をする
たびに知覚循環で無自覚に自己組織化され、更新されるので生涯にわたって持続する。基本動作を複
雑に組み合わせ、様々に修正して社会的な動作や行為ができる。そのために高度なスキルを用いた
様々な戦略が要求される。基本動作とは運動パターンに筋緊張、筋の協調、バランスなど自立的な要素
を組み込み、その時必要な最適の運動を(感覚)調整する。社会的動作や行為はそれを使って運動の自
由度を逓減し作法や技など高度なスキルを可能にする。これが基本動作の持つ意味である。
オプティカルフロー
ダイナミックタッチ
ボディスキーマ
道具を使うサル(入來)
(e.ギブソン)
知覚循環
(三嶋)
生態学的に経験したことがない事への適応(学習)
逆さメガネでは通常の生態学的な環境では起こり得ない知覚システムの障害を引き起こす。本能的に決ま
りきった反応しかできない動物は再適応できない。情報の変化に対応した行動体験を何らかの形で記憶し、
次に生かして行動を修正することができて初めて適応可能となる。扁桃体や海馬という情報の変化に対す
る身体の情動的反応を感情として記憶に留め柔軟に対応できる機能が必要である。サルは前庭の機能を
取り戻すのとほぼ同時に行動まで正常に近づくことができる。一方患者は、吐き気やめまいが収まっても
バランスが改善できない。人のバランスは予測や思い込みなど、高度な皮質機能が関与しているので社
会の掟や作法、見えまで含めた過剰な防衛反応が生じて生態学的な本来の機能の活用を阻害してしまう。
j.ボソム、1963.
ヘス、1956.
サルは初めは椅子に固定、慣れるに
ふ化直後のひよ
ホルスト、1950.
従いこの制限を減少。初め硬直、動か
こに7度ゆがむプ
ミツバチの頭を180度回転させて
ない。完全に受動的、触ることを拒んだ。
リズムをつけた:
固定:適応不可
7日目、外から見る限り完全に適応。
適応不可
学習には皮質が重要、快と自己報酬が不可欠
快、安心、楽しいなど皮質下がポジティブに方向付
モリスの実験
けする構えを引き出すような報酬が必要。温もりの
ある接触は安心や快感を生み、共感できる。反対
に硬く冷たい肌触りは安心、信頼という共感を生ま
ない。さらに、自分のやったことに共感し、相手と
一緒に繰り返し、真似てくれると“またやってくれる
かな!”と期待が膨らみモチベーションが高くなる。
随伴性検出ゲームと報酬
廃用症候群の予防
よく見かける治療的な問題を感じる場面
治療者の思い込みや期待
早期離床
呼吸とリズム運動
が患者に諦めやうつ、過剰
な防衛反応を引き起こす原
因を作り出していないか。
背臥位で頭部を動かさない
とダイナミックな前庭の変
化に適応できない。不安や
恐怖を訴え過剰な防衛反
応が出現する。
思い込みによるバランス戦略の固定化(腹臥位は難しい、ワイドベースは安定、車椅子背もたれに寄りかかると安定)
テンセグリティ構造
内臓は背臥位に適応できていない 背臥位で不動が持続すると迷路性の
刺激に反応し、頭部を押し付けて頸
部を過剰に伸展する
背臥位
腹臥位
腹部の横断面
運動の自由度が下がる姿勢を患者は習慣としてしまう。良い姿勢がとれるのに!(動画あり)
支持基底面の中央付近に圧の中心があればどの方向にでも動く可能性は高くなる。運動の自由度が多い
わけでバランス戦略ではCAの戦略が取れるとき可能である。圧の中心が外側に変異するにつれ、運動の
自由度は制限され、
動ける方向が画一
的になる。CWを活性
化するバランス戦略
を選択した時にそ
のようになる。
補助2:呼吸
腹圧向上の筋(深く吐く)
弓状靭帯と横筋筋膜
腹式呼吸の呼気と吸気
骨盤前傾
僅かに
屈曲
(アレキサンダー
の呼吸法)
骨盤後傾
僅かに
伸展
横隔膜の上下の移動によって吸気と呼気を実現する
腹部の横断面
腹部の全面には骨がない。腹
側を取り巻く筋は白線に付着
する。左右の筋活動にアンバ
ランスがあると、弱い方に見
合った機能しか発揮できない
大腰筋
横隔膜の収縮時に脊柱を伸展、即ち、骨盤の前傾、
これは呼吸でいえば仙骨のうなずきを助け横隔膜
の筋付着部を長く保つことで横隔膜の活動性を高
め、持続させる。胸式呼吸では吸気時の最大の収
縮を可能にし、腹式呼吸では呼気時の遠心性の収
縮を機能的に行いやすくしていると考える。
腹式呼吸時の骨盤の動き
胸式呼吸と腹式呼吸
腸腰筋の収縮
坐骨結節の外転
骨盤底筋群の収縮
尾骨の前方回転
仙骨のうなずき(前傾)
多裂筋の収縮
横隔膜の遠心性の収縮
腸腰筋の弛緩
坐骨結節の内転
骨盤底筋群の弛緩
尾骨の後方回転
仙骨ののけぞり(後傾)
多裂筋の弛緩
横隔膜の求心性収縮
鼻呼吸、口呼吸
胸式呼吸(大きく吸うことが目的、吸えば弾性で自動的に吐きやすくなる)
吸気:呼吸補助筋で胸郭を引き上げることで、胸を開きながら、背筋を伸ばして息を吸う。横隔膜の最大
の収縮を促すために仙骨をうなずかせる。吸気で横隔膜を最大に収縮させることが重要である。
呼気:吸気時に伸ばした身体を戻しながら胸をすぼめ、背筋を軽く曲げる。胸郭の容量を小さくするように胸
郭を動かしながら、仙骨を除けらせて脊柱の長さを短くすることで、横隔膜をより弛緩しやすくする。呼気時
に横隔膜を最大に弛緩させることが重要である。肋骨の可動性は以下のような運動で大きく保たれている。
(1)ポンプの持ち手のように胸骨の前上方へ向かう運動と、
(2)バケツの取っ手運動という肋骨の外側骨幹部の上昇をする運動
腹式呼吸(ゆっくり長く吐くことが重要、吐ききれれば横隔膜が押し上げられて自動的に吸える)
吸気:呼気時に腹部や大腰筋、骨盤底筋群を収縮させて維持した腹圧で押し上げ引き伸ばした横隔膜を収縮させる。そのため十分
に吐ききれれば自動的に吸い込みやすくなる。横隔膜が収縮して下制しやすくなるように腹部を緩め、骨盤底筋群を緩め、仙骨をの
けぞらせる。(腹式呼吸では吸気の開始時に引き伸ばされて収縮しやすくなっているので下制の邪魔をしないように十分に緩むことが
求められる。胸式呼吸と全く逆になる。)
呼気:腹圧を高めながらゆっくり吐く。腹圧を高めながら吐くことは横隔膜を弛緩させることとは違う。横隔膜を遠心性に収縮させること
である。効果的な遠心性の収縮は筋長を十分に保つことで実現できる。そのために大腰筋を動員し仙骨をうなずかせ、脊柱を伸展さ、
多裂筋で伸展位に安定させる。口すぼめ呼吸は出口を狭くすることで胸腔の内圧を高め腹圧向上の支援をする。(別の機能として気
管、気管支を拡張する作用も重要)
背臥位の問題を克服するための腹臥位・パピーポジション、それを利用した床上動作
上肢に対するCKC運動の展開
①
③
②
a
d
b
e
f
c
g
h
座位から立位
①
①
②
②
②
③
③
i
④
a:両腕をベッドから垂らしてうつ伏せになれるぐらい上方に滑り出す。①首が垂れないように
頭を大腿の上に載せ、麻痺側上肢を握った手の腕で支える。②患者の非麻痺側の手でベッド
の縁、床を触るようにしながら身体を回していく。横を向けば頭の支えは不要となる。③両腕を
垂らした腹臥位になる。腋下がベッドに付くと安定する。痛みや亜脱臼のある肩では腕を台に
載せるなどの配慮が必要。b:腹臥位保持、ゆっくり深い呼吸なども繰り返行う。c:肩甲骨の外 ヘルドの実験,1961
転、内転。d:前、後方への滑り、スライディングシートの上で負荷の少ない状態で肩、肩甲帯
の可動性を求める。肘の付く位置を前にすれば大きな肩の可動性が引き出せる。e:膝を臀部
の下に引き込んで四つ這いになる。ゆっくりパピー肢位まで戻ることを繰り返す。肩に不安が
あるときはまずパピーで行う。f:両上肢を前上方へ持ち上げ、プレーシング。g:掌を合わせる、
指をしごく、腕を触るなど手や前腕へのアプローチ。 h:積み木、タオルでワイピングなど物の
操作。i:①通常のパピーポジション、段違いパピーポジションで行ったすべての動作はこの肢
位でも行える。②匍匐前、後進、スライディングシートを使うと楽に行える。③肘をついた四つ
這いでの移動。J:背臥位は重力に適応していない。筋の付着のような運動器の構造、そして呼
吸、嚥下、免疫、循環、排泄など内臓の位置も適応できていない。
⑤
⑥
⑦
連続的な支持面に
接する身体部位の
変化と身体の立ち
直りの体験と促進。
前庭と触運動、視
運動を同時に関連
付けることで運動
パターンに筋緊張
やバランスを組み
込むスキルの改善
を期待する
j
20度ズレて見えるプリズム
を装着。校庭を自由に歩く
と対象物の位置を正しく記
す者、10%前後、22時間
後は100%正しく示す者も
いた。
車いす移動者はいずれも
適応0。
能動的に動くことが適応を容易にする
自己管理(動く習慣の確立)
腹臥位をとろう:無理は禁物、
できるところから
臥位での呼吸、リズム運動は欠かさない(寝たら力を抜く、抜
いたら動く),可能であれば腹臥位を保持することも習慣にする
①座位、臀部を左右に滑らす(座ってもじっとしない、顎を引き胸
を張って、尻をもじもじ左右に滑らす)
②座位で前傾(両足を膝より前にだし、足首を両手で同時に触
る)
③立ち上がり、座る(両足を引き、前傾して、ベッドの縁についた
てで前に押し出して離殿する。
④お尻が浮いたら両側同じに体重をかけて立つ。
⑤立位保持、揺する(立位でも止まらない。両膝をほんの少し、
曲げ伸ばしする。揺する感じでよい)
⑤
⑥床へ降りる(昇降台)
④
①
③
うつぶせ寝健康法:日野原重明監修、
KKベストセラーズ、2005.
⑥
②
②
①
硬縮してしまった患者の寝返り
③
狭いベッドでの工夫
①寝返りができるスペースを作るために段ボール箱を準備
②褥創予防の配慮はされている。それが身体の過剰反応を
引き起こし緊張を高める要因の一つになっている可能性が
大きい
③段ボールの上に掛布団を乗せ、手すりを外してベッドを広
くする。可能であればエアーマットの空気を抜き支持面を安
定させる
介助して向きを変える
ベッドから頭部を出す
臀部や胸郭のリズミカルな運動
うつぶせに誘導
余分な力を入れずに背臥位に戻る
ゆっくり深い呼吸
強い屈筋活動を抑制しながら戻る
背臥位で余分な力を抜く
元の位置に戻りリズミカルな運動の誘導
終末期の患者の身体機能は時間的に見れば、右肩
下がりの変化でしかあり得ない。このような状態で、
患者がやる気を出せるとすれば、それは苦痛や痛み
が緩和して呼吸や身体が楽になったと感じられるとき
ではなかろうか。機能的向上がなくても楽になったと
喜んでくれればセラピストもやりがいを見いだせるもの
と考える。患者、セラピスト双方にとって、患者が自分
の変化を知覚できる身体を作り、維持してくれることが
極めて重要である。終末期のリハにとって変化を知覚
できる患者の身体作りを目標とした。そのために欠か
せないのが最終までうつ伏せをとれるようにすること
である。
参考・引用文献
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