子どもの発達に 関する課題

子どもの発達に関する課題
<資料提供> 東京学芸大学 准教授 濵田豊彦
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本講義の内容
1)脳科学の変遷
2)ニーズのある子どもたちへの対応
3)バリアフリーを目指して
↓
子どもに応じた教育実践を
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脳科学の変遷
脳科学の変遷
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脳科学の変遷
• 私達が物を見る、考え
る、覚える、行動する、
これらは全て脳の働き
です。
• 脳には100億個以上の
神経細胞があり、10兆
個以上の結合によって
相互に情報をやり取り
しています。
• この情報のやり取りの
中から全ての精神作
用が現れてきます。
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脳科学の変遷
脳機能の局在論
脳機能局在論とは、脳が部分ごとに違う機能を担って
いるとする説のことである。
19世紀初頭
ガルの骨相学:脳の特定の部位が特定の機能を担い、
その機能が発達するとその部位が肥大して頭蓋骨の
ふくらみとなって現れるとする説→科学的根拠なし
19世紀中葉~後半
ブローカやウェルニッケの失語症と脳損傷の関係調
査によって言語中枢とされる部位の推定が行われる
→脳機能の局在論が実証
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脳科学の変遷
ブローカ野が損傷を受けると話せなくなる
ウエルニッケ野が損傷を受けると聴理解が悪化
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脳科学の変遷
脳地図
• 1930年代から、ワイルダー・ペンフィール
ド (1891-1976)はてんかんの手術に伴
い、局所麻酔の効果を確かめるために患
者の脳を電極で刺激した。
• 脳の特定の部位を刺激すると部位に固有
の精神活動が起こることが確かめられ、
機能局在の大まかな地図が作られた。
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脳科学の変遷
ペンフィールドの脳地図
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脳科学の変遷
ブロードマンの脳地図
ブロードマンによる大脳新皮質の解剖
学・細胞構築学的区分の通称。
ブロードマンは大脳皮質組織の神経細胞
を染色して可視化し、組織構造が均一で
ある部分をひとまとまりと区分して52まで
の番号をふっている。
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脳科学の変遷
CTスキャン MRI。そして
1960年代からは、CTによる非侵襲的方法による脳の
断面像が得られるようになり、脳損傷と機能の関係
は生きた患者で直接調べることが可能に。
1980年代後半から、MRIによる脳疾患の解析的研究
が進むとともに、空間解像度が1mmと微細な構造を
可視化することができるようになった。
現在
fMRI 近赤外線分光法(NIRS)
いずれも動的変化を視覚化することができる
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脳科学の変遷
どんなことが分かっているのか?
前頭葉に「文法中枢」と
「文章理解の中枢」があ
り、側頭葉から頭頂葉に
かけての領域に、「音韻
(アクセントなど)」と「単
語」の中枢があると考え
られている。
• ことばの持つ要素が脳
の仕組みと一致
Science 310, 815-819
(Sakai 2005)
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脳科学の変遷
文字を覚える時には音韻が活性
KS課題:仮名文字と音
声のマッチング課題
HS課題:ハングル文字
と音声のマッチング
課題
HN課題:ハングル文字
と非音声のマッチン
グ課題
NN課題:非文字図形と
非音声のマッチング
課題
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ニーズのある子どもたちへの対応
なぜ、特別支援なんだろう?
特別支援学校や
学級があるのに・ ・ ・
インクルージョン
ノーマライゼーション
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ニーズのある子どもたちへの対応
昔の障害児・者はどうしてたのかな?
分散し、公的な支援が無い状態
↓
社会から隔離されて、支援を受ける状態
↓
これで良いのか?
1950年代から60年代の米国の公民権運動
北欧から始まったノーマライゼーションの動き
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ニーズのある子どもたちへの対応
ノーマライゼーションとは
• この言葉が最初に登場したのは、1959年の
デンマークの法律の中
• 知的障害者の施設の処遇改善
• 法律の中に「知的障害者のために、可能な限
りノーマルな生活に近づける(ノーマライゼー
ション)」が盛り込まれる
※障害児はなぜ地元の学校に通えないの?
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ニーズのある子どもたちへの対応
「ノーマライゼーションを
難しく考える必要はない、
自分が障害者になった時に
どうしてほしいかと考えればすぐ
に答えはでてくる」
N・Eバンク・ミケルセン
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ニーズのある子どもたちへの対応
公民権運動で共通して目指されたのは、
排除されていた少数者の人権の尊重と、
社会への「統合(インテグレート)」であっ
た。
これがインテグレーション(Integration)である
≒障害児が通常の学級で学ぶこと
↓
放置(ダンピング:dumping)という現象を引き起
こしてしまった
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ニーズのある子どもたちへの対応
インクルージョン(Inclusion)の登場
そもそもの考え方
障害児と健常児と二元化して捉えるのでなく、
誰もが教育的なニーズを抱えた異なる存在
とみる(すべての教育ニーズに応える教育)
インクルージョンは、性、国籍、民族、母国
語、社会的背景、学業成績、障害などからく
る差異を歓迎し祝福するという価値体系に
基づいている
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ニーズのある子どもたちへの対応
→分離された環境だけでは得られない(全
員のための教育)
→そのためには、誰かがやってくれるでは
なく全員(全ての児童・生徒、保護者、教
師)が当事者意識をもって取り組む必要
がある
※保護者自身がノーマライゼーションやインク
ルージョンの理念の伝道者になることが、多
様性が共存する社会で活躍する子どもが育
つ素地になる。
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ニーズのある子どもたちへの対応
他人事じゃないんですよ!
発達障害、その特性と教育・支援
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ニーズのある子どもたちへの対応
あなたはどちらが得意ですか?
駅の北口から本屋に行くのに、「地図を見せられてゆびささ
れる」方が分かりやすいですか?それとも、「道順を順番に
ことばで説明される(北口を右に進んで最初の交差点を左
に・・・・)」方がわかりやすいですか?
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ニーズのある子どもたちへの対応
地図だけで瞬時に
処理する力を
同時処理
ことばなどで順をおっ
て処理する力を
継次処理
同時処理、継次処理のギャップが大きい
場合を、学習障害(LD)という
誰もが(程度の差はあるけれど)どちらか
が苦手
→誰もが多様な存在
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ニーズのある子どもたちへの対応
いわゆる発達障害
• LD
認知、記銘、遂行などの障害
• ADHD
注意・行動の障害
• 高機能自閉症
知的障害を伴わない自閉症
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ニーズのある子どもたちへの対応
事例1 (LD児)
• トム君は音読をさせると、(単語や文字を)飛
ばし読みしたり、勝手読み(動詞などの活用
を違って読む)が多く、また読解の力も同学
年の子どもに比べて低い
• 最近は、教科書を開こうともしない
• 調べ学習の時も、友達と話してばかりで注
意すると教室を抜け出してしまう
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ニーズのある子どもたちへの対応
なぜ、読めないのかな?
• 原因1
視覚認知能力(見て物事を理解する力)に
問題がある
一度に沢山の文字がみえると
うまく読めない
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ニーズのある子どもたちへの対応
何に見えますか?
ゲ
鬼のゲ
ゲ
太
郎
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ニーズのある子どもたちへの対応
1行ものさし
一行ものさし
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ニーズのある子どもたちへの対応
なぜ、読めないのかな?
• 原因1
視覚認知能力(見て物事を理解する力)に
問題がある→一度に沢山の文字がみえるとう
まく読めない
• 原因2
音韻処理の力(正確早く文字を音声に変換す
る力。順序正しく再生する力)や音と意味を結
びつけるのに時間がかかるのでは?
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ニーズのある子どもたちへの対応
声ー音韻ー意味
ことば(意味)を知っていても
声を正しく聞き取ることができても
聞こえたことばを理解するのに時間が
かかります。
そのために、聞いても分からないことが
生じやすい子どももいます。
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ニーズのある子どもたちへの対応
電話番号を聞き取ろう
私の電話番号は
042-329-7395
My telephone number is
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ニーズのある子どもたちへの対応
電話番号を聞き取ろう
私の電話番号は
042-329-7395
My telephone number is
097-861-2345
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ニーズのある子どもたちへの対応
バドリーとロジー(1999)の作動記憶モデル
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ニーズのある子どもたちへの対応
ワーキングメモリ(作動記憶)
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ニーズのある子どもたちへの対応
ワーキングメモリーが小さいと
山田くんは何をしたのでしょう?
山田くんは鈴木くんをにらんだ
山田くんは鈴木くんをにらんだ佐藤くんを
たしなめた
山田くんは鈴木くんをにらんだ佐藤くんを
たしなめた高木さんにキスをした
山田くんの動作が入れ替わることを一時的に頭
に留め置かないと理解できない
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ニーズのある子どもたちへの対応
同級生への支援
1)トム君にとって「一行ものさし」や「ゆっくり読
む」こと「先行読み」が必要なことを理解させ
る(堂々とえこひいきを)
2)トム君ができたことに対して、みんなで賞賛
できるよう、トム君の音読における目標を共
有する
3)一人一人がかけがえのない仲間であること
を常に伝える
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ニーズのある子どもたちへの対応
事例2 (ADHD児)
• ガト君は、よく飼育係りの約束をすっ
ぽかしてしまう。友達に注意されると
すぐに乱暴を働くことが多い。
• 友達との話し合いにも、勝手に割り
込んでくるので最近クラスの中でも
煙たがられている。
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ニーズのある子どもたちへの対応
ADHDの特徴
注意
欠陥
注意の持続や細かいところへの注意が苦手
→約束を守らない、片づけが苦手、
忘れ物が多い
衝動性
→話したくなるとつい割り込む、
順番が待てない
多動性
→貧乏揺すり、不適切なたち歩き
次々にしたいことが出てくる
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ニーズのある子どもたちへの対応
支援の原則
1)いつも叱られているので、優しく語
りかける
2)注意が散漫になっていると感じると
きには、肩に手を置くなど、アイコン
タクトをとって話す
3)できることに少しずつ取り組む
例:話す前に心で3つ数える
例:道具箱
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ニーズのある子どもたちへの対応
道具箱の整理
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ニーズのある子どもたちへの対応
同級生への支援
• ガト君の得意なこと不得意なことをみん
なで知る
• 委員会等は、ガト君に(忘れないよう)み
んなで声を掛けあう
• 話しに割り込まれても、「ちょっと待って」
といって優しく制止する
• 友達同士でもアイコンタクトを(うわの空
の返事が約束をやぶる原因に)
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ニーズのある子どもたちへの対応
高機能自閉の自閉症って?
「社会性の発達の遅れ」、「言語の発達の
遅れ」、「こだわり等」の三つ組の障害が
自閉症の特徴です。
その中で知的なレベルが一般レベルの
場合を高機能自閉症といいます。
高機能自閉症の中で「言語発達の遅れ」
のないものを特にアスペルガー症候群と
言います
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ニーズのある子どもたちへの対応
事例3 (高機能自閉児)
• ヒデ君は、ドッジボール等チーム
活動になかなか参加できず、思い
通りにならないとパニックを起こし
てしまうことがある。
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ニーズのある子どもたちへの対応
なぜ、ドッジボールができないか?
1)ルールや作戦を口で言われても分から
ない(視覚優位)
2)2つのことを同時にするのが苦手(タマ
をよけながらの会話)
3)体に触れられることが苦手
4)好きなことをしている時には、周囲の声
が聞こえないし、次の行動に移れない
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ニーズのある子どもたちへの対応
支援の原則
1)見たものを理解する方が得意
→ルールを文字や絵であらかじめ説明する
2)スケジュールを前もって伝える
→切りかえにかかる時間が少なくなる
3)穏やかに、具体的に話す
→二つ以上意味のあることばの一つしか思い浮
かばない・・・・「ちょっとこの辺で待ってて」
4)対人的なたしなみを言語化して伝える
(パーソナルスペース)
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ニーズのある子どもたちへの対応
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バリアフリーを目指して
障害はどこにあるのか?
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バリアフリーを目指して
障害(困難)はどこにあるのでしょうか?
障害は、発達障害児の頭の中にあるわけでも、
聴覚障害児の耳の中にあるわけでも、アスペル
ガー児の心の中にあるわけでもありません。
障害は人と環境の間に生じるものです。
そして、その環境の大多数はまた人なのです。
人と人が関わる中で生じる障害は、その両者が
共有するものです。
障害児だけが、その共有する障害の解決に努力
を強いられるとしたら、それはどこかおかしいで
すよね。
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バリアフリーを目指して
真のバリアフリーを目指して
バリア・フリーと言うときに
4つのバリアがあるとされている
①物理的障壁 ②情報の障壁
③制度的障壁 ④心理的障壁
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文献
• 堀田凱樹 酒井邦嘉 2007,「遺伝子・脳・言
語―サイエンス・カフェの愉しみ」中公新書
• 酒井邦嘉 2002,「言語の脳科学―脳はどの
ようにことばを生みだすか」中公新書
• 時実 利彦 1962,「脳の話」岩波新書
• 大南英明、宮崎英憲、木船憲幸編著 2007,
「特別支援教育総論」日本放送出版協会
他
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