成果の上がる口腔ケア③

成果の上がる口腔ケア③
メディソフィア事務局
本編は、「岸本裕充編著 看護ワンテーマBOOK 成果の上
がる口腔ケア」(2011年 医学書院)をもとに作成しました
成果の上がる口腔ケア
第2章
「口腔ケアの技術とトラブル対応」(1)
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口腔ケアに必要な物品
体位を極める
加湿する
磨く
粘膜ケア(絶食中)
汚染物の回収
保湿(蒸発予防)
• 最低限必要なもの
• 歯ブラシ
– ヘッドの小さめのものが使いやすい。
• 吸引設備
– 吸引器、ディスポ―ザブルの排唾管、カバー付ヤンカーなど。
– 咽頭部までしっかり吸引できるもの。
• 照明
– ペンライトもしくはヘッドランプなど、口腔内を明るく照らせるもの。
• 各種粘膜清掃用具
– スポンジブラシもしくはモアブラシ、綿棒など。
• 水を入れたコップ(ブラシすすぎ用)
• たいてい必要な物品
• 洗浄用品
– 洗浄水を入れたコップと、洗浄用シリンジ。
– 洗浄針かサクションカテーテルを接続すると便利。
• 湿潤ジェル
– 唾液の分泌が良好で、口腔乾燥がない患者には不要。
– 蒸発予防を目的とする時は、薄く塗るのがポイント。
• あると便利な物品
• 各種補助清掃用具
– 歯間ブラシ(上)は、歯周病がある程度進行して歯間部に空隙がある場合有効。
– デンタルフロス(糸ようじ)は、若年者で歯間部に空隙がない場合に有効。
• その他
– 自力で開口を保てない患者や、意識状態のよくない患者への口腔ケアには、プラ
スティック製口角鉤、開口器、バイトブロック、ゆびガード等を用意したほうがよい。
• 「重力による水の落下」
• 「体位による気道と食道の位置関係の変化」
に着目して、適切な体位をとる。
30度仰臥位
• 最も誤嚥の危険が少な
い体位。
• 口腔ケアを行う体位とし
ては理想のひとつ。
• 気管が上、食道が下、と
いう位置関係になること
で、咽頭部の水が重力
に従って食道に流れ込
むことから、気管へは入
りにくくなる。
仰臥位
• 口腔内の水が食道、鼻
腔のどちらの方向にも流
れやすい状態。
• 吸引しないと水位が上昇
し、食道の上の気管にも
水が流れ込む。
• 咽頭部の吸引を適切に
行えば、誤嚥を予防する
ことができる。
腹臥位
• 水が口腔外へ自然に排出
される体位だが、口腔ケア
を行う体位としては現実的
ではない。
• 側臥位もしくは前傾の側臥
位で顔を下に向けて、口の
中の水が口角から自然に
排出されるようにすれば、
腹臥位に近い効果が得ら
れる。
• 非常に誤嚥しやすい患者
では選択肢の一つとなる。
• ただし、口腔内の観察や、
ケアがしづらい。
座位での前傾
• 水が自然に排出される
ため、安全な体位。
中途半端な座位(頸部後屈)
• 座位で前傾姿勢を取るこ
とが難しく、中途半端な
座位となってしまう場合
は危険。
• 特に頸部が後屈している
場合、気管に水が入りや
すく、誤嚥の危険性が高
まる。
頸部後屈に注意
• 上の図のように、頸部は
やや前屈したほうが、咽
頭部が屈曲し、誤嚥しに
くくなる。
• 逆に後屈すると、誤嚥の
危険性が高まり危険。
座位でのケアの際に注意!
• ヘッドレストのない椅子
や車いすに乗って、看護
師が上から見下ろす位
置に立つと、患者の頸部
が後屈しやすい。
• 予防するために・・・
• 看護師も座る/ひざま
づくなどして、患者と
目線の高さを合わせ
てケアをする。
• 枕や背もたれで患者
の頭部の位置を工夫
する。
• 口腔ケアのスタートは「加湿」から
• 介助による口腔ケアを必要とする患者の多くは、程度の差はあれ口腔乾燥
を認める。
• 乾燥したままの状態で口腔内に指や器具を入れられるのは苦痛
• 口角切れなどの損傷も生じやすくなります。また、乾燥した口腔内ではケア
用品や気管チューブと粘膜がくっつき、損傷の引き金となる可能性がある。
• 口腔内を水や生理食塩水などで適宜加湿することが大切。
• 保湿は「水分による加湿」と「蒸発予防」とで行う
• 「加湿」は水やお茶での洗口、「蒸発防止」はマスクの装着やジェルの塗付
が基本。
• イソジンガーグルは、成分中のエタノールによる脱水の助長、口腔内常在
菌への悪影響が危惧されるため、適応を見極めて短期的に使用すべき。
• 通常の加湿のためには、水やお茶での洗口で十分。
• 乾燥が強く、炎症を伴う患者が洗口する際の処方薬としておすすめできるのは、含嗽用ハ
チアズレ。
• 洗口は必要以上に頑張りすぎると、唾液の成分も同時に失われ
てしまう。
• 加湿のためには洗口を頻回に行うよりも、加湿スプレーや小さな氷片を口
に含むといった方法が無難。
• 歯垢が残存しやすい「不潔域」を意識することがポイント。
• 自分なりに磨く順序を決めることも重要。
「下の写真で歯垢が残りやすい箇所はどこでしょうか?」
① 歯頸部(歯と歯肉の境界部)
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ワンタフトブラシ(歯ブラシの毛先のみに植毛してあるブラシ)が有効。
毛束の先端を歯と歯肉の境界部、歯間部などにあてるように使う。
② 歯間部
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歯間ブラシ、デンタルフロスが有効
③ 欠損隣接面(欠損歯の隣接面)および最後方歯遠心部
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外(頬)側と内(舌)側をブラッシングするが、最後方歯遠心部とともにブラッシン
グを忘れやすい傾向がある。
ワンタフトブラシが有効
• 経口摂取していない場合には、歯磨きよりも粘膜ケアの
ウエイトが高くなる
• 絶食時には、食物と粘膜との摩擦によって、新陳代謝で古くなった粘膜上皮が剥が
れおちることや、食物の刺激で分泌された唾液で口腔内が洗浄されるという自然の
自浄作用が著しく低下する。
• 粘膜ケアグッズ(例)
• スポンジブラシ、綿棒、ガーゼや不織布など
• モアブラシ、くるリーナブラシなど(毛が細く、ソフトで密)
• 粘膜ケアは「軽く擦る程度」に
• ブラッシングよりも優しい力で、軽く擦る程度で剥がれてきたものを回収する
粘膜ケアのポイント
• 力を入れ過ぎず、軽く擦る
• 食物残差や気道分泌物、凝血塊などが付着した汚染物は除去する。
• 舌苔、痂皮など、除去しにくかったり、除去できなかったりするものもある。
• 一度に全部を除去しようとはせず、少しずつケアする。
• 口蓋粘膜は比較的丈夫/舌や頬の粘膜は弱い
• 擦る回数は10回から20回程度にしたほうが無難。
• 汚染物が強固に付着しているときは、粘膜ケアの前にデンタルリンスや洗口
液、湿潤ジェルなどで軟らかくしておくと除去しやすくなる。
• ただし、アルコールを含む製品の使用は、弱った粘膜に刺激を与えたり、乾燥を助長してしま
う可能性がある。
• 通常、歯面から剥がした歯垢中の菌の多くは、洗口で口
腔から除去される。
• 口腔内に残っていたとしても唾液や飲食物と一緒に嚥下される。
• しかし、洗口できない場合や嚥下に問題がある状況では、菌が口腔内に散
乱した状態となり、咽頭方向へ流れ込みやすくなる。
汚染物をきちんと回収することが大切
• 口腔内に残った汚染物の回収方法
① 吸引のみ
② スポンジブラシや綿棒などで清拭
③ 吸引つきブラシで清拭と吸引(①+②)
④ 洗浄で剥離した汚染物を希釈して、吸引(③)
さらに以下を補助的に用いることが可能
① 消毒薬を併用(清拭や洗浄時)
② 抗菌生のある湿潤ジェル(リフレケアHなど)
• 口腔ケア後の保湿を行うことは、「次のケア」の労力を軽
減するための重要なポイント。
• 適宜清拭を行うこと、スプレーなどの利用によって加湿し、湿潤ジェルやマ
スクでその蒸発を予防することが保湿につながる。
• 経口挿管中の患者もマスクを装着することによって、蒸発や乾燥を予防す
ることができる。
• 湿潤ジェルは薄く塗り広げる
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市販の湿潤ジェルの一例
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オーラルバランスリフレケアH、コンクールマウスジェル、ビバ・ジェルエット等。
ジェルは厚く塗ると硬くなりやすいため、薄く塗り広げて使用するのがポイント。
引用文献
岸本裕充編著(2011)看護ワンテーマBOOK
成果の上がる口腔ケア、医学書院