日本一小さな蒸溜所から世界一芳醇な琥珀の味わいを

企業経営トピックス
日本一小さな蒸溜所から世界一芳醇な琥珀の味わいを
秩父の酒造りの魂を受け継ぐ国内唯一のウイスキー専業メーカー
株式会社 ベンチャーウイスキー 秩父蒸溜所
あく と
い
ち ろう
ベンチャーウイスキー社長の肥土伊知郎氏は、秩父生まれ。祖父が羽生市ではじ
めたウイスキーの蒸溜所は、父の時代に頓挫してしまう。しかし、先祖が日本酒の
造り酒屋をはじめた秩父を再出発の地として、国内唯一のウイスキー専業の蒸溜所
が生まれた。日本酒を造るのに適した地である秩父は、ウイスキーを造る上でも恵
まれた環境だった。そこで生み出された琥珀色の雫は、世界で注目され、国内で熱
烈なファンを持ち、独自の精彩を放っている。
400樽のウイスキーの原酒が廃棄の危機
企業
概要
株式会社ベンチャーウイスキー
秩父蒸溜所
代表取締役社長:肥土伊知郎
創 業:2004年 蒸溜所設立:2007年
従業員数:8名 業 種:蒸溜酒製造業
事業内容:国内唯一のウイスキー専業メーカー。シング
ルモルトという蒸溜所ごとの味わいの違いを楽しめるウイ
スキーを中心に、小規模ながら個性的で高品質なウイス
キーを造っている。バーやホテル、百貨店を中心に国内・
海外ともに販路を拡大中。地元農家に栽培してもらった
二条大麦を使用するなど秩父ならではのウイスキー造りを
目指した取組みは、ウイスキー業界でも注目されている。
所 在 地:秩父市みどりが丘49番
取 引 店:秩父支店
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時間の流れを縦糸とすると、その縦糸は
秩父で将軍家光の時代(1625年)から続く
日本酒の酒蔵から始まる。その酒蔵が1980
年代、羽生市にウイスキーを造るための蒸溜
所を作った。それが、羽生蒸溜所。肥土氏の
祖父が始めたものだ。そこで醸されたのは、
本格的なスコットランド方式のウイスキー
だった。
しかし当時は、ウイスキーの需要が下降し
ていた。しかも、羽生蒸溜所のウイスキーは
個性の強い味と香りで、当時の主流だったく
せのないウイスキーとは相容れなかった。
肥土伊知郎氏は、父の仕事を手伝うため
に、1995年に勤めていたサントリーを辞め、
父の会社に入社していた。肥土氏は入社して
から、樽の中で熟成しているウイスキーの味
わいを知り、とても魅かれるところがあった
という。樽で熟成を重ねている原酒は、深い
味わいとその個性的な香りを秘めていた。
また、名店と呼ばれるバーに持ち込んで、
マスターやバーテンダーにも飲んでもらって
いた。彼等の好意的な反応からも、羽生のウ
イスキーには、必ずニーズがあると確信して
いた。
ウイスキー売上の不振もあり、父の会社は
経営が傾き、2000年に民事再生法を申請し
た。祖父や父が20年余にわたって造り続け
た400樽のウイスキーの原酒は、経営を引き
継ぐことになった関西の会社の方針で、廃棄
される運命となった。
そこで400樽の運命は肥土氏に託される。
残された樽の原酒を、なんとか救いたいと
思った肥土氏は、樽を買い取ってくれる会社
を必死になって探す。救いの神は、福島県郡
山市にあった。当地の酒蔵、笹の川酒造の山
口社長は、
「廃棄は業界の損失だ」といって、
肥 土 氏 の 思 い を 受 け 止 め て く れ た の だ。
2004年秋、廃棄の運命にあった樽を買い取
り、熟成を引き受けた。
ウイスキーを販売するために会社を設立
樽の引取先は見つかったものの、樽の中に
眠る原酒を、ウイスキーとして世に出さなけ
れば、途切れようとしている縦糸をつないだ
ことにはならない。そのためには、肥土氏自
身 が 樽 を 買 い 取 り、 売 る し か な か っ た。
2004年9月、肥土氏はベンチャーウイス
キーという会社を設立する。笹の川酒造の蔵
の一角を借り、商品化の準備をすすめた。
ウイスキーを世に出すためには、更なる人
のつながりが必要だった。それは、バーのマ
スターやバーテンダーとの横のつながり。肥
土 氏 は、 笹 の 川 酒 造 に あ る 樽 の 原 酒 を、
2005年5月「イチローズモルト」として販
売を開始する。
日本では、シングルモルト(1つの蒸溜所
で造られたモルトウイスキー)の商品名は、
その蒸溜所の地名を冠する場合がほとんどで
ある。山崎、白州、余市などは有名だ。肥土
氏も地名を検討したが、羽生はすでに撤退し
てしまったし、将来は秩父での蒸溜所建設を
考えていたが、その当時はまだ設立できるか
どうかもわからない。そこで肥土氏の名前を
使うことにしたのだ。それが「イチローズモ
ルト」
。
「イチローズモルト」の販売先も、もちろ
んバーだった。もともと
肥土氏は、父の会社に在
職しているときから、市
場調査もかねて名店とい
われるバーを中心に訪問
していた。その時のバー
のマスターやバーテン
カードシリーズは1シリーズでわ
ずか200 ~ 400本という希少性
ダーとの信頼関係を活か
もあり、海外にも収集家がいるほ
し、「イチローズモルト」
どの人気がある。
空調設備はなく自然の換気のみの熟成蔵。むき出しの地面に伝統的な
ダンネージスタイル(木材のレールで樽を積み上げる)で熟成させる。
を紹介していった。バーのマスター同士は、
横のつながりが強く、おすすめのバーを惜し
げもなく紹介してくれる。結局、2年間で延
べ2,000軒以上のバーを巡り、600本の「イ
チローズモルト」
(720ml、13,500円)を
完売した。
バー巡りは、販売上でも成果を上げたが、
肥土氏はバーで味わった6,000杯以上のウイ
スキーを、テースティングノートに記録して
いる。このような努力は、イチローズモルト
の個性的な味わいを造り上げるためにも役立
ち、違いのわかるウイスキー愛好者の心をつ
かんでいったのだろう。
2005年10月には、ビンのラベルにトラン
プの図柄をあしらった4種類のシングルカス
ク(1つの樽から作られたモルトウイスキー
のみを瓶詰めしたもの)を発売。このラベル
をデザインしたデザイナーも、肥土氏がバー
で知り合った方だという。あとで触れるが、
国内大手のワインメーカーであるメルシャン
株式会社の軽井沢工場でウイスキー造りの体
験をするのだが、そのきっかけも、バーで知
り合ったメルシャンの重役の方が一役買った
という。バーの人脈、恐るべしである。
世界的に有名なウイスキー専門誌で高評価
カードシリーズ「ダイヤのキング」は、
2006年にイギリスのウイスキー専門誌『ウ
イスキーマガジン』のプレミアムジャパニー
ズウイスキー部門で最高得点を獲得する。
『ウ
イスキーマガジン』は、世界100カ国以上で
愛読されているウイスキー専門誌だけに、影
響力も大きい。また、
『ウイスキーマガジン』
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2008年の2月。
土地は、埼玉県から借りた。借りる際に、
多少困難もあったが、土地もなんとか手当で
きた。蒸溜所施設の建設資金は、当初は資産
家の親戚を頼ったが、現在はべンチャーウイ
スキーの所有となっている。このような、い
くつものハードルを一つひとつ乗り越えて
いった肥土氏の気力には脱帽するほかない。
ミズナラ製の発酵槽を使うのは世界中でも同社だけ。乳酸菌発
酵に適していて華やかで複雑な味わいのウイスキーが出来る。
が主催する世界的なウイスキーのコンテスト
「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)
」
のジャパニーズウイスキー部門で、2007年
以降5年連続カテゴリー別日本一に輝き、海
外での評価を決定づけた。
肥土氏の最終目標は、先代の残したウイス
キーを売り切ることではない。自分の手で、
ウ イ ス キ ー を 造 る こ と だ。 肥 土 氏 は ベ ン
チャーウイスキーを立ち上げたときから、当然
のように蒸溜所の設立を視野におさめていた。
ウイスキーを造って売るということは、あ
る意味では植林と似ている。先代が植えた苗
が立派な樹木になる。当代がその樹木を売
る。当代は、将来世代のために苗を植える。
ウイスキーも、祖父や父が造って10年、20
年熟成したウイスキーを肥土氏が売り、肥土
氏が新たなウイスキーを造って樽に詰め、熟
成を経て次世代に受け継ぐというわけだ。
肥土氏は、ウイスキー造りを体験するため
に、2006年夏にはメルシャンの軽井沢工場、
翌年には本場のスコットランドのベンリアッ
ク蒸溜所に行く。日本とイギリスで、ウイス
キー造りのノウハウを学んだ。
いよいよ、自前の蒸溜所を立ち上げる段階
になる。2007年、国税庁にウイスキーの製
造販売の免許を申請。通常、4ヵ月程度で免
許が交付されると聞いていたのに、なかなか
交付されない。日本でウイスキーの製造販売
の 免 許 を 単 独 の 蒸 溜 所 に 交 付 す る の は、
1973年のサントリー白州蒸溜所が最後だっ
たという。これは推測だが、30年以上のブ
ランクがあり、慎重な審査がなされたのかも
し れ な い。 結 局、 免 許 が 交 付 さ れ た の は
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ヘビーでリッチな味わいを求めて
設備にこだわる
蒸溜所の設備にも、肥土氏のこだわりを見
ることができる。まず、発酵槽だ。通常はメン
テナンスに比較的手間がかからないステンレス
製のものが多いのだが、肥土氏はミズナラの
木で造った。この発酵槽は、ステンレス製のも
のに比べ、ウイスキーの味に影響を与える乳酸
菌が育ちやすい。ミズナラの発酵槽は、当初5
台だったが、現在は8台まで増やしている。
また、蒸溜のための心臓部ともいえるポッ
トスチル(写真下)は、スコットランドの老
舗メーカー「フォーサイス社」に依頼。直接
出向いて職人に要望を細かく伝え、希望通り
のポットスチルを製造してもらった。肥土氏
の狙いは、ヘビーでリッチなモルトウイス
キーを造るためのポットスチルだった。出来
上がったポットスチルは小振りでストレートな
ヘッドを持ち、ラインアームのパイプが下向
きのもの。もちろん銅製だ。ただ、この銅が、
身を削りながらもろみ中の不快な香味成分を
老舗メーカー「フォーサイス社」に特注のポットスチル。すべて職人の
手作りで、肥土氏の希望通りヘビーでリッチなウイスキーを造りだす。
取り除いてくれているため、ポットスチルの寿
命は20年ほどだという。消耗品なのだ。
蒸溜所の設備は整った。最後のハードル
は、当座の運転資金。ウイスキーは、製品化
するまで最低でも3年が必要。その間、事業
を続けていかなければならない。ここで役
立ったのが、イギリスやスコットランドの蒸
溜所で行われている「樽オーナー制度」
。仕
込みの段階から、樽単位で購入してもらうも
の。すでに、イチローズモルトの熱烈なファ
ンがいたので、日本版「樽オーナー制度」も
成功し、運転資金を得ることができた。な
お、この「樽オーナー制度」は現在は行われ
ていない。
初めての販売で7,400本がたちまち完売
記念すべき1回目の仕込みは、
免許が交付された2008年2月に始
まった。そして2011年10月、
「秩
父ザ・ファースト」として7,400
本が発売され、すぐさま完売した。
現在、熟成蔵は3棟ある。2棟
には、それぞれ1,500樽が熟成の
ときを過ごしている。残りの1棟は、これか
らできるウイスキーを待っている。
倉庫や蒸溜所の屋根にはソーラーパネルが
置かれ、蒸溜所で使われる電気はほぼ太陽光
スタッフ
ュー
インタビ
渡部 正志さん(33歳)
東京都出身
業務 蒸溜責任者 樽作り
――入社理由・背景は?
ウイスキーを造りたくてHPに出ていたメールアドレスに
「雇ってください」とメールを出しました。
――いま一番「やり甲斐」を感じるときは?
樽作り。
――仕事を通じて自分がこれまでと変わったと思える点は?
継続していく力がついたと思います。
――ベンチャーウイスキーのPRをお願いします。
日本でウイスキーだけを製造しているのは弊社だけです。
まだまだ若いですが、ウイスキー好きが造ったウイスキー
を飲んでみてください。
昨年、秩父蒸溜所で初めて
作られた樽も熟成蔵でウイ
スキーをそだてています。
秩父で二条大麦の栽培も始めている(写真は肥土氏)
。農作業に
関わることでウイスキー造りにより一層愛情が注がれる。
発電でまかなっているという。また、麦芽の
絞り滓や蒸溜した際の残液などは、牛のエサ
として利用されている。環境にも配慮した努
力が、ヘビーでリッチなウイスキーの味わい
にも影響しているに違いない。
熟成蔵の床は土のまま。あくまでも、秩父
の自然の中での熟成にこだわっている。秩父
は、盆地という地形もあり、温度の寒暖差が
極めて大きい。寒暖差が大きければ、樽内の
空気が膨張・収縮を繰り返すことにより、熟
成が進むという。
現在、樽は世界的に不足している。肥土氏
は、樽づくりにも布石を打っている。羽生市
で洋樽を造っていた斉藤光雄さんと知り合
い、後継者のいない斉藤さんの設備を引き継
スタッフ
ュー
インタビ
山岸 広志さん(28歳)
北海道出身
業務 製造担当(蒸溜)
――入社理由・背景は?
単純にお酒、特にウイスキーが好きだったことと、学生時
代に勉強した分野の知識が活かせると思ったこと。
――いま一番「やり甲斐」を感じるときは?
バーやウイスキーイベント等で、弊社のウイスキーを美味
しそうに飲まれているお客様をお見かけした時。
――仕事を通じて自分がこれまでと変わったと思える点は?
“Team”という概念を深く意識するようになりました。小
さい会社、少ない人数で効率よく大きな力を生み出すため
に、常に意識するようにしています。
――ベンチャーウイスキーのPRをお願いします。
「イチローズモルト」とかけまして
「干物」と解く。
その心は、
「共に味
(鯵)
がよいでしょう」
従業員の平均年齢は約30歳。社員募集は一度もしたことがない。ウイスキーを愛する若者たちが自ら乞うて秩父に集まってきた。
皆、
「一日中ウイスキーのことを考えていられて幸せ」という。
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秩父で造った30年物のウイスキーを飲むのが夢
透明の原酒が樽の中で熟成し琥珀色のウイスキーになる。樽が
ウイスキーの味わいの6,7割を決めるのだ。
ぐ場所を秩父に用意し、斉藤さんの指導のも
と、樽職人の養成も行っている。また、北海
道まで行き、樽の材料となるミズナラの原木
の手当も行っている。先を見据えて次々手を
打つ肥土氏に迷いはない。ミズナラの樽で熟
成したウイスキーは、オリエンタルな香りが
特徴で、伽羅や白檀のような高級な香りがす
るという。
2014年からは、秩父産の二条大麦を原料
とした、100%秩父産のウイスキーにも挑戦
している。二条大麦の生育にも農家とともに
関わっているが、自然相手なので思うように
行かないことも多いという。
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秩父といえば、秩父困民党の歴史がある。
肥土氏は、ウイスキーのふるさとスコットラ
ンドと秩父は共通するものがあるという。ス
コットランドは1707年、内乱によってイン
グランドに併合されてしまう。それによって
ウイスキーに重税が課され、スコットランド
では密造が盛んに行われた。この密造時代に
盛んに行われたのが、シェリー酒の空樽にウ
イスキーの原酒を入れて隠すことだった。し
かしこの密造の知恵が瓢箪から駒で、シェ
リー酒の樽の中でウイスキーの熟成がすす
み、香りや味わいを磨くことにつながる。
秩父の困民党は、生糸相場の暴落や松方デフ
レの影響による生活苦から、時の政権へ反旗を
翻した。スコットランドも、圧政に対して簡単に
は従わないしたたかさがある。肥土氏は、この
2つの地に流れる反骨の精神と、自らのこれま
での歩みを重ね合わせているのかもしれない。
肥土氏は、秩父の蒸溜所で造った30年物
のウイスキーを味わうのが夢だという。その
ために、2008年に造ったウイスキーが100
樽ほどある。2038年にそのウイスキーはど
のような味わいになっているのだろうか。
Ichiro's Malt
Double Distilleries
Ichiro's Malt
Wine Wood Reserve
イチローズモルト
ダブルディスティラリーズ
イチローズモルト
ワインウッドリザーブ
羽生蒸溜所と秩父蒸溜所の原酒をブレン
ド。大きさや材など個性の異なる様々な
樽を使用し、2つの蒸溜所のよさを最大
限に引き出しました。羽生ならではの重
みのある甘さと、秩父らしいミントの様
な爽やかなフレーバーがバランスよく薫
ります。
秩父の環境で熟成を重ねた様々なモルト
原酒をブレンドし、赤ワイン熟成樽の空
き樽で後熟させました。柑橘系の爽やか
な味わいと程よいタンニン感で始まり、
チョコレートの様な滑らかな甘みが舌に
残ります。
Ichiro's Malt MWR
Mizunara wood reserve
Ichiro's Malt & Grain
White Label
イチローズモルト
エムダブリュアール
イチローズモルト&グレーン
ホワイトラベル
多種多様なモルト原酒を贅沢にブレンド
し、ミズナラの木桶でさらに後熟させま
した。個性的なピーテッドの原酒が隠
し味となって、深みのある樽香とその
甘さを引き立てます。時間とともに変化
する複雑で重厚な味わいをお楽しみくだ
さい。
秩父蒸溜所で熟成された原酒から、ブレ
ンドで力を発揮する原酒をキーモルトと
して、様々な個性豊かなモルトやグレー
ン原酒を、バランス良くブレンドしまし
た。軽やかで艶のあるフルーティーな香
り、時間とともに濃厚なコクのある甘さ
も顔を覗かせます。
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ウイスキー のできるまで
一般の造り方
大麦を水につけて発芽させる
(麦芽)
。
ベンチャーウイスキーのこだわり
この麦芽をキルン塔で乾燥する。
製 麦
(ピートという、ヨシやスゲなど (発芽・乾燥)
の植物が堆積して炭化したものを
ベンチャーウイスキーでは、ピートを使わないで乾燥させた麦芽をイギリス
燃やして乾燥する場合と、ピート
やドイツから輸入している。一部、ピートで乾燥した麦芽も使っている。
を使わない場合がある)
2014年からは、秩父産の二条大麦から麦芽を試験的に作っている。
乾燥した麦芽をモルトミルという
機械で粉砕し、糖化槽に投入す
る。そこに温水を加えてかき混ぜ
る。温水は蒸溜所によって2~4
回に分けて投入されるが、最初は
低めの温度の温水、最後は高温の
温水を使う。麦芽の酵素が働き、
でんぷんが糖化され甘い麦汁にな
る。その麦汁を温水で抽出する。
麦汁と酵母を発酵タンク(ステン
レス製)に入れて、約3~4日間
発酵させる。アルコール度数7%
程度のモロミに変わる。
発酵液
(モロミ)
を銅製のポットスチ
ルと呼ばれる蒸溜器で2回蒸留す
る。初溜でアルコール度数約20%、
再溜で約70%の蒸溜液になる。
蒸溜の終わった酒は樽に詰めて熟
成する。蒸溜が終わったばかりの
酒は無色透明。樽で長期間貯蔵す
ることで、ウイスキー特有の琥珀
色や深い味わいが生まれる。
糖 化
発 酵
蒸 溜
熟 成
(貯蔵)
ベンチャーウイスキーでは、温水を3回に分けて加
える。1回目は、麦芽の酵素が最もよく働く64℃、
2回目は糖を抽出しやすくするために76℃、3回目
は96℃と湯温を上げて加える。出来上がった1番麦
汁と2番麦汁は発酵槽に移され、発酵の段階とな
る。3回目の麦汁は、次の麦汁を抽出するときに利
用される。
ベンチャーウイスキーでは、発酵槽は手入れのしや
すいステンレス製ではなく、東北のミズナラの木で
作られた特注品を使っている。最初に酵母を加え、
2日間発酵させる。その後の2日間は乳酸菌発酵が
行われる。乳酸菌は樽に住み着いているものが増殖
する。乳酸菌の発酵には、ステンレスよりも木の発
酵槽が適している。4日間の発酵を経て、麦汁はア
ルコール度数が8%前後のモロミへと変わり、蒸溜
の工程に移る。
ベンチャーウイスキーでは、スコットランドの老舗
ポットスチルメーカー、フォーサイズ社に細かな希
望を伝え、小型で直立のストレート型にして、ヘ
ビーでリッチな味わいを目指している。蒸溜液のす
べてを樽に詰めるのではなく、最初に流れ出るヘッ
ドと呼ばれる部分と、最後の部分のテールと呼ばれ
る部分は使わず、ハートと呼ばれる中間の部分だけ
を樽に詰める。蒸溜所によっては、この工程を自動
化しているところも多いが、ベンチャーウイスキー
では、人の五感を大切にし、必ず味と香りを確認し
ている。使われなかったヘッドとテールの部分は、
次の再溜の際に再び使われる。
ベンチャーウイスキーでは、シェリー酒やバーボ
ン、ワインなど10種類以上の空樽を使っている。ま
た、ミズナラの木で作った樽も使用する。しかも、
木の樽を自前で作るための職人も育てている。熟成
蔵は、床が地面むき出しで、特別な空調装置はな
く、熟成はあくまでも秩父の風土にすべてを任せて
いる。
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