旭鋼管工業株式会社

インタビュー
旭鋼管工業株式会社
野球部員が営業マンとして大活躍!
“体育会系人材育成”と“変種変量生産”で
顧客に寄り添い、ともに歩む未来へ
埼玉県草加市に本社を置く旭鋼管工業株式
会社は、国内外の大手自動車メーカーなどで
利用される高精度な鋼管製造技術で、業界に
名を馳せる鋼管メーカーだ。
その一方で“旭鋼管といえば”というもう
一つの顔がある。それが、長年活動を続け、
全国屈指の強豪チームとなった軟式野球部の
存在だ。昨年10月には長崎国体で優勝し、
悲願の日本一をなしとげた選手たちは、社業
においても大きな戦力として活躍している。
鋼 管 一 筋50年、 そ し て 野 球 を 愛 し て50
年。ものづくりと人づくりを両輪に発展を続
ける、同社独自の経営哲学についてお話を
伺った。
旭鋼管工業株式会社
代表取締役社長
わ か ばやし
たけし
若林 毅
氏
1963年6月、東京都荒川区に生まれる。1986年3月、
大学を卒業後、大手金融機関に入社。1994年4月、旭鋼管
工業株式会社取締役に就任。2001年6月、同社代表取締役
社長に就任、現在に至る。
尊敬する人物は、幕末から明治にかけての政治的体制を
つかさどった岩倉具視。確かに小さな国かもしれないが、
みなが同じ方向を向くことが出来るならば、世界を相手に
勇躍することは決して難しいことではない、という意味を
しょうか どうしん
持つ「我が国小なりといえども誠によく上下同心 その目的
を一にし、務めて国力を培養せば、宇内に雄飛し万国に対
― まずはじめに、旭鋼管工業株式会社軟式
野球部の、第69回国民体育大会(2014年長
崎がんばらんば国体)優勝おめでとうござい
ます。悲願の日本一に、部員の皆様はもちろ
ん、全社をあげて盛り上がったのではないで
しょうか?
立するの大業甚だ難しきにあらざるべし」の遺訓を、企業
おかげさまで創業50周年という節目の年
のあるべき姿として心にとめている。
に、全国制覇を成し遂げることができまし
経営理念は『「技術」と「挑戦」と「信頼」』。技術とは、
創意工夫。挑戦とは、自己実現。信頼とは、顧客・社員・
当社すべての繁栄、という願いを込めて、社業と野球部の
成長発展を指揮している。
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創業50年目に果たした
軟式野球部、悲願の日本一
ぶぎんレポート No.188 2015 年 5 月号
た。充実した戦力を擁し、あと一歩というと
こ ろ ま で 行 き な が ら も、 ト ー ナ メ ン ト で
32,000チームの中からの頂点で、なかなか
長崎国体優勝の瞬間。歓喜を爆発させる
ナインたち
これまでの長年の努力が結実し優勝という偉業を成し遂げたメンバー
手が届かなかった栄冠ですので、本当に嬉し
実は当社の営業マンは、すべて野球部の
かったです。
OBです。彼らは学生時代から体育会系の気
日々フルタイムで働きながら練習に打ち込
風の中で育ち、先輩への敬意や気配り、チー
んでくれた部員たちはもちろん、彼らを応援
ムワークの重要性といったものを身につけて
してくれた社員・ご家族・地域の皆様にも大
います。
きな喜びで恩返しができたと思っています。
その素地に、当社の業務に関する知識や経
― 今もお話に出ましたが、旭鋼管軟式野球
験を重ねることで、競技引退後はトップセー
部は、一般的な実業団チームのように、競技
や練習が中心で業務はそれなりに…という勤
務体制ではなく、フルタイム勤務の後に練習
をされているそうですね。全国トップクラス
の強豪チームでこういった活動方針は珍しい
と思うのですが。
ルスマンとして活躍できる人材へと成長して
います。
当社にとって軟式野球部の存在は、大企業
がCSRや広告塔的に持つスポーツチームとは
ちょっと違って、人材確保と人材育成という、
重要な経営戦略の一翼を担っているのです。
確かに珍しいでしょうね。でも、当社は創
これは野球に限ったことではありません
部当時からこのスタンスを変えていません。
が、近年不況のあおりを受けて、多くの企業
元々は趣味レベルの活動だった、というのも
スポーツチームが解散の憂き目にあっていま
あるとは思いますが、地力がついて、全県・
す。そんな時、競技しかやってこなかった社
全国から人材を募ることができるようになっ
員選手は、会社の中で居場所がなくなってし
てからもそうです。
まうでしょう。
近年当社には、甲子園や大学で活躍した選
長い人生において、スポーツ選手として輝
手が多数入社していますが、選考時には必ず
ける時間には限りがある。野球を愛し、打ち
“野球がうまいだけでは駄目。仕事と野球を
込みながらも、その先を見据えてビジネスマ
両立する粘り強さと、社会人として成長する
ンとして成長する意欲のある人が、当社の求
ポテンシャルがあるかどうか”を見ています。
める人材なのです。
ぶぎんレポート No.188 2015 年 5 月号
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製品にのみ使われる専用パーツがほとんど。
クライアントとの共同開発で
新しい製品を創造する
―
要するに、まだこの世にはないけれど、こう
いう仕様の鋼管が欲しいからつくれないかと
貴社のクライアントの多くは、自動車
いうオーダーを受けて、初めて製造される規
メーカーといった大企業。しかも直接取引と
格外品ばかりなのです。
伺っています。
しかもそういうパーツは、はじめのうちは
当然、高い技術力を買われてのおつきあい
ロットも少ないですから、なかなか採算がと
だと思われますが、どのような点が評価され
れません。それでも当社を信頼し、相談を持
ているのですか?
ちかけてくれたクライアントに
「できません」
当社がつくっているのは鋼管、要するに金
とは言いたくない。
属製のパイプです。冷間引抜という製造技術
よく“少品種大量生産”とか“多品種少量
も完成されたものであり、競争も激しい。
生産”といいますが、うちの場合は「変種変
そんな中で、当社独自の個性があるとすれば、
量生産だな」と自称しています。サイズ・仕
それはおそらく“ちょっとやそっとのことで
様が違う鋼管を、月に2000種類以上つくっ
は出来ませんとはいわない社風”でしょう。
ている鋼管メーカーなんて、他にはないん
鋼管の用途は多岐にわたるため、当然安価
じゃないでしょうか。
な規格品もあります。しかし当社のクライア
でもあえて、それをやる。当社の前向きな
ントが求めているのは、その会社の、特定の
姿勢が、クライアントに評価され、選んでい
れいかんひきぬき
仕事・部活・福利厚生のバランスを大切に、社員がいきいきと働きたくなる社内風土づくり
LEADER’S INTERVIEW COLUMN
なんといっても軟式野球部の華々しい活躍が目立つが、それ以外にも年5回の社内トーナメントを楽しむ「釣り部」や、
地域でのボランティア活動、年1回、行先を社員アンケートで決める慰安旅行など、充実した福利厚生が同社の自慢だ。
「業績が上がったら、まず社員に還元しようと思っています。働き甲斐や、自社への愛着を深める意味でも、なにより
も社員を大事にする会社でなければというのが私のモットーです」(若林社長)。
社長自らも野球部の練習や応援、釣りトーナメントなどに参加し、積極的に社員とのコミュニケーションを楽しんでい
るという。
コーポレートカラーのベストが鮮やか!旭グ
ループ釣り部の太公望の面々
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ぶぎんレポート No.188 2015 年 5 月号
北海道から沖縄まで、行き先を社員のアンケートで決定する慰安旅行。今後は
海外も検討中
インタビュー
ただいているのだと思っています。
― 月に2000種以上ですか!そう伺うと、正
直非効率なのでは…と感じてしまうのですが。
そう思うのも当然かもしれません。しかし
ここで光るのが、可能か否かをジャッジする
営業マンを中心にした社内の体制です。彼ら
が“出来る”と考えたのなら、きっと出来る。
だから現場は全力でその製品をつくりあげよ
うと協力する、一枚岩の体制が当社にはあり
引抜鋼管とは…
原料となる鋼管を、型から引き抜くことで任
意の細さ・長さ・精度へと加工する伸管技術。
「超
硬ダイス」と「超硬プラグ」を希望のサイズに
組み合わせることによりどんなサイズのもので
も製作することができる。
ます。
では、なぜそれが可能なのか。
当社の営業マンが果たすのは、クライアン
トのオーダーを聞き取って、製造の現場に伝
えるという仲介役というだけの任務ではあり
ません。
たとえば近年の自動車やバイクの開発競争
では、いかに燃費を良くするかが最大の課題
です。そのためには使用するパイプには、と
にかく軽量化が求められる。しかも、安全性
や強度、加工性は確保したままで。
そういう製品が、実際つくれるかどうか。
どんな素材があり、どんな仕様ならば、それ
が可能になるのか。
それを判断するには、素材となる鉄鋼の知
識を持ち、特殊で難易度の高いオーダーが当
社の技術で実現可能かを考え、さらには現場
で製造されたものの品質管理までをトータル
で担当できる人材が必要となりますが、当社
は幸いにして、そういう人材を輩出できてい
ると自負しています。
現在当社は多くの高炉メーカーや商社、ク
ライアントの関係会社に求められて、社員を
出向させています。
この事実こそ、当社が単なる取引先や下請
けのパーツ会社ではなく、ともに新たなビジ
ネスをつくりだすパートナーと認められてい
る証だろうと、私は社員達を誇りに思ってい
原料となる鋼管を、型から引き抜くことで任意の細さ・長さ・
精度へと加工する伸管技術
■引抜鋼管の特長
1.寸法精度が良い
(レンジ 0.03㎜ ~ 0.05㎜まで可能)
2.肌が美麗 (鏡面仕上げ)
3.特殊形状・サイズが作れる
4.少量多品種に対応容易
5.材質(強度等)の調整が可能
るのです。
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促成栽培では人は育たない
だから時間をかけられるだけの企業体力を
れますが、実際にはそんな促成栽培で人は育
たないと、私は思っています。
こと製造業というのは、やはりものづくり
― どの会社も人材育成には頭を痛めている
においては川下の立場です。それが、クライ
中、優秀な人材が育っていることは羨ましい
アントや素材を供給する高炉メーカーという
限りです。
川上の立場にある相手と直接取引をしようと
冒頭であげておられた体育会系人材の起用
いうのですから、知識も経験も、そう簡単に
という以外にも、貴社には独自の育成ノウハ
習得できるはずがありません。
ウがあるのでしょうか?
だから当社の場合、新入社員は入社後最低
元々素養があると見込んだ者を採用してい
でも5年間、必ず製造現場を経験させます。
る、というのはもちろんあると思います。し
パイプの原料となる素管の仕入れ、材質の
かしやはり一番の違いは、育成にじっくり時
よしあしの見方、加工機械の扱い方などを自
間をかけているという点でしょう。
ら体験し、その中でクライアントがどんな製
当社の営業マンの場合、数年は野球との両
品や対応を当社に望んでいるのかを学んで、
立ということもあって、高卒・大卒で入社し
クライアントをまかされるのが30歳ぐらい。
てきてからほぼ丸10年間は修行期間のよう
実際に戦う土俵に登り、いい仕事を開拓でき
なもの。最近はなにかと即戦力がもてはやさ
るトップセールスマンになるのは、30代な
見えないところで活躍する、旭鋼管工業の製品たち
自動車、OA機器をはじめ、幅広い製品に採用されている旭鋼管の製品。
LEADER’S INTERVIEW COLUMN
かつては強度の問題から実現が難しいとされていたスタビ
ライザーの中空化に、世界で初めて成功したのも同社であり、
現在では世界中の自動車メーカーに採用・実装されている。
製造したパーツの販売は基本的に直販であり、仲介を挟ま
ないことでマージンを削減し、ローコスト・短納期での納品
を可能にしている。
ステアリングシャフト
ステアリングコラム
タイロット
ハンドブレーキレバー
自動車用鋼管
産業機械用鋼管
精密機器用鋼管
油圧・空圧用鋼管
建築・家具用鋼管
電気機器用鋼管
チェーン用鋼管
OA機器用鋼管
リアアクスルハウジング
アッパーアーム
ショックアブソーバー
その他
中空
スタビライザー
プロペラシャフト
ショックアブソーバー
旭鋼管工業がパーツを供給している分野は多岐にわたる
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ぶぎんレポート No.188 2015 年 5 月号
防振ゴム
インタビュー
かばを過ぎてからでしょう。
くれました。
正直にいえば、時間も手間も、そしてコス
メーカーが必要とする鋼管部品を現地で供
トもかかるやり方ですが、生半可な人間を世
給するというのは、要するに、日本でやって
に出したら、これまで築いた信頼さえ失って
いることを中国でもやれるよう体制を整えた
しまいますから。
ということなのですが、そのビジネスに、名
「利益なくして成長なし」というのは創業
だたる大企業が協力してくださったというの
者である父の口癖でしたが、事業も人もじっ
は、とてもありがたいことでした。
くり育てられるだけの企業体力のある、財務
おかげさまで子会社の業績は好調で、将来
体質の強い会社にしなくてはという使命感
的には中国にさらにもう2拠点、そしてアジ
は、常に抱いています。
アへの進出を視野に入れています。
技術革新に終わりはない
より強く、より軽い鋼管製造で
お客様を支え、ともに歩む
― 多くの大企業が、貴社を頼りにする理由
が分かったような気がします。最後になりま
― 日本でのビジネススタイルを、そのまま
海外でも。貴社の経営方針には、本当にぶれ
がありませんね。
私はかつて尊敬する老舗の経営者の方から
「守らなければならないことは、守らなけれ
すが、今後目指してるビジネスビジョンなど
を教えていただけますか?
少子化などの影響もあり、日本国内の市場
規模拡大というのは、なかなか難しいことで
しょう。けれどチャンスは無限にあると、私
は考えています。
鋼管というのは、本当にシンプルな商材で
す。そして、金属でパイプを製造する技術と
して、引抜伸管に勝る高精度な加工技術とい
うのは、今のところ存在しません。
ですから、より薄く、より軽く、より強く、
日本の自動車メーカー・トップ3が集まる広州に開設した子会社
より細くという技術革新をたゆまずに続けて
いけば、そこにはおのずと需要が生まれるは
ずなのです。
自らの技術を磨き上げ、クライアントに寄
り添い、新たな価値を生み出す製品をともに
つくる。それが、創業当初から、当社が一貫
してやってきたビジネスの基本です。
また、当社は2006年から、海外へも進出
しています。日本の自動車メーカーが多数集
まる中国・広州に設立した子会社には、日本
最大手の高炉メーカーと商社も合弁出資して
最新鋭の設備が導入されている中国の子会社
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ばならない」という言葉を教えていただきま
した。
旭鋼管工業株式会社概要
当社はまだ創業50年で、その方の会社の
ように、何代も守り継いできたのれんや伝統
などはありません。しかし私はこの言葉に深
く感銘を受けたのです。
クライアントの期待に応え、この世にまだ
ない高品質な鋼管をつくる。そして、そのた
本社 〒340-8511
埼玉県草加市
谷塚上町565番地
めに必要な人材を、じっくりと育てる。これ
が当社の守るべき本道であり、私がぶれずに
貫くべき道です。
もう一つ、私の尊敬する経営者から教わっ
たことですが、社員達に対しては、「心の才
能を熟成させる、素直な気持ちがあるか?」
とよく問いかけています。才能を開花させる
ためには、周囲の意見に素直に耳を傾け、前
向きに努力する姿勢をもたなくてはならない
草加工場
という意味です。
野球でも仕事でも同じですが、いかに能力
があっても、ひとりよがりではいけない。組
織の中で自らの役割を果たし、自ら考えて動
くことのできる社員が着実に育つ、豊かで活
気ある社内風土こそ、当社の武器であると私
は信じています。
野木工場
旭鋼管の経営理念
「技術」と「挑戦」と「信頼」
技術とは、創意工夫
絶えず創意工夫し、あくなき未来に挑戦し、技術の
蓄積と製品開発を行う。
挑戦とは、自己実現
「誇り」と「プロとしての自覚」を持ち、失敗を恐れな
いチャレンジによる「自己実現」を行う。当社は、ま
さに自立しようとする個人の成長を積極的に応援する。
信頼とは、顧客・社員・当社すべての繁栄
製品を通じて社会に貢献し、社員相互が信頼・尊敬
しあい、顧客の反映が、当社の成長につながる。
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九州工場
創 業
1961年(昭和36年)9月
資 本 金
9,755万円
連結売上高
101億円(2015年3月期)
従
150名(2015年3月期)
業
員
電 話
048(927)1251
ホームページ
http://www.asahi-kokan.co.jp/
取
草加支店
引
店