アルコールと健康

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【 デ ータでみる ぶぎん健康ファイル⑦】
アルコールと健康
解毒され、その後、尿や呼気として体外に排
出されます。アセトアルデヒドが分解がされ
ず体内に残ってしまうと、頭痛や吐き気と
いった、いわゆる二日酔いの症状として現れ
ます。
■日本人はもともとアルコールに弱い?
アルコールの代謝能力には個人差がありま
新年は一年の中でもアルコールとの付き合
すが、一般的に男性の方が女性よりも代謝能
いが多い時期です。「百薬の長」と呼ばれる
力は高いといわれます。これは体格の差で、
ように、適度なアルコールは心身をリラック
体が大きい男性の方が肝臓も大きいためで
スさせて対人関係を円滑にしたり、入眠作
す。しかし、アルコールには前述のようにア
用、ストレスの解消など、さまざまな効果が
セトアルデヒドを分解する酵素ALDHの役割
あります。しかし、過剰飲酒は身体に負担と
が大きいため、ALDHを作り出せるかどうか
なるだけでなく、精神的にも大きな影響を及
がポイントとなります。アルコールを飲める
ぼし、飲酒した本人だけでなく、時に社会的
人、飲めない人、弱い人など、色々な人がい
な問題を引き起こしてしまいます。アルコー
ると思いますが、これはこの酵素を作り出す
ルはその種類や適量、身体に与える影響など
遺伝子を持つか持たないかの差なのです。
の知識を十分に把握し、楽しく付き合いたい
実はこの差があるのはモンゴル系民族だけ
ものです。
で、ゲルマン系やラテン系の民族には分解酵
アルコールは胃や腸で吸収されて、血液に
素を持つ遺伝子があるため、アルコールを飲
よって肝臓へ運ばれ、「アセトアルデヒド」
めない人はほとんどいません。一方、モンゴ
という物質に分解されます。アセトアルデヒ
ル系民族の中でも、特に日本人はアルコール
ドは強い毒性を持つため「アセトアルデヒド
を飲めない人の割合が諸外国より高いと言わ
脱水素酵素(ALDH)」によって酢酸に分解・
れています。ご自身がアルコールを飲める体
質かどうかは血液検査でわかりますが、薬局
などで販売されている食毒用のアルコール
図 表 1 アルコールの代謝経路
(エタノール)と絆創膏を使って簡単に調べ
る方法がありますので試してみましょう。
アルコール
アセトアルデヒド
一部はミクロソームエタノール酸化系や
カタラーゼで酸化が行なわれます。
酢 酸
炭酸ガス・水
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ぶぎんレポート No.195 2016 年 1 月号
尿・呼気
①絆創膏とエタノール(消毒用アルコール)を用意します。
(エタノールはキッチン用品等の除菌用アルコールで代用可能)
②エタノールを絆創膏のガーゼの部分にしみ込ませます。
③上腕内側の皮膚の柔らかい箇所にしっかり貼り付けます。
絆創膏をはがして、
赤くなっている → アルコールが飲めない体質
変 化 な し → さらに 10 分貼り付ける
10 絆創膏をはがして、
赤くなっている → アルコールが弱い体質
変 化 な し → アルコールが普通に飲める体質
分後
筋肉
な どで 分 解
心臓
熱 エ ネ ル ギ ー
7分後
アセトアルデヒド脱水素酵素
(ALDH)
飲める?飲めない?簡単チェック
準備
主に肝臓で分解
アルコール脱水素酵素
(ADH)
※毎日飲酒習慣のある人は、正しく判定できない場合があります。
図 表2 血 中アルコール濃 度と酔いとの関係
酒
( アルコール医 学 協 会 「 適 正 飲 酒の手 引き」をもとに作 成 )
量
血中
アルコール
濃度
( 大びん )
日本酒
爽 快 期
0.02 ∼ 0.04 %
0.5 ∼ 1本
0.5 ∼ 1合
1 ∼ 2杯
ほろ酔 い 期
0.05 ∼ 0.10 %
3本
1 ∼ 2合
2 ∼ 5杯
ほろ酔い後期 0.11 ∼ 0.15 %
5本
3合
6 ∼ 7杯
ビール
( シングル )
酩 酊 期
0.16 ∼ 0.30 %
5 ∼ 7本
5 ∼ 7合
10 ∼ 15 杯
泥 酔 期
0.31 ∼ 0.40 %
7 ∼ 9本
7 ∼ 9合
15 ∼ 20 杯
昏 睡 期
0.41 ∼ 0.50 %
10 本以上
10 合以上
ボトル 1 本以上
血中アルコール濃度 (%) =
症
ウイスキー
状
●爽やかな気分になる ●皮膚が赤くなる ●陽気になる ●判断が少し鈍くなる
●ほろ酔い気分になる ●手の動きが活発になる ●抑制がとれる ( 理性が失われる ) ●体温が上がる ●脈が速くなる
●気が大きくなる ●大声でがなり立てる ●怒りっぽくなる
●立てばふらつく
●千鳥足になる ●何度も同じことをしゃべる ●呼吸が速くなる ●吐き気、嘔吐が起こる
●まともに立てない ●意識がはっきりしない
●言語がめちゃめちゃになる
●揺り動かしても起きない ●大小便は垂れ流しになる
●呼吸はゆっくりと深い ●死亡
飲酒量 (ml) × アルコール度数 (%)
833 × 体重 (kg)
どのくらい酔っているかは、脳内のアルコール濃度によっ
て決まりますが、脳内の濃度は測定できないため、血中
のアルコール濃度で判定します。
■肝臓は物言わぬ臓器
りますが、図表2の「ほろ酔い期」を目安に
肝臓は、体重の約50分の1(新生児では
切り上げるようにしましょう。
約18分の1)もある体内で一番大きな臓器
過剰飲酒は、肝機能障害を引き起こし、最
です。肝臓の主な働きは、①アルコールや薬
悪の場合は肝硬変から肝がんへと移行するこ
などの有害物質の分解や解毒 ②食事からの
ともあります。肝機能障害は症状が現れにく
エネルギーの貯蔵や代謝 ③老廃物を排出す
いため、現れた時にはかなり病状が進行して
る「胆汁」の生成と分泌の3つです。肝臓は
いることも少なくありません。また、過剰飲
異常があってもなかなか症状が現れにくい臓
酒は、肝機能障害だけでなく、高血圧や糖尿
器のため、「沈黙の臓器」と呼ばれています
病、心疾患、脳血管疾患などの循環器系疾患
が、実際、その働きが8割以上低下するまで
や、咽頭がんや口腔がん、食道がん、大腸が
症状が出ないことがあると言われるほど我慢
んなど、肝がん以外の多くのがんとも密接な
強い臓器です。また、他の臓器は一度切除さ
関係があると言われています。適量の飲酒を
れると再生することはできませんが、肝臓は
心がけていても、少なくとも週に2回は「休
健康な状態であれば切除されても再生できる
肝日」を設け、肝臓を休ませることも大切で
唯一の臓器です。しかも半分以上切除されて
す。そして、年に一度は健診を受け、肝臓の
もわずか4ヶ月ほどで再生し、健康であれば
健康状態を把握することもアルコールと長く
何度でも再生できる不思議な臓器です。
上手に付き合うコツです。
■アルコールと上手に付き合う
日本では1日平均150g以上のアルコール
大切なこと・重要なことを「肝心(腎)要」
(かんじんかなめ)と言いますが、その語源
を飲む人を大酒家と呼んでいます。これを酒
は、
「
“肝”臓」と「
“心”臓」
、
「
“腎”臓」
、
種にすると、日本酒で約5合、ビール大びん
そして「要」は「腰」のことを指しています。
で約5本、ウイスキーのシングルで約10杯
この言葉のとおり、肝臓は人体の中でも特に
ということになり、日本人の240万人が大酒
大切な臓器のひとつなのです。肝臓を守るた
家とされています。体質やその日の体調、性
めにもアルコールに飲まれることなく、上手
別などで、アルコールの適量には個人差があ
にアルコールと付き合いましょう。
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