正社員をゼロにする労働者派遣法「改正」

生涯派遣を強要し、正社員をゼロにする
労働者派遣法「改正」案の廃案を要求する意見書
2015
2015年4月24日
自
由
法
曹
団
【目
次】
第1 はじめに
1. 3度目の国会提出 .................................................... 1
2. 従来の「改正」案に対する修正の要点 .................................. 1
3.
3度目の「改正」案の検討 ............................................ 2
第2 常用代替防止原則と臨時的・一時的原則を廃棄し、永続派遣を可能
にする「改正」案 ..................................................... 2
1.派遣期間制限の廃止―派遣期間制限の意味と機能の変化
派遣期間制限の廃止―派遣期間制限の意味と機能の変化
(1)現行の労働者派遣法 ―業務単位で期間制限し、直接雇用につなが
る現行法の派遣期間制 .............................................. 3
(2)労働者派遣法「改正」案 ―永続派遣を可能にし、直接雇用へつな
がらない「改正」案の派遣期間制限 .................................. 3
2.「厚生労働大臣は、労働者派遣事業に係るこの法律の規定の適用に当たっては、
派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮
する」との修正内容のごまかし
(1)建議の提言と修正内容 .............................................. 7
(2)「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの
考え方を考慮する」とのごまかし .................................... 7
3.「均衡待遇の推進やキャリアアップ措置が直接雇用につながる」とのごまかし
(1)政府の答弁 ........................................................ 8
(2)均衡待遇では低賃金不安定雇用を是正できない ........................ 9
(3)政府に対する「均等・均等待遇の調査研究」の義務づけ ................ 9
(4)直接雇用を促進できないキャリアアップ措置 ......................... 10
4.実効性のない雇用安定措置
(1)建議の4つの雇用安定措置 ......................................... 11
(2)修正されても実効性のない雇用安定措置 ............................. 11
5.労働者派遣法「改正」による常用代替による派遣労働者激増の危険性
労働者派遣法「改正」による常用代替による派遣労働者激増の危険性
(1)派遣労働者の激増は確実であること ................................. 13
(2)政府答弁―増えるか否かについては「断定できない」 ................. 14
(3)附則の検討規定の追加 ............................................. 14
6.現行労働者派遣法の「労働契約申込みみなし制度」の適用回避は許されない
―「改正」案の2015年9月1日の施行は現行法の「労働契約申込みみなし
制度」の適用回避のため
(1)現行労働者派遣法第40条の6(2015年10月1日施行)と「改正」案
第40条の6(2015年9月1日施行)の違い ........................ 15
(2)現行40条の6と「改正」案40条の6の違いの意義―
―「労働契約申込みみ
なし制度」の適用対象労働者の縮小 ···································· 16
(3)まとめ ···························································· 16
7.「改正」案はただちに廃案にすべき―抜本改正こそ重要
「改正」案はただちに廃案にすべき―抜本改正こそ重要 .................. 17
生涯派遣を強要し、
生涯派遣 を強要し、正社員
を強要し、 正社員を
正社員 を ゼロにする
ゼロ にする
労働者派遣法「改正」案の
労働者派遣法 「改正」案の廃案を
「改正」案の 廃案を要求する
廃案を 要求する意見書
要求する 意見書
自由法曹団
第1
1
2 015
01 5 年 4 月 24日
24 日
は じめ に
3 度目 の 国 会提 出
安 倍 内閣 は 、 20 1 5 (平 成 2 7) 年 3 月1 3 日 、労 働 者 派遣 法 「 改 正 」
案( 以下 、「 改 正 」案 とも い う 。)を 閣 議決 定 し 、同 日 、現在 会 期 中の 通 常
国 会 に提 出 し た 。政 府 は 、「 改 正 」案 の 施行 日 を 20 1 5 年9 月 1 日と し て
いる。
労 働 者派 遣 法「 改 正 」案 は 、昨 年 の 通 常 国会 と 臨 時国 会 に 提出 さ れ 、2 度
と も 廃案 に な った 。 今 回で 3 度 目の 法 案 提出 で あ る。
今 回 の「 改 正」案 は、昨 年 の 臨 時国 会 で 公明 党 か ら出 さ れ た従 来 の「 改 正 」
案 に 対す る「修 正 案 」を そ の ま ま受 け 入 れ、「 厚生 労 働 大 臣は 、労働 者 派 遣
事 業 に係 る こ の法 律 の 運用 に 当 たっ て は 、派 遣 就 業 は臨 時 的 かつ 一 時 的 な も
の で ある こ と を原 則 と する と の 考え 方 を 考慮 す る 」( 「 改 正」 案 第 2 5 条 )
と の 文言 を 入 れる 等 の 修正 を ほ どこ し て いる 。
し か し 、「 改 正 」案 の 本質 は 、「 永 続 派 遣 」を 可 能に す る 仕組 み 等 、昨 年
2 度 提出 さ れ た従 来 の「 改 正 」案 と ま っ たく 変 わ って い な い 。政 府 の労 働 者
派 遣 法「 改 正 」案 は 、「 生 涯 派 遣・正 社 員ゼ ロ 」法 案 と し て 、低 賃 金不 安 定
雇 用 の派 遣 労 働者 を 爆 発的 に 増 大さ せ る 悪法 の ま まで あ る 。
2
従 来 の「 改 正 」案 に 対 する 修 正 の要 点
昨 年 2度 に わ たっ て 国 会に 提 出 され た 労 働者 派 遣 法「 改 正 」案 に 対 する 修
正 の 要点 は 、次 の と お りで あ る 。こ れ ら の修 正 内 容の 問 題 点に つ い ては 、後
に 詳 述す る 。
〔修 正 の 要点 〕
①
「厚生労働大臣は、労働者派遣事業に係るこの法律の運用に当たっ
ては、派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とすると
の 考 え方 を 考 慮す る 」 の文 言 を 追加 す る (「 改 正 」案 第 2 5条 ) 。
②
雇 用安 定 措 置に つ い て
ⅰ
「派遣先への直接雇用の依頼」を厚生労働省令ではなく法律で規
定 す る( 「 改 正」 案 第 30 条 1 項1 号 ) 。
1
ⅱ
「 新 た な 派 遣 先 の 提 供 」 に つ い て 、 「 派 遣 労 働 者 の 能 力 、 経験、
居 住 地な ど に 照ら し 、合 理 的 な も のに 限 る 」旨 を 法 律 に規 定 す る(「 改
正 」 案第 3 0 条1 項 2 号) 。
③
過半数労働組合等からの「意見聴取」にあたって、過半数労働組合
等から意見があった場合に、延長理由や今後の対応方針の説明の時期
を「期間制限に達するまでに」と明確化する(「改正」案第40条の
2 の 5項 ) 。
④
検 討規 定 の 追加
ⅰ
「政府は、正社員と派遣労働者の数の動向等を踏まえ、能力の有
効発揮と雇用安定に資する雇用慣行が損なわれるおそれがある場
合、速やかに検討を行う。」との規定を追加する(「改正」案附則
第 2 条2 項 ) 。
ⅱ
「政府は、均等・均衡待遇の在り方を検討するため、調査研究そ
の他の必要な措置を講ずる。」との規定を追加する(「改正」案附
則 第 2条 3 項 )。
3
3 度目 の 「 改正 」 案 の検 討
以 下 、労 働 者 派遣 法「 改 正 」案 に 反 対 し 、そ の 廃 案を 要 求 する 理 由 を述 べ
る。
なお、本意見書においては、適宜、自由法曹団の2014年10月10
日 付「 生 涯 派 遣・正 社 員ゼ ロ 」法 案 は 許 され な い !! 労 働 者派 遣 法『 改 正 』
案の廃案を求める意見書」(以下、「2014年意見書」という。)を参
照する。2014年意見書は、自由法曹団のホームページに掲載してある
の で 参照 さ れ たい 。
第2
常用代替防止原則と臨時的・一時的原則を廃棄し、永続派遣を可能にす
る「 改 正 」案
「改正」案は、常用代替防止原則と臨時的・一時的原則を廃棄し、永続
派 遣 を可 能 に する も の であ る 。
労働者派遣法は、常用代替防止原則と臨時的・一時的原則及び派遣期間
制限の採用によって、はじめてその成立を認められた法律である(201
4 年 意見 書 7 ~1 2 頁 参照 ) 。
し か し、「 改 正 」案 で は、こ の 大原 則 が 廃棄 さ れ るこ と と なる 。以 下 、そ
の 理 由を 述 べ る。
2
1
派 遣 期間 制 限 の廃 止
― 派遣 期 間 制限 の 意 味と 機 能 の変 化
(1 ) 現行 の 労 働者 派 遣 法
― 業務 単 位で 期 間 制限 し 、 直接 雇 用 につ な が る現 行 法 の派 遣 期 間制 限
現行労働者派遣法(以下、「現行法」という。)第40条の2の1~
4 項 は 、ソ フ トウ ェ ア 開発 等 の 専門 2 6 業務 を の ぞく 一 般 業務 に つ い て 、
「派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について」、
原則1年、最長3年の派遣受入期間の制限を設けており、この期間制限
を 超 えて 派 遣 受入 れ を 継続 す る こと は で きな い 。
一般業務について、現行法第40条3は、1年以上派遣可能期間以内
の期間派遣労働者を受け入れた場合に、同一業務に労働者を雇い入れよ
うとするときの、派遣先の直接雇用努力義務を定めている。次いで、現
行法第40条の4は、派遣可能期間を超えて派遣労働者を使用しようと
す る とき の 、 派遣 先 の 労働 契 約 申込 み 義 務を 定 め てい る 。
したがって、一般業務の場合、派遣先は、1~3年の派遣可能期間を
超えて派遣受入れを継続することはできず、その期間を超えて同一の業
務を継続しようとすれば、当該業務に従事していた派遣労働者を直接雇
用 し なけ れ ば なら な い 。
なお、現行法第40条の5は、派遣受入期間制限のない専門26業務
について、3年を超えて同一業務に同一の労働者を派遣受入している場
合、その同一の業務に新たに労働者を雇い入れようとする際は、当該派
遣 労 働者 に 対 して 労 働 契約 の 申 込み を す べき 義 務 を定 め て いる 。
(2 ) 労 働者 派 遣 法「 改 正 」案
―永続派遣を可能にし、直接雇用へつながらない「改正」案の派遣期
間制 限
ところが、「改正」案は、一方で専門26業務の区分をなくし、他方
で業務単位での派遣期間の制限を撤廃し、次のように派遣先が永続的に
派 遣 労働 者 を 受け 入 れ 、使 用 で きる よ う にし て い る。
ア
有 期 雇 用派 遣 労 働者 に つ いて の 派 遣期 間 制 限
( ア) 意 見 聴取 だ け で継 続 使 用を 許 す 事業 所 単 位の 派 遣 期間 制 限
「 改 正 」案 第 40 条 の 2の 1 、2 項 は 、派 遣 元 で 有期 雇 用 の派 遣 労
働者について、派遣先は、「派遣先の事業所その他派遣就業の場所
ごとの業務について」、3年を超えて継続して派遣労働者を受け入
れ て はな ら な いと し て いる 。
3
し か し 、「 改 正 」案 第 40 条 の 2の 3 、4 項 は 、派 遣 先 は 、過 半 数
労働組合もしくは過半数代表の意見を聴取しさえすれば、当該事業
所等でさらに3年間派遣労働者を受け入れることができ、その後も
同 様 に派 遣 受 入期 間 を 延長 で き ると し て いる 。
(イ ) 歯 止め に な ら な い 過 半数 労 働 組合 等 か らの 「 意 見聴 取 」
①
意 見 聴 取の み で は不 十 分 であ る
「改正」案第40条の2の3、4項は、派遣受入期間の延長に
ついて、過半数労働組合等の「意見聴取」のみで足りるとしてい
る。過半数労働組合等の意見の内容(賛成、反対)如何にかかわ
らず、意見を聴取しさえすればよいという制度では、派遣先によ
る派遣労働者の永続使用について歯止めはまったくないに等し
い。
この点に関し、塩崎恭久厚生労働大臣は2014年11月5日
の 衆 院厚 労 委 員会 に お いて 、
答弁 ①
「現場重視の労使関係というのを踏まえれば、労働側の意見を
無視して一方的な延長は想定しにくいわけでありまして、これで
歯 止 め効 果 が 一定 程 度 ある 」
な ど と答 弁 し てい る 。
こ の 答弁 に 代 表さ れ る よう に、政 府 は こ の「 意 見 聴取 」に 歯 止 め
効 果 があ る と 主張 す る 。
し か し 、塩 崎 厚労 相 は この 答 弁 の際 、野 党 議 員 か ら 、過 半 数労 働
組合等が反対の意見を述べたにもかかわらず、派遣先が受入れを
継 続 した 場 合 、行 政 指 導を で き るの か と 問わ れ 、
答弁②
「(労組等から)いろいろな意見がありましたという程度では
な か なか 、・・・指導 は 難 しい と い うふ う に 思い ま す 」
と 、 行政 指 導 が困 難 で ある と 答 弁し て い る。
さらにこの後、塩崎厚労相は、ではどのような場合に行政指導
が 出 来る の か と問 わ れ 、
4
答弁③
「法案成立後において、省令において行政指導できるケースを
定 め てい く 」
と 述 べる に と どま り 、具 体 的 に ど のよ う な 場合 に 行 政指 導 を な し 得
る の かに つ い ての 答 弁 を行 わ な かっ た 。
以 上 の塩 崎 厚 労相 の 答 弁内 容 か らみ て も 、「 意 見 聴取 」が 歯 止 め
に な らな い こ とは 明 白 であ る 。
②
「同 意 」 を要 件 と する べ き
そ も そも 、過 半 数労 働 組 合等 の 関 与に 派 遣 期間 制 限 の歯 止 め の 意
味を持たせるのなら、端的に、過半数労働組合等の「同意」を要
件 と すれ ば よ いの で あ る。
(ウ)派遣労働者を入れ替えれば継続使用が可能な個人単位・組織単位
の派 遣 期 間制 限
次いで、「改正」案第40条の3は、派遣元で有期雇用の派遣労
働者について、派遣先は、「派遣先の事業所その他派遣就業の場所
に お ける 組 織 単位 ご と の業 務 に つい て」、3 年 を 超 えて 継 続 して「 同
一 の 派遣 労 働 者」 を 受 け入 れ て なら な い とし て い る。
しかし、これでは、派遣先は、組織(課等)において、派遣労働
者を3年ごとに入れ替えれば、組織(課等)単位でも永久に派遣労
働 者 を受 け 入 れ、 使 用 する こ と がで き る 。
【図1
同じ組織において、永久に派遣労働者を使用】
同 一 組 織 (課 等 )において
Aさん
←
3年
Bさん
→
←
3年
Cさん
→
←
3年
→
人 を3年 で代 えれば派 遣 労 働 者 を受 け入 れ続 けられる
5
また、派遣先は、3年ごとに派遣労働者の組織単位(課等)を変
え れ ば、 同 一 の派 遣 労 働者 を 無 期限 に 使 用し 続 け るこ と が 出来 る 。
【図 2 派 遣 Aさんのケース
Aさん のケース】
のケース 】
←3年 →←3年 → ←3年 →
X課 で勤
X課 で勤 務
務
X
課
Aさん
Y課 で勤
務
Y
課
※ A さ ん を 3 年 ご と に X 課 と Y 課 に 異 動 す る こ と で 、永
、永 久 に 派 遣 労 働 者 と し
て使い続けることができる。
イ
無 期 雇用 派 遣 労働 者 に つい て の 派遣 期 間 制限 等 の 除外
― 「 改 正」 案 に おけ る 無 期雇 用 派 遣労 働 者 の除 外 取 扱い
「改正」案は、派遣元で無期雇用の派遣労働者については、一切派
遣期間の制限を設けないとしている(第40条の2の1項1号、第4
0条の3)。また、「改正」案は、派遣元事業主の講ずる「雇用安定
措 置 」の 対 象 から 、無 期 雇 用 派 遣労 働 者 を除 外 し てい る( 第 3 0 条 )。
さらに、「改正」案は、派遣先の「直接雇用努力義務」や「労働者の
募集事項の周知義務」の対象から、無期雇用派遣労働者を除外してい
る ( 第4 0 条 の4 、 第 40 条 の 5の 2 項 )。
これらの「改正」案における無期雇用派遣労働者の除外取扱いは、
「無期雇用であれば、雇用は比較的安定している。」との考えに基づ
い て いる 。
しかし、2014年意見書3~4頁で述べたとおり、無期雇用派遣
労働者の雇用は有期雇用派遣労働者の雇用同様極めて不安定であり、
上 記「 無 期 雇 用で あ れ ば 、雇 用 は比 較 的 安定 し て いる 。」と の 考 え は 、
誤 っ てい る 。
6
2
「厚生労働大臣は、労働者派遣事業に係るこの法律の規定の適用に当た
っては、派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの
考え 方 を 考慮 す る 」 と の 修 正内 容 の ごま か し
(1 ) 建議 の 提 言と 修 正 内容
労働政策審議会の2014年1月29日付建議「労働者派遣制度の改
正について(報告書)」(以下「建議」という。)は、「新たな期間制
限の考え方」として、「派遣労働を臨時的・一時的な働き方と位置付け
ることを原則とするとともに、派遣先の常用労働者(いわゆる正社員)
との代替が生じないよう、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限
る こ とを 原 則 とす る こ とが 適 当 であ る 。 」と 提 言 して い る 。
そして、今回の修正された「改正」案では、「厚生労働大臣は、労働
者派遣事業に係るこの法律の規定の運用に当たっては、派遣就業は臨時
的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮する」と
の 規 定を 付 け 加え て い る( 「 改 正」 案 第 25 条 ) 。
(2)「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考
え方 を 考 慮す る 」 との ご ま かし
ア
事 業 所 単位 で の 派遣 期 間 制限 と の 関係
前 述 した と お り、 派 遣 先は 、 事業 所 単 位 での 3 年 の派 遣 期 間制 限 を 、
過半数労働組合等の意見聴取だけで延長できるのであって、「改正」
案 は 、派 遣 先 によ る 派 遣労 働 者 の永 続 使 用を 認 め てい る に 他な ら な い 。
この取扱いそのものが、「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであ
ることを原則とするとの考え方を考慮する」との規定と明確に矛盾す
る。
イ
個 人 単位 で の 派遣 期 間 制限 と の 関係
個人単位の期間制限についても、前述したとおり、派遣先は、組
織(課 等 )にお い て 、派 遣 労 働 者を 3 年 ごと に 入 れ替 え れ ば、組 織( 課
等)単位でも永久に派遣労働者を受け入れ、使用することができる。
また、派遣先は、3年ごとに派遣労働者の組織単位(課等)を変えれ
ば 、 同一 の 派 遣労 働 者 を無 期 限 に使 用 し 続け る こ とが 出 来 る。
こ れ らの 取 扱 いも 、「派 遣 就 業 は 臨時 的 か つ一 時 的 なも の で ある
こ
と を 原則 と す ると の 考 え方 を 考 慮す る 」 との 規 定 と明 確 に 矛盾 す る 。
7
ウ
小括
以上のとおり、「改正」案は、「厚生労働大臣は、労働者派遣事業
に係るこの法律の規定の運用に当たっては、派遣就業は臨時的かつ一
時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮する」との規定
(「改正」案第25条)と相反する、永続派遣・生涯派遣の仕組みを
認めている。上記規定は、「改正」案の永続派遣・生涯派遣の仕組み
を ご まか す 規 定と 言 わ ざる を 得 ない 。
3
「均衡待遇の推進やキャリアアップ措置が直接雇用につながる」とのご
まか し
( 1 ) 政府 の 答 弁
以上のとおり、「改正」案は、派遣先が派遣労働者を永続使用するこ
と を 認め て い る 。ま た 、「 改 正 」案 は 、現 行 法 4 0条 の 3 、4 0 条 の4 、
40条の5の直接雇用(努力)義務を定める規定を縮小、廃止している
( 2 01 4 年 意見 書 1 2~ 1 5 頁参 照 ) 。
これに対し、政府は、「派遣労働者の均衡待遇の推進や教育訓練やキ
ャリアアップ措置を講じれば、派遣労働者の能力がアップし、直接雇用
される条件がふえ、派遣労働への固定化や派遣先の常用労働者との代替
が 防 止さ れ る 。」 な ど と主 張 す る。
この点、塩崎厚労相は、2014年10月31日の衆院本会議におい
て
答 弁④
「今回の労働者派遣法改正案では、派遣会社に対し、計画的な教育訓
練を義務づけるとともに、均衡待遇に関する責務を強化する等、派遣労
働者の雇用の安定や処遇の改善を図るための新たな仕組みを設けること
と し てお り ま す。 」
と 答 弁 する 。
ま た 、安 倍 晋 三首 相 も 、1 0 月 3日 の 衆 院予 算 委 員会 に お いて 、
答 弁⑤
「身分、あるいは社会保険の中において不安定な状況の方々が多いの
は事実。この派遣というのは、不安定であるのは事実でありますし、非
正規であり、また、派遣であれば、当然」ゆえ、「派遣で働いている方
々の6割のいわば正規になりたいという方々に対しては、その人たちの
8
要望が実現できるような、そういう状況をつくっていくことが必要であ
る 、 この よ う に思 い ま す。 」
と 答 弁す る 。
ま た 、塩 崎 厚 労相 も 、 10 月 3 日の 衆 院 予算 委 員 会に お い て、
答弁⑥
「そうではない方々(派遣労働を望まない人)にとっては正規雇用に
な り やす く な ると い う こと だ と 思い ま す 」
と 答 弁す る 。
このように、政府は、「改正」案における均衡待遇の強化や教育訓練
やキャリアアップ措置等によって、派遣労働者が正規雇用を希望する場
合 、 正規 雇 用 にな り や すく な る など と 答 弁す る 。
(2 ) 均 衡 待 遇 で は 低 賃 金 不安 定 雇 用を 是 正 でき な い
均衡待遇とは、派遣先の労働者と派遣労働者の賃金等の労働条件に格
差を認めることである。したがって、均衡待遇原則のもとでは、派遣労
働 者 の低 賃 金 不安 定 雇 用を 是 正 でき な い 。
派遣先は、均衡待遇のもとでは、低賃金の派遣労働者を永続使用する
よ う にな り 、 常用 代 替 が促 進 さ れる 。
ア
派 遣 労 働者 の リ ーマ ン シ ョッ ク 時 の不 安 定 雇用 の 実 態
2 01 4 年 意見 書 3 ~4 頁 で 述べ た と おり で あ る。
イ
派 遣 労 働者 の 低 賃金 雇 用 の実 態
2 01 4 年 意見 書 2 7~ 3 1 頁で 述 べ たと お り であ る 。
(3 ) 政 府に 対 す る 「 均 等 ・ 均 等 待 遇の 調 査 研究 」 の 義務 づ け
「改正」案は、前述のとおり、従来の「改正」案を修正して、「政府
は、派遣労働者と派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派
遣先に雇用される労働者との均等な待遇及び均衡のとれた待遇の確保の
在り方について検討するため、調査研究その他の必要な措置を講ずるも
の と する 。」と の 附 則 の検 討 規 定を 追 加 して い る( 附 則 第 2条 第 3 項 )。
し か し、均 等 待遇 原 則 につ い て は、既 に ほと ん ど の国 が 採 用し て い る 。
たとえば、2008年のEU労働者派遣指令5条1項は、「派遣労働者
の基本的な労働ないし就業条件は、派遣先企業への派遣期間中、派遣労
働者がその企業によって同一の職場に直接雇用される場合に、少なくと
も そ の者 に 適 用さ れ る であ ろ う 労働 な い し就 業 条 件に 従 う 」と し て い る 。
9
そしてこの就業条件については、労働の対価(同一労働同一賃金)に限
られず、労働時間、時間外労働、休憩、休業、休暇等々のあらゆる基本
的な労働条件とされている。この結果、EUに加盟するドイツやフラン
スでは、同一労働同一賃金に限られず、あらゆる基本的な労働条件につ
いての均等待遇が保障されている。また、中国や韓国でも、同一労働同
一 賃 金が 保 障 され て い る。
我が国においても、ただちに均等待遇原則の徹底が図られるべきであ
って、いまだに「調査研究その他の必要な措置を講ずる」と述べるにと
ど ま るの は 、 極め て 不 十分 で あ る。
この点について、塩崎厚労相は、2014年11月5日の衆院厚労委
委員会において、同一労働同一賃金の原則として、EU指令を例に示さ
れ て 均等 待 遇 の導 入 に つい て 問 われ た 際 、
答弁 ⑦
「日本の場合とEUの場合は必ずしもそれ(賃金体系)が一致をして
いないわけでございます。職務に対応した賃金体系が日本の場合には普
及 を して い な い」
な ど と答 弁 し 、均 等 待 遇原 則 の 導入 に 消 極的 な 答 弁を し た 。
ま た 、2 0 1 5年 3 月 16 日 の 参院 予 算 委員 会 で も、 塩 崎 厚労 相 は 、
答弁⑧
「ヨーロッパは『職務給』、日本は『職能給』と呼ばれる様々な応力
で 賃 金を 決 め てい る 」
と 答 弁し 、 均 等待 遇 を 原則 と す るこ と に 消極 的 な 答弁 を し た。
こ の よう な 政 府の 姿 勢 こそ 、 是 正さ れ な けれ ば な らな い 。
( 4 ) 直 接雇 用 を 促進 で き ない キ ャ リア ア ッ プ措 置
「改正」案のキャリアアップ措置は、「改正」案第30条の2の1項
前段に「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者が段階的かつ体系的
に派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように教育訓
練を実施しなければならない。」と規定してあるように、派遣労働者の
ままのキャリアップ措置が原則である。同条2項で、派遣元事業主は派
遣労働者の求めに応じてキャリア・コンサルティングを実施することに
なっているが、派遣元事業主が派遣労働者を自社の手から離すことにな
10
る 直 接雇 用 を 促進 す る こと は 期 待で き な い。
4
実 効 性の な い 雇用 安 定 措置
( 1 ) 建議 の 4 つの 雇 用 安定 措 置
建議は、有期雇用派遣労働者のうちの個人単位の3年の上限に達す
る派遣労働者に対する派遣元事業主の講ずべき雇用安定措置として、
下 記 の4 つ の 措置 を あ げて い る 。
なお、建議は、有期雇用派遣労働者のうちの1年以上継続し、3年
の上限に達する前に派遣就業を終了する派遣労働者に対しては、下記
の4つの措置を「講ずるよう努めるものとすることが適当」としてい
る。
①
派 遣 先 への 直 接 雇用 の 依 頼
②
新 た な 就業 機 会 (派 遣 先 )の 提 供
③
派 遣 元 事業 主 に おい て 無 期雇 用
④
そ の 他 安定 し た 雇用 の 継 続が 確 実 に図 ら れ ると 認 め られ る 措 置
(2 ) 修正 さ れ ても 実 効 性の な い 雇用 安 定 措置
ア
従 来 の 「改 正 」 案の 実 効 性
従来の「改正」案の雇用安定措置が実効性のないことは、201
4 年 意見 書 1 5~ 2 0 頁に 述 べ たと お り であ る 。
この点について、塩崎厚労相は、2014年10月30日の参院
厚労委員会において、雇用安定措置は努力義務にしか過ぎず、何ら
の 実 効性 が な いこ と を 問わ れ た 際、
答弁 ⑨
「努力義務じゃないかとおっしゃいますが、まず第一に、この派
遣元に対する義務というのは今までなかったわけですね。・・・現
状よりも新たな義務を課しているということは、それはそれでお認
め を いた だ け れば な と いう ふ う に思 い ま す。 」
と 答 弁 し、 努 力 義務 で あ るこ と を 認め て い る。
また、「その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められ
る措置」の一つとしての教育訓練について、塩崎厚労相は2014
年 1 1月 5 日 の衆 院 厚 労委 員 会 にお い て 、
11
答弁 ⑩
「 ( 派遣 元 は )派 遣 労 働者 と の 契約 中 の みに 行 え ば足 り る 」
と答弁し、登録中の派遣労働者は教育訓練の対象にしないことを答
弁している。しかし、これでは、教育訓練の意義は大きく減殺され
る こ とに な る 。
イ
従来 の 「 改正 」 案 の修 正 案
「改正」案は、従来の「改正」案の修正として、次の2点を修正し
て い る。
「派遣先への直接雇用の依頼」について、「派遣元事業主は、
①
派遣先に対し、有期雇用派遣労働者に対して労働契約の申込みを
することを求めること。」を厚生労働省令ではなく法律で規定す
る こ とに し て いる ( 「 改正 」 案 第3 0 条 1項 1 号 )。
「新たな就業機会(派遣先)の提供」=「有期雇用派遣労働者
②
に提供する新たな派遣先の提供」について、「就業条件が、有期
派遣労働者の能力、経験その他厚生労働省令で定める事項に照ら
して合理的なものに限る。」との規定を「改正」案に追加するこ
と に して い る (「 改 正 」案 第 3 0条 1 項 2号 ) 。
ウ
「派遣先への直接雇用の依頼」(「改正」案第30条1項1号、2
項) の 実 効性
「派遣先への直接雇用の依頼」は、派遣元事業主が依頼しても、派
遣先が拒否すれば、それ以上派遣先への直接雇用を依頼することはで
き な い。
派遣先は、個人単位・組織(課等)単位の3年の制限期間が来ても
同一の派遣労働者を使用し続けたい時は、派遣労働者を直接雇用する
のではなく、派遣元事業主に派遣労働者を無期雇用させて、期間制限
な く 派遣 労 働 者を 使 用 し続 け る であ ろ う 。
こ の 点に つ い て 、政 府 の坂 口 委 員は 、1 1 月 5 日 衆院 厚 労 委員 会 で 、
派遣先に直接雇用の依頼をおこない、派遣先がそれを拒んだ場合はど
う な るの か と 問わ れ て 、
答弁 ⑪
「・・・派遣先への直接雇用の依頼ということが成就しなかった
場合については、法律上の規定はないということで、これにつきまし
ては、運用上の対応ということで、そのような対応を求めていくとい
12
う こ とを 予 定 して い る とこ ろ で ござ い ま す。 」
と答弁している。派遣先が直接雇用を拒否した場合、それ以上派遣先
に 直 接雇 用 を 強制 す る 手段 は な いの で あ る。
実効性のない「派遣先への直接雇用の依頼」を法律に明記しても、
そ の 実効 性 の ない こ と に変 わ り はな い 。
エ
「 新 たな 就 業 機会( 派 遣先 )の 提供 」(「 改正 」案3 0 条 1項 2 号)
の実 効 性
派遣元事業主は、新たな派遣先を有している時は、行政指導されな
くても、派遣労働者に新たな派遣先を提供するであろう。しかし、派
遣事業主は、新たな派遣先を見つけることができない時には、行政指
導されても、派遣労働者に新たな派遣先を提供することはできないで
あ ろ う。
不況時には、派遣元事業主は、新たな派遣先の提供をせずに、派遣
労働者を解雇もしくは雇止めにしているのが実態である。この実態か
らして、「新たな就業機会(派遣先)の提供」の実効性がないことは
明 白 であ る 。
派 遣元 事 業 主が 、「 新 た な 就 業機 会( 派 遣 先 )の 提 供 」に あ た っ て 、
「就業条件が、有期派遣労働者の能力、経験その他厚生労働省令で定
める事項に照らして合理的なものに限る。」ようにすることは当然の
ことである。しかし、このような規定を「改正」案に追加したからと
いって、「新たな就業機会(派遣先)の提供」の実効性が強くなるこ
と は 期待 で き ない 。
5
労 働者 派 遣 法 「 改 正 」 に よ る 常用 代 替 によ る 派 遣労 働 者 激増 の 危 険性
(1 ) 派 遣労 働 者 の激 増 は 確実 で あ るこ と
1 9 9 8 年に は、派 遣 労 働 者は 約 9 0万 人 で あっ た。と こ ろ が、1 9 9
9 年 に労 働 者 派遣 が 原 則自 由 に され る と、派 遣 労 働者 は 増 え続 け、2 0 0
8 年 には 3 9 9万 人 に まで 増 え てい る。こ れ ら の 状況 は、2 0 1 4 年 意 見
書 2 0~ 2 5 頁で 述 べ たと お り であ る 。
こ れ ら の 例か ら し て、「改 正 」案 の もと で は、派 遣 先 は、低 賃 金不 安 定
雇用の労働者派遣を継続して永久に使用することが出来るようになるか
ら 、正 社 員 を 低 賃金 不 安 定雇 用 の 派遣 労 働 者に 置 き 換え る 動 きが 爆 発 的 に
進 む であ ろ う 。
13
(2 ) 政 府答 弁
― 増 え るか 否 か につ い て は「 断 定 でき な い 」
2 0 14 年 の 臨時 国 会 にお い て 、民 主 党 の山 井 議 員、 枝 野 議員 等 か ら 、
安 倍 首相 や 塩 崎厚 労 相 に対 し て「 こ の 派 遣法 改 正 によ っ て 、政 府 は 派遣 労
働 者 が増 え る こと を 想 定し て い るの か 、減 る こ と を想 定 し てい る の か 」の
質 問 があ っ た 。
こ れ に対 し 、 安倍 首 相 は、 同 年 10 月 3 日の 衆 院 予算 委 員 会で
答弁 ⑫
「今回の法律によって、いわば今回の法律の前提として、派遣労働者
を ふ やす べ き だと 思 っ てい る と いう こ と は全 く な い 、」
と 答 弁す る と とも に 、
答弁⑬
「派遣労働者数は、景気動向や多様な働き方を希望する勤労者の方々
の意向や企業の経営戦略など、さまざまな要因に影響を受けるものであ
り、一概に、この結果、この先どうなるかということについて断定する
こ と は難 し い 」
と答 弁 し てい る 。
(3 ) 附 則の 検 討 規定 の 追 加
「改正」案は、従来の「改正」案の修正として、「政府は、正社員と
派遣労働者の数の動向等を踏まえ、能力の有効発揮と雇用安定に資する
雇用慣行が損なわれるおそれがある場合、速やかに検討を行う。」との
規 定 を追 加 し てい る ( 「改 正 」 案附 則 第 2条 2 項 )。
この附則を見る時、政府自ら、正社員が派遣労働者に置き換えられ、
労働者派遣により常用代替が促進されることを予想し、懸念しているこ
とが明らかである。政府自ら、「改正」案のもとで派遣労働者が増大す
る こ とを 予 想 して い る ので あ る 。
14
6
現 行 労働 者 派 遣法 の 「 労働 契 約 申込 み み なし 制 度 」の 適 用 回避 は 許 され
ない
― 「 改正 」 案 の 2 0 1 5年 9 月 1日 の 施 行 は 現 行 法の 「 労 働契 約 申 込み
みな し 制 度」 の 適 用回 避 の ため
(1 ) 現 行労 働 者 派遣 法 第 40 条 の 6 ( 2 0 15 年 1 0月 1 日 施行 ) と 「改
正」 案 第 40 条 の 6( 2 0 15 年 9 月1 日 施 行) の 違 い
「 改 正 」案 は 、施 行 期 日を 2 0 15 年 9 月1 日 と 定め て い る( 附 則 第 1
条 )。こ れ は 、2 0 1 5年 1 0 月1 日 か ら施 行 さ れる 現 行 労働 者 派 遣 法 第
40条の6の「労働契約申込みみなし制度」の適用を免れるためである。
現 行 法第 4 0 条の 6 と 「改 正 」 案第 4 0 条の 6 の 違い は 、 次の と お り
で あ る。
ア
現行 法 第 40 条 の 6( 2 0 15 年 1 0月 1 日 施行 )
2 0 15 年 1 0月 1 日 から 施 行 され る 現 行法 第 4 0条 の 6 の1 項 本
文 は 、派 遣 先 が次 の 各 号の い ず れか に 該 当 す る 行 為 を 行 っ た 場 合 に は 、
そ の 時点 に お いて 、派 遣先 か ら 派遣 労 働 者に 対 し 、労 働 契 約の 申 込 み を
し た もの と み なす と 定 めて い る 。
1号
現 行 法 第4 条 3 項( 派 遣 禁止 業 務 )違 反
2号
現 行 法 第2 4 条 の2( 無 許 可・無 届 の事 業 主 から の 労 働者 派 遣
の 受 入れ 禁 止 )違 反
イ
3号
現 行 法 第4 0 条 の2 の 1 項( 派 遣 受入 れ 期 間制 限 ) 違反
4号
現 行 法 第2 6 条 1項 違 反 の脱 法 目 的の 偽 装 請負 等
「 改 正」 案 第 40 条 の 6( 2 0 15 年 9 月1 日 施 行)
「 改 正 」案 は 、現 行 法4 0 条 の6 の 1 項本 文 3 号に 代 え て 、次 の 第 4
0 条 の6 の 1 項本 文 3 号、 4 号 を置 い て いる 。
3等
労 働 者派 遣 法 第4 0 条 の2 の 1 項( 事 業 所単 位 の 派遣 受 入 れ 期
間 制 限)違 反 =( 過 半 数労 働 組 合も し く は過 半 数 代表 の 意 見 聴
取 義 務) 違 反
4号
労 働 者派 遣 法 40 条 の 3( 個 人 単位・組 織( 課 等 )単 位 の 派 遣
労 働 者の 派 遣 受入 れ 期 間制 限 ) 違反
15
(2 ) 現行 4 0 条の 6 と 「改 正 」 案4 0 条 の6 の 違 いの 意 義
― 「労 働 契 約 申込 み み なし 制 度 」の 適 用 対象 労 働 者の 縮 小
ア
適 用 対 象労 働 者 の縮 小
現 行 法第 4 0 条の 6 の 1項 3 号 は、 「 派 遣先 は 、 期間 制 限 に違 反 し て
派 遣 受 入 れ を し た 場 合 、派 遣 労 働 者 に 対 し 、労 働 契 約 の 申 込 み を し た も の と み な
す。」と定めている。
「 改 正 」案 第 40 条 の 6の 1 項 3号 は 、派 遣 先 は 、事 業 所 単位 の 3 年
の 制 限期 間 を 延長 す る 際に 、過半 数 労 働 組合 等 か ら意 見 聴 取せ ず 、「 改
正 」 案第 4 0 条の 2 が 定め る 派 遣受 入 期 間制 限 に 違反 し て 派遣 受 入 れ
し た 場合 は 、 当該 派 遣 労働 者 に 労働 契 約 の申 込 み をし た も のと み な す
と 定 めて い る 。
「 改 正 」案 第 40 条 の 6の 1 項 4号 は 、派 遣 先 は 、「 改 正 」案 第 4 0
条 の 3が 定 め る個 人 単 位・ 組 織 (課 等 ) 単位 の 派 遣労 働 者 の派 遣 受 入
れ 期 間3 年 の 制限 に 違 反し て 派 遣受 入 れ した 場 合 は、 当 該 派遣 労 働 者
に 労 働契 約 の 申込 み を した も の とみ な す と定 め て いる 。
現 行 法第 4 0 条の 6 の 1項 3 号 は 、有 期 、無 期 を 問わ ず 、す べ て の 派
遣 労 働者 を 対 象に し て いる 。 し かし 、 「 改正 」 案 第4 0 条 の6 の 1 項
3 号 、4 号 は 、適 用 対 象労 働 者 を有 期 雇 用派 遣 労 働者 に 限 定し て お り 、
無 期 雇用 派 遣 労働 者 は 適用 対 象 外に し て いる 。
イ
機 能 の 機会 の な い「 改 正 」案 第 4 0条 の 6 の1 項 3 号、 4 号
さらに、「改正」案では、派遣先は、意見聴取をするだけで事業所
単位の制限期間を延長でき、個人単位・組織(課等)単位の期間制限
に つ いて も 、派 遣 労 働 者を 入 れ 替え れ ば 労働 者 派 遣を 継 続 利用 で き る 。
派遣先は、事業所単位の期間制限、個人単位・組織(課等)単位の期
間制限に制約されずに派遣労働者を継続使用できるのであり、派遣先
が「改正」案第40条の2や第40条の3に違反することは通常あり
得 な い。
「 改 正 」案 第 40 条 の 6の 1 項 3号 、4 号 が 機 能 する よ う な場 合 は 、
ほ と んど な い であ ろ う 。
( 3 ) まと め
以 上 のと お り 、現 行 法 40 条 の 6と 「 改 正」 案 4 0条 の 6 の適 用 範 囲
と 機 能は 大 き く異 な る 。現 行 法 40 条 の 6の 1 項 3号 が 改 変さ れ れ ば、
派 遣 受入 れ 期 間制 限 を 理由 と す る「 労 働 契約 申 込 みみ な し 制度 」 の 適用
は ほ とん ど な くな る で あろ う 。
16
多 数 の派 遣 労 働者 が 、 専門 2 6 業務 偽 装 等に よ っ て、 派 遣 期間 制 限 違
反 の 「長 期 の 違法 派 遣 」に 苦 し めら れ て いる 。 現 行法 4 0 条の 6 の 1項
3 号 の「 労 働 者派 遣 法 第4 0 条 の2 の 1 項( 派 遣 受入 れ 期 間制 限)違 反 」
の 場 合の 「 労 働契 約 申 込み み な し制 度 」 は、 そ の よう な 労 働者 を 救 済す
る た めに 設 け られ た 規 定で あ る 。そ の 規 定を 、 施 行が 1 か 月前 に 迫 った
時 点 で改 変 す ると い う ので あ る 。
「 改 正」 案 の 20 1 5 年9 月 1 日の 施 行 期日 は 、 現行 法 4 0条 の 6 の
1 項 3号 の 「 労働 者 派 遣法 第 4 0条 の 2 の1 項 ( 派遣 受 入 れ期 間 制 限)
違 反 」の 場 合 の「 労 働 契約 申 込 みみ な し 制度 」 の 適用 回 避 のた め と 解さ
ざ る を得 な い 。こ の よ うな 不 当 な目 的 の ため の 施 行期 日 の 設定 は 、 とう
て い 許さ れ な い。
7
「 改 正」 案 は ただ ち に 廃案 に す べき
― 抜 本改 正 こ そ重 要
以上述べてきたとおり、「改正」案は、労働者派遣法成立の原点である常
用 代 替防 止 原 則と 臨 時 的・一 時 的原 則 を 廃棄 し 、派 遣 期 間 制限 を 廃 止し 、「 生
涯 派 遣・ 正 社 員ゼ ロ 」 社会 を も たら す も ので あ る 。
自由法曹団は、常用代替防止原則と臨時的・一時的原則を廃棄し、永続派
遣を可能にし、「生涯派遣・正社員ゼロ」社会をもたらす労働者派遣法「改
正 」 案に 反 対 し、 そ の 廃案 を 強 く要 求 す る。
そして、自由法曹団は、「登録型派遣・製造業務派遣の全面禁止、労働者
派遣の臨時的・一時的業務への限定、業務単位での派遣期間制限の厳格化、
違法派遣の場合の正社員と同一の労働条件での労働契約申込みみなし制度、
派遣労働者と派遣先の正社員との均等待遇」等の労働者派遣法の抜本改正を
強 く 要求 す る もの で あ る。
以上
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編集 自由法曹団労働法制改悪阻止対策本部
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