歯髄・根尖性歯周組織疾患

歯と歯髄と歯周組織の
エックス線検査
到達目標
p  う蝕、
歯髄・根尖性歯周組織疾患、
歯周疾患 の
診断に必要な画像検査法を列挙し、
特徴的な画像所見を説明する
CONTENTS
p  本題に入る前にもう一度の巻
n  X線透過像かX線不透過像か?
n  歯周組織ってなんだったっけ?
n  正常歯周組織はX線写真でどう観える?
p  う蝕のX線検査と画像所見
p  歯髄・根尖性歯周組織疾患のX線撮影法と画
像診断
p  歯内療法におけるX線画像の活用
p  歯周疾患のX線検査と画像診断
本題に入る前にもう一度
X線透過像か、X線不透過像か
p 
X線透過像: X線写真上でより「黒く」見える像
空気・水・脂肪・軟組織[陰性造影剤(ガス)]
n  硬組織中の欠損・脱灰・空洞(例:歯髄腔)
n  正常像と比較して黒く見える(例:嚢胞・骨折)
n 
p 
X線不透過像:X線写真上でより「白く」見える像
n  硬組織(骨・歯)・金属補綴物・根充剤[陽性造影剤]
n  軟組織や海綿骨中の石灰化(例:唾石・硬化性骨炎)
n  正常像と比較して白く見える(例:上顎洞内の液体)
歯周組織って何だっけ?
p  歯根を取り巻く結合組織群の総称
p  歯を支持し、歯に加わる外力に抵抗する機
能を持つ
n  歯肉
n  セメント質
n  歯根膜
n  歯槽骨
歯周組織はX線写真でどう観える?
口内法
歯周組織
p  セメント質
n 
象牙質とほぼ同等のX線不透過性で識別困難
p  歯根膜腔
n 
歯根の外形に沿って連続する細い線状のX線透過像
(0.2-0.4mm程度の黒い線)
p  歯槽硬線(白線)
n 
黒い線(歯根膜腔)の外側に隣接して連続する細い線
状のX線不透過像(0.3mm前後の白い線)
p  骨梁(歯槽骨)
n 
2次元的な骨紋理を呈するX線不透過像
p  下顎骨 à 比較的厚い, より緻密, 水平状か斜線状
p  上顎骨 à より繊細, 比較的疎, 網目状か顆粒状
エナメル質
象牙質 歯肉
歯根膜
セメント質
エナメル質
象牙質
歯槽頂
歯根膜腔
歯槽硬線
髄角
髄室
歯根歯髄
骨梁
骨髄
髄角
髄室 歯髄腔
根管
骨梁
骨髄腔
急性と慢性のエックス線写真像
p  骨塩量が30~60%変化→X線写真上の変化
⇔臨床所見や病理組織所見との不一致
p  骨の十分な吸収→X線写真上で病巣とわかる
⇒臨床的にはすでに慢性
p  炎症の画像診断のお約束
n  急性炎症→X線透過像のみ認められる
n  慢性炎症→X線透過像と不透過像が混在、
あるいは不透過像が主体
う蝕のX線検査と画像診断
対象が小児である場合が多く、X線被曝を考慮し
た撮影法を選択しよう
選択される撮影法は臼歯部の咬翼法
咬翼法:隣接面う蝕、咬合面う蝕の検出に有用
X線検査の適用は、個々の患者のう蝕リスクを考慮
う蝕の検査
p 
p 
p 
ミラーおよび探針による視診、触診
n  初期齲蝕:エナメル質の表層下脱灰→白斑・褐色
斑
n  表面では小さく深部で拡大
光ファイバーを用いた照明機器
n  光の透過性により診断
X線検査
咬翼法、口内法
p  正放線投影
n  エナメル質と象牙質の
区別が可能なコントラスト
n 
う蝕の画像診断
p  エナメル質、象牙質の脱灰
n  X線透過像
p  脱灰の程度が低い、病巣が小さいと、
n  初期のう蝕はX線写真では検出できない
p  う蝕の大きさは過小評価される
隣接面う蝕
Brit Dent J, 107, 1959. 287-296より引用
無病誤診
診断を困難にする要因(1)
p  歯頸部バーンアウト
n  原因:歯頸部と
それより上下組織の
X線透過性の著明な差異
p 前歯部:帯状のX線透過像
p 臼歯部:くさび状のX線透過像
無病誤診
診断を困難にする要因(2)
p  マッハ効果:
n  象牙・エナメル境界部の
象牙質内のX線透過像
n  原因:明るいものと暗いものが
接して存在する時、
明るいものは更に明るく、
暗いものは更に暗く感じる
眼の錯覚 マッハ効果か確認するには、
不透過性のカード
X線透過像が
消えた→象牙質
消えない→う蝕
Diagnostic Imaging of the Jaws, Williams & Wilkins, 1995. より引用
う蝕いろいろイメージ
根尖病変の原因になるのです!
エナメル質う蝕�
咬翼法
象牙質う蝕�
咬翼法
隣接面う蝕
咬翼法
咬合面う蝕
透過像と髄角との関係!
慢性化⇨二次象牙質の形成
咬翼法
口内法
咬翼法
歯頸部う蝕
歯頸部う蝕:退縮した歯槽骨頂部の上部歯頸部に
楔状または帯状の強いX線透過像
平滑面う蝕
明瞭な楕円形のX線透過像
咬翼法
歯髄・根尖性歯周組織疾患の
X線検査と画像診断
治療開始時に、X線写真から得られる情報を満
足させる撮影法は平行法(口内法)
通常は正放線投影
これに偏心投影を加えることが必要な場合もある
治療中の根管の作業長の測定、根管充填終了後
の評価、治療後の予後評価にも有用
歯科用コーンビームCTの活用も進んでいる
根尖性歯周組織疾患とは?
p  根尖部歯周組織の炎症性変化を主体とした病変
n 
歯髄の炎症や、根管経由の化学的刺激、細菌性刺激、機
械的刺激などの炎症性刺激→根尖孔から根尖歯周組織に
溢出
p  急性根尖性歯周炎
n 
急性単純性根尖性歯周炎→X線潜伏期
n 
急性化膿性根尖性歯周炎→急性根尖膿瘍→X線潜伏期
p  慢性根尖性歯周炎(根尖病変)
慢性化膿性根尖性歯周炎→慢性根尖膿瘍
n  歯根肉芽腫
n  歯根嚢胞
n 
根尖病変の典型的な画像所見は?
n  根尖を取り囲む
概ね類円形のX線透過像
n  透過像は歯根膜腔と連続する
n  透過像周囲に
歯槽硬線と連続する
一層の硬化帯が見られることがある
n  透過像の周囲骨に
反応性の硬化性変化が見られることがある
根尖病変のX線検査
p  根尖病変(根尖病巣):
n  歯根(根尖)膿瘍(主に慢性)
n  歯根肉芽腫
n  歯根嚢胞
p  X線検査
n  口内法
p 平行法、二等分法
p 正放線投影、偏心投影
n  パノラマX線写真
n  歯科用コーンビームCT(CBCT)
根尖性歯周炎と根尖病変
B 初期の変化; 歯根膜腔の拡大
または所見なし
(急性か、初期の慢性根尖性
歯周炎)
C 初期の変化; 歯槽硬線の消失
(初期の歯根膿瘍) D 急性炎症の破壊的波及; 瀰漫性、境界不明瞭、エックス
線透過像 (歯根膿瘍)
E 軽度の慢性炎症; 彌慢性の
エックス線不透過像
(硬化性骨炎)
F 遷延化した慢性炎症; 境界明瞭、類円形、骨硬化縁に囲まれたエックス
線透過像 (歯根肉芽腫 か 歯根のう胞)
根尖性歯周炎は骨髄炎になっちゃうの?!
急性根尖膿瘍
(歯槽膿瘍)
歯周炎
う蝕
歯髄壊死
骨膜下膿瘍
フェニックス
膿瘍
急性
根尖性歯周炎
歯肉膿瘍
顎骨骨髄炎
顎骨周囲炎
蜂窩織炎
外傷 慢性
慢性根尖膿瘍
歯根肉芽腫
歯根のう胞
急性根尖性歯周炎、または、初期の慢性根尖性歯周炎 根尖部の歯根膜腔が僅かに拡大している
慢性根尖性歯周炎
口内法(デンタルX線写真) 慢性歯根(根尖)膿瘍
口内法X線写真(デンタルX線写真) 慢性歯根(根尖)膿瘍
根尖部の境界不明瞭、辺縁不整なX線透過像
透過像の周囲骨に反応性の硬化性変化
口内法(デンタルX線写真)
歯根肉芽腫
右下1根尖周囲の歯槽骨
内に辺縁やや不整な
エックス線透過像
歯根膜腔に連続
硬化縁は明瞭ではない
周囲歯槽骨に反応性の硬
化性変化あり
大きさ: 直径 <1.0 cm
好発部位: 上顎 >下顎
☞歯根嚢胞
口内法X線写真
歯根嚢胞
右上5根尖周囲歯槽骨内
に境界明瞭な類円形のX
線透過像
透過像は歯根膜腔に連続
歯槽硬線に連続する一層
の硬化縁あり
右上5は残根
大きさ: 直径 > 1.0 cm
好発部位: 上顎 >下顎
性差:男性 > 女性
☞歯根肉芽腫
口内法
根尖性歯周組織疾患とCBCT
p  病変の有無
p  病変の広がり
p  下顎管や上顎洞と根尖との位置関係
p  歯根破折
歯内療法におけるX線画像の活用
p  歯冠部:歯髄腔の形、大きさ、第二象牙質や象
牙質粒(denticle)による歯髄腔の狭窄
p  根管:根管数、おおよその長さ、弯曲、狭窄、
内部吸収、副根管、根管充填の状態(緊密度、
過不足度)、根管内異物(ポストコア、破折
リーマーなど)
p  根尖:根尖の完成度、破折、穿孔、閉鎖、根尖
病変の大きさと広がり、周囲組織(下顎管、オ
トガイ孔、上顎洞底など)との位置関係
左上6の場合
偏近心投影法
正放線投影
偏遠心投影
歯周疾患のX線検査と画像診断
歯周疾患の診断、予後・経過観察にX線検査は有
用だが、適用についての明確な基準はない
選択される撮影法は、咬翼法、平行法(口内法)
平行法は歯槽骨の吸収が進行しているときに有用
智歯に症状があれば、パノラマX線撮影を採用し
、高い解像度が必要なら平行法を追加しよう
歯周疾患
p  プラーク細菌の感染による炎症
歯肉炎:歯肉に限局した炎症性反応
n  歯周炎:歯周組織に波及し破壊
n 
p  歯周組織の診察
視診 歯肉の炎症の程度など
n  プロービング ポケットの深さ、出血・排膿
n  動揺度 など
n 
p  X線撮影法
n  口内法、口翼法
歯槽骨の吸収度
p  歯槽骨の吸収度
n  吸収程度は歯根長に対する
吸収された部分の長さの比で表現
p 1度 歯根長の1/3まで
p 2度 歯根長の1/3から1/2まで
p 3度 歯根長の1/2から2/3まで
p 4度 歯根長の2/3以上
歯周疾患のX線検査で何がわかる?
p  歯槽骨の吸収状態
p  歯槽頂の形態
p  歯槽硬線(白線)の消失
p  歯根膜腔の拡大の程度
p  根分岐部の骨吸収
p  歯周疾患を引き起こす、あるいは増悪させる因子
n  歯石、不良補綴物
p  歯根の長さと形態、歯冠・歯根長比
慢性辺縁性歯周炎
p  歯肉辺縁部に初発した非特異性炎症
p  →歯周組織(歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽
骨)に波及し、破壊
p  X線所見
n  歯根膜腔の拡大や消失、歯槽骨の吸収など
n  骨吸収部⇒エックス線透過像
p  歯槽骨の吸収様式:水平性と垂直性
慢性辺縁性歯周炎 水平性骨吸収
口内法(デンタルX線写真)
慢性辺縁性歯周炎 垂直性の歯槽骨吸収
口内法(デンタルX線写真)
慢性辺縁性歯周炎 歯槽骨吸収と歯石
でも限界があります!
X線画像ではわからない点
p  骨の吸収形態の正確な把握←3次元の構造を2
次元で表現
n 
近遠心部の歯槽骨吸収は明瞭に描出される
n 
3壁性、2壁性、1壁性 →これは極めて困難
p  検出された骨変化を実際より小さく評価する、
初期病変を見逃す←わずかな骨変化を画像上に
描出できない
p  病変部軟組織と骨変化との関係を直接評価でき
ない←軟組織を描出できない
智歯周囲炎
p  智歯周囲の歯肉、歯根膜、歯槽骨の急性または
慢性の化膿性炎
p  発症頻度が高く、ほとんどは下顎
p  X線撮影法と画像所見
n  パノラマ撮影法、口内法、歯科用CBCT
n  近心傾斜した智歯歯冠部周囲
n  X線透過像
n  Dental follicle辺縁の緻密骨不明瞭
n  周囲歯槽骨に硬化性変化
口内法X線撮影法
下顎左側智歯周囲炎
パノラマX線撮影法