腰部脊柱管狭窄症術後の疼痛と痺れを有する TKA術後の一症例

腰部脊柱管狭窄症術後の疼痛と痺れを有する TKA術後の一症例
田村唯 1、塚本利昭 1、津田英一 2、石橋恭之 2
1 弘前大学医学部附属病院リハビリテーション部、2 弘前大学医学部整形外科
キーワード;腰部脊柱管狭窄症・TKA・立位アライメント
【はじめに】
腰部脊柱管狭窄症(以下、L
S
S
)は 6
0歳以上の高齢者に好
発し、対象患者が増加している疾患である。今回、L
S
S
に対する除圧術後も疼痛・痺れを有していた変形性膝関
節症(以下、膝 O
A
)患者を担当した。術前評価では歩行器
歩行をゴールと設定していたが、人工膝関節全置換術(以
下、T
K
A
)後、疼痛・痺れが軽減し、A
D
Lが改善した症例
を経験したので報告する。本報告はヘルシンキ宣言に基
づき、症例に趣旨を説明し、同意を得た。
【症例紹介】
7
9歳、女性。専業主婦、一人暮らし。
診断名:両変形性膝関節症
既往歴:腰部脊柱管狭窄症
現病歴:6
9歳時より右膝痛出現し、その後左下肢に疼
痛・痺れが出現。7
0歳時に L
S
Sと診断され、L4
/5部分
椎弓切除術を施行した。術直後は左下肢の疼痛・痺れは
軽減していたが、その後徐々に増悪していた。歩行は独
歩自立していたが、長距離歩行は困難であった。7
8歳こ
ろより右膝痛が増悪し、7
9歳時に手術目的にて当院入院
し右 T
K
A施行した。
T
K
Aは M
e
d
i
a
lp
a
r
a
p
a
t
e
l
l
a
ra
p
p
r
o
a
c
h
にて C
R型を用いて行われた。
【術前評価】
可動域は右股関節伸展 5
°屈曲 1
2
0
°、左股関節伸展 5
°
屈曲 1
2
0
°、右膝関節伸展1
0
°屈曲 1
2
0
°、左膝関節伸
展0
°屈曲 1
2
0
°、 F
T
Aは右膝 1
8
5
°、左膝 1
8
0
°であっ
た。筋力は M
M
Tで両膝関節伸展 3
、両膝関節屈曲 3
、左股
関節伸展 2
、体幹伸展 2であった。疼痛は右膝関節荷重
時痛に加え、歩行時に左股関節痛が出現し、歩行距離延
長とともに増悪した。痺れは左下腿外側に強い痺れを認
めた。E
l
yt
e
s
tは両側ともに陽性であった。歩行は平行
台内にて常に腰椎前弯、
両股関節・膝関節屈曲位であり、
2
mほどで歩行困難であった。画像上、L
S
S術直後と T
K
A
術前評価時では、脊柱管の狭窄は変化を認めなかった。
【プログラム】
術後理学療法は当院の最も早いプロトコールに基づいて
術翌日より両下肢 R
O
Me
x
、
両下肢筋力強化トレーニング、
荷重練習を開始した。
また、
腸腰筋のリラクセーション、
体幹の筋力強化トレーニングも実施した。
【経過】
術後 7日目に、歩行器歩行自立となり、左下肢の痺れは
初期評価時と比べ軽減した。可動域は右膝関節伸展 0
°、
屈曲 8
0
°となり、立位時の両股関節屈曲・膝関節屈曲位
の姿勢は改善した。
術後 2
1日目で T字杖を使用し歩行自
立に至り、連続歩行は約 2
0
0
m可能となった。可動域は右
股関節伸展 1
0
°屈曲 1
2
0
°、左股関節伸展 1
0
°屈曲
1
2
0
°、
右膝関節伸展 0
°屈曲 1
1
0
°であった。筋力は M
M
T
で左股関節伸展 3
、体幹伸展 3であった。術前からの左
股関節疼痛は消失し、左下肢の痺れは初期評価時と比べ
自覚的には半分程度となった。E
l
yt
e
s
tは両側陽性であ
ったが、骨盤の浮き上がりは軽減した。歩行時の両股関
節・膝関節屈曲位は軽減し、腰椎前弯の軽減を認めた。
【考察】
本症例における、術前の歩行困難の要因は、右膝 O
Aによ
る荷重時痛に加え、L
S
S術後に有していた疼痛・痺れが
影響していたと考えられる。間欠性跛行の悪化要因は、
腰椎伸展位の継続による神経の機械的圧迫と阻血による
ものとされている。本症例は、L
S
Sの術後から徐々に疼
痛・痺れが増悪傾向にあった。この要因として、両膝 O
A
による右膝伸展制限により、その代償として両股関節屈
曲位となり、腰椎の前弯が徐々に増強してきたと推察さ
れる。本症例では、T
K
A術後、立位時の腰椎前弯の軽減
により、神経の機械的圧迫・阻血が緩和され、術前から
の疼痛・痺れが軽減したと考えられる。T
K
Aを機に膝関
節の立位アライメントが改善したことにより、股関節・
体幹アライメントも改善し、疼痛・痺れが軽減し A
D
Lの
改善につながったと考えられる。
【まとめ】
右T
K
A施行後に股関節・体幹のアライメントが変化した
症例を経験した。術前より L
S
S術後の疼痛・痺れを有し
ていたが、T
K
A施行後に疼痛・痺れが軽減し独歩自立に
至った。T
K
Aによる膝関節の立位アライメント変化が股
関節・体幹アライメントに影響を与えていた。単関節の
アライメント変化だけではなく、その変化が他関節にど
う影響するのかを術前から評価・予測することの重要性
を再認識した。