左前頭葉・基底核の梗塞により重度の右片麻痺を呈した症例 -座位での体幹の安定性に着目して- 田村 幸馬 1 1 メディカルコート八戸西病院 キーワード;自発性・体幹の安定性・APA 【はじめに】 今回、左前頭葉・基底核の梗塞により自発性・麻痺側身 体への注意力低下に加えて右上下肢・体幹の運動麻痺、 非麻痺側の廃用性筋力低下を呈した方を担当した。介入 時は起居・移乗動作や A D L全般的に全介助を要していた。 また、プラットホーム上座位では、麻痺側後方へ崩れて しまうため中等度介助を要していた。そこで、座位での 体幹の安定性に着目し、座位 e x中心に治療を行った。そ の結果、プラットホーム上座位が見守りで可能となった ので以下に報告する。本報告においては、施設内での倫 理委員会承認を得ていることをご家族に書面にて説明し、 同意を得られたものである。 【症例紹介】 8 0代女性 診断名:左脳梗塞( 平成2 6年1 2月上旬発症、 左前頭葉・被殻領域再梗塞) 既往歴:1年前に左脳梗塞発 症( 当院でリハビリ実施) 家族の H o p e :車椅子に乗って日 中生活できるようになってほしい方向性:施設( 介護老人 保健施設) 介護保険:要介護 4 【理学療法評価】→初期評価時( 5 0病日) から 1カ月での 変化全体像:介入時より起居・移乗動作、A D L全般的に 全介助。訓練中は、呼びかけに対しての反応は少なく、 自発性に乏しい状態。運動性失語もあるため、自発的な 発言も少ない。B r . s t a g e :右上肢 1右手指 1右下肢 2 → 右上肢・手指は著変なし 右下肢 3 M M T :左上肢 2左下肢 3体幹 1 →左上肢 3左下肢 4体幹 2感覚:右上下肢の表 在・深部感覚重度鈍麻→右上下肢の表在・深部感覚中等 度鈍麻 筋緊張: 亢進:左大胸筋・肩甲帯周囲筋・股関節 内転筋 低下:右上下肢( 全体的) ・両側腹筋群→両側腹筋 群の筋緊張低下が改善高次脳機能:訓練中では運動模倣 は可能だが、 麻痺側身体への注意が向きづらい( 身体失認 の疑いあり) →右上下肢へ注意を向けることが可能とな る。 【経過】 介入日:車椅子座位で輪かけや風船バレーを実施( 能動的 な動きが見られようになる) 介入 1週:鏡を使用しながら 座位姿勢でアライメントを修正する訓練を追加介入 2 週:動的座位バランス訓練を追加( 立ち直り反応を誘導) 介入 4週:プラットホーム上座位見守りで可能 【考察】 今回、左前頭葉・基底核の梗塞により、重度の右片麻痺・ 感覚障害を呈し、入院時は起居・移乗動作は協力動作が 得られず全介助を要していた。運動のプログラミングを 行う前頭葉や運動時の姿勢制御を行う基底核の障害のた め、予測的姿勢制御機構( A n t i c i p a t o r yp o s t u r a l a d j u s t m e n t :A P A ) の破たんにより、体幹の安定性低下が 生じているのではないかと考えた。三浦らは「筋による 体幹の安定性には腹横筋、外・内腹斜筋、多裂筋、脊柱 起立筋等の深層筋の適切な筋収縮が必要。座位・立位で の肩関節挙上は体幹の安定性が重要となり、その安定性 には特に腹横筋( 腹圧の調節) が関与している」と報告し ている。そこで、座位の体幹の安定性に着目し、最初は 車椅子座位での風船バレーや輪かけにより運動課題を与 えながら A P Aの賦活を促した。また、田中らは「視覚系 ( 2 0 %) ・体性感覚系( 7 0 %) ・前庭系( 1 0 %) からの入力は、 姿勢制御に関連する異なる基準枠組みを提供する」とい うことから、本症例は感覚障害や麻痺側身体への注意力 も低下していることから、身体図式が崩れていると考え た。そのため、座位 e xや体幹機能 e x中心に実施し、介 入 1カ月後では、プラットホーム上座位が見守りで可能 となった。本症例は、前頭葉の梗塞により自発性や物事 に対しての興味・関心が低下していたため、風船バレー を訓練の中に取り入れた。すると、「楽しい、もう少し やりたい」との発言が聞かれるようになった。運動課題 が興味・関心を抱くことに繋がり、フィードフォワード 姿勢制御を担っている大脳―基底核ループを再構築させ て、A P Aが賦活されたのではないかと考える。体幹の深 層筋と表層筋の協調的な筋収縮が可能となり、座位での 体幹の安定性が向上したのではないかと考える。 【まとめ】 退院後は、介護老人保健施設へ予定だが、リハビリの継 続によりさらに体幹の安定性向上が見込めると考えられ る。今回の介入が、今後の A D Lにおいて活動範囲拡大の きっかけになったと考える。
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