簡略化したカオスニューラルネットワークによる逐次学習に関する研究

簡略化したカオスニューラルネットワークによる逐次学習に関する研究
On Incremental Learning with Simplified Chaotic Neural Network
報告者 高橋季希 (Takahashi Toshiki)
指導教官 出口利憲 (Deguti Toshinori)
1.
100
80
60
40
20
0
研究目的
カオスニューラルネットワークを用いた学習法
として逐次学習法がある
(1)
。本 研 究 で は 、逐 次 学
習法におけるカオスニューロンの時間加算項に関
100
80
60
40
20
0
す る 研 究 を 行 っ た 。時 間 加 算 項 と は 入 力 や 不 応 性
で の 時 間 に よ る 加 算 を 求 め る た め の 項 で あ る 。こ
の時間加算項の省略によるニューロンの学習への
影響を調べる。また、その結果を応用し学習時間の
時間加算項あり
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
70
80
90
100
時間加算項なし
0
10
20
30
40
50
60
Fig.1 時間減衰項の有無による学習の変化
短縮を目指す。
2.
逐次学習
4.
実験 1 では、時間加算項の有無でニューロンの学
本研究では、入力パターンと同じパターンを出力
す る よ う に ネ ッ ト ワ ー ク に 学 習 さ せ る 。こ の 学 習
に逐次学習法を用いている。逐次学習法では、何度
も同じパターンを入力し、その度に各々のニューロ
ンが学習の必要性を判断する事で学習を行う。
実験 1(時間加算項の有無による学習の影響)
習の様子を調べる
(2)
。そ の た め に 、時 間 加 算 項 以
外のカオスニューロンのパラメータと、入力パター
ン の 要 素 を 固 定 し 、実 験 を 行 う 。代 表 と し て 、10
セット目の最初のパターンを Fig.1 に示す。縦1列
に ネ ッ ト ワ ー ク を 構 成 し て い る 100 個 の ニ ュ ー ロ
3.
実験方法
ンを配置し、横に 100 回入力した時のニューロンの
ネットワークに学習させる入力パターンの要素
学習の様子を示しており、+の点で学習が起こって
は 1 と −1 の 2 値からなり、あらかじめ決められた
い る 。時 間 加 算 項 有 り の 場 合 は 、15 回 ほ ど パ タ ー
1 の比率に基づいてランダムに配置される。入力パ
ンを入力しないと学習が始まらないのに対し、時間
タ ー ン を ネ ッ ト ワ ー ク に 入 力 す る 際 、ま ず 1 つ の
加算項なしの場合は、パターンの入力が変化すると
パ タ ー ン を 連 続 し て 100 回 入 力 す る 。そ し て 同 じ
すぐに学習を始め5回入力する頃には既に学習を
よ う に 次 の パ タ ー ン を 100 回 入 力 す る 。こ の 回 数
終えている。
を入力回数と呼ぶ。これを、すべての入力パターン
5.
実験 2(入力回数の変更による学習の影響)
が終わるまで行った時、1 セットの学習が終了した
実験 2 では、入力回数を変更し、どの程度入力す
と す る 。こ れ を 100 セ ッ ト 繰 り 返 し ネ ッ ト ワ ー ク
れ ば 最 大 完 全 学 習 数 に 到 達 す る か を 検 証 す る 。こ
に学習させる。本研究では、ネットワークが学習し
の検証により、時間加算項をなくす事による学習時
たパターン数を「学習成功パターン数」とし、入力
間 の 短 縮 率 を 求 め る 事 が 出 来 る 。実 験 2 の 結 果 を
パターン数と学習成功パターン数が同じ値の場合
Fig.2 に示す。時間加算項有りの場合は、20 回辺り
の学習を「完全学習」と呼ぶ。またネットワークが
まで入力しなければならないのに対して、時間加算
完全学習できる最大のパターン数を「最大完全学習
項なしの場合は 3 回の入力でほぼ最大完全学習数
数」とした。
に到達している。
100
学習成功パターン数
120
時間加算項あり
時間加算項なし
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
20
40
60
80 100
パターン入力回数
120
200
140
最大完全学習数
120
0
150
150
100
100
50
50
0
0
Fig.2 入力回数の変更 (100)
学習成功パターン数
200
時間加算項あり
時間加算項なし
2
4
6
8 10 12
雑音の個数
14
16
18
0
Fig.4 雑音の影響
6.
200
200
時間加算項あり
時間加算項なし
150
150
100
100
50
50
実験 3(雑音による学習の影響)
実験 3 では、雑音を入力パターンに組み込んだ時
の 影 響 を 確 認 す る 。雑 音 の 量 を 少 し づ つ 変 化 さ せ
ていき、時間加算項の有無による学習成功パターン
数の違いを調べる。結果を Fig.4 に示す。時間加算
項あり、なしで雑音が 0 の時、学習成功パターン数
が違うのは、同一パラメータでの最大完全学習数を
0
20
40
60
80 100
パターン入力回数
120
140
0
Fig.3 入力回数の変更 (162)
入 力 パ タ ー ン 数 と し た 為 で あ る 。時 間 加 算 項 有 り
の場合は、時間加算により平滑化されるため雑音が
増 え て も 、学 習 成 功 パ タ ー ン 数 は あ ま り 減 少 し な
い。時間加算項なしの場合は、雑音が少しでもある
さらに、前年度の研究で分かっている時間加算項
あ り の 最 大 完 全 学 習 数 162 を 入 力 パ タ ー ン 数 と し
と、学習成功パターン数は大きく減少している。
7.
まとめ
て 実 験 を 行 っ た 。入 力 パ タ ー ン 数 が 100 だ っ た と
実験1の結果から、時間加算項がない時の学習に
き と 比 べ 、入 力 回 数 を 多 く し な け れ ば 学 習 し な い
かかる時間は、時間加算項がある時と比べ早い。ま
が、入力回数が 100 回程度あれば、162 パターンの
た 、実 験 2 の 結 果 か ら 、時間 加 算 項 を な く す 事 で 、
学習が完了している。しかし、時間加算項なしの場
数倍の速さで学習を行うことが出来、入力パターン
合は学習成功パターン数が 50 付近までしか上昇し
数を変化させても同じように学習時間を短縮する
ない。しかし、パラメータを変更すると時間加算項
事ができた。実験 3 の結果から、時間加算項がない
なしのネットワークも同程度の最大完全学習数を
場合は、雑音に弱く、少しの雑音で、学習できない
得 る 事 が 出 来 る 。こ の 様 子 を Fig.3 に 示 す 。Fig.3
状況になってしまう。だが、雑音がない時は、時間
から、時間加算項あり、時間加算項なしで、同程度
加算項を省くことで学習速度を上げる事が出来る。
の 最 大 完 全 学 習 数 を 得 て い る 事 が 分 か る 。こ の た
このように、時間加算項を省略する事で学習の速度
め、時間加算項あり、時間加算項なしの場合それぞ
は格段に上がるため、雑音の有無によってそれぞれ
れに、適したパラメータが存在し、最大完全学習数
の手法を使い分ける事が重要であると考えられる。
に優劣がないと考えられる。また、入力パターン数
今 後 は 、時 間 加 算 項 を 0 に す る の で は な く よ り 適
を増やすと、どちらも同じように最大完全学習数に
切な値を追求していきたいと考えている。
到達するまでの入力回数が上昇していたため、入力
文 献
パターン数を上昇させても時間加算項あり、なしで
(1) T.Deguchi, K.Matsuno and N.Ishii: Lecture Notes in
Computer Science, 5178/2008, Springer, pp.919–925
は時間加算項なしの方が入力回数を短縮できる事
が分かった。
(2) 高橋・出口・石井:逐次学習におけるカオスニューロンの簡略化
に関する研究, H25 電気関係学会東海支部連合大会, I3-1