新幹線保守作業安全システムの開発 - 日本無線

(技術レポ―ト)新幹線保守作業安全システムの開発
新幹線保守作業安全システムの開発
Development of Shinkansen Maintenance work
Safety support system
山 田 哲 志
Tetsushi Yamada
大 槻 秀 夫
Hideo Otsuki
佐 藤 久 嗣
Hisashi Sato
佐々木 敦(*)
Atsushi Sasaki(*)
石 瀬 裕 之(*)
Hiroyuki Ishise(*)
北 村 太 郎(*)
Taro Kitamura(*)
太 田 尚 伸
Hisanobu Ota
(*)東日本旅客鉄道㈱
(*)East Japan Railway Company
The "Safety system for the maintenance duties of the Shinkansen (so-called Bullet Train)" was developed as a system for
supporting the safety of the maintenance vehicles and maintenance workers, in the maintenance operations for the Shinkansen
of the East Japan Railway Company.
The system currently in operation has a function to display the kilometrage, and also a function to warn "railroad car
approaching" and "station approaching" alarms, and the system implements separate controls for the up and down lines, by
using two different frequencies for each of the lines.
In this development, a function was added to grasp the detailed position of the railroad car itself, by loading the configured
route information from handy terminals and searching the database of each of the station precincts, so that it will also be
possible to cope with the complicated railway track construction within the station precincts, and to determine the approach of
railroad cars and the limit of its own movement, to issue alarms. Furthermore, a graphic displaying function that uses using an
LCD screen and a voice messaging function were added, to make it easier for the workers to perceive things visually and aurally.
In this article, we will be reporting about the conventional system, and the content that was developed this time.
1.まえがき
東日本旅客鉄道㈱殿の新幹線保守作業において保守用車
および保守作業員の安全を支援するシステムとして新幹線
保守作業安全システムの開発を行った。
現在運用されているシステムではキロ程表示,車両接近
警報および駅接近警報の機能を持っており,2 つの周波数を
使い分けることによる上下線別々の制御を行っている。
今回の開発では駅構内の複雑な線路構造にも対応できる
よう,ハンディターミナルからの設定ルート情報を取り込
み,構内毎のデータベースを検索することにより自車位置
を詳細に把握し,車両接近および移動限界を判断し警報を
発生する機能を追加した。また,作業者が視覚的,聴覚的
に認識し易くするために液晶画面によるグラフィック表示
および音声メッセージ機能を追加した。本稿は、従来のシ
ステムおよび今回開発した内容について報告する。
2.装置概要
本システムは,保守用車に搭載する車載装置,線路閉鎖
区間に据え置きされる線路閉作用装置および保守作業員が
携帯する携帯用受信機で構成され,作業中,保守用車が保
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守用車または線路閉鎖区間に接近し,その接近距離および
接近速度により危険であると判断したときに,警報出力で
の報知により,安全確保のための動作を促すものである。今
回開発した車載装置は,従来の車載機との機能の互換性は
保つとともに,以下機能を追加し安全性の向上につなげる。
システムの構成を図 1 に示す。
図 1 システム構成図
Fig.1 System configuration
・駅構内での接近警報(車両接近,移動限界接近)
・液晶モニタでの情報表示
・音声によるアナウンス
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表 1 車載装置仕様
Table1 Specification
図 2 に従来装置,図 3 に開発装置および表 1 にその仕様
を示す。
747
029
400MHz 帯
送信電力
0.5W
対応速度
最高 100km/h
対象車両数
14 車両+4 線路閉鎖
無線伝送速度 2400bps
図 2 従来装置
Fig.2 Conventional model
通信サイクル 2 秒
表示
10.4 インチ液晶
配線図,キロ程,接近距離,線別,対象種
別等
電源電圧
DC +18 ∼+32V
消費電流
2A 以下(+24V 供給)
動作温度
−10 ∼+50℃
外形寸法
164
(W)
× 68(H)
× 198(D)
mm
質量
約 3.5kg
3.開発内容
図 3 開発装置
Fig.3 Development model
図 4 に車載装置(開発装置)の構成図を示す。
本システムでは,最終的に安全を確保するための警報を
発生するが,そのために必要な機能として次の要素がある。
・ 位置検知
正確な車両位置を自動で検知・認識する。
・ データ通信
車両および線路閉鎖装置が,お互いの位置や状態
を把握する。
・ 警報報知
データ通信にて得られた情報により,対象物に対
する危険が予測された場合,使用者に対し警報を報
知する。
・ ユーザインターフェース
警報報知における使用者の認識しやすい操作を実
現する。
・ 駅構内における接近警報
ルート設定情報およびデータベースを使用し,複
雑な駅構内での位置を把握する。
3.1 位置検知
車載装置においては,
位置は起点(東北新幹線の場合東京)
を 0k000m とし,延べ距離をキロ程として表す。
その位置の決定については,速度センサからのパルス信
号により走行距離を求め相対的な位置を計算する。
絶対位置については,本線上 1km 毎に敷設されている地
上子,車上検知センサにて検知することにより位置補正を
行う。
進行方向(正転/逆転)は,図 5 に示すように 2 相で出
力される速度パルスの位相差により決定する。
図 4 車載装置構成図
Fig.4 Device configuration
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特集2
0076
00
送信周波数
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図 5 速度パルス
Fig.5 Speed Pulse
3.2 データ通信
装置間のデータ通信は 400MHz 帯の業務用無線機により
行っている。使用周波数は,上下線により使い分けている。
通信速度は 2400bps で行い,2 秒を 1 サイクルに 18 台分
のデータが通信可能となっている。
データ通信は時分割多重通信方式を採用し,そのスロッ
ト獲得方式を図 6 に示す。
図 6 スロット獲得方式
Fig.6 Slot acquisition method
また,通信データのスロット構成を図 7,フォーマット構
造を図 8 に示す。
図 7 スロット構造
Fig.7 Slot configuration
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図 8 データフォーマット
Fig.8 Data format
符 号 方 式 は BCH 符 号 と す る。 装 置 間 の 通 信 は GPS の
PPS(Pulse Per Second)信号により同期を合わせている。
3.3 警報報知
警報報知は,危険が近づいたときのアラーム音および音
声によるものと,警報信号出力によるものがある。
これらの出力判定は,自車および対象物との距離,相対
速度により予めデータベースとして持っているテーブル値
を参照して行っている。
警報・注意には下記のものがある。
(警報)
駅構内接近,車両接近,線路閉鎖区間接近,上
下線別誤り,移動限界接近
(注意)
渡線接近,速度超過,構内機能無効時
警報が発生した場合(注意を除く),停止もしくは速度の
低下が無く危険と判断される距離まで接近したとき,警報
信号が出力され接続先である非常ブレーキが作動し緊急停
止を行う。
3.4 ユーザインターフェース
通常時のユーザの操作は,起動時の電源投入,メイン画
面表示のためのボタン操作のみである。
また,メイン画面は図 9 に示すとおりである。
メイン画面に表示される内容は,構内配線図,絶縁位置,
自車マーク,他車マーク,設定ルート,設定ルート名称,速度,
編成長,路線名称,線別,位置(キロ程),接近対象および
接近距離等である。
その他異常時や空転,滑走などにより位置ずれが生じた
場合は,画面によりキロ程を入力することができる。
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用 語 一 覧
図 9 画面イメージ
Fig.9 Display image
GPS: Global Positioning System(全地球測位システム)
HT: Handy Terminal(ハンディターミナル)
ID: Identification(識別子)
JR: Japan Railway
PC: Personal Computer(パーソナルコンピュータ)
PPS: Pulse Per Second(1秒毎パルス信号)
SYNC: Synchronous(同期信号)
3.5 駅構内における接近警報
従来システムでは,駅構内において上下線別の認識はで
きるが 1 番線,2 番線などの線別認識ができず,正確な接近
判定ができなかった。今回は図 9 に示す構内配線図をデー
タベースとして持ち,ルート設定を取り込むことにより自
車位置の線別を判定することができるようになった。
この線別判定により同一線別上の対象物に対し警報を発
生することができるようになった。
また,駅構内での移動可能範囲を判別し範囲を超える場
合に警報およびブレーキを発生する機能も追加され安全性
を向上させた。
4.評価試験
機能試作機により,上越新幹線高崎駅構内本線上にてフ
ィールド評価を実施し良好な結果を得た。
5.あとがき
開発したシステムは,フィールド試験を通して,その機
能およびデータベースの検証ができ,運用上有用であるこ
とが確認できた。
今後もエンドユーザの要望を積極的に取り入れると共に
技術革新に伴う機能・性能アップを求めて検討していく。
また特定顧客における特殊用途のものであるが,各開発
アイテムについては他に応用し今後の商品開発に生かして
いく必要がある。
*本システムは東日本旅客鉄道株式会社 JR 東日本研究開発
センター安全研究所殿より委託を受け開発したシステム
である。
参考文献
[1]田中 豊,
“保守係員の安全に関する研究開発”
,JR EAST
Technical Review No.03-Spring 2003
[2]黒澤 良史,川見 豊顕,
“新幹線保守作業安全システム
の導入”
,鉄道と電気技術,Vol.12 No.8,2001.8
日本無線技報 No.52 2007 - 37
特集2
[3]田中 豊,佐々木 敦,岡部 栄治,黒澤 良史,山田 哲志,
佐藤 久嗣,内山 弘一,立林 清彦,“鉄道用時分割多重信
号方式およびその送受信装置”,特許公開 2001 −352310,
2001.12.21
[4]田中 豊,佐々木 敦,岡部 栄治,黒澤 良史,山田 哲志,
佐藤 久嗣,内山 弘一,立林 清彦,
“鉄道用警報発生方式”
,
特許公開 2001 −347946,2001.12.18