PDFダウンロード - 大熊研究室 - 名古屋大学

Po1-8
拡張誘起電圧オブザーバに基づく位置センサレス制御の低速駆動域拡大
大沼 巧 *, 道木 慎二, 大熊 繁 (名古屋大学)
Position Sensorless Control Based on Extended EMF Observer for Wide-speed Range Operation
Takumi Ohnuma *, Shinji Doki, Shigeru Okuma (Nagoya University)
位置センサレス制御の手法の一つに拡張誘起電圧オブザーバ
に基づく方法がある。従来の拡張誘起電圧オブザーバによるセ
ンサレス運転が可能な駆動範囲は,中高速域に限定されていた。
その理由として,低速域においては,速度起電力の低下に伴い,
拡張誘起電圧の振幅が低下するという問題があった。
これに対し,提案手法では,低速域において,拡張誘起電圧
の振幅を維持するために,付加的な信号重畳を行う (1) (2) 。こ
の信号は,拡張誘起電圧に含まれる突極性由来の成分を励起し,
振幅をある下限値以上に保つために必要な分だけ加えられる。
本稿では,S-T(Speed-Torque) 特性の評価により,定常的に運
転可能な駆動領域を調べたので,その結果を報告する。
2. 位置センサレス制御系の構成
提案する位置センサレス制御系の構成を Fig.1 に示す。Fig.1
は,従来の拡張誘起電圧オブザーバを用いた一般的な d-q 軸上
の電流ベクトル制御を基本としており,これに対する変更点は,
電流指令の生成部に挿入した f -t 軸から d-q 軸への回転座標変
換と,オブザーバによる位置推定部に追加した同期検波用のフィ
ルタのみである。これにより,駆動領域を 0 速まで拡大するこ
とが可能となる。そして,中高速域では,f 軸電流指令を 0 に
減少させるだけで,そのまま従来の拡張誘起電圧オブザーバに
よる最大トルク/電流制御へ移行できる (1) (2) 。
ω*
+ -
ω^
Ii sinωit
if*
Speed
Controller
it*
idq*
vuvw
vdq*
+
f-t
/
d-q
-
d-q
/
uvw
Current
Controller
Load
idq
LPF
uvw
ᯟ
d-q
*
idq
exp(jπ/4)
s
tan-1
e~
Filter2
+
e^
Observer
(Filter1)
α=ωi
4. 実験結果
S-T 特性により定常特性の評価を行った。重畳信号の振幅 Ii
を決定する拡張誘起電圧の下限値は 8 V とした。この値は,イ
ンバータで生じる出力電圧誤差のレベルや,モータのコギング
トルクなどの外乱電圧を考慮の上,実験的に決定した。また,
重畳信号の周波数は 100 Hz を用いた。この値は,モータの定
格周波数の 1.2 倍に相当する値であり,オブザーバの極配置を
考慮の上,想定される駆動周波数の最大値付近を目安とした。
同時に,この周波数は電流制御の応答 2000 rad/s の帯域内で
あり,電流制御を通じて重畳信号を生成することが可能である。
実験結果を Fig.2 に示す。定常的に運転可能であった動作点
で示し,同時に重畳信号の振幅 Ii の分布を重ねて点線で
を
プロットした。重畳信号の電流振幅は最大で 2.5 A(50%) であ
るが,用いた信号重畳法の特徴から,電流ベクトルの変化方向
は位相方向が主となる上に,重負荷ほど少なく済むため,電流
容量の負担増加は小さいと考えられる。また,低速軽負荷におい
ては,運転可能領域が制限されており,その範囲は 300 r/min
以下で徐々に拡大し,最大で約 50%トルク以下である。このよ
うな軽負荷領域を除いては,推定法を切り替えることなくセン
サレス制御が有効な運転領域を,0 速を含む全速度域に拡大で
きることが確認された。
2
1.8
1.6
1.4
1.2 (100%)
1.0A
1
iuvw
+
re
iuvw
θ^re
Position Estimator
θ^
IPM
SM
劣化の原因であった。そこで,(1) 式に基づき,拡張誘起電圧
の振幅を一定以上の値に維持するような重畳信号の振幅 Ii を
与える。このようにすることで,位置推定に必要な信号レベル
を効率良く確保することが可能となる。
Torque [Nm]
1. はじめに
1.5A
2.0A
0.8
Ii=0.5A
0.6 (50%)
*
vdq
Fig. 1 提案するセンサレス制御系
3. 低速域における補助電圧生成法
Fig.1 のような制御系において,得られる拡張誘起電圧は (1)
式となる。
Lq −Ld
e
˜ ≈ ωre {KE +(Lq −Ld)It sinφ}+ωi √ Ii2 sinφ εJθreJu
2 2
(1)
ここで,J は 2×2 交代行列,εJ θre は回転行列,u は d 軸方向
の単位ベクトル,φ は最大トルク制御座標系の位相角を表す。
前述したように,低速域においては,速度起電力の低下に伴
い,位置情報を持つ拡張誘起電圧の振幅が減少することが性能
0.4
2.5A
0.2
0
-50
0
50
100
150
200
250
300
Speed [r/min]
Fig. 2 S-T 特性と信号電流振幅
5. まとめ
低速域において,拡張誘起電圧の振幅を維持するために,付
加的な信号重畳を行い,拡張誘起電圧オブザーバによるセンサ
レス制御が有効な速度範囲を低速域へ拡大する方法を示した。
文
献
( 1 ) 大沼・道木・大熊:H22 電気学会全国大会 4-100
( 2 ) 大沼・道木・大熊:H22.6 月 電気学会研究会資料 SPC-10-85
平成22年度 電気関係学会東海支部連合大会 (2010年8月30日~31日 於中部大学)