Qマス分析装置を含む真空分析装置を作製する。装置は 有機電子デバイス用吸水材 (Bio Getter)の創成と商品 化 新規に作成を行い、排気系、試料加熱系、分析系から構成 し、 雰囲気の影響を完全に制御するために、 現有のグローブ ボックスとの連結を行い、製膜後、直ちに分析ができるように 装置を立ち上げた。 安達 千波矢 [千歳科学技術大学/教授] 雀部 広幸 [千歳科学技術大学/教授] 西出 順一 [千歳科学技術大学/大学院生] 植田 映介 [㈱菅製作所/技術開発部長] 宮田 武 [サエスゲッターズジャパン/課長] 前田 千春 [サエスゲッターズジャパン/係長] ③有機EL素子との複合化 ITO/有機層(ホール輸送層/発光層/電子輸送層) /MgAg型の基本素子構造を有する高効率有機EL素子を 作製し、 このデバイスの陰極背面にDNA薄膜を積層し、有 機EL素子の長時間駆動特性を測定した。特に水分により 劣化が促進される有機層/電極界面の剥離現象(dark spots) を顕微鏡下で詳細に観察し、DNAの吸水剤として 背景・目的 の可能性を追求した。 本プロジェクトでは、DNAの特異な吸水能力と透明性に注 ④商品化への展開 目し、有機EL(エレクトロルミネッセンス)用の新規な乾燥剤の DNAの吸水材としての基本的な特性が確認された場合、 創製を目指した。近年、 有機ELは著しい耐久性の向上が図ら 来春を目指して商品化への展開を図ることを目指した。 れ、実用化の時期を迎えている。通常の金属陰極を用いた通 結果・成果 常のbottom emission型に加え、 最近では、 透明電極で有機 層を積層した透明有機EL素子の実用化の可能性も見えてき ①DNA薄膜の形成と最適有機脂質の探索 た。 しかしながら、 通常、 有機EL素子は非常に水分に弱いため シート状乾燥剤としてDNA物性の特徴を明確に捉える為 に素子背面をガラスなどで封止し、 さらに、外部から混入する には、 まず、 水溶性のDNAを有機溶媒可溶な疎水化するこ 微量な水分を除去するために乾燥剤を同時に封入する必要 とが重要な技術である。本研究では、各種の疎水側鎖を有 がある。 これまで乾燥剤としては、酸化バリウム等の無機系酸 する四級アンモニウム塩にてイオン交換することにより、有機 化物が用いられてきたが、 通常、 白色の結晶粉末体であるため、 溶媒可溶な撥水性のDNA複合体形成を試みた。 また、 キャ 透明デバイスの乾燥剤としては利用することができない。 これま ストやスピンコート法により、Fig.1に示すような疎水性の薄膜 で、透明性を有する乾燥剤は皆無であり、新規な材料探索が (100nm程度) を得る技術を確立した。脂質のアルキル鎖長 必要とされていた。 そこで、本研究では、DNAの乾燥剤として や分岐様式を変化させることにより、膜の凝集・配向構造は の可能性に着目した。DNAは水との高い親和性を有するが、 大 きく 変 化 す る こ と を 見 出 し 、特 に C T M A 機能材料としての観点からは、 良好な吸水材料として捉えるこ (Cetyltrimethylammonium chloride) を脂質に用いるこ とができる。 さらに、CTMA(Cetyltrimethyl ammonium とにより均一な薄膜形成が実現でき、 フィルム状DNA乾燥剤 chloride)等の脂質と結合させることにより有機溶媒に可溶に として用いることが可能であった。 なり薄膜化が可能である。 このような特異な性質を利用し、 フレ ②昇温脱離装置の作成と吸着特性の測定 キシブルなシート状の吸水剤の創成を目指した。 DNA薄膜の吸着ガスの吸脱着特性を把握するために、 Qマス分析装置を含む真空分析装置を作製した。DNA- 内容・方法 CTMA薄膜のガス吸着特性をFig.2に示す。赤線は測定 以下の手順で研究開発を進めた。 チャンバー内部の水分分圧を示している。温度の上昇と共 ①DNA薄膜の形成と最適有機脂質の探索 に、顕著な水分濃度の低下が見られ、吸着剤としての基本 DNAを有機薄膜電子デバイスにおける封止材として使 的な能力があることが見出された。 用するためには、 DNAを有機溶媒に可溶化させ、 薄膜化す る必要がある。本研究では、様々な有機脂質の選択により、 スピンコート法により均一に薄膜化する材料を第一に探索し ③有機EL素子との複合化 DNAの乾燥剤としての性能を評価するため、Fig.3に示 す有機ELデバイスの構築を行った。 た。 また、 有機脂質と水分吸着能力の相関を把握し、 吸水剤 デバイスは有機多層構造からなり、 ガラス封止素子内に として最適な有機脂質を見出すことを試みた。 有機ELデバイスの背面にDNA-CTMA乾燥剤を向かい合 ②昇温脱離装置の作成と吸着特性の測定 DNA薄膜の吸着ガスの吸脱着特性を把握するために、 わせて設置させた。 Fig.4に発光面の経時変化を示す。 残念 ながら駆動時間の上昇に伴い、 非発光点(Dark spots) が ― 62 ― 著しく増大していく様子が見られた。残念ながら経時と共に 今後の展望 非発光点の発生と成長が認められ、DNA-CTMA薄膜が 本研究では、 DNA薄膜の乾燥剤としての機能発現を期待 乾燥剤としては十分に機能していないことがわかった。Fig.2 したが、 高い吸着能力を必要とする有機EL素子には、 不十分 の吸着特性に見られるようにDNA-CTMA薄膜は高い水 であることがわかった。室温下での利用など、 有機ELほど高い 分吸着能力が示されているも係わらず、 有機ELの吸水剤と 吸着性能が要求されない応用領域には、 今後、 可能性がある しては十分な機能を発揮しないことがわかった。 このことは、 と思われる。本研究では、 さらにDNAの機能材料としての可 有機ELデバイスが駆動状態では、60∼100℃の比較的高 能性を検討した。 その結果、有機ELデバイスにおけるホール い温度に素子温度が上昇していることと関係していると考え 輸送材料として極めて優れた性能を有していることを見出した。 られる。 この様な温度下では、 ガス分析の温度以前性の実 今後、DNAの電気物性と水分吸着能力を組み合わせ、水分 験から、 DNA-CTMA薄膜から水分等の放出が見られ、 乾 センサーなどの新しい電子デバイス材料としての用途を開拓で 燥剤としては十分な機能を果たさないと考えられる。 よって現 きる可能性が十分ある。 状では、室温下での用途では乾燥剤としての可能性は期 待できるが、 DNA-CTMA薄膜を有機EL用乾燥剤として用 いることは困難である。 ― 63 ―
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