第一席 日々の生活への茶道精神の還元 權田 拓郎

第一席
日々の生活への茶道精神の還元
鳥取大学四年(鳥取県)
權田 拓
郎
私が茶道を通して学んだこと、そしてこれからも学んでいきたい
ことは、気付きの精神、そして思いやりの心、その言葉に集約され
け軸、お花を選びます。それらは全てお客様に一服のお茶を美味し
く飲んでいただくためです。亭主のそういった思いやりに気付くこ
とこそお茶会の醍醐味であり、また、気付くことが亭主への思いや
りとなるのではないかと思います。そのことを考えた時、主客とも
互いに思いやりのあふれる茶道の世界がなんと素晴らしいことか、
また、そのような世界で勉強させていただいている自分が誇らしく
思いました。
今までの気付きの精神、そして思いやりの心について述べてきま
したが、それは茶道に限った話ではありません。茶道から離れた日
常生活においても重要なのです。
していました。私はその形がとてもおもしろく感じましたが、そう
杓とは形が異なり、節から櫂先の部分がちょうど笹舟のように円曲
いう銘がついていました。その茶杓は、普段私達がお稽古で使う茶
た。そのお茶会で使うために準備していただいた茶杓に「笹舟」と
時期は、新緑を過ぎて、段々と暑さが増してくる六月下旬の頃でし
先日、我々鳥取大学医学部茶道部のお稽古の一環として、ご指導
いただいている先生のお宅でお茶会をさせて頂いた時のことです。
先ほど述べた気付くことと思いやりが関わってきます。
な状態を回避するために私達ができることは何でしょうか。そこに
に、ストレスを抱え込んでいる人がいるかもしれません。そのよう
なるケースも珍しくありません。もしかしたら皆さんの友人や家族
るストレスが様々なところに潜む現代社会において、うつ病などに
の健康「メンタルヘルス」の問題が重要視されています。多様化す
る気がします。
いった普段とは違うちょっとした変化に、昔の自分なら気付くこと
まず相手の些細な変化に気付くこと、そしてそれをきっかけに相
手の状態を考慮し思いやること。簡単なようでとても難しいことで
今回、医学生の視点から気付きと思いやりの重要性について述べ
たいと思います。近年、職場や学校、もしくは家庭内において、心
ができなかっただろうと思います。
り、私達は茶道を通して学ぶことができます。
しかし、そうは言っても、普段から気付きの精神や思いやりの心
に意識するのはなかなか難しいです。そこで私は、毎回の部活のお
す。しかしこれらは茶道の精神と根幹の部分でつながったものであ
また、お茶会において、そういった茶道具の趣向をおもしろく感
じるということは、つまりは、亭主の客に対する思いやりを感じる
準備を行うと先生にお聞きしたことがあります。季節に合わせて、
稽古の終わりに唱和する以下の言葉を大事にしています。
ことです。亭主はお客様に楽しんでもらうために、何ヶ月も前から
その茶会の目的に合わせて、茶碗や茶杓などのお道具、お菓子、掛
その道に入らんと思ふ心こそ我身ながらの師匠なりけれ
稽古とは一より習ひ十を知り十よりかへるもとのその一
ことば
しん すがた
の相を学び、それを実践にうつして、たえず己の
私達は茶道の真
心をかえりみて、一盌を手にしては多くの恩愛に感謝をささげ、お
互いに人々によって生かされていることを知る茶道のよさをみんな
に伝えるように努力しましょう
一、道を修めなお励みつつも、初心を忘れぬように
一、他人をあなどることなく、いつも思いやりが先にたつように
家元は親、同門は兄弟で、共に一体であるから誰にあっても
一、 合掌するこころを忘れぬように
一、豊かな心で、人々に交わりの世の中が明るく暮らせるように
「稽古とは一より習ひ十を知り
この中でも私が最も好きな部分は、
十よりかへるもとのその一」という一首です。この首は私なりに、
初めて一を習う時と、十まで習ってから再び元の一に戻って習う時
では受け取り方も異なり、また新しい発見が得られる、という解釈
をしています。つまりは気付くことの重要性を教えてくれます。現
状に満足し、気付くことをやめてしまえばそこで成長は止まってし
まいます。そうならないためにも、毎週金曜の夜、お稽古が終わっ
て皆で唱和するときに、その一週間の自分を振り返りながら一字一
句噛み締めます。
私は現在、医師になるべく大学で医学を学んでいます。限られた
時間に対し学ぶべきことは多く、授業のほとんどは膨大な医学的知
識についてで、人間性を磨く場というのは、十分なほど多くないの
が現状です。しかし将来人と向き合う職業に就く者として、気付き
の精神や相手を思いやる精神は必ず身に付けておくべきものです。
私は茶道を通してそれらを学ぶことができ幸せです。まだ至らない
部分も多いですが、これからも毎週のお稽古を重ね、さらなる精神
の充実をはかりたいと思います。