先生、出版できません! - 一橋大学経済学研究科

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第 11 章
先 生 、出 版 できません!
ただ、どんな書 き物 であれ、人 々に伝 え
たいという気 持 ちが、私 の内 側 のどこかに
あるので、私 のウェッブページに全 章 をアッ
プすることにした。残 念 ながら、今 回 は、プ
ロフェッショナルな出 版 に向 けた原 稿 として、
未 完 の 3 割 についてリファイメントをするとい
う機 会 には恵 まれなかったが、それは、将
来 の楽 しみにとっておきたい。
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私 は、書 籍 であれ、雑 誌 であれ、新 聞 であれ、7 割 がたできた原 稿 の
段 階 で、編 集 者 や周 囲 の人 々に読 んでもらうことにしている。そうする方
が、文 章 の完 成 度 を格 段 に引 き上 げることができるからである。この経 済
学 小 説 集 でも、10 本 の短 編 が、ほぼ 7 割 がたできたところで、担 当 の編
集 者 (イニシャルをとって、NT 君 と呼 ぼう)に渡 した。
NT 君 は、1 週 間 ほどたって、私 の研 究 室 を訪 れた。その時 のやり取 り
は、私 の印 象 に深 く残 るものがあったので、ここでは、小 説 部 を中 心 に、
NT 君 との顛 末 を少 しだけ書 き残 しておきたい。
NT:私 ども で先 生 の原 稿 を検 討 した結 果 、これから申 し上 げること
を、先 生 の方 でご対 応 いただくことをもって、出 版 の条 件 としたいと
思 います。
私 :それは、何 だか穏 やかでないな。
NT:まずは、タイトルです。
先 生 は、「〈定 常 〉の中 の豊 かさについて」としていますが、ここは、
漢 語 の体 言 止 めにしてください。ということは、「〈定 常 〉の中 の豊 か
さ」となります。
私 :それがいいとは思 わんが…
たとえば、J.S.ミルの On Liberty を『自 由 について』ではなく、『自
由 論 』と訳 すことで、あの書 物 の持 っている伸 び伸 びとした感 じが失
われてしまっていると思 えてならないのだな。
NT:それは、先 生 の個 人 的 な感 想 ですね。
同 じ観 点 からですが、第 2 章 の表 題 の「私 たちは、止 まっていて
も走 り続 けている」というのも、他 の章 の表 題 と雰 囲 気 が違 いすぎま
す。漢 語 の体 言 止 めでお願 いします。
私 :もちろん、漢 語 の簡 潔 さというか、すっきり感 は、私 も好 きだが、
それでは、和 語 の感 じが、劣 っているかというと、そういうわけでもない
と思 う。
できれば、「実 相 」とか、「対 話 」とか、「尋 問 」とか、日 常 あまり使
わない言 葉 よりも、日 常 使 う言 葉 で表 題 を表 したいが、私 の語 彙 不
足 もあって、どうしても、難 しい漢 語 に安 易 に頼 ってしまうところがあ
るな。
NT:今 は、先 生 の個 人 的 な感 想 を聞 いているわけではありません。
表 題 の修 正 の件 、よろしくお願 いします。
それでは、本 文 の方 に入 っていきます。
まず、プロローグの最 後 の方 に、「私 は、そうしたことを、自 問 自 答
したいだけなのである」と書 いていますが、このように、個 人 的 な立 場
にとどまっていては困 ります。もっと、「人 々に訴 える」という姿 勢 が伝
わるような言 い回 しに変 えてください。
私 :誰 も困 らないと思 うが…
NT:次 にいきます。
第 1 章 の「中 高 年 の作 文 コンクール」では、理 事 長 を説 明 すると
ころに、「電 話 の声 からは、最 初 の定 年 退 職 後 にいくつかの会 社 を
渡 り歩 いて、今 の理 事 長 のポストに就 いたのであろうと勝 手 に想 像 し
た」とありますが、議 論 の本 質 にかかわらないところは、かならず省 い
てください。
私 :君 は、若 いから、まだ分 からんのかもしれないが、世 の中 的 には、
最 初 の職 場 で「定 年 退 職 」というだけで、「どこかで本 質 的 な能 力 が
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欠 けている」ということを示 唆 すると思 うんだがね…
NT:そんな解 釈 も、先 生 の個 人 的 なものです。
二 人 の作 文 の書 き手 ですが、「ふつうの中 高 年 」にしては、経 済
に明 るすぎます。どちらの作 文 の書 き手 についても、もっとナイーブな
感 じを出 してください。
その上 で、中 高 年 サラリーマンの蒙 を啓 くという形 で、先 生 は、筆
を進 めてください。
私 :君 、中 高 年 をバカにしてはいかんよ。
どちらの書 き手 も、経 済 社 会 で飯 を食 ってきたわけで、経 済 につ
いて明 るいのは当 然 じゃないか。
NT:この章 については、もう 1 点 注 文 があります。
先 生 は、作 文 コンクールの優 秀 作 や佳 作 、あるいは、先 生 ご自
身 が関 心 を持 たなかったものについては、いっさい内 容 に触 れてい
ませんが、それでは困 ります。それらの作 品 についても、もっと具 体
的 に内 容 に踏 み込 んでください。
私 :私 が関 心 を持 っていないことを、わざわざ書 く必 要 はないと思 う
が…
NT:最 後 に、「意 識 高 い系 」というような学 生 言 葉 は、極 力 避 けてく
ださい。
私 どもは、大 人 の読 み物 を目 指 しているわけですから。
てください。
ここの章 の問 題 点 は、「『縮 小 させようとする力 』に拮 抗 しようとす
る個 人 や組 織 の意 思 」とか、「今 の日 本 の状 況 で生 き抜 くことは、
個 々人 が真 剣 に競 争 に向 き合 って、個 人 の成 長 を成 し遂 げていく
ことなのだと思 う」とか、「M 君 は、収 録 の最 後 のところで、『人 生 は、
リーグ戦 、不 戦 勝 ってないんですね』という言 葉 で、長 かった 1 日 の
収 録 内 容 をまとめてくれた」とか、あまりに抽 象 的 すぎます。
これでは、読 者 はついてきません!
私 :読 者 は、君 が思 っているよりも、はるかに優 れた存 在 だと思 うが
な…
NT:私 どもでは、マーケティングを徹 底 していますので、先 生 の感 想
めいた意 見 は、ここではまったく関 係 ありません。
また、先 生 は、ミルに関 するご自 身 のエッセーを 2 本 引 いておら
れますが、2 つ目 は、言 論 に関 する問 題 で、本 書 のテーマである〈定
常 〉とまったく関 係 がないので、省 いてください。
私 :君 は、本 当 に読 んだのかね…
「正 当 の意 見 」が、世 の中 にまっとうな位 置 を占 め続 けるのは、ミ
ルがいうとおり、それに反 対 する意 見 と、それに賛 成 する意 見 が真 っ
向 からぶつかり合 うことがあって、はじめて均 衡 が保 たれるわけだ。
もし、そうした活 発 な論 争 を通 じた拮 抗 関 係 がなくなれば、「正 当
な意 見 」でさえ、忘 却 の彼 方 にいってしまう。
まさに、言 葉 を通 じた活 発 な論 争 は、〈定 常 〉における活 発 な新
陳 代 謝 に対 応 していると思 うが…
私 :そんなものかね…
NT:第 2 章 の方 にいきます。先 に申 し上 げたように、表 題 は、変 更 し
NT:それも、先 生 の思 い入 れというか、思 い込 みというか…
私 どもの調 査 によると、読 者 は、著 者 のそういうところを大 変 に嫌
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がります。
第 3 章 の「ある経 営 者 との対 話 」では、主 人 公 の「私 」が経 営 者
や政 治 家 に会 おうとしないくだりは、本 筋 と関 係 ないので、削 ってくだ
さい。
では、お口 直 しという感 じで、第 5 章 の「父 の株 式 投 資 」に進 んで
みましょう。
この章 は、専 門 用 語 が多 すぎますね。たとえば、「信 用 取 引 勘 定 」
という用 語 も、説 明 せずに用 いないでください。
私 :「私 」は、経 営 者 や政 治 家 に会 って直 接 話 すんでなくて、「書 く」
という行 為 で、広 く人 々に働 きかけてみたいと言 っているわけで、まさ
に、本 書 を編 んでいく根 本 じゃないのかな。
私 :たとえば、君 が小 説 を読 んでいて、すべての用 語 を理 解 してい
ないと、小 説 の筋 が追 えないかね。
NT:それも、先 生 の思 い込 みだと思 いますが…
第 4 章 の「若 者 との対 話 ・3 題 」は、可 もなく、不 可 もなくというと
ころでしょうか。
ここで少 し個 人 的 な感 想 を述 べさせてもらうと、失 業 しても、平 均
して、たった 7 ヶ月 から 10 ヶ月 で次 の職 業 が見 つかるということは、
失 業 っていうものは、そんなに深 刻 じゃないということですね。
(私 は、ここではじめて、不 快 感 をあらわにした。そのぐらい、無 責 任 な感 想 だと
思 ったからである。)
NT:いずれにしても、説 明 してもらいます。
また、章 の最 後 が、「少 なくとも、『父 』が 2009 年 2 月 に入 院 して
以 降 、5 年 余 りの間 は…」で終 わっていますが、先 生 ご自 身 の分 析
の有 効 性 の限 界 を自 白 しているようで、これも、章 の力 を弱 めてしま
います。
省 いてください。
私 :株 式 と為 替 は、こうした文 言 の上 でないと、議 論 を組 み立 てるこ
とはできないね。
この章 の全 体 を、わたしの方 から取 り下 げさせていただく。
私 :そうとってもらっては、困 るな。
ずっと、毎 日 働 くというという規 律 の中 にあった人 間 が、3 ヶ月 以
上 、そうした規 律 から離 れると、元 の規 律 に戻 るのがとてつもなく大
変 なんだ。そういう意 味 では、半 年 を超 える失 業 期 間 は、仮 に失 業
保 険 などで経 済 的 なカバーがあったとしても、一 勤 労 者 には、大 変
な試 練 なんだと思 うよ。
君 のように大 きな出 版 社 に勤 めていれば、失 業 なんて他 人 事 な
のかもしれないが…
NT:勘 違 いされては、困 ります。
私 どもは、「取 り下 げてほしい」とは、一 言 も言 っていません。ただ、
最 後 の一 文 を削 ってほしいと言 っているだけです。
一 方 、第 6 章 の「原 発 事 故 の実 相 」は、章 全 体 を取 り下 げてくだ
さい。本 書 の〈定 常 〉というテーマとまったく関 係 がありません。
それに、先 生 のスタンスは、電 力 会 社 寄 りと取 られかねません。
出 版 社 としては、反 原 発 や脱 原 発 も困 りものですが、原 発 推 進 も
困 りものなんです。
NT:先 生 、そんなに不 機 嫌 にならずとも。もっと気 軽 にいきましょう。
私 :そうかな… 中 庸 の徳 についているつもりだけどな…
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ただ、私 自 身 、君 がいう理 由 とは全 く別 なところで、この章 に限 ら
ず、本 書 全 体 を取 り下 げたい気 分 になってきたな…
君 には分 かってもらえないだろうけれど、40 年 間 を超 える期 間 に
わたって、運 転 規 律 状 態 を高 いレベルで保 つということは、急 激 なメ
モリーの劣 化 に抗 して、並 大 抵 でない力 というか、世 代 を超 えた新
陳 代 謝 が是 が非 でも必 要 なんだよ。
それは、まさに、〈定 常 〉を支 える新 陳 代 謝 じゃないのかな。
また、原 発 事 故 の収 束 に、少 なくとも半 世 紀 の期 間 が見 込 まれ
ている時 に、その問 題 に向 き合 う私 たちが、事 故 当 初 の緊 張 感 を
持 続 し続 けるのも、並 大 抵 の努 力 ではかなわないと思 う。
私 は、常 に、当 時 書 いたものを読 み返 すことで、どうにか、こうにか、
緊 張 感 を保 ってきたと思 うよ。
NT:そんな大 げさなものなのでしょうか…
それにしても、小 説 に出 てくる女 性 編 集 者 は、弱 腰 ですね。編 集
者 たるもの、取 材 対 象 には、もっと強 く挑 むべきだと思 います。
私 :君 なぁ…
それと、ついでですが、小 説 の最 後 のくだりで、たとえ、作 り話 とは
いえ、「息 子 」が「父 」のレポートを読 んだことを、「私 」が勝 手 に想 像
して、わざわざ書 く必 要 はないんじゃないですか。
私 :これは、確 かに、テーマには関 係 がないが、私 の中 では、「息 子 」
が「父 」のレポートを読 んだ契 機 がないと、この話 は成 り立 たないんだ
よ。
君 に話 しても、無 駄 なことだが…
NT:私 どもにとっては、重 要 なことでないと、申 し上 げたまでです。
それでは、第 8 章 の「ある中 央 銀 行 総 裁 の請 願 」ですが、そこそ
こ面 白 いですが、バスティアのくだりは、まったく必 要 ないですね。
私 :君 、本 気 でいっているのか?
NT:本 気 ですよ。どこか悪 いですか?
(私 は、急 に強 い脱 力 感 に襲 われた。私 は、「『希 少 』と『過 剰 』は、経 済 学 でも
っとも重 要 な概 念 なんだけどなぁ…」とだけ言 った。)
NT:それでは、第 7 章 の「元 経 済 官 僚 の手 記 」の方 へ。
先 生 、ここは、説 明 なしに専 門 用 語 を使 いすぎです。たとえば、
交 易 条 件 や GDI なんて、まったく説 明 していない。
私 :君 、きっちりと読 んだのか?
非 常 に重 要 な概 念 なので、簡 単 ではあるけれど、きっちりと書 い
ているつもりだけど。
NT:その「つもり」が曲 者 なのです。私 ども、編 集 のプロが読 んで分 か
らないことが、読 者 連 中 に分 かるはずがないじゃないですか。
NT:先 生 、ご気 分 でも悪 いですか。
先 に進 めてかまいませんか。
第 9 章 の「『官 僚 』たちからの尋 問 」ですが、結 構 楽 しく読 めまし
たよ。
私 :君 にほめられても、ほめられた気 がしないが…
NT:ほめているわけではないですが… プロの編 集 者 として、楽 しく読
めたと言 っているだけです。
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第 10 章 の「エコノミストの手 帳 」ですが、こちらも、まぁまぁですか
ね。ただ、最 後 に、永 井 龍 男 に言 及 している 2 段 落 は、〈定 常 〉とい
うテーマに関 係 がないので、省 いてください。
書 を出 版 させていただきたいと思 っております。先 生 のような御 高 名
な方 の著 作 をラインアップに持 つことは、私 どもとしても、名 誉 なこと
です。
私 :君 は、永 井 を読 んだことがあるのか?
私 :少 し考 えた上 で、電 話 をさせてくれ。
NT:名 前 さえ、知 りません。
NT:私 どものお願 いに、どうか前 向 きにご対 応 をいただけるよう、よい
返 事 をお待 ちしております。
私 :永 井 は、日 々繰 り返 される日 常 の中 で、静 かに、しかし、力 強 く
生 きている人 々を描 いた作 家 ですよ。彼 は、「書 かないところ」で「書
いたところ」を浮 き彫 りにする作 家 でもあった。
〈定 常 〉を描 いた経 済 学 小 説 の最 後 にふさわしいと思 ったんだ
よ。
私 :いずれにしても、「このままでは、先 生 、出 版 できません!」という
ように解 釈 してよいということだな。
NT:別 段 …
しいて言 えば、2 ページのスペースを割 く意 味 が見 当 たりません。
NT:そういうわけでは、けっしてありません。
先 生 のお書 きになられたことの 95%は、「読 者 がついてくる」と思 い
ます。
ただ、残 りの 5%は、本 題 と関 係 がない題 材 だったり、先 生 の勝 手
な思 い込 みや思 い付 きであったり、読 者 を軽 んじる不 親 切 さがあっ
たりで、この 5%でせっかくの商 品 価 値 を低 くしてしまいます。
私 どもがお願 いしているのは、その 5%を削 ってほしい、書 き直 して
ほしいという、たったそれだけのことです。
何 か問 題 があるのでしょうか?
私 :ところで、今 後 は、どうすればよいのかね。
君 も、ここまで言 ってきたわけだから、「本 書 の出 版 はなし」という
ことだな。
そう理 解 してよいのかな。
私 :君 にいくら言 っても無 駄 だろうが、書 き手 というのは、君 が切 り捨
てようとしている 5%の部 分 を書 きたいがために、残 りの 95%を渋 々書
いているという面 もあるんだけどな…
少 し聞 いていいか。
NT:先 生 、誤 解 されては困 ります。
私 どもの指 摘 を受 け入 れていただければ、ぜひとも、先 生 のご著
NT:ええ。
NT:それも、先 生 の思 い込 みで、読 者 には、関 係 がないことですね。
私 :そうか…
エピローグには、感 想 がないのかね。
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私 :君 が編 んだ本 で、1万 部 以 上 の売 り上 げがあったものがあるか。
てくれる「うなちゃん」だけだった。一 人 で「うなちゃん」に行 って、2 時 間 ほど
飲 んでから、家 に戻 った。その夜 に NT 君 の携 帯 に電 話 をして、
NT:いえ、まだ…
「この話 はなかったことにするのが、お互 い様 だな」
私 :そうだろうな、そのやり方 ではな…
私 も、「売 れる本 」について、偉 そうなことをいえる何 物 も持 ってい
ないよ。
ただ、「読 者 に手 に取 ってもらえる本 」については、編 集 者 と一 緒
に丁 寧 に本 を作 っていくことで、少 しはそうしたところに近 づけるんじ
ゃないかと常 々思 っている。
でも、結 局 は、「あまり売 れない」けどな。
NT:失 礼 ですが、先 生 がこれまで付 き合 ってこられた出 版 社 は、どう
しても営 業 力 が弱 いですから…
その点 、弊 社 は、
私 :そうかもしれんが、あいにく、私 は、ヤクルトファンで、スモールベ
ースボールが大 好 きなんだ。
世 辞 にも、君 とこうして話 して、楽 しかったとはいえんが、でも、いろ
いろと学 ぶところは多 かった。
その点 、礼 をいうよ。
ありがとう。
NT:恐 縮 です。
それでは、良 いお返 事 をお待 ちしています。
NT 君 との打 ち合 わせが終 わったのが、4 時 すぎだった。大 学 の近 くで、
その時 間 にあいている飲 み屋 といえば、ウナギのホルモン焼 きを食 べさせ
と伝 えた。
NT 君 は、電 話 の向 こうで急 にあわてだした。
「先 生 、せっかく書 いた原 稿 ですよ、取 り下 げるなんて、もったいない
じゃないですか」
と懇 願 に近 かった。
私 は、
「研 究 者 っていうのは、何 年 もかけて書 いた論 文 でさえも、却 下 され
るってことに慣 れさせられている人 種 なので、『せっかく』という思 いが
希 薄 なのかもしれんな。では」
と電 話 を切 った。
おそらくは、「原 稿 をもらうまでは慇 懃 に、原 稿 をもらってからは強 引 に」
というのが、NT 君 の勤 める出 版 社 の方 針 なのだろう。確 かに、原 稿 を出
すまでの NT 君 と、出 してからの NT 君 は、別 人 みたいだったな。
ただ、どんな書 き物 であれ、人 々に伝 えたいという気 持 ちが、私 の内
側 のどこかにあるので、私 のウェッブページに全 章 をアップすることにした。
残 念 ながら、今 回 は、プロフェッショナルな出 版 に向 けた原 稿 として、未
完 の 3 割 についてリファイメントをするという機 会 には恵 まれなかったが、そ
れは、将 来 の楽 しみにとっておきたい。
もし、「読 者 に手 に取 ってもらえる本 」を目 指 して、一 緒 に3割 の未 完
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部 分 を埋 め合 わせる作 業 に関 心 のある編 集 者 がいれば、以 下 に一 報
を頂 きたい。
〒186-8601 東 京 都 国 立 市 中 2-1
一橋大学経済学部齊藤誠研究室気付 戸独楽戸伊佐