Nara Women's University Digital Information Repository Title 高層住宅環境の防犯性能に関する研究 : 内容の要旨および審査の結 果の要旨 Author(s) 瀬渡, 章子; 湯川, 利和; 近藤, 公夫; 梁瀬, 度子; 高口, 恭行; 西村, 一朗; 石川, 実 Citation 博士学位論文 : 内容の要旨及び審査の結果の要旨, Vol.6, pp.5-12 Issue Date 1989-03-25 Description 博士(学術),博課乙第8号,昭和63年12月22日授与 URL http://hdl.handle.net/10935/1257 Textversion publisher This document is downloaded at: 2016-03-23T18:32:28Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace 氏 名(本 籍) 瀬 渡 章 子(兵 庫県) 学 位 の 種 類 学 術 博 士 学 位 記 番 号 博論第8号 学位授与年月 日 昭和63年12月22日 学位授与の要件 学位規則第5条 第2項 該当 人間文化研究科 論 文 題 目 高層住宅環境の防犯性能に関する研究 論 文 審 査 委 員 (委員長)教 授 湯川 利和 教授 近藤 公夫 教授 梁瀬 度子 教授 高 口 恭行 教授 西村 一朗 教授 石川 実 論 文 内 容 の 要 旨 近 年 、 わ が 国 で は都 市 の 開 発 密 度 は上 昇 し、高 層 住 宅 環 境 が増 加 して き た。 この環 境 は 、低 中層 住 宅 環 境 で は ほ とん ど見 られ な い エ レベ ー ター ・あ ま り日常 利 用 さ れ な い避 難 階 段 ・日常 利 用 を前 提 に した屋 上 ・よ り広 い オ ー プ ンス ペ ー ス とい った公 的性 格 が強 く、居 住 者 の 目 の と ど き に くい エ リア を有 して い る。 ま た高 層 住 宅 環 境 の 居 住者 の流 動 性 は相 対 的 に高 く、近 隣 関 係 の希 薄 な コ ミュ ニ テ ィを形 成 して い る。 高 層 住 宅 環 境 で は、 これ らの空 聞特 性 と居 住 者 属 性 に よ って 、 伝 統 的 な 低 層 住 宅 環 境 で は可 能 とな って い る居 住 者 集 団 に よ る 「集 落 防 護 」 は難 しい もの に な って い る 。 そ の よ うな状 況 の も とで 、高 層 住 宅 で は あ る種 の 犯 罪 が 相 対 的 に発 生 しや す くな って お り、居 住 者 は こ の種 の犯 罪 の犠 牲 に な る とい う不 安 感 を いだ き、 夜 聞 にお け る単 身 で の 外 出行 動 を 自粛 す る傾 向 が で て きて い る。欧 米 諸 国 で は、 と くに敷 地 や 住 棟 へ の部 外 者 の 出 入 りを コ ン トロー ル して い な い低 中所 得 階層 向 け高 層 住 宅 環 境 は、 そ の空 間 特 性 の た め に他 の居 住 形 態 と比 較 して追 剥 な どの対 人 犯 罪 の 発生 率 が相 対 的 に高 い こ とが 報 告 さ れて い る。 わ が 国 で も、 エ レベ ー タ ーや 屋 上 を 中 心 に 犯罪 が多 く発生 す るよ うに な り、住 宅 建 設 部 門 に お いて も この問 題 へ の有 効 な 対 策 を模 索 して い る。 し か しわ が 国 で は、犯 罪 発 生 と空 闇 特 性 の関 係 が ほ とん ど解 明 され て い な い た め に、 空 間 設 計 に よ る 実 効 性 のあ る犯罪 防止 策 が こ う じ られ て い る とい え な い状 況 がず っ と続 いて 今 日 に い た って い る。 本 研 究 の 目的 は、高 層 住 宅 環 境 の空 間特 性 と犯 罪 お よ び犯 罪 不 安 感 との関 係 を克 明 に解 明 し、新 設 お よ び既 存 の高 層住 宅 環 境 の 防犯 性 能 を高 め るた め に わ が 国 の現 状 に見 合 った計 画 ・設 計 ・管 理 5 の指 針 を見 出す こ とで あ る。 本 論 文 は 、序 論(1、2章)、 本 論(3∼11章)、 結 論(12章)の3部 構i成とな って い る。以 下 、 章 ご とに要 旨 を述 べ る。 第1章 研 究 の 目的 と方 法 この章 で は 、研 究 の背 景 、 意 義 、 目的 に っ い て述 べ る とと もに 、研 究 方 法 、仮 説 、 本 論 文 にお け る中心 的概 念 、 お よ び調 査 概 要 を説 明 して い る。本 研 究 で の 中心 的 概 念 は 、「自 然 的 監 視 可 能 性 」 お よ び居 住 者 のく なわ ば り意 識 〉 に 基礎 を お く 「領 域 性 」 で あ り、 これ ら2っ の概 念 に よ って 住 環 境 の空 間 的 特 性 が記 述 され て い る とい え る。 研 究 全 体 は 、高 層 住 宅 環 境 の 望 ま し くな い空 間特 性 が犯 罪 発 生 お よ び入 居 者 の犯 罪 不 安 感 に与 え る影響 に っ い て の仮 説 を設 定 し、 そ れ を 検証 す る とい うか た ち を と って い る 。仮 説 検 証 は 、主 に居 住者 に た い す る質 問 紙 調 査 に よ って 収集 した サ ンプ ル を解 析 す る こ とに よ って行 って い る。 この一 連 の質 問紙 調 査 は1976年 か ら85年 まで の10年 間 に実 施 さ れ 、22の 団 地 か ら6,905の サ ン プ ル を 収 集 して い る。 第2章 高 層 住 宅 と犯 罪 にか か わ る基 礎 的 考 察 この章 で は研 究 全 体 の背 景 と な る事 項 を と りあ げ 、以 下 の点 に っ い て言 及 して い る 。 ① 産 業 革 命 以 後 に生 じた都 市 問 題 の解 決 を め ざ して建 設 さ れ た高 層 住 宅 環 境 は 、 い か な る点 で居 住者 の基 本 的 な ニ ー ズ を軽 視 した もの にな って い るか 。 ② あ る種 の犯 罪 の発 生 率 が 相 対 的 に高 い に もか か わ らず 、 わ が 国 で は経 済 性 等 を重 視 す る こ とに よ って な お犯 罪 発 生 率 の高 い高 層 住 宅 環 境 の 建 設 が 継続 され て い る こ と。 ③ 少 年 犯 罪 が近 年 一 貫 して 増 加 しっ っ あ る こ と、 高層 住 宅 が相 対 的 に多 く建 設 さ れ る大 都 市 は犯 罪 発生 率 が相 対 的 に高 い こと 、 お よ び近 年 、 高 層 住 宅建 設 が増 加 しっ っ あ る こ と、 これ らの要 因 に よ って 高層 住 宅 犯 罪 が増 加 す る可 能 性 を有 して い る こ と。 ④ 本研 究 の学 説 史的 位 置 づ け。 集 合 住 宅 計 画 学 分 野 の 「領 域研 究 」 小 史 。 第3章 面 開 発市 街 地 高 層 団 地 の防 犯 性 能 の検 討 この 章 で は昭和40年 代 初 期 に開 発 さ れ た3っ の面 的 開 発 団地 の 防 犯性 能 を 検討 した 。 そ の結 果 、 団 地 設 計 の 基 本 に か か わ る多 くの知 見 が見 出 され て い る。 と くに問 題 の あ る空 間要 素 は、 住 戸 と半 公 的 エ リアの 間 の視 線 を通 さ な い障 壁(コ ンク リー ト塀 、 築 山 等)、 日常 的 利 用 が 意 図 さ れ ア ク セ ス ・コ ン トロ ー・ ル され て い な い屋 上 、 エ レベ ー タ ー 、 お よ び死 角 の多 い団 地 内 公 園 で あ る こ とを 確 定 して い る。 また ライ フス タイ ル の異 な る世 帯 の混 住 状 態 や 空 き家 の発 生 が 犯 罪 を 誘 引 す る可 能 性 6 を もっ こ とを 明 らか に して い る。 第4章 防 犯 性 能 の住 宅 形 態 間 比 較 この章 で は、 同 じ団 地 の 中 に異 な る住 宅 形 態(接 地 住 宅 、 中層 住 宅 、高 層 住 宅)を もっ 事 例 を と り あ げ比較 分 析 を行 って い る。 そ の結 果 、接 地 住 宅 は対 人 犯 罪 発 生 率 も低 く、住 居 者 の屋 外 公 的 エ リア に た いす る領域 意 識 も高 い こ とを見 出 して い る。 中 層 と高 層 の 比 較 で は、 中層 で は屋 外 窃 盗 の 発 生 率 が相 対 的 に高 く、 高 層 で は身体 に 直接 危 害 の加 わ る性 犯 罪 の発 生 率 が相 対 的 に 高 い こ とを 見 出 して い る。 ま た最 も典 型 的 な 高 層 住 宅 は、 エ レベ ー ター で の居 住 者 の顔 見 知 り度 や 領 域 意 識 が 低 く、高 層 環 境 に お い て犯 罪 が 最 も発 生 す る可 能性 の あ る空 間要 素 の一 っ で あ る ことが 見 出 され て い る。 第5章 超 高 層 住 宅 環 境 の 防 犯 性 能 の検 討 この章 で は 、住 棟 内 部 へ の ア クセ ス ・コ ン トロー ル の な い15階 建 以 上 の超 高 層 住 棟 を含 む3団 地 か ら収 集 した サ ンプ ル を検 討 して い る。 そ の結 果 、 市 街地 立 地 の 団地 の性 犯 罪 発 生 率 は高 く、 ま た い ず れ の 団地 も犯 罪 に た いす る女 性 の不 安 感 が 高 い こ とが 見 出 され て い る。高 層 化 に よ る幼 児 の 屋 外 遊 び の 阻 害 を 緩和 しよ う と して設 置 さ れ た 中間 階 の遊 び場 は、 遊 び場 と して の要 件 を 充 足 して いな いた め に利 用 率 が 低 い と と もに 、反 社 会 的 な活 動 の場 と な り、 入 居 者 に不 安 を 与 え て い る こ と が 見 出 され て い る。 第6章 防 犯 性 能 か らみ た エ レベ ー タ ー共 用 戸 数 の 検 討 通 常 の高 層 住 宅 で は 、 エ レベ ー ター は経 済 性 重 視 に よ って1台 当 た りの共 用 戸 数 を 概 ね80∼100 戸 とな る よ う、 ま た利 用 者 の待 ち時 間 を短 くす るべ く2台 以 上 を併 置 す る場 合 が 多 い。 この章 で は、 エ レベ ー タ ー1群(1台 の場 合 も群 と呼 ぶ 。通 常 は2台 以 上 で1群 を形 成 して い る。)当 た り の 共 用 戸 数 と防 犯 性 能 との 関 係 を 検討 して い る。2台 以 上 で構 成 さ れ るエ レベ ー タ ー1群 を100戸 以 上 で共 用 して い る典 型 的 な高 層 住 棟 と1群(1台)の エ レベ ー ター を1フ ロア2戸 で 共 用 す る高 層 住 棟 を比 較検 討 して 、エ レベー ターで の顔 見知 り度 、 領域 意 識 、犯 罪 不 安 感 、犯 罪 発 生 の点 で 、 ま た住 戸 に お け る通 風 ・採 光 な ど に関 す る居 住 者 評 価 の点 で 、 後者 が優 れ て い る こ とを明 らか に して い る。 第7章 広 い オ ー プ ンス ペ ー ス を もっ 高 層 団 地 の防 犯 性 能 の検 討 複 数 の住 棟 か ら成 る高層 住 宅 団 地 の多 くは 、街 路 に沿 って住 宅 が建 ちな らぶ 一 般 市 街 地 と は異 な り、監 視 の 目が 届 きに くい広 い オ ー プ ンス ペ ー ス を確 保 し、 団地 内 は 自動 車 交 通 が極 力 少 な くな る よ う設 計 さ れ て い る。 そ のた め夜 間 に団 地 内 を歩 行 す る者 は、走 行 中 の 自動 車 や住 戸 か ら見 守 られ 7 ず に、 オ ープ ンス ペ ー ス を通 らな けれ ば帰 宅 で き な い こ とが あ る。 この章 で は 、 そ の よ うな空 間 特 性 を もつ2つ の 団地 に つ い て 、居 住 者 の夜 間 帰 宅 時 の不 安 感 と保 身 行 動 に つ いて 検 討 して い る。 そ の結 果 、 住 戸等 か らの監 視 が得 られ ず 、広 い オ ー プ ンスペ ー ス に面 して い る歩 路 で は女 性 が性 犯 罪 の被 害 にあ う こ とが多 い こ と、 ま た可 能 な場 合 に は相対 的 に安 全 だ が多 少 迂 回す る必 要 の あ るル ー トを と る傾 向 が 見 出 さ れ て い る 。 第8章 業 務 施設 併 設 高 層 団 地 の防 犯 性 能 の検 討 高 層 住 棟 の 下 層 階 に店 舗 ・事 務 所 な ど の業 務 施 設 が 併設 され る こ とが あ る。 この種 の施 設 は、 団 地 外 の人 々 を 誘 引 す るた め 、団 地 空 間 の匿 名 性 を増 大 させ る と と も に、地 上 レベ ル の 自然 的監 視 を 難 し くす る こ とを 通 じて 、団 地 の防 犯 性 能 を低 下 させ る こ とが あ る。 この章 で は、業 務 施 設 併 設 高 層 団 地 を2例 と りあ げ て検 討 して い る 。 そ の結 果 、住 棟 内 に犯 罪 企 図者 の 侵 入 を許 し、 そ の た め に 入 居 者 の不 安 感 を 高 め て い る事 実 が見 出 され て い る。 第9章 防 犯 志 向 型 高層 団地 の 防犯 性 能 の検 討 既 存 の高 層 団 地 に は 「防 犯志 向型 」 とい え る もの が少 数 なが ら存 在 す る。 こ の章 で は、最 も性 犯 罪 発 生 率 の高 い屋 内 共 用 ス ペ ー ス の領 域 性 と自然 監 視 可 能 性 を高 め た うえ 、 四 六 時 中 門 番 を 常 駐 さ せ て い る団 地 、 門 番 を 常 駐 させ オ ー トロ ッ ク シス テ ム も採 用 して 敷 地 や 住 棟 へ の部 外 者 の進 入 を コ ン トロ ー ル して い る団 地 、 オ ー トロ ッ ク シス テ ム だ け で部 外 者 の進 入 を コ ン トロ ー ル しよ うと意 図 した団 地 か ら収 集 した サ ンプ ル を比 較 検 討 して い る 。 そ の結 果 、 いず れ も多 少 の犯 罪 防 止 効 果 は認 め られ たが 、 そ の う ち オ ー トロ ッ ク シス テ ム依 存 型 団 地 で は幼 児 の屋 内 外 へ の 出入 りに問 題 が あ る な ど居 住 者 の生 活 を阻 害 す る側 面 が あ る と と もに 、防 犯 志 向 型 団 地 の 中 で は防 犯 性 能 が 相 対 的 に低 い こ とを明 らか に して い る。 第10章 防犯 性 能 改 善 に よ る効 果 の 検討 既 存 の高 層 住 宅 環 境 にお いて 犯 罪 あ るい は反社 会行 為 が著 し く発 生 した場 合 に は 、例 え ば 日常 利 用 を意 図 した屋 上 へ の 出 口 を閉 鎖 す るな どの 費 用 の安 く、逆 効 果 の少 な い犯 罪 を防 ぐ改 造 は た い へ ん 多 く進 め られ て い るが 、 と くに エ レベ ー ター で の 犯罪 発 生 を 防 ぐた め の基 本 的 な改 造 の実 例 は皆 無 に近 い 。 この章 の前 半 で は、 わ が 国 で 唯 一 と いえ るか な り大 規 模 な改 造 事 例 か らの サ ンプ ル を分 析 して い る。 この団 地 の 中心 的 な改 造 点 は エ レベ ー ター に監 視 カ メ ラを設 置 した こ とだ が 、 そ の改 造 の 犯 罪 防止 効 果 を改 造 以 前 と以 後 の犯 罪 発 生 率 お よ び犯 罪不 安 感 を比 較 す る こ とに よ って確 認 し て い る。 ま た この章 の後 半 で は 、防 犯 性 能 を高 め るた あ の 改善 提 案 に た い す る居 住 者 の反 応 に っ い て 解 析 して い る。 8 第11章 高 層 住 宅 の 犯 罪 お よび 犯 罪不 安 感 の解 析 この章 で は、 全 調 査 団 地 にっ いて 居 住者 が受 け た犯 罪 被 害 の定 量 的 ・定 性 的 検 討 を くわ え 、 一 般 住 宅 地 との犯 罪 発 生 率 と比 較 す るた め 警 察 統計 との比 較 を行 って い る 。明 らか に な っ た高 層 犯 罪 の 特 徴 は次 の よ うで あ る。 記 録 され た全 犯 罪 の7割 近 くは窃 盗 だ が 、住 戸 へ の侵 入 窃 盗 は少 な く、 大 半 は乗 物 関 係 の窃 盗 だが 、一 方 性 犯 罪 は全 犯 罪 の2割 近 くを しめ 、大 半 は身 体 に直 接危 害 が加 わ る もの で あ り、 ま た大 半 は エ レベ ー タ ー な どの 屋 内 共 用 エ リア で 発生 して お り、犯 罪 の性 格 上 警 察 へ の届 け率 が た い へ ん低 い こ とが 見 出 され て い る。 第12章 結 論 この章 で は、 ま ず最 初 に記 録 され た犯 罪 実 態 にっ いて の要 約 を 行 い、 次 に 序 章 で 設 定 した25項 目 に分 節 して提 示 した仮 説 が本 論 で述 べ た解 析 に よ って ど の程 度 検 証 す る こ とが で きた か を 記 述 し て 締 め括 り と して い る。25項 目の うち 「環 境 イ メ ー ジが 相 対 的 に貧 困 な イ メ ー ジを もっ と き に 相 対 的 に犯 罪 発 生 率 が 高 くな る」 とす る仮 説17を 除 い て概 ね検 証 され た と結 論 さ れ て い る。 最 後 に これ らの検 証 され た仮 説 に も とつ いて 、空 間 的 防犯 性 能 が高 くな る と と もに、 他 の点 で 住 生 活 を阻 害 す る こと の少 な い と判 断 され る高 層 住 宅環 境 を計 画 ・設 計 す るた めの原則 にっ いて提 案 をお こな っ ている。 9 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 犯 罪 の発 生 機構 は、犯 罪 心 理 学 や犯 罪 社 会 学 に よ って 、遂 行 者 等 の心 理 ・社 会 的経 済 的特 性 、 あ る い は社 会 環 境 との 関係 に っ い て解 明 さ れ て きたが 、 生 活環 境 の空 間 的特 性 との関 係 で解 明 され る こと は少 なか った 。 これ は、近 代 警 察 機 構 確 立 以 前 の伝 統 的 な生 活環 境 にお いて は犯 罪 防止 は主 に 居 住 者 集 団 の集 落 防備 に よ る もの で あ り、集 落 もそ の よ うな 自衛 を 支援 す る よ う空 間構 成 され て い て 、 空 間 特 性 を 変更 す る こ とに よ って犯 罪 を そ れ以 上 に防 止 す る と い う発想 が生 まれ な か った た め と考 え られ る。 この よ うな状 況 は近 代 警 察 機 構 が創 立 され た後 も一 世 紀 以 上 続 いて きた 。 しか し西 欧 諸 国 や 合衆 国 で は1960年 代 に建 物 内 部 へ の部 外 者 の進 入 を コ ン トロ ー ル す る 門 番 の 常 駐 しな い、 エ レベ ー ター を設 置 した高 層 住 宅 が庶 民 向 け に大 量 に建 設 され る よ う に な っ た。 特 に 合 衆 国 で は時 期 を同 じく して 犯罪 発 生 率 が急 増 し、都 市 に立 地 す る上 記 の高 層 住 宅 は、 同 じ立 地 条 件 ・同 じ社 会 経 済 階 層 の 居 住 す る低 中層 住 宅 よ り犯 罪 に見 舞 わ れ る よ うに な り、生 活 環 境 の空 間 特 性 と犯 罪 発 生 の関 係 にっ いて の研 究 も多 くな さ れ るよ うに な っ た。 この こ と も一 因 で70年 代以 後 に は上 記 の よ うな空 間 特 性 ・管理 特性 を もっ高 層 住 宅 の建 設 は皆 無 に な って い る。 わ が国 で は 、欧 米 諸 国 に10年 ほ ど遅 れ て 、上 記 の よ うな特 性 を もっ 高 層 住 宅 が 大 都 市 圏 を 中 心 に大 量 に建 設 され 、85年 現 在 で は全住 宅 ス トッ クの約4%、 京 都 ・大 阪 府 で は住 宅 フ ロ ー(年 間 建 設 戸数)の25%前 総 戸 数180万 戸 に 達 して い る し、 東 後 に達 して い る。 この 「高 層 住 宅 環 境 の防 犯 性 能 に 関 す る研 究 」 は、 わ が国 の諸 般 の事 情 か ら して 、高 層 住 宅 の建 設 を 中止 して低 中層 住 宅 を建 設 す る こ と は不 可能 に近 い とい う現 状 認 識 の も とに 、空 間 的 防 犯 性 の 高 い高 層 住 宅 環 境 の計 画 ・設 計 ・管理 の指 針 を見 出 す べ く、既 存 の高 層 住 宅 環 境 と犯 罪 発 生 との関 係 を克 明 に解 析 した もので あ る。 本 研 究 は 、 そ の 目的 の た め に、 計 画 ・設 計 ・管 理 の指 針 に結 び っ く25に 分 節 さ れ た 仮 説 を提 示 し、 そ れ らを逐 一 検 証 す る の に適 切 な 空 間 特 性 を 有 す る高 層 住 宅 環 境 、 お よ び対 比 さ せ る べ き低 中 層 住 宅 環 境 を慎 重 に調 査 対 象 ど して 選 定 し、 じ ゅ うぶ ん統 計 的有 意 差 を得 る こ との で き るサ ンプ ル 数 を収 集 して 、克 明 に解 析 して い る。 この研 究 は次 の点 で高 く評 価 す る こ とが で き る。 1.わ が 国 で は 、犯罪 発生 と空 間特 性 との関 係 を克 明 に解 析 した研 究 は、 全 く最 初 の もの で あ る こ と。 2.提 示 さ れ検 証 され た 仮説 体 系 は、現 実 の環 境 計 画 指 針 体 系 に翻 訳 可 能 な もので 、 実 践 的 意 義 を 有 して い る こ と。 3.こ 10 の研 究 に お け る仮 説 設 定 は、計 画 ・設 計 ・管 理 の各 実 務 レベ ル 、住 戸 ・屋 内 共 同 ス ペ ー ス ・ 屋 外 共 同 ス ペ ー ス な ど の各 空 間 レベ ル、 お よび業 務 施 設 併 存 高 層 住 宅 、 ライ フ ス タ イ ル の異 な る 居 住 者 の混 住 す る高 層 住 宅 、空 き家 の多 い高 層 住 宅 な ど さま ざ ま な高 層 住 宅 タ イ プ に も及 ぶ もの で 、体 系 的 か っ総 合 的 な もの に な って い る こ と。 4.こ の研 究 にお け る仮 説 の 検 証手 続 き は多 数 の変 数 を扱 わ ね ば な らな いた め た いへ ん輻 較 した も の に な る可 能 性 が た いへ ん高 いが 、 類 似 した 立 地 特 性 ・居 住者 属性 を有 す る異 な った空 間 特 性 の 高 層 住 宅 を調 査 対 象 と して選 定 し相 互 比 較(一 対 比 較)す る と い った調 査 解 析 手 法 を採 用 す るな どの配 慮 に よ って 、 そ の困 難 を克 服 す る よ う努 め 、 そ の 検 証手 続 に 厳密 性 ・科 学 性 を もた せ て い る こ と。 5.犯 罪 と空 間 特 性 との 関 係 にっ い て の解 析 に お い て は 、 この研 究 の 目的 に は 「少 なす ぎ る」 犯 罪 を変 数 とす るだ け で な く、犯 罪 に影 響 す る変 数 、 あ る い は犯 罪 を 代 理 す る変 数 と して 、 あ る時 聞 帯 ・あ る場 所 で の居 住 者 の顔 見 知 り度 、領 域 意 識 、 犯 罪 不安 感 とい った概 念 を導入 す る こと によ っ て 、 統計 的有 意 差 の あ る結 果 を得 る と と もに 、空 聞 特 性 と犯 罪 を結 ぶ 関 係 の 解 析 を 詳 細 な もの に し、 空 間特 性 を主 因 とす る犯 罪 発 生 機 構 あ るい は犯 罪 防 止 機 構 を リア リテ ィを もった 理 解 しや す い も の にす る こ と に成 功 して い る。 6.領 域 性 を確 立 し、 自然 的 監 視 の機 会 を盛 り込 ん だ 、 居 住 者集 団 自身 に よ る集 落 防護 機 能 が 作 用 す る こ とを 前 提 と した いわ ば 自衛 型 と もい うべ き高 層 住 宅 環 境 だ けで は な く、 門 番 常 駐 型 や オ ー トロ ック設 置型 の 高 層 住 宅環 境 も検 討 対 象 に加 え 、後 二 者 が必 ず し も優 れ た防 犯 効 果 を有 して い な いだ けで な く、 住生 活 にた い して副 次 的逆 効 果 を もっ もの で あ る こ とを明 らか にす る な ど 、 そ の結 論 は た いへ ん 多 面 的 ・多 角 的 な もの に な って い る。 7.こ の研 究 か ら導 きだ さ れ る で あ ろ う設 計 指 針 に もとつ い た仮 想 の 自衛型 高 層 住 宅 環 境 に か な り 類 似 した空 間 特 性 を 有 す る既 存 の 高層 住 宅 環 境 を も見 っ け だ し、調 査 対 象 と して選 定 し、 そ の防 犯 性 能 が 多 数 の高 層 住 宅 環 境 に比較 して相 対 的 に高 い こ とを 明 らか にす る こ とに よ って直 接 的 に 仮 説 の有 効 性 を証 明 す る と と も に、 そ の住 宅 環 境 で は特 に住 戸 内 の居 住 性 も相 対 的 に良 好 で あ る こ と な ど、 随 伴 的 効 果 を も明 らか にす るな ど、見 出 され た知 見 が豊 か で あ る こ と。 8.ま た わ が国 に しか存 在 しな い 、幼 児 の屋 外 遊 び の阻 害 条 件 を緩 和 す る こ とを 意 図 して 設 け られ た中 間 階 の プ レイ エ リア にっ いて も検討 を くわ え 、 この空 聞要 素 が と くに 自然 的 な監 視 を うけ な い た め に、 犯 罪 ・反 社 会 的行 為 を誘 発 す る と と もに 、幼 児 の遊 び場 と して も要 件 に欠 け る こ とが あ る た め に あ ま り利 用 され な い もの にな って い て 、 そ の設 置 意 図 自体 が基 本 的 に無 効 な もの で あ る こ と を明 らか にす るな ど、 随 伴 的 に見 出 され た知 見 に もか な り有 意 義 な もの が あ る。 9,今 後 に建 設 さ れ る高 層 住 宅 環 境 の空 間 的 防 犯 性 能 を向 上 させ る方 策 のみ な らず 、既 存 の高 層 住 宅 環 境 の防 犯 性 能 改 善 のた め の 空 間 的 方 策 ・管理 的方 策 を も探 りだ そ う と努 め 、事 例 調 査 に も と つ いて 解 析 し、 一 定 の有 効 な 結論 を 得 て い る。 11 10.こ の研 究 か ら得 られ た結 論 は 、生 活 環 境 計 画 理 論 体 系 を 発展 させ 深化 さ せ る もの で あ る こ と。 この 「高 層 住 宅 環 境 の防 犯 性 能 に関 す る研 究 」 に お い て は 、残 さ れ た課 題 も少 な くな い。 た と え ば(1)合 衆 国 とわが 国 の比 較 可 能 な高 層 住 宅環 境 を比 較 検 討 し、空 間 特 性 の み な らず 、広 義 ・狭 義 の社 会環 境 を も変 数 と した総 合 的 な犯 罪 発 生機 構 を解 明 す る課 題 、(2)わ が 国 に お け る既 存 の 高 層 住 宅 環 境 の空 間的 ・管 理 的 防 犯 性 能 の総 合 的 な 改善 方 策 とそ の費 用 対 効 果 を 明 らか にす る課 題 、(3) 本 研 究 で 得 られ た指 針 に基 づ いて 建 設 され る高 層 住 宅環 境 の 費用 対 効 果 を 明 らか にす る課 題 な ど が あ る。 しか しいず れ の課 題 も、調 査 対 象 へ の ア クセ スが 困難 で あ る こ と、 あ るい は調 査 対 象 自体 が 現 在 の と こ ろ皆 無 で あ る こ とな ど研 究 遂 行 上 の 困 難 が きわ め て 大 きい 。 本 審 査 委 員 会 は、 この提 出論 文 「高 層 住 宅 環 境 の 防 犯 性 能 に 関 す る研 究 」 は、現 在 ま で可 能 な か ぎ り最 善 に近 い研 究 努 力 が な さ れ た もの と判 断 す る と と もに 、上 述 した評 価 す るべ き諸点 を考 慮 し、 本 人 間 文 化研 究科 の学 術 博 士 の称 号 を授 与 され る に足 りる十 分 な水 準 の研 究業 績 にな りえて い る と、 判 断 す る もの で あ る。 12
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