第III章 世界の農産物需給をめぐる種々の制約要因 - 83 - 1. 農業生産の特質や穀物等の貿易の特殊性 (貿易率が低く、供給が特定国に限られている農産物貿易) 農業生産は、自然条件の制約を強く受けること 図 Ⅲ-1 主要穀物等と鉱工業品の貿易率 から生産量の変動が大きいほか、生産に一定の期 % 100 間を要するなど、需給事情の変動に迅速に対応す 80 ることが困難であるという特質を持っている。ま 60 た、このような特質に加え、農産物貿易について 40 も、農産物は、基本的にまずそれぞれの生産国の 54 20 国内消費に仕向けられ、その余剰が貿易に回され 20 0 る傾向にあり、貯蔵も工業製品と比較して劣るこ 7 小麦 米 35 34 大豆 乗用車 12 とうもろこし 原油 資料:米国農務省「Production, Supply and Distribution Online (2012.2)」(2009 年度の数値)、IEA「Key World にある。(図 Ⅲ-1、図 Ⅲ-2) Energy Statistics 2011」(2009 年の数値)、(社)日本自 動車工業会調べ(2009 年の数値)を基に農林水産省で作 また、少数の特定の国・地域が主要農産物の輸 成。 出について大きな割合を占める構造となっている。 注1:貿易率=輸出量/生産量×100 注2:乗用車の輸出量は主要国 10 か国の輸出量(台数)の 特に、とうもろこしと大豆については、米国、南 計。 とから、生産量に占める貿易量の割合が低い傾向 米諸国等上位 3 か国による輸出シェアがそれぞれ 図 Ⅲ-2 肉類の貿易率 世界全体の8~9割を占める「寡占」状態となっ ている。(図 % 100 Ⅲ-3) 80 このような農産物貿易上の特殊性がある中、輸 60 出国においては、予測が困難な干ばつ等自然災害 40 や農産物価格の急激な価格高騰による輸出量の増 20 加などで自国の需給がタイトになった場合には、 0 国内消費を優先し輸出規制等で国内の需給安定を 図ることもある。 なお、2006/07 年度及び 2007/08 年度には、穀 物の期末在庫率が過去に最も低水準となった 図 騰するなど穀物等の需給のタイト感が増した中で、 8 豚肉 鶏肉 Ⅲ-3 主要農産物の輸出国別シェア % 100 穀物等の輸出規制が広がりを見せ、さらに価格の 80 高騰に拍車をかけた。このような中、2008 年前半 60 にはアフリカ、アジア等の途上国を中心に食品価 40 格の高騰等に伴う抗議行動や暴動などが相次いで Ⅲ- 20 5)また、2010 年末から北アフリカや中東で発生 0 Ⅲ-4、図 7 牛肉 資料:米国農務省「Production, Supply and Distribution Online (2012.2)」(2009 年度の数値)を基に農林水産 省で作成。 注1:貿易率=輸出量/生産量×100 1970 年代前半と同水準まで低下し、国際価格が高 発生する事態となった。(図 15 その他 オーストラリア ロシア その他 ウクライナ ブラジル その他 アルゼンチン パキスタン カナダ EU27 ブラジル ベトナム 米国 米国 タイ 米国 小麦 インド 米国 その他 アルゼンチン とうもろこし 米 大豆 した大規模反政府デモや抗議活動(アラブの春) についても、食料価格の高騰が発生の一因になっ 資料:米国農務省「Production, Supply and Distribution Online (2012.2)」(2009 年度の数値)を基に農林水産 省で作成。 - 84 - たとみられている。 農産物の輸出規制の状況(2007 年後半~2008 年) 図 Ⅲ-4 ベラルーシ ウクライナ カザフスタン ネパール シリア ロシア セルビア レバノン ヨルダン エジプト ギニア 中国 バングラデシュ ホンジュラス ミャンマー ベトナム エクアドル カンボジア ボリビア カメルーン エチオピア ケニア タンザニア ブラジル アルゼンチン イラン ザンビア インド スリランカ マラウィ パキスタン 輸出規制の種類 ①輸出量の規制のみ (輸出禁止又は輸出枠の設定) ②輸出価格の規制のみ (輸出税賦課及び輸出最低価格の設定) ①及び②の両方を実施 実施国数 25ヵ国 1ヵ国 5ヵ国 図 Ⅲ-5 凡例 資料:FAO「 Crop Prospects and Food Situation, No. 5, December 2008 」により、農林水産省 で作成。 注:2007年中頃から2008年12月中旬の間に実施さ れた輸出規制を対象としている。 食料をめぐる抗議運動や暴動(2008 年前半) エジプト チュニジア ハイチ エチオピア モロッコ ウズベキスタン メキシコ モーリタニア バングラデシュ フィリピン ブルキナファソ インドネシア セネガル ソマリア ギニア シエラレオネ コートジボワール イエメン 凡例: モザンビーク カメルーン 資料: 新聞、ネット等による情報(平成 20 年5月7日現在) - 85 - 麦関係 米関係 とうもろこし関係 その他・不明 2. 中長期的にみた食料需給見通し (今後 10 年間、世界の食料需給は需要が供給をやや上回る状態が継続、価格も高い水準、かつ上昇傾向 で推移) 図 Ⅲ-6 世界の人口と 1 人当たり実質 GDP 近年の国際的な食料需給の背景には、中国やイ 1人当たりGDP(右目盛り) (ドル/人) ンド等の途上国の経済発展による食料需要の増大、 140.0 (10百ドル増) 120.0 世界的なバイオ燃料の原料としての穀物等の需要 (19百ドル増) 10,000 7,875 5,782 4,927 7,500 5,000 100.0 (億人) 増大、地球規模の気候変動の影響といった今後と 80.0 も継続する構造的な要因があるものと考えられる。 60.0 こうした中、農林水産省農林水産政策研究所に 40.0 よる 2021 年における世界の食料需給の見通し(予 20.0 人口(左目盛り) (9億人増) 59億人 測結果)では、今後も穀物等の需要が供給をやや 2,500 77億人 0 64.5 55.9 47.1 0.0 (9億人増) 68億人 途上国 -2,500 -5,000 11.8 12.3 12.8 1997年 2009年 2021年 先進国 -7,500 -10,000 上回る状態が継続し、穀物等の価格も 2007 年以 資料:世界銀行「World Development Indicators 2011」、 国連「World Population Prospects:The 2010 Revision」から試算。 とみられている。 : 注:図中の 1997 年、2009 年の数値はそれぞれ 1996-98 年の 3 か年平均、2008-10 年の 3 か年平均の数値。 この予測は、2009 年を基準年として 2021 年の (本節中、以下同じ。) 前に比べ高い水準で、かつ、上昇傾向で推移する 食料需給を見通したものであり、その前提となっ ている人口は、アジア、アフリカなどの途上国を 図 Ⅲ-7 BRICs等の経済成長率の見通し 中心に増加し、2021 年には 77 億人に達し、1 人 (%) 当たり実質 GDP も 7,875 ドルまで増加する見通 15.0 しである。また、多くの先進国が経済成長に対す 10.0 る財政的かつ構造的な課題を抱える中で、欧州の 5.0 中国 インド ソブリン債務危機などを契機として、世界経済の ロシア ブラジル 米国 日本 0.0 下振れリスクが高まり、各国の経済成長見通しが -5.0 不透明になる一方、インフレ懸念を抱えつつも新 -10.0 興国及び途上国の経済成長率は中期的には比較的 1996年 2000年 2004年 2008年 2012年 2016年 2020年 高い水準で推移すると見込まれ、引き続き途上国 資料:IMF「World Economic Outlook 2011」から試算。 の人口増加や経済発展が食料需要に大きく影響を 与えていくことが伺える。(図 Ⅲ-6、図 Ⅲ 図 Ⅲ-8 穀物消費量と 1 人当たり年間肉類消費量 -7) 予測結果では、人口増、所得向上、飼料需要増、 費量は 27 億トンに達する見通しである。特に、肉 2,000 35 穀物消費量(左目盛り) (5億トン増) (6億トン増) 22億トン 16億トン (29%増) 737 (34%増) 27億トン 952 1,000 1,053 (24%増) 1,300 121 0 1997年 2009年 (19%増) (28%増) 30 25 20 552 を確保するには、単収の伸びに加え、これまでほ ぼ一定で推移してきた収穫面積の増加が必要とな 40 1,548 食用等 類消費量の増加などから飼料用等の穀物消費量は 45 飼料用 3,000 (kg/人/年) (11kg増) (百万トン) バイオ燃料向け需要増等に伴い、世界の穀物の消 29%と高い伸び率を示している。この穀物消費量 1人当たり年間肉類消費量(右目盛り) (5kg増) 4,000 15 10 5 155 2021年 0 バイオエタノール 原料用 資料:農林水産政策研究所「2021 年における世界の食料 っているが、それでも、消費の増加に追いつか 需給見通し」(以下「食料需給見通し」と表記。) - 86 - ず期末在庫率は低下する見通しである。(図 Ⅲ-8、図 図 Ⅲ-9 穀物生産量と期末在庫率 Ⅲ-9) 2021 年の穀物の地域別需給をみると、アジ (百万トン) ア、アフリカ、中東では消費の伸びに生産の伸 びが追いつかないことから純輸入量が拡大す 4,000 る一方、北米、欧州(ロシア等を含む。)、オ 3,000 セアニアが純輸出量を拡大させる見通しであ 2,000 り、世界の地域的な食料偏在化の傾向は引き続 1,000 き拡大する見通しである。なお、中南米は純輸 0 入量を減少させる見通しである。(図 31 5,000 30 21 16 20 10 生産量(左目盛り) 0 2,669 2,189 -10 1,647 -20 -30 1997年 Ⅲ-1 0) (%) 期末在庫率(右目盛り) 2021 年 2009年 図 Ⅲ-10 穀物の地域別貿易量(純輸出入量) 将来の食料需給の特徴的な動きを国別にみ 150 100 50 0 0 50 (百万トン) ると、中国については、1人当たり肉類消費量 100 北米 が豚肉を中心として、既に日本、韓国を上回る 120 12 9 6 水準である一方、1人当たり水産物消費量は、 養殖淡水魚を中心に 1990 年代に急増したが、 中南米 2009年 2021年 53 56 62 (純輸入量) アジア 量に占める割合は高くないものの、肉類やとう 1997年 22 20 32 オセアニア 近年増加率が鈍化している。今後、肉類の消費 量が引き続き増加するとともに、中国の総消費 150 96 98 (純輸出量) 28 45 もろこしの輸入量がそれぞれ6百万トン、3百 中東 59 0 万トンまで拡大する見通しである。 欧州 ロシアは、天候要因による不安定さを抱えな 51 59 34 アフリカ 58 がらも、これまで小麦の生産量、純輸出量が増 83 加してきている。引き続き拡大し、2021 年に 注:純輸出入量には、地域内の貿易量は含まれない。 は小麦の純輸出量の世界シェアが 20%まで拡 大する見通しである。ただし、今後の小麦等穀 物輸出の拡大には、畜産物の自給率向上政策の推進に伴う飼料穀物需要の増加や穀物生産コストの上昇 等の懸念材料も存在している。(図 図 Ⅲ-11、図 Ⅲ-12) Ⅲ-11 ロシアの小麦需給 図 Ⅲ-12 小麦の純輸出量 (百万トン) (百万トン) 80 160 生産量 70 ロシアの純輸出量シェア 140 60 120 50 その他 100 40 純輸 出量 30 飼料用 20 食用等 消 費 量 80 ウクラ イ ナ 60 ロシア 40 EU27 0 20 米国 ‐10 0 10 1997年 2009年 2021年 1997年 資料:以上すべて、農林水産政策研究所「食料需給見通し」 - 87 - 2009年 2021年 2009年 13% 2021年 20% ブラジルは、大豆、とうもろこしの生産量が大幅に増加し、 大豆は国内需要の増加により純輸出量がほぼ横ばいで推移す るものの、とうもろこしの純輸出量は増加する見込みである。 これまで主として収穫面積の増加により大豆生産を拡大して きており、アマゾン熱帯雨林、保護地以外の、広大な農業的 図 Ⅲ-13 ブラジルの穀物、大豆の 生産量 (百万トン) 200.0 180.0 160.0 大豆 140.0 とうもろこし 120.0 低未利用地で農業開発が可能である。しかし、ブラジルは、 100.0 農場段階では農産物の価格競争力があるものの、開発が進む 60.0 内陸部からのトラックによる国内輸送費が高いことから、さ らなる輸出拡大には輸送インフラ整備が鍵となっている。 (図 Ⅲ-13、図 小麦 80.0 コメ その他穀物 40.0 20.0 0.0 1997年 2009年 2021年 Ⅲ-14) 穀物及び大豆価格は、今後も需要が供給をやや上回る状態 が継続することにより、高値圏で、かつ伸びは逓減するもの の上昇傾向で推移し、2009 年に比べ名目で 24~54%、実質 図 Ⅲ-14 ブラジルの穀物、大豆の 純輸出量 (百万トン) 40.0 で2~10%上昇する。また、肉類の価格も名目で 31~52%、 35.0 実質で6~12%上昇する見通しとなっている。 25.0 (図 Ⅲ- 15) 大豆 30.0 とうもろこし 20.0 小麦 15.0 10.0 コメ 5.0 0.0 その他穀物 ‐5.0 ‐10.0 1997年 図 Ⅲ-15 穀類及び大豆の国際価格 (ドル/トン) 1000 900 (実線:名目価格、点線:実質価格) 800 700 米 600 500 大豆 400 300 200 100 小麦 とうもろこし 0 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017 2019 2021 資料:以上すべて、農林水産政策研究所「食料需給見通し」 注:米の将来の名目価格については、タイの消費者物価指数(CPI)を 用いて算定しており、米国の CPI を用いている大豆、小麦、とうもろ こしと比較して、実質価格との乖離が大きくなっている。 - 88 - 2009年 2021年 【世界食料需給モデルによる予測結果「2021 年における世界の食料需給見通し」について】 1 世界食料需給モデルの性格 「世界食料需給モデル」は、将来にわたる人口増加率や経済成長率について一定の前提を置き、価格を 媒介として各品目の需要と供給を世界全体で毎年一致させる「同時方程式体系需給均衡モデル」であり、 約6千本の方程式体系から構成されている。 2 世界食料需給モデルによる試算の前提条件 本予測は、日本を含め各国政策の変更や今後の気象変動などを配慮していない自然体の予測(ベース ライン予測)として試算を行った結果である。 具体的な前提条件は、以下のとおりである。 ▪ 人口は、国連の予測「World Population Prospects : the 2010 Revision」に基づいている。 ▪ 実質 GDP は、世界銀行「World Development Indicators 2011」、実質経済成長率は、IMF「World Economic Outlook 2011」に基づき推計している。 ▪ 耕種作物の単収は、近年(5~10 年程度)の実績による傾向値に基づいており、単収の伸びが継続す ることを前提としている。 ▪ 作付面積の拡大には、特段の制約がないことを前提としている。 ▪ とうもろこしのバイオエタノール原料用の需要及び大豆油・その他植物油のバイオディーゼル原料用 の需要については、その需給関数をモデルに内生化したことで、原油、とうもろこし、大豆油、その 他植物油の価格などにより需要が決定する仕組みとしているが、米国のバイオ燃料優遇税制は 2011 年末に失効したものの、米国・ブラジル等のバイオ燃料の目標使用量が今後も継続することを前提と している。 (参考)世界食料需給モデルのシミュレーションの流れ 生産者価格 人口、GDP エネルギー等 価格 消費者価格 バイオ燃料生産 の純収益 当該品目需要量 食用需要 バイオ燃料需要 ※とうもろこし、大豆、 その他油糧種子に適用 工業用等需要 全地域の各品目 需給ギャップ計測 (純輸出入量) 国内・地域中間価格 各品目の 均衡価格の予測 飼料用需要 当期の畜産 物生産量 各国の各品目供給 単収・1頭当たり生産量 - 89 - 生産要因 (収穫面積、 畜産頭数等) 在庫量の増減 収穫面積 国際価格 3. 長期的にみた食料需要動向と生産拡大の制約要因 (長期的にも需要増大が見込まれる中、生産の拡大には様々な不安定要因が存在) 今後の食料需給を長期的に需要面からみた場 図 Ⅲ-16 世界の人口見通し 合、世界の人口は、国連の推計によると開発途上 (億人) 100 国を中心に大幅に増加し、2010 年の 69 億人が 93 69 2050 年に約 1.3 倍の 93 億人に達すると見込まれ ている。(図 Ⅲ-16) 50 また、世界的な金融危機や欧州のソブリン債務 途上国 危機などによる世界経済の下振れリスクが高ま 先進国 り、先進国を中心に経済成長見通しが不透明にな 0 る一方、長期的にみれば新興国・途上国において は、経済成長が続き所得も上昇すると見られ、畜 2010 資料:UN「World Population Prospects:The 2010 Revision」 図 Ⅲ-17 バイオ燃料の生産量見通し 産物、油脂類、水産物需要は、食文化や気候・風 (バイオエタノール) 土等で左右されるものの増加する傾向にあると 155 加えて、穀物や植物油脂などを原料とするバイ 150 エタノールやバイオディーゼルといったバイオ 燃料の生産量についても OECD-FAO の予測によ 100 50 その他 インド 中国 EU‐27 99 ブラジル れば、2010 年から 2020 年にかけてそれぞれ約 42 40 その他 ブラジル インド アルゼンチン 米国 30 20 20 1.6 倍、約 2.1 倍に増加すると見通されており、 50 米国 食料以外の需要も増加する傾向にある。(図 Ⅲ -17) 0 一方、供給面からみた場合、品種改良や化学肥 EU‐27 10 0 2010 2020 2010 2020 資料:OECD-FAO「Agricultural Outlook 2011-2020 Database」 物の導入による密植栽培等により単収の向上が 図 Ⅲ-18 世界の水資源の制約状況 見込まるものの、発展途上国の工業化に伴う優良 農地の減少や新たな農地の開拓による森林伐採 など自然環境への影響といった農用地の面的拡 大への制約もある。 これまで、単収の向上により生産量の増加が支 えられてきているが、近年単収の伸びが鈍化して きている。中長期的には、単収は遺伝子組換え作 物の導入などで一定の伸びが期待されている一 方、地球温暖化、土壌劣化、水資源の制約など不 安要素も多く存在している。(図 (バイオディーゼル) (百万kl) (百万kl) 考えられる。 料の投入、かんがい施設の整備、遺伝子組換え作 2050 Ⅲ-18、図 Ⅲ-19) このように、世界の農産物需給は、短期的にも - 90 - 中長期的にも、不安定性を有しており、場合によってはひっ迫する可能性もある。このため、これらの 需給変動要因の影響についても注視していく必要がある。 図 Ⅲ-19 世界の穀物の生産量、単収等の推移 (1961年=100) (a/人) 300 25 280 20.6 277.4 1人当たりの収穫面積(右目盛) 260 240 20 263.3 生産量 220 単収 15 200 9.9 180 10 160 140 120 5 105.3 収穫面積 100 80 0 10 資料:FAO「FAOSTAT」、UN「World Population Prospects: The 2010 Revision」 〔穀物の単収の伸び率〕 1961~65 年度 1971~75 年度 1981~85 年度 1991~95 年度 2006~10 年度 1.44 ㌧/ha 1.90 ㌧/ha 2.39 ㌧/ha 2.76 ㌧/ha 3.47 ㌧/ha 年率 2.8% 2.3% 1.4% 資料:FAO「FAOSTAT」 - 91 - 1.6% 4. 各国際機関等による世界食料需給予測 穀物をはじめとする農産物の需給見通しについては、各種機関によって様々な予測が行われている。 なお、これらのモデルでの見通しについては、全ての農作物で平年作が続くことが生産予測の前提と なっていることに留意する必要がある。 表 Ⅲ-20 各国際機関等による食料需給予測の概要 予測機関名 及び目標年次 (公表年月) 国連食糧農業機関 (FAO) 予測結果 公表資料の名称、 予測目的等 World agriculture: towards 2030/2050 ( Interim report ) 2050 年 (2006 年 6 月) 経済協力開発機構 (OECD)/FAO 2020 年 (2011 年 6 月) 米国食料農業政策 研究所(FAPRI) 2019 年 世界の食料、栄養不足 等の諸問題を検討する ために、世界の食料供 給、栄養、農業等につ いて長期見通しを実施。 2021 年 (2012 年 2 月) 世界全体の穀物の生産 量、消費量は、2050 年に は3億トンを超える見込 み。先進工業国では生産 量が消費量を上回って増 加する一方、開発途上国 のうち東アジア地域は、消 費量の伸びが生産量の伸 びを上回る見込み。 なお、本予測は、2003 年に実施された 2030 年 の予測の改訂版として の中間報告である。 1人当たり食料消費(カロリ ー)は、開発途上国を中心 に増加する見込み。 各国の農業政策が世界 の農産物需給に与える 影響について分析する ことを目的に、中期的な 世界食料需給見通しを 実施。 中長期的には、実質ベー スの農産物価格は、2011 ~20 年の平均で穀物(とう もろこし)で最大 20%、肉 類(鶏肉)で最大 30%、過 去の 10 年間の価格を上回 る見込み。農業生産の伸 び率は鈍化(過去 10 年の 平均 2.6%→1.7%)。 米国議会等の委託を受 け予測を実施。メルトダ ウンと呼ばれる手法によ り需給を 調整す る特徴 がある。 (2010 年1月) 農林水産省 農林水産政策研究 所 概要 我が国の食料の安定供 給のための政策立案の 判断材料として中長期 的な主要穀物等の世界 的な需給の見通しを実 施。 小麦は、ロシア、ウクライナ の輸出競争力が高まり、米 国のシェアは低下する見 込み。 とうもろこしは、ブラジルの 輸出シェアが低下する一 方、アルゼンチンがシェア を伸ばす見込み。 世界の食料需給は、中長 期的には人口の増加、所 得水準の向上等に伴う新 興国・途上国を中心とした 食用・飼料用需要の拡大 に加え、緩やかに増加す るバイオ燃料原料用需要 も要因となり、今後とも穀 物等の需要が供給をやや 上回る状態が継続する見 通しであり、食料価格は 2007 年以前に比べ高い 水準で、かつ、上昇傾向 で推移する見通し。 生産量等(百万トン) (生産量) 穀物 1,884 → 3,012 小麦 米(精米) 粗粒穀物 588 → 908 403 → 524 894 → 1,580 消費量等(百万トン) (消費量) 穀物 1,865 → 3,010 食用 1,000 → 1,439 飼料用等 856 → 1,571 小麦 米(精米) 粗粒穀物 578 → 903 387 → 522 901 → 1,584 (1人1日当たり消費カロリー) 2,789 → 3,130kcal 開発途上国 2,654 → 3,070kcal 注:数値は、 1999/01 年と 2050 年の比較である。 (生産量) 穀物 2,256 → 2,595 小麦 674 → 746 米(精米) 461 → 528 粗粒穀物 1,122 → 1,321 (貿易量) 穀物 281 → 小麦 129 → 米(精米) 31 → 粗粒穀物 121 → (消費量) 穀物 2,226 小麦 660 米(精米) 453 粗粒穀物 1,113 → 2,588 → 746 → 529 → 1,313 (国際価格:ドル/トン) 329 145 41 143 小麦 米 粗粒穀物 265 → 240 600 → 493 198 → 203 注:各数値は、2008-2010 年 (平均)と 2020 年の比較で ある。 (生産量) 小麦 676 → 719 米(精米) 435 → 477 とうもろこし 796 → 919 (消費量) 小麦 841 → 907 米(精米) 527 → 569 とうもろこし 939 → 1,049 (期末在庫量) 小麦 196 → 189 米(精米) 91 → 92 とうもろこし 132 → 131 (国際価格:ドル/トン) 小麦 216 → 223 米 538 → 429 とうもろこし 163 → 176 注:各数値は、2009/10 年と 2019/20 年の比較である。 (生産量) 穀物 2,189 → 2,669 小麦 672 → 799 米(精米) 446 → 525 とうもろこし 811 → 1,024 (消費量) 穀物 2,164 小麦 651 米(精米) 440 とうもろこし 814 (期末在庫量) 穀物 457 → 431 小麦 185 → 176 米(精米) 94 → 90 とうもろこし 137 → 126 → 2,673 → 800 → 525 →1,026 (国際価格:ドル/トン) 小麦 米 とうもろこし 233 → 244 598 → 610 173 → 190 注:数値は、2009 年(2008 -10 年の3か年平均)と 2021 年の比較である。 注:これらの見通しは、需給は価格により調整され、将来的には生産量と需給量は均衡するよう推計されている。 - 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