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サリチル酸によるジブカインの局所麻酔増強効果
鳥取大学医学部生理学第一教室(主任
白地康武教授)
三好美智夫・井元敏明-日地康武
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はじめに
局所麻酔作用を増強する方法として,臨床的に
は末梢血管収縮作用を有するエビネプリンの添加
が広く行われている.一方,ある種の有機酸填を
局所麻酔剤に添加した場合には,麻酔効果を著し
く増強させることが報告されている.例えば,三
好らはザリガニ旗側巨大神経の伝導ブロックに要
する持間を指標に研究した結果,添加する有機酸
の化学構造上の条件は,疎水基に脂肪族炭化水素
や芳香環を持ち,親水基にはカルボキシル基やそ
のメチルエステルまたは水酸基を持つ有機酸塩で
あることを見い出し,サリチル酸ナトリウムが最
も増強効果の大きいことを報告している.
サリチル駿の局所麻酔増強効果
しかし,これらの研究は 3)4)全て塩酸プロカイ
ンについて検討されたものであり,実際に現在,
臨床的に広く使用されている局所麻酔剤ジブカイ
ンについては全く不明である.従って,これらの
薬物がブロカインで見られたような増強作用を果
たして発現するものかどうか,サリチル酸塩を添
加して今回実験を行ったので報告する.
材料および方法
実験には,笠木ら1)の方法を用い体長 1
0:
t0.5
cm,体重 27:
t6gの冬眠中のアメリカザリガニ約
1
0
0匹を使用した.その腹側亘大神経線維 4本を
頭側より 6分節で摘出し,摘出神経は直ちにハラ
ベルト (Harreveld)液に浸し神経鞘と結合組織
を絵去した 4本の巨大神経線維を実験に供した.
測定用チャンパーは楠絶された 5つのプールから
なり,それぞれにハラベルト液を満たし,その中
央のプールには各種試験液を注入した.神経束は
各プールに填め込んで各プール聞の隔絶部をワセ
リンでシールして電気的絶縁を行った.左方の 2
つのプールから 5秒に 1
@
]の闘値上 (6V,0.1
レか
msec)の電気耕激を与え,右方の 2つのプー l
ら細胞外誘導法で神経の活動電位を直流増幅器
(RB-5,日本光電工業 K.K)を介してオーシロ
スコープ (5520G12,菊水電子工業K.K)でモニ
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ターし,デジタルレコーダー (
CO)で記録した.そして中央ブールに試験液を投
与してから活動電位の消失までの時間を測定し
9
5,KCl5
.
4,
た.ハラベルト液の組成は NaCl1
CaC1
3
.
5,MgC1
.
6,HEPES7.5,各 mM/L
21
22
でHClを加えて, pH6.5に調節して使用した.使
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)犠酸リ
用薬物として,塩酸ジブカイン (
l
ドカイン (Dolder),境酸メピパカイン(Do
2
2
9
ウムを添加して投与するとブロックに要する時間
は約 3分と短縮され,その傾向は,ジブカインに
サリチル酸と臭化カルシウム O
.2%を添加したも
ので差がない.
ところが,ジブカイン 0.0001%という極めて低
い濃度においてもサリチル酸を添加した場合には
0分経っと伝導ブロックが見られることに疑問
約5
を生じ,各種濃度のサリチル酸単独投与の実験を
行った.その結果は,閣 1の下図にみられるよう
1分経
に0.3% のサリチル酸単独投与においても 5
過すると伝導ブロックする.一方,プロカインを
j
iらめの実験では,サリチル酸 1%を加
用いたHi
えて 6
0分以上経過してもブロックは起こっていな
い.この違いは,使用したハラベルト液における
pHの違いによるものだということが判明した.
i
j
iら2)はpH7.6~7. 8で使用しており,今
即ち, H
回の実験では pH6.5を使っている.この p百の違
いがサリチル酸の神経膜に及ぼす異なった作用と
して現れたものと思われるので, pH6.5における
サリチル酸の神経線維に及ぼす影響について,活
動電位の大きさと伝導速度を計測し検討した.そ
0土
の結果を劉 2に示す.活動電位の大きさは 1
3.3mV,その倍導速度は 8
.1土 0.6m/secであっ
たものが, pH6.5のサリチル酸ナトリウム単独液
に神経線維を浸すことによって複合活動電位の大
きさは待問とともに小さくなり倍導速度は延長す
る.この経過をパーセントで示したものが図 2で
ある. 0.15%と0.3%のサリチル酸ナトリウムの
0分経過すると完全な伝導ブロックを示
場合には 5
し
, 1%と 2%の場合だと 3
0分でブロックされて
いる.但し,このブロックは洗糠することにより
1
0分程で完全に回復している.ところが, pH7.8
d
e
r
),サリチル酸ナトリウム(吉富製薬),臭化
カルシウム(村部製薬)を用いた.試験液は,ハ
のサリチル酸ナトリウム 0.5%の場合は,同じア
メリカザリガニの巨大神経線維を使って細胞内誘
導法から得た山崎 5)の実験では,活動電位の最大
.
5
1こ
ラベルト液に局所麻酔薬などを溶解し pHを6
再調節して用いた.
立ち上がり速度は 88.6土 4.4%,最大立ち下り速
7
.0:
t5
.6%に抑制をうけているが,活動電
度が 4
結果と考察
図 lには,各種濃度のジブカイン麻酔作用を示
したものである.ジブカイン単独投与の場合には
0.1%のジブカイン投与後 5
0秒すると伝導ブロッ
クを起こすが 0
.
0
1%の低濃度ではブロックに 6
0分
以上を要することが示されている.ところが,
0.01%のジブカインに O
.3%のサリチル酸ナトリ
位の大きさも伝導速度もほとんど変化のないこと
が示されている.このように,サリチル酸ナトリ
ウムの神経繰維に対する影響は pHにより異なる
ことが明らかになった.
図 3の上図は,ジブカイン, リドカイン,メピ
パカインをそれぞれ単独投与した時の麻酔発現に
要する時間をそれぞれの濃度を変えて比較したも
のである.これら三者の中では,ジブカインが最
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図 1.ジブカインにサリチル酸ナトリウム及び臭化カルシウムを添加した場合の麻酸効果の比較(上図)
と各種濃度のサリチル酸ナトリウムによる伝導ブロック(下関).
上図:縦軸は活動電位消失時間を示し,横軸はジブカイン濃度である。
o
ジブカイン (n二1~6)
口:ジブカイン +0.3% サリチル酸ナトリウム (n二1~4)
ム:ジブカイン +
0.3%サリチル酸ナトリウム+0.2%臭化カルシウム (n二 1~4)
下図:縦軸は活動電位消失時簡を示し,横軸はサリチル酸ナトリウム濃度である。 p
H6.5において
%
, 2%のサルチル酸ナトリウムは約 3
0分で, 0.3%,0
.
1
5
%では約 5
0分で倍導がブロックされるが,
05%以下の濃度で 6
0分以上必要である.
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Time(min)
図2
. 各種サリチル酸ナトリウム濃度における活動電位と伝導速度の経時的変化.
o :0.15%サリチル酸ナトリウム
ム :0.3%サリチル酸ナトリウム
口:1%サリチル酸ナトリウム
+:
2%サリチル酸ナトリウム
典型的な各一例を示したものであり,活動電位変化において,サリチル酸ナトリウムの濃度が高くな
.3%は同
るにしたがって,活動電伎の大きさが早く減弱する傾向にある.また,伝導速度は, 0.15%とO
0分であった. 1%と 2%の場合の伝導ブロック時間
じような運延効果を示し,伝導ブロック時間は共に 6
0分であった。縦軸は 0
分値を 100%とした相対的な活動電{立の大きさ(上国),伝導速度(下図)
は,共に 4
で,横軸は共に時間(分)である。
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Lidocaine (%)
関 3. 各種麻酔薬における麻酔効果の比較(上図pH6.5) とリドカインにサリチル酸ナトリウムを添加
したときの麻酔効果(下図 pH7.6~7. 8
)
.
上国:pH6.5において,活動電位消失に 6
0分以上を必要とする濃度はジブカインで 0
.
0
10
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, リドカイン,
メピパカインは各々 10
/
, 20/0であった.
o
ジブカイン (n二 1~6)
口:リドカイン (nニ 1~4)
ム:メピパカイン (n二1~4)
下図:pH7.6~7. 8において,活動電位消失に 6
0分以上を必要とする濃度はリドカイン単独で 0
.
20
/
0
で
, 1
%サルチル酸ナトリウムを添加すると, 0
.
0
50/0と低濃度側にシフトした.
o :1
) ドカイン (
n
二6
)
・:リドカイン+1
0/0サリチル酸ナトリウム (
n
二6
)
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サリチル酸の局所麻酔増強効果
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)
函4
. ジブカインにサリチル酸ナトリウム及び臭化カルシウムを添加した場合の活動電位と伝導速度回
復経過.
活動電位(上図)と伝導速度(下図)の回復を比較したものであり, -5~0分の 5分間,試験液 (pH6.5)
に浸し,その後ハラベルト液 (
p
H
7
.
8
) に戻した.
二4
)
0:0.1%ジブカイン (n
巴:0.1%ジブカイン +0.3%サリチル酸ナトリウム (nヰ)
ム:0.1%ジブカイン+0.3%サリチル酸ナトリウム+0.2%
臭化カルシウム (
n
ヰ)
(mean:
tS
.E
)
も効力は大で0.1%から 0.03%で麻酔効果は4
分以
用が現れる.
内に発現するが, 0.03%より低い濃度では急激に
図 3の下図は, リドカインにサリチル酸を添加
麻酔作用は減少し0.01%ではほとんど作用はなく
なる.これに対して,リドカイン,メピパカイン
した場合の麻酔増強効果をみたものである.図か
ら明らかなようにリドカイン単独投与では,その
はジブカイン濃度のほぼ50倍の高濃度5%から作
濃度が 0.4%以上であれば約 4分経過するとブロ
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. ジブカインにサリチル酸ナトリウム及び臭化カルシウムを添加した場合の活動電位消失時間と田
復時間の比較.
上図:活動電位消失時間において,ジブカイン単独に対して,サリチル酸ナトリウムを加えたものは,
早くブロックする傾向にあり,サリチル酸ナトリウムと臭化カルシウムを添加したものは,若干遅延傾
向にあった.
下図:活動電位回復時障を比較すると,ジブカイン単独に対して,サリチル酸ナトリウムを加えたもの
は,著名な麻酔持続効果を有し,それに臭化カルシウムを添加すると,半分以下に減弱した.
D:O.l%ジブカイン(ロニ4
)
n
=
4
)
D+S:O.l%ジブカイン+0.3%サリチル酸ナトリウム (
D+S+CaBr2:0
.
1%ジブカイン+0.3%サリチル離ナトリウム+0.2%臭化カルシウム (
n
ヰ)
(mean土 S
.
E
)
2
3
5
サリチル酸の局所麻酔増強効果
0分
ックは発現するが, 0.2%以下の低濃度では 6
以上経過しても活動電位に変化はみられない.と
結
主五
Rロ
ころが,これに 1%サリチル酸を添加するとりド
0.1%ジブカインに 0.3%サリチル酸ナトリウム
カイン濃度が 0.1%と低くてもブロックに要する
を添加して麻酔をすると 0.1%ジブカイン単独投
時間は約 7分で麻酔作用は見られ増強されている
与の場合と比較して,麻酔発現に要する時間にお
ことが判る.図 3の上図に示したリドカインの麻
いても,また麻酔からの回復時間においても,と
酔効果と図 3の下図のものとでは麻酔発現の濃度
が異なっているのは,前者は pH6.5で,後者は
もに麻酔効果は顕著に増強された. しかし, 0
.
1
%ジブカイン, 0.3%サリチ lレ酸ナトリウム, 0
.
2
pH7.5で使用した違いによるものと思われる.即
ち,溶媒液の pHが高い方が局所麻酔効果は大き
%臭化カルシウムの三者を混合した場合の回復時
いことを如実に示していると言える.
0.1%ジブカインに 0.3%サリチル酸ナトリウムを
函 4は,麻酔からの回復時間を示したものであ
る.神経束を 5分間試験液に浸し活動電位を消失
させた後,ハラベルト液 (
p
H
6
.
5
) に庚し,その
時の活動電位の大きさを,試験液に浸す前の活動
電位の大きさを 1
0
0として時系列で表わしたもの
が図 4の上図である.図 4の下図には,活動電位
の伝導速度の変化を上図と同じように%で示し,
これを時系列で表わしたものである.活動電位の
大きさでも,またその伝導速度の変化においても,
ともに 0.1%ジブカインに 0.3%サリチル酸を添加
した試験液の場合の麻酔回復過程は最も顕著に遅
延しているが, 0.1%ジフカイン, 0.3%サリチル
酸
, 0.2%臭化カルシウムの三者を混合したもの
の回復遅延効果は, 0.1%ジブカイン単独投与の
場合よりも強いが 0.1%ジブカインに 0.3%のサリ
チル酸を加えた場合よりも弱いことが判る.
図 5は,これまでの研究結果をまとめて表示し
たものである.最も速く麻酔される試験液は 0
.
1
%ジブカインと 0.3%サリチル酸を混合したもの
(図の D+S)であって 4
0:
t1
1秒で麻酔され(図 5
の上関),麻酔から回復するには 6
8土 1
7分と回復
するまでの時間は最も遅い(図 5
の下図).ところ
が
, 0.1%ジブカイン単独投与(図で D
)の蘇酔発
現時間は 4
9土 8
秒であるが回復時間は最も短く 1
1
土3
分である.三者混合の場合の麻酔発現時間は
5
9:
t1
3
秒で呂復時間は 2
7土 6
分であった.
間は 0.1%ジブカイン単独の場合より延長するが,
加えたものよりも弱かった.
文 献
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