PIMCOの欧州経済短期予測: デフレ圧力と信用逼迫が ユーロ圏の回復

Economic Outlook
March 2014
アンドリュー・ボールズ
Your Global Investment Authority
PIMCOの欧州経済短期予測:
デフレ圧力と信用逼迫が
ユーロ圏の回復の足かせに
以下のインタビューでは、副CIOであり欧州ポートフォリオ
運用統括責任者のアンドリュー・ボールズが、3月に開催さ
れた四半期に1度のPIMCO短期経済予測会議(シクリカ
ル・フォーラム)からの結論と、その結論がPIMCOの欧州
投資戦略に与える影響についてご説明します。ユーロ圏で
は、脆弱な経済成長が外的ショックやトレンド以下のインフ
レ率に対し依然として影響を受けやすい状況ですが、向こ
う1年間に直面する財政や経済成長に関する問題について
もご説明します。
アンドリュー・ボールズ
副最高投資責任者(副 CIO)
マネージング・ディレクター
欧 州 ポートフォリオ運 用 の 統 括 責 任 者を
務 め、ロンドンとミュンヘンに拠 点を置く
PIMCOの欧州投資チームを指揮する。
また、
アジア・パシフィック地域の投資チームも
統括する。先進国および新興国債券市場を
組み合わせたグローバル・アドバンテージ
戦略を含む、グローバルおよび欧州ポート
フォリオを運用する。現在の職務へ就く以前
は、ニューポートビーチを拠点とし、グロー
バル・ポートフォリオ・マネージャー、および
PIMCOのグローバル・ストラテジストを務め
た。2006年にPIMCOへ入社する以前は、英
Financial Times紙に8年間在籍し、ロンドン、
ニューヨーク、
ワシントンDCにて経済特派員
およびコラムニストを務めた。投資業務経験
15年。オックスフォード大学より学士号、ハー
バード大学より修士号を取得。
また、オックス
フォード大学キーブル・カレッジにて経済学
講師の経験がある。
問: 今後半年から1年間のユーロ圏の経済成長とインフレについてPIMCOの見通しを
教えてください。
ボールズ: PIMCOでは基本シナリオとして、ユーロ圏の実質GDP成長率は潜在成長率
と同程度かこれをやや上回る1~1.5%となり、内需と外需が均衡する形で各国は足
並みを揃えて生産を拡大すると予想しています。
企業景況感と消費者景況感はともに改善しているため、設備投資と家計支出はいず
れも緩やかに回復するとPIMCOでは予想しています。ユーロ圏では全般に与信が逼
迫した状態が続き、経済成長の頭を押さえていますが、
これまでの銀行の融資ポート
フォリオ縮小は、少なくとも落ち着いてきているようであり、与信状況は徐々に改善す
るでしょう。
また、金融危機の最中に手控えられていた支出が回復して潜在需要が顕
在化すれば、ユーロ圏にとって追い風になり得るでしょう。
とはいえ、ユーロ圏の景気
回復は依然として不安定な状態です。PIMCOの成長見通しには、ユーロ圏のクレジッ
ト市場の状況や継続する緊縮財政を背景とする下振れリスクが残り、
また、ユーロ圏
外で経済成長が落ち込む結果としてユーロ圏の輸出品に対する需要が低下すること
も下振れ要因です。
PIMCOでは、向こう1年間のユーロ圏のインフレ率を0.75~1.25%と予想しています。
失業率が最近1年間は12%近辺で推移するなど高水準にあることや、一部の国では
構造改革が進捗していることを踏まえると、景気は短期的な回復を見せているもの
のインフレ圧力は極めて小さいでしょう。
市場のコンセンサス予想を下回るPIMCOのインフレ見通しでは、
ない状態を問題視していないようです。ECBは3月6日の政策理事
上振れリスクと下振れリスクが拮抗していますが、極めて低水準の
会においてこの先3年間の経済見通しを発表し
(従来の予想期間
インフレが長期化すればユーロ圏のインフレ期待を低下させ、そ
は2年)、インフレ率の上昇ペースは極めて遅く、2016年には1.5%
の結果欧州中央銀行(ECB)の政策運営がさらに複雑化し得ること
にとどまるという見通しを提示しました。
これは、目標の上振れと
に留意すべきでしょう。
下振れに対するECBの姿勢が非対称的であることを浮き彫りにし、
インフレ期待をさらに低下させるおそれがあります。
問: 経済見通しはユーロ圏の中核国と周縁国ではどのように異なる
のでしょうか。
ボールズ: PIMCOの経済見通しでは、中核国と周縁国を対比する
のではなく、
ドイツとドイツ以外のユーロ圏諸国を対比していま
す。経済成長率が最も高いのはドイツですが、すべてのユーロ圏
諸国がプラス成長を実現するでしょう。
この先1年間については、
ド
イツは約2%、
フランスとスペインは約1%、イタリアは0.5%の経済
成長を達成すると予想しています。
スペインについては、2013年の
経済成長率が実質的にゼロだったことを踏まえると、
これは大き
な改善を意味します。一方、イタリアはマイナス成長からは脱却し
たものの、引き続き他のユーロ圏主要国に遅れをとっています。
多くの周縁国では経常収支と賃金競争力の改善に成功してきまし
た。
しかし全般に競争力がほとんど回復していないイタリアの状況
が際立ちます。
また、低インフレは財政再建を進めるユーロ圏周縁
国だけでなく中核国にも共通する現象であることには留意が必要
です。短期的には、インフレ率は極めて低い水準にとどまると
PIMCOでは予想しています。
この背景として、ECB理事会に政治的な問題や政策調整上の問題が
存在している可能性はありますが、付随するリスクは小さくありませ
ん。
ここでも、経済成長見通しの文脈で指摘した外的ショックが大き
なリスク要因となります。
ユーロ圏ではインフレ率が低いため、脆弱
な経済にショックが生じた場合、
デフレに陥るまでのバッファーはほ
とんど残されていません。
インフレや経済成長関連の指標が予想外に下振れした場合、
ドラ
ギECB総裁は政策を積極化させて資産の買い入れに踏み切り、デ
フレ・リスクが明確かつ差し迫ったものになるとPIMCOでは予想し
ています。ECBは、信用緩和として民間セクターの資産を買い入れ
る可能性が高いとみられますが、量的緩和として国債を買い入れる
ことも選択肢の1つです。量的緩和は政治的に波紋を呼ぶ可能性
があるものの、技術的には銀行からローンを買い取るよりもはるか
に容易でしょう。
問: 英国経済の見通しを教えてください。最近の方針転換を踏まえ、
イングランド銀行(BOE)には何が期待されるのでしょうか
このほか、ユーロ圏の経済成長環境が改善していることや、市場が
ボールズ: 英国の経済指標はPIMCOの前回予想を上振れし、市場
引き続き流動性供給者および最後の貸し手としてのECBの役割に
のコンセンサス予想より楽観的なイングランド銀行(BOE)自らの
信認を置いていることを踏まえ、ユーロ圏の国債市場は安定した
見通しをも上回りました。PIMCOでは、英国のこの先4四半期の経
状況が続き、対ドイツ国債スプレッドは概ねレンジ圏内で推移する
済成長率を2.5~3%、インフレ率を1.75~2.25%と予想しています
とPIMCOでは予想しています。全般に、ユーロ圏は深刻なソブリン
が、
これはBOEの目標と整合的です。
危機から脱却したとみていますが、中期的に相応の経済成長を達
成する上での慢性的な課題や、ユーロ圏の諸制度やガバナンスの
脆弱性に対する懸念は残存しています。
問: ECBの政策に関してどのような見通しを持っていますか。
英国では、単に経済指標が改善しているだけでなく、消費支出に
加えて設備投資が回復する初期の兆しが見られるなど、指標の内
訳についても改善傾向が確認されています。
先般、BOEは経済指標の予想以上の改善を受けて戦略を転換
ボールズ: PIMCOでは基本シナリオとして、ECBが追加的な流動性
し、PIMCOの同僚のポートフォリオ・マネージャー、マイク・エイミー
緩和措置を導入する可能性は高いとみていますが、低インフレの
が2014年2月付のEuropean Market Update「An About Turn at
継続を予想するECBがデフレ・リスクを回避するために資産の買
the Bank of England(英語版のみ)
」の中で指摘したように、PIMCO
い入れに踏み切る段階ではないと考えています。それどころかECB
の注目点としてはフォワード・ガイダンスを重視する方針を断念し
は、インフレが目標とされる
「2%未満かつその近辺の水準」に届か
たことです。
その結果、2015年春の金融引き締めを織り込んでいた
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ポンドのフォワード・レートは低下しています。BOEは米連邦準備制
最もスティープであり魅力的なキャリーを確保できる5年以下の
度理事会(FRB)
よりも早い段階で引き締めに着手したいようです
ゾーンでポジションをとっています。PIMCOでは基本シナリオとし
が、ニュー・ノーマルの環境下では、政策金利の水準は2008年まで
て、スプレッドはレンジ圏内で推移するとみています。引き続き、
の10年間のように5%程度ではなく、2~3%程度になる可能性が高
ユーロ圏の中期的な経済成長見通しを懸念しているため、
これら
いとBOE幹部は強調しています。
をクレジットリスクの対象とみなし、適切にポジションの規模を決
めています。
また、
ECBが資産の買い入れに踏み切った場合、
クレジッ
問: 欧州における経済成長、
インフレ、中央銀行の政策に関する
ト市場やローン市場が買い入れの中心になったとしても、周縁国
PIMCOの短期見通しは、
投資戦略にどのように影響するのでしょうか。
国債は大きな恩恵を受けると予想しており、ECBが量的緩和を導入
ボールズ: PIMCOの基本シナリオでは、市場の値動きは概ねレンジ
する可能性が高まった場合には保有額の増加を検討するでしょう。
圏内で推移すると予想しているため、運用ポートフォリオではイー
ルドカーブとクレジット・スプレッドのポジションにおいてポジティ
ブ・キャリーの状態を保っています。投資戦略を構築する上で、ECB
が現状を維持するという基本シナリオに加えて、
デフレ・リスクを回
避するために信用緩和や量的緩和といった形で資産の買い入れ
を余儀なくされるシナリオを考慮しています。
PIMCOでは、民間企業のクレジットについては概ね中立的であり、
引き続き欧州のクレジット市場や証券化市場においてアルファの
獲得を目指しています。欧州のクレジット・デフォルト・スワップ
(CDS)
・インデックスは米国のCDSインデックスよりも割安なよう
ですが、ユーロ建て社債は、欧州の保険会社による強い需要を背
景に、為替リスクと金利リスクをヘッジしたベースでは米ドル建
ユーロ圏中核国のデュレーションに関しては、PIMCOではイールド
て、英ポンド建て社債よりも依然として割高です。欧州の中では、ボ
カーブの5~10年ゾーンをオーバーウエイトとしています。この
トムアップで見て良好な、再建計画を進めている企業に対する投
ゾーンではキャリーが魅力的であり、
また、ECBが資産の買い入れに
資機会を引き続き見いだしています。
踏み切った場合、
あるいはその可能性が高まったと単に市場が考え
始めた場合でも、
中期ゾーンは長期ゾーンをアウトパフォームすると
予想しています。
また、ECBによる資産査定の結果、ユーロ圏の銀行システムが大き
な資本不足状態に陥るとは予想していませんが、銀行はすでに不
良債権引当金の保守的な積み増しや資本増強などの対応を進め
PIMCOでは、ユーロ圏中核国のイールドカーブの長期のフォワー
ています。
このような動きは、劣後債やハイブリッド債にとって大き
ド・レートは、資産と負債のデュレーションを合わせようとする投資
なプラス材料になるとみられ、英米の銀行よりも割高な状態が続く
家の長期債に対する需要を反映して、構造的に割高であるとみて
欧州の銀行シニア債と比較した場合は特にそう言えるでしょう。
います。
このため、イールドカーブ全体をオーバーウエイトとする
よりも、長期ゾーンをアンダーウエイトとするスティープナーのポ
ジション(スティープ化により収益が生じるポジション)を選好して
図表1:PIMCO短期経済予測
予測
います。
ここには、2つの見方が反映されています。1つは、PIMCO
のユーロ圏に対する見通しと、
スティープナーからポジティブ・キャ
リーが確保できることであり、
もう1つは、2013年に見られたように
米国の金利上昇がユーロ圏の金利を押し上げるシナリオです。
現在 *
実質GDP成長率
2014年第1四半期~
2015年第1四半期
現在*
インフレ率
2014年第1四半期~
2015年第1四半期
米国
2.5%
2.5% ~ 3.0%
1.5%
1.75% ~ 2.25%
欧州
0.5%
1.0% ~ 1.5%
0.8%
0.75% ~ 1.25%
英国
2.7%
2.5% ~ 3.0%
2.0%
1.75% ~ 2.25%
日本
2.7%
0.5% ~ 1.0%
1.1%
0.75% ~ 1.25%
2.5% ~ 3.5%
英国に関しては、相対的な利回りの低さとBOEによる金融引き締
中国
7.7%
6.5% ~ 7.5%
3.0%
めサイクルの見通しを踏まえ、デュレーションをアンダーウエイト
BRIM **
2.3%
2.5% ~ 3.5%
6.8%
5.5% ~ 6.5%
世界 ***
2.9%
2.5% ~ 3.0%
2.4%
2.25% ~ 2.75%
としています。
また、ユーロ圏周縁国のリスクを引き続きオーバーウエイトとして
います。なかでもイタリア、
スペイン、
スロベニアを選好し、
カーブが
* 現在の実質GDP成長率およびインフレ率のデータは、2013年第4四半期までの12カ月間。
** BRIMはブラジル、ロシア、インド、メキシコを指す。
*** 世界の予測値は上記のPIMCOの国・地域別予測値を加重平均した合計。
出所:ブルームバーグ、PIMCO試算。
ECONOMIC OUTLOOK | MARCH 2014
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