欧州の金融安定に向けた取り組み - 三菱東京UFJ銀行

Economic Research
コウバーン 弘華
44-20-7577-2151
[email protected]
BTMU Economic Focus London
15 February, 2011
欧州の金融安定に向けた取り組み
欧州連合(EU)およびユーロ圏発足以来、EU で初めての恒久的な債務危機
対策機関の設立への取り組みが行われている。
今年 1 月 5 日には、欧州委員会が欧州金融安定メカニズム(EFSM)を通じ
て 50 億ユーロの債券を発行、続いて、欧州金融安定ファシリティ(EFSF)1は
1 月 25 日に、アイルランド支援の一環として同額の起債を実施した(第 1 表)。
ともに、主要格付機関からトリプルAを取得している。後者については 50 億ユ
ーロの募集に対して、455 億ユーロの応募があるなど、需要は旺盛であった。
主な買い手は各国中銀、年金基金、政府系ファンドであった。特に、アジアか
らの需要が強く、ユーロ安ということもあり、日本政府は 22%買い入れている
ほか、中国も外貨準備の分散や外交戦略などに基づいて買い入れたとみられて
いる。
本稿では、これらの危機対策が設立されるに至った経緯について振り返り、
現時点での問題点を踏まえた上で、今後を展望する。
第 1 表: EFSM と EFSF の債券の発行予定額(2012 年まで)
(単位:億ユーロ)
EFSM(EU発行債)
EFSF(EFSF債)
2011年
~176
~165
2012年
~49
~100
合計
~225
~265
*EU債はユーロ建て限定の発行。
(資料)EFSFより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
1.欧州金融安定化に向けた政策の概要
(1)各支援策決定までの経緯
2008 年の金融危機以後、ギリシャの財政悪化が加速し、財政破綻の危機に晒
された。ユーロ圏と IMF が金融支援に乗り出したが、その後も周縁国への危機
拡大懸念は続いた。
— ギリシャ債務危機:2008 年 9 月のリーマンショック後、2009 年にギリシャ
の財政状態が急速に悪化し2 、ギリシャ株・債券は下落した。ギリシャ政府
1
EFSF債の発行金利は同年限のスワップ金利(仲値)に 6bps上乗せされており、1 月 25 日の 5
年債は 2.89%であった。
2
経緯を辿ると、ギリシャの財政問題は 2001 年に同国がユーロ圏に参加する以前に始まってい
る。マーストリヒト条約で定められている財政赤字が対GDP比 3.0%、政府債務残高は同 60.0%
という上限は、ユーロ参加以降に守られたことはなく、後者については対GDP比 100%前後の
推移が続き、経済環境が悪化した 2009 年には 126.8%に達した。
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は対応策として、同年 12 月に民間銀行の幹部に対するボーナス課税、公共
部門の支出削減などの財政緊縮策を次々と打ち出した。しかし、2010 年 1
月にはギリシャがユーロ導入のために財政データを改ざんしていたことが
明らかになったほか、2 月には公務員による 24 時間ストライキが実施され
るなど国内での財政緊縮策に対する反対が強かったことから、財政緊縮策
の実行性についての市場の不信感は高まった。2010 年 2 月にはユーロ圏各
国が支援を示唆したが、16 カ国政府の同意にこぎつけるのは難しく、具体
策は 4 月まで提示されなかった。その間にも主要格付機関によるギリシャ
のソブリン格付の引き下げがあり、ギリシャ 10 年物国債利回りはユーロ導
入以来の最高水準付近を推移、ドイツ国債とのスプレッドは大幅に拡大、
市場は予断を許さない状況となった(第 1 図)。
第 1 図:ギリシャ 10 年物国債とドイツの国債スプレッド
(%)
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
2008
09
10
11
(年、日)
(資料)Factsetより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
— ユーロ圏・IMFがギリシャ支援の意向を発表:ようやく 2010 年 4 月 11 日に
ユーロ圏各国が 2010 年内については 300 億ユーロ、IMFが 150 億ユーロ、
期間 3 年で固定金利 5%の融資を行うと発表した。市場の緊張は一旦落ち着
いたかにみえたが、その後もギリシャのソブリン格付は引き下げられ、長
期国債利回りは上昇した。
— 周縁国への危機波及懸念:更には、懸念はギリシャだけに留まらず、ポル
トガルの長期金利もユーロ参加以来の高水準に達し、ソブリン格付が引き
下げられるなど、財政危機が他のユーロ圏周縁国へ波及する懸念が生じた。
市場の緊迫感が高まったことから、国民の反対に押されていたドイツもギ
リシャ支援を国会で承認した。
— ユーロ圏・IMFのギリシャへの融資が正式決定:2010 年 5 月 2 日にはユー
ロ圏が 800 億ユーロ、IMFが 300 億ユーロ、合計 1100 億ユーロの緊急支援
策を決定した。ギリシャもこれに合意し、2009 年に対GDP比 15.4%に達し
ていた財政赤字を 2014 年までに同 3%以下に引き下げる目標を提示した。
また、翌日にはECBが金融機関への資金供給を行う際に、適格担保として
受け入れる国債の基準について、ギリシャ国債については最低格付基準を
設けないと発表した。
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(2)欧州金融危機救済機関の設立
財政懸念はギリシャに留まらず、ポルトガル、スペイン、さらにはその他の
ユーロ圏周縁国にも拡大した。本来ならば EU の安定・成長協定やマーストリ
ヒト条約のもと、財政赤字・政府債務残高の条件が遵守されるはずであったこ
とから、財政危機対応を行う機関は EU には、存在しなかった。しかし、前例
のない財政危機の拡大阻止を迫られ、迅速な対応を可能にする機関の必要性が
生じた。結果、欧州金融安定メカニズム(EFSM)、欧州金融安定ファシリテ
ィ(EFSF)が設立され、同時に IMF と協同の支援策が発表された。さらには、
欧州中銀(ECB)も証券市場プログラム(SMP)を設け、公社債の買い取りに
乗り出した。一方、アイルランドでは政府による銀行部門の救済額が膨らみ、
財政状況が悪化した。このため、同国は 2010 年 11 月に EFSM、EFSF、IMF に
支援を申請することになった。
— EFSM・EFSF設立、IMFとの包括的支援策:ギリシャ財政危機の周縁国への
拡大懸念を防止すべく、2010 年 5 月 9 日にEUの臨時閣僚会議にて、ユーロ
参加国が財政危機に陥った際の救済策が発表された。3 つの柱からなる総
額 7500 億ユーロの包括的な支援策となった(第 2 図)。内容は、
(1)リスボン条約 122.2 条に基づいて、欧州委員会が EFSM を通じて最大
600 億ユーロの融資を行う。資金は EU 予算を裏付けとして、金融市
場から調達する。
(2)ユーロ圏加盟国間の合意のもと特別目的会社(SPV)として EFSF が
設けられ、 最大 4400 億ユーロの融資を行う。加えて、
(3)IMF が最低 2500 億ユーロの支援を行う。
の 3 点であり、さらに、金融市場の緊張を和らげるために、ECB がドル流動
性供給の再開、公社債市場への介入を決定した。
第 2 図:包括的支援策
欧州委員会
ユーロ圏加盟国
IMF
ECB
融資による支援
融資による支援
EFSF
~€600億
~€4400億
~€2500億
ソブリン債
市場に介入
EFSM
財政難に陥ったユーロ圏加盟国
(資料)EFSF より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成
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— アイルランド財政危機、ESM計画:その間にも、アイルランドでは、銀行
部門の救済コストが膨らんでいった。同国内の主要銀行は相次いで破綻寸
前となり、政府が金融支援を引き受けた3。アイルランドの更なる財政悪化
が見込まれたことから(第 3、4 図)、市場での懸念は高まり同国債の利回
りは上昇、主要格付機関はアイルランドのソブリン格付を引き下げた。そ
の後、アイルランド政府は昨年 11 月 28 日にEUとIMFに金融支援を求める
こととなり、現在では上限 850 億ユーロの支援が予定されている。当面は、
2012 年までにEUが 225 億ユーロ、EFSFが 177 億ユーロの支援金を拠出す
る予定となっている。同時に、EFSFを発展させた形での欧州安定メカニズ
ム(ESM)を設立するという合意がなされた。
第 3 図:ユーロ圏周縁国の財政収支
-16
(対GDP比、%)
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6
1998 99 2000 01
ポルトガル
イタリア
スペイン
02
03
04
05 06 07 08 09
アイルランド
(年)
ギリシャ
マーストリヒト基準
(資料)Eurostatより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
第 4 図:ユーロ圏周縁国の政府債務残高
(対GDP比、%)
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
1998 99 2000 01
ポルトガル
イタリア
スペイン
02
03
04
05
06
07
08
09
(年)
アイルランド
ギリシャ
マーストリヒト基準
(資料)Eurostatより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(3) EFSM の概要
現在 EFSM は、EFSF と IMF とともにアイルランド支援を行っている。2010
年 5 月 9 日に EFSF と同時に成立が決定された。これまで財政難に陥った EU 加
盟国に IMF と協同で中期的な(約 5 年程度)金融支援を行ってきた国際収支フ
ァシリティ(Balance of Payments Facility)を下敷きにしたメカニズムである。
融資した資金の利払いおよび元本の返済はすべて融資の受け手である国が負担
することになるため、EU にとっての負担は原則的に発生しない。EFSM の資金
調達については、欧州委員会が 600 億ユーロを上限に実施する。合わせて実際
に債務不履行に陥った際などには、EU 予算で補填されることが規定されてい
る。ただし、国際収支ファシリティの場合は、欧州委員会が市場で調達した際
の金利がそのまま該当国が返済する金利となるのに対し、EFSM については、
アイルランド救済の場合、市場で調達した際の金利 2.59%に 2.925%のマージン
が上乗せされ、あわせて 5.515%がアイルランドにとっての融資金利となってい
3
欧州委員会のレポートによると、アイルランド政府の銀行部門への支援額は、1 月 28 日現在ま
での 2 年間で 463 億ユーロ(対GDP比 29%)となっている。
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る。マージンは、EU の予算に戻され、財政年度末には EU 各国に分配されるこ
とになっている。
(4) EFSF の概要
EFSFも、EFSMと同時にユーロ圏参加国 16 カ国4(当時)によって設立が決
定された。同年 6 月 7 日にはルクセンブルグ法のもとで設立され、8 月 4 日か
ら運用開始している。EFSFの目的は、ユーロ圏内の金融安定を維持すべく、ユ
ーロ圏参加国が資金難に陥った場合に一時的な金融支援を行うというものであ
る 5 。支援にあたっては、ドイツ国債を取り扱っているドイツ国債管理会社の
支援を受けながら、市場で債券を発行し、資金を調達する。この発行の後ろ盾
として、欧州中銀への出資率に応じた割合でユーロ圏各国が最大 4400 億ユー
ロを保証する(第 2 表)。EFSFは早くて 2013 年 6 月 30 日にはすべての償還・
支払を完了し、解散されることになっており、その後ESMへ移行されることに
なる。
第 2 表:ECB への出資状況と EFSF への拠出率と実額
ユーロ圏16カ国
ドイツ
拠出率
最大保証額
(単位:100万ユーロ)
27.1
119,390.07
調整
拠出率
実際の保証額
(単位:100万ユーロ)
28.4
124,960.00
フランス
20.4
89,657.45
21.3
93,720.00
イタリア
17.9
78,784.72
18.7
82,280.00
スペイン
11.9
52,352.51
12.5
55,000.00
オランダ
5.7
25,143.58
6.0
26,400.00
ベルギー
3.5
15,840.00
2.8
オーストリア
2.8
15,292.18 現在金融支援を受け
12,387.70 ているギリシャとア
イルランドを除く
12,241.43
3.6
ギリシャ
ポルトガル
2.5
フィンランド
1.8
アイルランド
0.0
0.00
2.9
12,760.00
11,035.38
2.6
11,440.00
7,905.20
1.9
8,360.00
1.6
7,002.40
0.0
0.00
スロバキア
1.0
4,371.54
1.0
4,400.00
スロベニア
0.5
2,072.92
0.5
2,200.00
ルクセンブルグ
0.3
1,101.39
0.3
1,320.00
キプロス
0.2
863.09
0.2
880.00
マルタ
0.1
398.44
0.1
440.00
合計
100
440,000.00
100
440,000.00
(資料)EFSFより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(5) 欧州安定メカニズム(ESM)の計画および概要
欧州委員会の提案を受けて 2010 年 11 月 28 日のユーロ圏財務相会議において、
欧州安定メカニズムを設立することで同意した。現行の暫定的機関である
4
今年 1 月にユーロ圏に参加したエストニアは、現段階ではEFSFのメンバーではない。しかし、
今後の参加が待たれている。
5
EFSFは一時的に設立された支援機関であり、2013 年 6 月 30 日以降はすぐに解散されることが
予定されている。その後は、2010 年 11 月 28 日にユーロ圏財務相会合にて同意され 12 月に欧
州議会が承認した常設の欧州安定メカニズム(ESM)がEFSFとEFSMに代わって運用される。
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EFSF をベースとした、ユーロ圏の金融安定を保障するための、恒久的な危機
対応メカニズムとなる。
EU では経済サーベイランスを強化することが予定されており、債務の持続
可能性、より効果的な強制措置がこれに含まれており、財政危機を未然に防ぐ
ことを狙いとしている。直近 2 月 14 日の財務相会議では、5000 億ユーロを融
資可能額とすると発言されている。ESM は以下の 3 点を踏まえつつ、この新し
い枠組みを補完するものとなる。
— 状況判断:財政危機の状況把握として、政府債務の持続性についての分析
(Debt Sustainability Analysis)が行われた上で、流動性危機あるいは債務超
過危機であるかを明確に区別する。
— 支援と条件:流動性危機の場合には、厳格な経済・財政調整計画の実施を
条件として支援を行う。民間の債権者は現行通り、当該国の国債を保持す
るよう勧められる。一方、破綻のリスクがある債務超過危機のケースでは、
IMFの慣行に沿って、当該国が民間の債権者と包括的計画について交渉す
ることが義務付けられる。しかし、後者の場合には、ESMが「支援を行
う」ではなく、「支援の可能性はある」と言及するにとどまっている。
ESMはIMFに次ぐ優先的債権者としての位置付けとなる。
— 民間部門の負担・参加: IMFの慣行に則り、個別の状況に応じて検討され
る。2013 年 6 月以降に新規発行されるすべてのユーロ圏のソブリン債につ
いては、集団交渉条項(CACs)が適用される。これにより、債権者が多数
決によって債務返済の規定を変更することが可能になる。
2.現状
ギリシャ危機、アイルランド危機を経て、暫定救済機関の設立にとどまらず、
新たな恒久的な機関の設立の取り組みが行われる一方で、現在運営中である
EFSF を拡大する動きもある。
1 月に行われた EFSM のための欧州委員会による起債や、EFSF 債の起債は好
調であった。現段階では、ともに主要格付機関からトリプル A の格付を得てい
る。EFSF の融資は、各国政府が融資額に 20%上乗せした額の保証を行ってい
る。借手国が債務不履行に陥った際に備え、保証額が実際の融資額を上回るこ
となどが格付機関の高い評価の背景にある。また、制度開始時に借手国から現
金準備を徴収することになっている。さらに、トリプル A 格付を維持するため
に、融資案件によっては、債務国からも融資額の中から追加拠出を要請し、キ
ャッシュバファーとすることができる。このようにして、ユーロ圏参加国のソ
ブリン格付が引き下げられたとしても、EFSF はトリプル A 格付を維持できる
と考えている。
一方、EFSF では、拠出保証を引き揚げる国が出た場合には、残りの国で拠
出率を再調整し、4400 億ユーロの総額を減額するとしている。金融市場は
EFSF が当初発表した総額 4400 億ユーロ全てが融資額となることを期待してい
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たが、実際の融資額は 4400 億ユーロを大幅に下回る額になるのではないかと
懸念している。
また、EFSF が今後運営されるなかで、EFSF 債のトリプル A 格付維持のため
に、ドイツなどの優良格付国(第 5 図)の負担額が増加する可能性もあり、そ
れまで比較的健全な財政運営に努めてきたトリプル A 格付国が、財政悪化を食
い止めることができなかった国の負担をするというのは、不公平であるという
前者の国民感情が懸念される(第 7 図)。
第 5 図:ユーロ圏参加国のソブリン格付
ユーロ圏
加盟国
Moody's
ドイツ
Aaa
フランス
イタリア
S&P
第 6 図:EFSF の拠出率割合
Fitch
AAA
AAA
Aaa
AAA
AAA
Aa2
A+
AA-
スペイン
Aa1
AA
AA+
オランダ
Aaa
AAA
AAA
ベルギー
Aa1
AA+
AA+
ギリシャ
Ba1
BB+
BB+
オーストリア
Aaa
AAA
AAA
ポルトガル
A1
A-
A+
フィンランド
Aaa
AAA
AAA
アイルランド
Baa1
A-
BBB+
スロバキア
A1
A+
A+
スロベニア
Aa2
AA
AA
ルクセンブルグ
Aaa
AAA
AAA
キプロス
Aa3
A
AA-
マルタ
A1
A
A+
(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
非トリプルA国*
非トリプルA国*
約1724.8億ユーロ
約1724.8億ユーロ
(39%)
(39%)
トリプルA格付国
トリプルA格付け国
約2675.2億ユーロ
約2675.2億ユーロ
(61%)
(61%)
*ギリシャとアイルランドを除く
(資料)EFSFより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2013 年以降に ESM に転換される予定の EFSF については、ギリシャの財政
赤字を削減し十分な余力を与えるために、同国債を市場から買い戻すなど
EFSF の機能を拡大する提案が行われている。ドイツやフランスなどは、より
厳格な財政規律を盛り込むべきだと争議している。
欧州委員会による EFSM の起債および EFSF 債の起債当初は格付が良好であ
っても、それを今後どの程度維持できるのか、維持するために各支援国がどの
程度までの負担を受け入れられるかという長期的な見通しについての不透明感
は残る。
3.今後の展望
現段階で試行錯誤がなされている危機予防策、危機後の対応策双方ともにユ
ーロ圏が今後持続していく上で、必要不可欠なものである。ギリシャ危機にお
いては、そのような機関が存在していなかったため、16 の異なる政府をまとめ
るのに時間を要し、ギリシャ危機が発生後、2010 年 2 月に支援が示唆されなが
らも実際に実行されるまで 2 カ月かかっている。
今後も EFSF の拡大、ESM の方針を固めていく上でユーロ圏参加国が合意に
たどり着くのは容易ではないとみられる。しかし、EU の包括的戦略(第 3
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表)や EU の根本にある欧州連合条約が示すように、EU の本来の目的は、均衡
かつ持続可能な経済・社会の成長を目指すことである。その目標の通過地点と
して単一通貨の導入があり、域内の経済・財政不均衡を無くすことがある。ユ
ーロ圏 17 カ国は、域内の経済・財政不均衡という重荷を抱えつつ、財政危機
というハードルに向かい、今後も長期的な域内の経済・社会的な成長というゴ
ールを目指し続けると考えられる。
第 3 表:EU の包括的戦略
・
・
・
・
・
経済ガバナンス
ストレステストおよび金融部門の復興
ヨーロピアン・セメスター6の実施
ギリシャ・アイルランドの支援計画の持続
ユーロ圏参加国の財政および経済強化策の進捗度について欧州委員会
が ECB とともに査定
・ ESM の運営詳細についての最終決定
ユーロ圏全体では現在のユーロ圏を維持するという意志が強いなか、ドイツ
などの優良格付国がどこまで支援するかという点が注目されたが、直近のユー
ロ圏財務相会議では、ESM の融資可能額を 5000 億ユーロとするという前向き
な決定がなされた。その他に焦点となってくるのは、経済・金融などの環境を
どう調整するかである。ユーロ圏周縁国の問題は金融危機以降に始まった問題
ではなく、特にギリシャの財政赤字・債務残高については、ユーロ圏参加以降、
一貫してマーストリヒト基準を上回り続けてきた。現在の危機を未然に防ぐた
めには、より厳しい財政規律が必要であろう。周縁国の長期国債利回りは依然
として高い水準にあり、市場の緊張を完全に鎮静化するため、既に EFSF 自体
の拡大も検討されている。
足元では、過去 2 週間の間、ECB が国債買い取りを一時停止していたことも
あり、ポルトガルの 10 年物国債が 7%を越え、ユーロ圏開始以来最高水準に達
した。金融市場の神経質な動きは続いており、ECB は国債買い取りを再開した。
3 月には EU のグローバルな包括的戦略が最終決定されることから、詳細が注
目される。
以 上
6
EUとユーロ圏が安定・成長協定および欧州 2020 戦略に則り、財政および経済政策を連携し、
監視と強制メカニズム(制裁を含む)を通じて域内のガバナンスを強化することが主目的であ
る。約半年のスケジュールの中で、①1 月に年次成長概観(Annual Growth Survey)、②それに
基づいて春期理事会でEU内での問題点を洗い出し、政策アドバイスを行う。その後、③域内政
府は成長と収斂プログラムを通して中期財政戦略などについて議論し、④4 月には欧州委員会
へ提出される。⑤6・7 月に委員会は国別のガイダンスを行う。⑥7 月には、各国政府が翌年の
予算を確定する前に、欧州委員会および加盟各国首脳が政策に対するアドバイスを与える。
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