低金利が定着した今こそ 日本債券アクティブ運用を

円債フォーカス
May 2015
Your Global Investment Authority
低金利が定着した今こそ
日本債券アクティブ運用を
債券が年金基金の安定的なポートフォリオ運用にとって欠かせない資産クラ
スであることに疑問の余地はないでしょう。
そして、円金利という負債を持つ日
本の年金基金においては、債券運用の中心はやはり日本債券であり、
パッシブ
運用をポートフォリオのコアと位置付けている年金基金が多くあることは事実
でしょう。
一方で、実際にアクティブ運用の効果を正しく評価する機会を持たないまま、
パッシブ運用を継続されているケースも多いのではないでしょうか。
日本銀行
による異次元金融緩和により、債券市場ではさらに金利低下が進み、
日本債券
については、期待リターンの相対的な低さから、
アクティブ運用のコストを正当
化できるのだろうかという漠然とした懸念があるのかもしれません。
しかし、
現実には、
金利低下が進み定着した現在のような環境にはアクティブ運
用の収益機会があるとPIMCOでは考えており、
実際にこれまでのリターンはそれ
覚知 禎
を物語っています。
日本国債の短中期債の利回りが低水準にある今だからこそ、
エグゼクティブ・バイス・プレジデント
ポートフォリオ・マネージャー
円金利資産においてはアクティブ運用を検討すべきではないかと考えます。
「アクティブ運用はインデックスに勝てない」は本当か
一般的に、パッシブ運用を採用している投資家においては、
アクティブ運用ではイン
デックスのパフォーマンスを安定的に上回ることは困難であり、
したがってコストを
払ってまでアクティブ運用にする必要はないという考えがあるようです。
白石 浩一
バイス・プレジデント
プロダクト・マネージャー
果たしてそれは正しい理解といえるのでしょうか。データを用いて、アクティブ運
用、さらに日本債券アクティブ運用の実際のパフォーマンスを検証してみましょう。
図表1は、マーサージャパン株式会社のデータベースに登録され
ているアクティブ運用口座の過去5年の実績を示したもので、それ
ぞれのベンチマーク1に対する超過収益をトラッキングエラーで
は対象のアクティブ運用口座をIRの高い順に並べ、上位5%の値、
上位25%の値から下位5%の値までを表示したものです。)
図表1:アクティブ運用口座のインフォメーション・レシオ
(過去5年)
1.5
1.0
0.5
0
3.5
上位5%
-0.5
2.5
上位25%
-1.0
1.5
中央値
下位25%
0.5
0.0
-0.5
-1.5
下位5%
外国株式
外国債券
国内株式
国内債券
データは報酬等控除前
2014年12月末現在
出所:マーサージャパン株式会社のデータをもとにPIMCO作成
分布の状況をみると、内外株式のアクティブ運用口座よりも、内外
債券のアクティブ運用口座の方が相対的に高いIRを獲得している
ことがわかります。株式に比べると債券のアクティブ運用がより質
の高い運用成果を達成できているということになります。
さらに、国内債券運用口座のIRをみると、下位であっても概ねプラ
スのIRを獲得していることが読み取れます。
次に、
日本債券アクティブ運用における実際のパフォーマンスにつ
いて見てみましょう。図表2は、前述のデータベースを用い、
日本債
超過収益を獲得
除したインフォメーション・レシオ
(IR)
として表しています。
(グラフ
図表2:日本債券アクティブ運用口座の超過収益率
(過去5年、年率、%)
2005~2009年
2010~2014年
データは報酬等控除前
期間:2005年1月から2009年12月の超過収益率(年率)及び
2010年1月から2014年12月の超過収益率(年率)
出所:マーサージャパン株式会社のデータをもとにPIMCO作成、
ベンチマークはNOMURA-BPI
この結果からは、2009年までの5年間は超過収益の獲得が容易で
はありませんでしたが、2014年までの5年間ではパフォーマンス下
位の運用口座も含め多くのアクティブ運用口座が超過収益を獲得
できていることがわかります。そして超過収益の水準自体も、一般
的なイメージとは異なるかもしれません。
アクティブ運用はインデッ
クスを安定的に上回ることは困難であるという見方がありますが、
このデータからは下位の運用口座も含め多くのアクティブ運用口
座が超過収益を獲得していることがわかります。
アクティブ運用はインデックスを安定的に上回ることは困難である
という見方がある中、金利水準も低く、超過収益の獲得も容易では
ないと考えられがちな国内債券ですが、必ずしもそうではなく、意
外に思われるのではないでしょうか。以下に、
こうした状況になっ
ている背景について考察したいと思います。
券アクティブ運用口座についてNOMURA-BPIに対する超過収益の
状況を2009年末までの5年間と、2014年末までの5年間に分けて
比較したものです。
(4色の帯グラフは図表1と同じ序列で示してい
ます。)
1
外国株式:MSCI KOKUSAI (円ベース)、外国債券:シティ世界国債インデックス(除く日本、
日本円ベース)、国内株式:TOPIX、国内債券:NOMURA-BPI
2
MAY 2015 | 円債フォーカス
日本債券市場は効率的か
一方、
日本国債のイールドカーブの状況をみると、
日銀による異次
一般に、市場が効率的ならアクティブ運用によって超過収益を得る
ことは困難になると考えられますが、
日本の債券市場では、異なる
投資目的や投資制約を持つ投資主体の存在があることから、非効
率性が残っているといえます。
アクティブ運用を通じてこうした市場
の非効率性を積極的に活用することで、ポートフォリオの更なるリ
ターンの向上を図ることができるとPIMCOでは考えています。
例えば、日本債券に投資する主体としては、銀行、保険会社、年金
基金、日銀などが考えられますが、それぞれの投資目的や政策目
的により投資する債券の年限や投資期間は異なります。
また、投資
主体によっては社債などへの投資について厳格な格付け制約を
設けている場合もあり、
このことが市場の分断を生じさせ、イール
ドカーブや格付け間での歪みが存在する原因となっています。
特に、政府や日銀など、必ずしも経済合理性や市場メカニズムに
沿って行動するとはみられない参加者の存在は、市場分断をより強
いものとし、市場の効率性を阻害している可能性が考えられます。
また、金融危機後の規制強化に伴うバランスシート圧縮の必要性
から、証券会社などの在庫保有能力およびマーケットメイク機能
は低下しているとみられ、流動性リスクプレミアムの増加といった
形で市場の価格形成に歪みを生じさせる要因となっています。
元の金融緩和等により、現在では7年程度の中期ゾーンまで利回り
がゼロ近傍に低下しています。
つまり、
日本の債券市場においては、NOMURA-BPIをベンチマーク
とする純粋なパッシブ運用を行う場合、
こうした利回りがゼロ近傍
の債券を約5割も保有することを意味します。
それに対してアクティブ運用では、利回りがほぼゼロの年限ゾーン
への投資を制限し、イールドカーブの傾斜が存在する長期や超長
期債への選別投資によるロールダウン効果を狙うなど、投資妙味
のある年限ゾーンへ機動的に配分することが可能になります。
日銀の金融政策によりイールドカーブの形状が短中期ゾーンまで
ゼロ近傍で平坦化したここ数年は特に、日本の債券市場における
アクティブ運用の可能性が飛躍的に増加したといえるのではない
でしょうか。
次に、図表4は同インデックスの債券種別構成比を示したもので
すが、国債が約8割を占め、政府保証債、地方債、金融債といった、
国債に対する利回り格差の乏しい種別が約1割を占めています。
図表4: NOMURA-BPIの債券種類別構成比と国債対比利回り
スプレッド
(%)
種別
構成比
対国債スプレッド
国債
80.1
―
地方債
6.9
0.08
政保債
3.7
0.04
図表3にあるようにNOMURA-BPIの組入債券を年限別に見ると、
金融債
0.9
0.14
1~3年で2割強、3~5年で2割弱、5~7年で1割となっており、残存
事業債
6.4
0.26
7年までの中期ゾーンで約5割を占めています。
円建外債
0.7
0.35
図表3:NOMURA-BPIの年限別構成比(%)
住宅ローン
担保証券(MBS)
1.3
0.15
0.1
0.36
日本の債券市場の現状
ここで、代表的な日本の債券市場インデックスであるNOMURABPIを例に、現在の日本の債券市場の特徴を見てみましょう。
資産担保証券
(ABS)
35
30
国債に対する
上乗せ利回り
が相応に存在
する種別
2015年3月末
出所:NOMURA-BPI、PIMCO
25
20
別の言い方をすれば、NOMURA-BPIには国債に対する上乗せ利回
15
りが相応に存在する事業債などの種別は、1割程度しか組み入れら
10
れていないということです。
5
0
アクティブ運用では、
この1割にとらわれることなく構成比をアクティ
1-3年
3-5年
2015年3月末
出所:NOMURA-BPI、PIMCO
5-7年
7-10年
10年超
ブに調整することで、幅広い戦略をとることが可能となり、インデッ
クスを上回る収益機会を得られる可能性があります。
円債フォーカス | MAY 2015
3
アクティブ運用は有効かつ重要な収益源泉
ここまでみてきたように、現在の日本債券市場においては、市場参加者の投資年限の相違によ
るイールドカーブ上の市場分断や、異なる投資制約による格付け間における市場分断が生じて
いると考えられます。
そうした市場の非効率性に鑑みると、
日本債券市場には多くの超過収益獲
得の機会が存在し、
アクティブ運用によるリターン向上の可能性を広げているといえるでしょう。
アクティブ運用により、利回りがゼロ近傍にある短中期債への配分を制限し、長期ゾーンに存
在するイールドカーブの傾斜によるロールダウン効果を活用することや、対国債スプレッドが
相応に存在する事業債などクレジット・セクターへの機動的な投資などを通じて利回りを補
完することは、ポートフォリオにとって重要な収益の源泉となると考えられます。
また、当面、日銀の量的緩和により日本債券の低利回りの環境が続くと見込まれることから、
ますますアクティブ運用の重要性は高まるものと考えます。
略歴
覚知 禎
エグゼクティブ・バイス・プレジデント
東京を拠点とするポートフォリオ・マネージャーで、
日本債券の運用および売買執行を担当。
アジア・パシ
フィック・ポートフォリオ・コミッティーのメンバーも務める。2003年ピムコジャパンリミテッド入社。ポート
フォリオ・マネージャーとなる以前は、
アソシエイトとしてクライアント・サービス業務に従事し、
また、マーケ
ティング・サポート・チームでは分析業務を担当した。投資業務経験12年。東京大学にて工学学士号を取
得、ニューヨーク大学にてファイナンス数理修士号を取得。
白石 浩一
バイス・プレジデント
東京を拠点とする年金・法人チームのアカウント・マネージャーで、
年金顧客へのクライアント・サービス、
およ
び、
日本債券のプロダクト・マネジメントも担当する。2014年にピムコジャパンリミテッドに入社する以前は、
ナティクシス・アセット・マネジメント・ジャパンのシニア・バイス・プレジデントとしてポートフォリオ・マネー
ジャーを務めた。
それ以前は、ニッセイアセットマネジメント株式会社でクレジット運用室長を務め、信用分
析および社債運用に従事。投資業務経験25年。中央大学にて数学学士号を取得。米国CFA協会認定証券ア
ナリスト。
ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するもの
であり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれています
が、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的
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債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略
の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変
動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落し、現在のような低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけ
るカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時
に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び
政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。
ピムコジャパンリミテッド
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