-理科- 言語活動を充実させ,科学的な思考力や表現力を高める理科学習 主幹兼室長 竹下 文則 指導主事 館山 恭一 研究協力員 植木町立桜井小学校 教諭 森本 孝 指導主事 村本 雄一郎 研究協力員 大津町立大津中学校 教諭 渡辺 一宣 指導主事 赤峯 達雄 言語活動を充実させ,思考力や表現力を高めるために,授業展開の中で,課題に対して 見通す活動,観察,実験の結果をまとめる活動,結果から考察する活動に重点をおき,指 導の工夫を行った。その結果,考察する活動では,キーワードを使って考え,全体へ広げ 練り上げる過程の言語活動を通して,科学的な思考力や表現力に高まりが見られた。 科学的な思考力や表現力 1 パターン 研究の目的 本研究では,観察,実験などを通した問題解決活 考察 キーワード 練り上げ また,PISA調査(2006)では,疑問を科学的な問題 としてとらえる力,実験企画能力,実証的なデータ 動を基盤として,課題解決を見通し,結果をまとめ, をもとに結論を説明できる力の育成が課題となって 考察する活動の中で言語活動を充実させていくこと いる。今後,身近な自然とのつながりの中から課題 を考えている。さらに,これらの言語活動の充実を をつかみ,解決の見通しを持ち,結果をまとめ,考 通して科学的な思考力や表現力を高めていく指導の 察し説明する学習活動を通して,科学的な思考力や 工夫を取り入れた授業改善を行い,その指導の工夫 表現力を育成することが必要となる。 を検証することを目的とする。 (1) 科学的な思考力や表現力の育成について そこで本研究において,「科学的な思考力や表現 力」を次のようにとらえることにする。「科学的な 平成20年1月に出された中央教育審議会答申(以 思考力」とは,観察,実験の結果を,自分の考えに 下「中教審答申」)の,理科における改善の基本方 基づいて解釈したりする力や観察,実験データに基 針の中に,次のように記されている。 づいて考察したりする力である。また「科学的な表 科学的な思考力・表現力の育成を図る観点か 現力」とは,科学的な言葉や概念を活用して,調べ ら,学年や発達の段階,指導内容に応じて,例 た結果や考察を文章や図式を用いて分かりやすくま えば,観察・実験の結果を整理し考察する学習 とめたり,発表したりする力である。 活動,科学的な概念を使用して考えたり説明し (2) 理科における言語活動の充実について たりする学習活動,探究的な学習活動を充実す る方向で改善する。 中教審答申では,理科における言語活動について 次のように例示している。 これは,児童生徒の探究的な学習活動を基盤とし 観察・実験において,「視点を明確にして, た上で観察,実験の結果を整理し,考察する学習活 観察した事象の差異点や共通点をとらえて記録 動や,科学的な概念を使用して考え説明する学習活 ・報告する。」 「仮説を立てて観察,実験を行い, 動の重要性を述べたものである。 その結果を評価し,まとめて表現する。」 -理科- 本研究では,観察,実験などの問題解決活動を中 (6) 検証授業後の児童生徒の実態調査とその考察 心とした学習展開の中で,言語活動を充実させるた めの活動を次のようにした。 3 研究の実際 ①予想や解決の見通しを持つ活動 (1) 理科授業モデルの作成 小学校,中学校それぞれの学習指導要領との関連 ②結果をノート等にまとめる活動 を図りながら,言語活動を充実させ科学的な思考力 ③結果から課題を考察する活動 それぞれの活動の中で「考えを持つ」 「記録する」 や表現力を高めていくための「理科授業モデル」を 「発表する」活動を言語活動ととらえ,本研究での 図1のように作成した。①予想や解決の見通しを持 指導の工夫を次のようにした。 つ活動では,自分の考えを持ち発表すること,②結 ①意欲的に課題にかかわり,見通す段階で自分 果をノート等にまとめる活動では,言葉・図・表・ グラフを分かりやすくかくこと,ペアやグループ単 の考えを持たせる指導の工夫 ②観察,実験の結果を分かりやすく発表・記録・ 位でのスムーズな活動を展開すること,③結果から 課題を考察する活動では,キーワードを大切にして 説明する指導の工夫 ③結果からキーワードを使って考察する力を高 自分の見通しや仮説を振り返ること,学級の中で考 察を練り上げることを言語活動の充実に向けた児童 める指導の工夫 生徒の達成目標とした。 2 (2) 研究内容に対する具体策及び実践方法の考案 研究の方法 理科授業モデルをもとに,言語活動の充実に向け (1) 理科授業モデルの作成 (2) 研究内容に対する具体策及び実践方法の考案 た各活動での達成目標を具体化するために,その具 (3) 児童生徒の実態調査 体策及び実践方法を表1,2,3のとおりに,一覧 (4) 単元における指導計画の作成 表にまとめた。 (5) 検証授業(公開授業)の実施と授業研究会 図1 理科授業モデル -理科- 表1 意欲的に課題にかかわり,見通す段階で自分の考えを持たせる指導の工夫 具体策 実 践 方 法 先行経験や既習事項を ○課題を把握しやすいような事象の提示や教具を工夫する。 思い出させる。 イ 学年に応じた仮説を立 ○全員に自分の考えを持たせ,仮説を立てることができるようにする。 てる。 「予想」 「理由」「調べ方」の項目で書かせる。 ○発表のパターン化をする。 (例)小学5年生:予想と調べ方を別々に尋ねる。 「予想は~だろうと思う。理由は~だから。 」「その調べ方は~するとできると思う。 」 (例)中学2年生:予想と調べ方を一緒に尋ねる。 「予想は~だろうと思う。理由は~だから。その調べ方は~するとできると思う。」 *「理由が分からない」も認める。 ウ 予想・理由・調べ方等 ○一人一人の考えを大切に扱い,決して否定したり,笑ったりするなど,意欲を失うような を認め,ほめ,励ます。 反応をしない。考えついたことを励ましていく。但し,危険を伴うような調べ方は,理由 を言って取り上げない。 ア 表2 観察,実験の結果を分かりやすく発表・記録・説明するための指導の工夫 具体策 実 践 方 法 分かりやすく結果を書 ○結果と考察は別であり,自分の諸感覚を使い,数値や絵,図,グラフ等を使って書く。 き出す。 イ 図・表・グラフをかき ○学習シートの内容を工夫する。結果を書く用紙(小さくカットされた用紙)だけ与える。 やすいような支援をする。 ウ ペア・グループ単位で ○ペアやグループの中での説明方法を決める。 の話合いをスムーズにす ・2人組の話合い:2人組で結果を話し合う。確かめ合う。 る。 「私の結果は~になった。 」「~が分からなかった。 」 ・グループでの話合い:進行役を決める。進行役は毎時交代する。 結果を一人ずつ発表する。分かりやすく説明する。 進行役がグループ全体の結果をまとめる。 ア 表3 ア 結果からキーワードを使って考察する力を高める指導の工夫 具体策 考察の理解を深める。 イ 考察の書き方をパター ン化する。 ウ 考察のポイントを示し て,質の高い考察を意識 させる。 エ 児童生徒と教師で考察 を練り上げていく。 実 践 方 法 ○時間を確保する。 ・残り7分ほどの確保を目指す。そのため前の活動時間を短くするよう工夫する。観察や 実験活動の能率を高めたり,記入する場面を精選したりする。 ○教師自身が考察の考え方をとらえ直し,児童生徒へ指導する。 ・結果と考察とを明確に分けて授業を行う。 ・結果と考察を文章で記述させる機会を設ける。 ・結果と考察を単語だけでなく文章として発言させる。 ・結果と考察の場面では教師は発言を控え,児童生徒に発言させる。 ・発表の中で,観察,実験の目的,仮説,方法を明確にさせる。 ○考察の書き方をパターン化する。 ・「こうしたら(方法) ,こうなった(結果)。だから~ということが分かった(考え)。」 ・「今日の課題について調べたら,~ということが分かった(考え)。」 ・教師がキーワードを与えて,上の二つの書き方でまとめさせる。 ・考察を書く前に,みんなでキーワードを考え,まとめさせる。 ・考察の後に,「今日のことは,身の回りでは~で使われている。」「新しい疑問で,~と いうことが生まれた。 」を追加してまとめさせる。 ・考察1:分かったこと ・考察2:考察1から考えられることとしてまとめさせる。 ○考察のポイント ・課題について考えているか。 ・結果で分かったことが入っているか。 ・キーワードが使われているか。 ○考察を発表させ,教師が評価をし,全体で練り上げていく。 ・ノートや学習シートに記録→個人発表→教師板書→教師評価→児童生徒が朱書きで添削 ・ノートや学習シートに記録→ICT機器での発表→教師評価→児童生徒が朱書きで添削 ・グループで大きな紙に記入→全体掲示→教師評価→児童生徒が朱書きで添削 *児童生徒が書いた考察を認め,ほめ,励ます。 *よい考察を児童生徒と教師で考え合い作り出し,児童生徒へ提示する。 -理科- (3) 実践例1(小学校第5学年) 単元名 ① ない児童についても励ましていった。一人一人の 考えやつぶやきを大切に扱い,認め,ほめること 「電磁石の性質」 児童の実態(小学校第5学年38人) 事前アンケートでは,調べる方法や見通しを立て で児童の意欲が高まるようにした。 イ て観察,実験を行うことができる児童は約80%であ る。結果をまとめるときに,図,表,グラフなどを 観察,実験の結果を分かりやすく発表・記録・ 説明するための指導の工夫 ○実験結果をノートに記録する際に,記録用の表を 使ってまとめることができる児童は約60%である。 配付し,児童は結果を記入し,ノートに貼付した。 考察を書くことができる児童は約60%であり,考察 ○結果を全体で確かめるために,同一形式の「掲示 を発表することができる児童は50%である。昨年度 用の表」を準備した。ノートに記録した後に,グ の県学力調査では,科学的な思考の観点, 「A物質 ループごとに「掲示用の表」に記入して全体への ・エネルギー」の領域が県平均を下回っており,他 発表も行った。 の観点や領域は県平均を上回っている。 ② 言語活動を充実させるための具体的実践 ア 意欲的に課題にかかわり,見通す段階で自分の 考えを持たせる指導の工夫 ○意欲的に課題にかかわらせるために,導入部分で ○結果をスムーズにまとめるために,ペアで結果の 確認をしたり,説明したりした。 ウ 結果からキーワードを使って考察する力を高め る指導の工夫 ○考察の時間を確保するために,課題解決を見通す は,手袋の中に電磁石を隠し金属を引きつけたり, 時間,観察,実験や結果をまとめる時間などを短 離したりする様子を見せた。児童の関心を高め, くする工夫をした。具体的には,実験をすぐに始 どのような仕組みがあるのだろう,調べてみたい められるように用具類を箱に入れておいたり,表 という意欲の喚起を行った。 の枠だけの用紙を配ったりした。 ○導入では,「電磁石が弱い→強くしたい→どうし ○考察の書き方の例をいくつか示し,教師からキー たらよいのだろうか。」という疑問を課題に変え, ワードを与え,それを組み入れて書いていくよう 調べていく目的意識をはっきりと持たせた。 促した。 ○一人一人に見通しを持たせるために,予想や仮説 ○考察がうまく書けるように,授業後のノートを毎 (予想と調べ方)を立てさせ,発表しやすいよう 回調べて,ヒントを与えたり,丸を付けて励まし に,発表方法をパターン化した。学習シートやノ たりした(図3)。 ート等に既習事項や生活経験をもとに, 「予想」 「理 由」「調べ方」を書かせるようにした(図2)。 ○教師は児童の予想,理由,調べ方等を認め,ほめ ることを大切にし,予想や仮説が上手にできてい 図3 考察の書き方への記入例 ○質の高い考察となるように,実験の結果を確かめ た後で,全員で「考察のポイント」を確認した。 ○ノートに記入した考察等の発表では,ICT機器を 効果的に用い,実 物投影装置とプロ ジェクタを活用し て拡大し,これら を利用しながら児 童が意欲的に説明 図2 ノートへの仮説(予想と調べ方)の記入 を行った。 ICT機器の利用 -理科- ○ホワイトボードを活用して,考察を記入し,全体 ○児童には,ポイントをおさえた考察や全体で練り で確かめ合ったり,発表したりした。グループで 上げていった考察を参考にさせて,自分の考察に ホワイトボードに書いた考察を全体に掲示し,同 修正を加え,朱書きでノートに書かせるようにし じ点や違う点,付け加え,新しい疑問などをたず た(図4)。 修正した考察 ね,話し合っていくことで考察を練り上げていく ようにした。教師が各グループの考察を評価した り,よい部分を示したりした。 全体での考察の確かめ はじめの考察 図4 児童の考察の変化 ホワイトボードの活用 ③ 単元の指導計画(10時間取扱い,本時6/10) 次 時 主な学習活動 言語活動の充実 1 1 ○電流による磁力の発生を知り,電磁 ○予想や理由,調べ方などの考え方や発表の仕方を理 石への関心を持つ。 ○電磁石を作る。 解させる。 ○児童の先行経験や既習事項,教師の事象提示から, 考えたことや関心を持ったことを発表,記録させる。 2 2 ○自作の電磁石を使ってみる。 3 ○電磁石のはたらきを調べる。 4 ・ 3 ○電流計の使い方の大切なところを記録させる。 ○電磁石を強力にするためにはどうし ○電磁石を強くするための方法を考え,記録,発表さ ○電流の大きさと電磁石の強さの関係 を調べる。 6 ○コイルの巻き数と電磁石の強さの関 係を調べる。(本時) 7 ○別の方法で強力な電磁石を作って調 べる。 8 る。 ○電流計の使い方を知る。 たらよいかを考える。 5 ○自作の電磁石の絵を描き,使用後の気付きを書かせ ○電流の向きと電磁石の極について調 べる。 せる。 ○計画した実験方法に沿って,実験を行い,明らかに なったことを正確に表に記録させる。 ○実験結果をまとめる表を配付することで,考察の時 間の確保をする。 ○考察の仕方を指導する。 (考察の考え方,まとめ方等) ○ペアでの実験結果をグループで話し合わせて,グル ープの結果へとまとめさせる。 ○実験結果から分かったことを,ペアやグループで科 学的な言葉や概念を用いて,まとめさせる。 4 9 ○これまでの学習をもとに,電磁石の はたらきをまとめる。 10 ○電磁石の仕組みを利用したものづく りに挑戦する。 ○ものづくりを通して,出来上がった物について仕組 みを説明し,学習内容がどう生かされているのかを まとめさせる。 ○これまでの学習内容を振り返り,ノートに記録し, 発表させる。 -理科- ④ 本時の展開(第2次 第3時) ア 目標 コイルの巻き数を増やした電磁石が強力になるかを実験で確かめ,まとめた結果をもと に考察を書くことができる。【科学的な思考】 イ 展開 過程 学習活動【学習形態】 徹底能動 主な発問・指示等 教師の指導及び評価 備考 導入 1 本時の課題を確認 徹底 Tこれまでの学習を振 ○ 前 時 の 学 習 内 容 と 考 察 を 確 5分 する。 り返ろう。 認した。 コイルの巻き数を増やすと電磁石は強くなるだろうか 展開 2 学習課題について 徹 底 35分 話し合う。 (1) 自分の予想,理由, 自分の予想や調べ方 調べ方を確認する。 を発表しよう。 【個人】 (2) 互いの考えを交流 する。 【一斉】 3 実験を行う。 能動 【ペア】 コイルの巻き数を 変えて調べる。 予想や理由を発表させ,課 題解決意識を高めた。 ○コイルの巻き数という変化 する要素をはっきりさせ, 条件を整えることの重要さ を確認しながら実験を行わ せた。 実験結果をグループ でまとめてみよう。 4 結果をまとめる。 徹 底 【一斉】 5 結果から分かった 能 動 ことを考察する。 【個人→グループ →一斉→個人】 電流計 コイル 鉄釘 電池 導線 記録用 紙 結果を書きやすいような用 紙を与えた。 ○ペア同士の結果を黒板用の 用紙に書き,掲示した。 「考察のポイント」を確認 し,よい考察となるように した。 考察のポイントを確認 します。キーワードは 何でしょう。 徹 底 T考察の発表をしよ う。 T自分の考察を見直し て修正しよう。 どの考察がよく書け ているだろうか。 終末 6 演示実験を通して 5分 課題についての考察 を実感する。 【一斉】 カード 図 結 果 を も と に 自 分 で 考 察 を ミニホワイト 書 き , グ ル ー プ で ま と め た ボード ものを全体に示した。さら に教師と児童で練り上げた。 最後に,自分の考察を朱書 きで修正させた。 評価(評価基準) 【科学的な思考】 B:自分で,課題に合わせ, キーワードを入れた考察 を書くことができる。 【行動観察,ノート】 A:自分で,課題に合わせ, 結果に基づき,キーワー ドを入れた考察を分かり やすく書くことができる。 【行動観察,ノート】 Tさらに巻き数を多く ○次時の予告をした。 するとどれだけつく のか試してみます。 巻き数を多く したコイル -理科- (4) 実践例2(中学校第2学年) 単元名 ① イ 説明するための指導の工夫 「動物のくらしとなかま」 生徒の実態(中学校第2学年33人) 観察,実験の結果を分かりやすく発表・記録・ ○結果のまとめでは,どの実験でどのような結果に 観察,実験について,約80%の生徒が自分の考え なったかをグループ内で振り返らせた。効率的に で予想ができると答えている。しかし,調べる方法 記録させるために,結果だけ(「変化なし」「青紫 を考えたり見通しを持って観察や実験を行ったりす 色になった」など)を表にまとめさせた(図6)。 る生徒は10%に満たない。 グループ学習に関して,互いに話し合ったり,ま とめたりするという活動は積極的にできるが,個人 的な発表になると,なかなかできない面が見られる。 昨年度の県学力調査では,技能・表現,知識・理解 ウ 結果からキーワードを使って考察する力を高め る指導の工夫 ○試薬に対する実験結果をキーワードを用いて,考 察を行わせ,二つの考察から一つの結論を導き出 すように学習シートを作成した(図6)。 の2観点では県平均を上回っているが,関心・意欲 ○学習シートには,一行を点線で区切り,下段に自 ・態度と科学的な思考については県の平均を下回っ 分の考えを,上段には話合いで参考になった考え ており,科学的な思考力の育成が課題である。 を書き込めるように工夫した。 ② 言語活動を充実させるための具体的実践 ア 意欲的に課題にかかわり,見通す段階で自分の 考えを持たせる工夫 ○意欲的に課題にかかわらせるために,先行経験を 思い出させた。デンプンは,だ液によって糖に変 わるという予想を導き出させるために,「ご飯を ずっとかんでいると味はどうなるか。」という発 それぞれの実験結果 に対して考察を行う。 問をした。 ○見通しを持たせるために,「予想」「理由」「調べ 方」を学習シートに記入させた。自分の考えを書 きやすいように,書き方をパターン化した。特に, 調べ方では対照実験の必要性について考えさせ, 条件を整えることを意識させた(図5)。 一行を点線で区切り, 下段に自分の考え,上 段に参考になった考え を書き込めるようにし ている。 図6 図5 「予想」「理由」「調べ方」の例 二つの考察から,一つ の結論を導き出す。 学習シートの例 ○考察の書き方については,パターンを示し,生徒 ○3人を一つのグループとして調べ方を確認してい が考察を書きやすいようにした。各自で考える時 った。実験では,グループ内で役割分担を決め, 間を取った後,グループ別の話合いを行い,互い 特に,だ液の提供については,抵抗感をなくすよ の考えを出し合う中でそれぞれの考えを深めさせ うな話をし,誰でも提供できる雰囲気づくりを行 ていくようにした。そして,代表による発表を行 った。 い,考察を練り上げていった(右ページ写真)。 -理科- グループでの話合い 代表による発表 ③ 単元の指導計画(11時間取扱い,本時3/11) 次 時 主な学習活動 言語活動の充実 1 ○食物に含まれる栄養分に ○日常生活との関連を図ることで,興味・関心を高め,観察や実 ついて調べる。 2 ○だ液の働きについて考え る。 3 1 ○だ液の働きについて実験 する。(本時) 4 ○消化液の働きについて調 べる。 5 ○柔毛の役割について調べ る。 験に進んでかかわらせる。 ○対照実験の必要性について,生徒自らに実験を計画させる中で 考えさせる。 ○だ液の実験における考察(結果の分析,解釈)では,ヨウ素溶 液,ベネジクト溶液のそれぞれについて記録させる。 ○結果の考察は,個人からグループへ,そして全体へと深めさせ る。 ○仮説(予想),理由,調べ方(実験の方法),結果の記録,考察 については記入のパターンを示し,表現しやすいようにする。 ○消化器官と消化液,消化酵素とそれが作用する栄養分,物質の 吸収を総合的にとらえ,まとめさせる。 6 2 ○動物はどのようにして酸 素を体内に取り入れてい るのかを調べる。 7 ○血液に取り入れられた酸 ○教科書や資料集などから情報を収集させ,肺のつくりや細胞の 呼吸について,図を用いて記録させる。 ○肺胞の役割や細胞の呼吸については,物質交換の視点から考察 やまとめを行わせる。 素のゆくえと働きについ て調べる。 8 ○体に必要な物質や不要な ○血管の太さと血球の流れる速さの関係について考えさせたり, 物質は体の中をどのよう 血液の流れる向きに着目させてメダカの尾びれを観察,スケッ に移動しているのかを調 チさせたりする。 べる。 9 3 ○血液の成分,心臓のつく りと働きについて調べ る。 10 ○血液の循環と不要な物質 の排出について調べる。 11 ○血液の循環と生命維持に ○教科書や資料集などから情報を収集させる。 ○心臓のつくりと働きについては,各心房・心室の役割や動脈と 静脈の違いに着目させながらまとめさせる。 ○血液の循環については,体循環と肺循環の違いを血液が運ぶ物 質と関連させてまとめさせる。 ○腎臓や肝臓の働きについて,各器官の前後の血液の特徴に着目 させながらまとめさせる。 ついてまとめ,発表する。 ○血液循環の様子を物質交換の視点から模式図を用いてまとめ, 発表させる。 -理科- ④ 本時の展開(第1次 ア 目標 第3時) だ液の働きを調べる実験を行い,結果をもとに考察を書くことができる。【科学的な思考】 イ 展開 過程 学習活動【学習形態】 導入 1 10分 徹底能動 主な発問・指示等 前時を復習しながら 徹底 T前時を振り返ってみよ ○事前の予想を確認した。 本時の課題を確認する。 う。 【一斉】 35分 事前に書き込んだ予想や実験 学習シ ート した。 実験を行い,結果を 能動 記録する。 備考 方法を発表させ,課題を確認 だ液はデンプンを何に変えるのだろうか 展開 2 教師の指導及び評価 デンプ 【一斉】 ン 自分で立てた仮説を 調べてみよう。 ヨウ素 ○ヨウ素溶液とベネジクト溶液で 溶液 の結果から考えられることを,そ ベネジ れぞれ別々に書き込ませた。 3 結果をまとめ,考察 能動 T実験の結果からどのよ し発表する。 うなことが分かるだろ (1) 結果をまとめ,考察 する。 液 の充実を図った。 うか。 【個人】 ○グループで話し合いながら,考 (2) グループの中で各自 能動 Tグループの中で考察を 意見を出し合う。 【一斉】 書き方をパターン化し,考察 クト溶 まとめよう。 察を練り上げ,参考になった意 見を学習シートに書き込ませた。 各自で考える時間を取りなが ら,班別の話合いを行い,互 いの考えを出し合う中でそれ 代表のグループの発 ぞれの考えを深めていった。 表をもとに,それぞ (3) 代表のグループが, 能動 考察を発表し,それぞ 徹底 れの考察との相違点を 出し合う。 れのグループが相違 点を出し合い,考察 を練り上げる。 【一斉】 評価(評価基準) 【科学的な思考】 B:実験の結果から,だ液によ りデンプンが糖に変化したこ 自分たちの考察と相 違点はないだろう か。 とを指摘することができる。 A:対照実験の意味を理解した 上で実験の結果からだ液によ ってデンプンが糖に変化した ことを指摘することができる。 【学習シート】 終末 4 5分 本時のまとめをする。 【一斉】 T今日の学習をまとめよ ○今回の実験がヒトの口の中で行 人体模 う。 われていることを確認した。 型図 -理科- 4 研究の成果と課題 実施前 (1) 成果 27.8% 50.0% 19.4% 2.8% ① 小学校 ア 評価テスト(TIMSS問題)の結果から 実施後 23.5% 11.8% 64.7% 同一の評価テスト(TIMSS問題)を7月と11月に 0% 実施し,科学的な思考力や表現力に関する児童の変 容を調査した。実施した評価テストは,学習した内 容とは違う問題であり,理由や調べる方法などを現 象や課題に合わせて思考,表現する問題とした。 20% 40% 60% 80% 100% よくできている だいたいできている あまりできていない できていない 図9 「課題解決の方法を考えることができたか」 に関する実態調査の変化(N=33人) 図7のように,評価テスト(TIMSS問題)では, 正答率の向上が見られた。また,現象や課題を説明 実施前 27.8% 55.6% 13.9% 2.8% する児童の解答では,図8のように,理由に基づい た結論を考えている割合が,実施前に比べ,わずか 実施後 44.1% 11.8% 2.9% 41.2% ながら向上した。 0% 実践前 42.4% 実践後 57.6% 69.7% 0% 20% 良くできている 60% 80% 図10 11.1% 実施後 57.6% 50.0% 0% 20% 正答 60% 50.0% 80% 25.0% 20% 44.1% 40% よくできている あまりできていない 60% 80% 13.9% 5.9% 100% だいたいできている できていない 図11 「結果をもとに考察を書くことができたか」 に関する実態調査の変化(N=33人) 50.0% 40% 100% だいたいできている できていない 50.0% 0% 実践後 80% 「グループの中で自分の考えを出し合って話し 合ったか」に関する実態調査の変化(N=33人) 実施前 できていない 42.4% 60% 100% 図7 TIMSS 問題(2003理科)の正答率に関する 実態調査の変化(N=33人) 実践前 40% よくできている あまりできていない 30.3% 40% 20% 100% 誤答、無答 図8 TIMSS 問題で理由に基づいた結論を考えて いることに関する実態調査の変化(N=33人) ウ 児童の姿から ○仮説を立てる段階では,理由付けが明確ではない 児童に対して,既習事項や生活経験を用いること で理由付けができるということを指導した。また, イ アンケート調査から 図9,10から,課題解決に向けて調べる方法を考 えること,結果をもとにグループの中で,自分の考 導入の提示をブラックボックス化することで,仕 組みを調べてみたいという意欲が高まり,自分の 考えを持たせることができた。 えを出して話し合うことが,「よくできている」「だ ○一人一人に予想や調べ方を考えさせ,ノートに記 いたいできている」まで含めると,わずかながら伸 入させることで,調べていく内容への目的意識を びている。図11から,考察を書くことについては, はっきりと持たせることができ,実験へかかわる 教師も時間を確保し,キーワードを使ったり,ポイ 意識が高まった。 ントを指示したりして,まとめやすくしたことが成 果につながり,大きく伸びたと考えられる。 ○実験結果のノート記録用の表を配付することで, 児童は記録しやすくなり,表を書く時間の短縮が -理科- できた。そのため,考察の時間が多く取れた。ま の生徒が,「だ液は」を入れて解答していた。他の た,その後のノート記録の参考となり,表を自分 問いに対する解答例でも,解答のキーワードとなる で作成し,ノート記録ができるようになった。 言葉を使った文章で表現したものが多かった。 ○実験をペアで行うことで,器具の操作や記録が容 93.5% (1)知識・理解 易になった。互いに意欲的にかかわっていき,実 (2)技能・表現 験の最中に仮説を検証する姿等も見られた。また (3)技能・表現 グループで考えを出し合って考察をホワイトボー (4)技能・表現 ドに記入することで,思考が深まった。全体に掲 30.1% 87.1% 70.0% 71.0% 52.1% 96.8% 備を工夫することで,考察の時間確保ができた。 64.6% 87.1% 74.1% (6)関心・意欲・態度 示し話し合うことで,さらに深まりが出た。 ○実験のスリム化と,実験時間短縮のための実験準 70.3% 83.9% (5)科学的な思考・判断 対象学級 図13 イ 県平均 評価テスト結果の県平均との比較(N=31人) アンケートの結果から ○考察の段階では,はじめに書き方の例を示し,キ 図14は,「観察や実験を始める前に,自分の考え ーワードを見付け出す作業を全体指導で行うこと で予想できていますか」の回答結果である。「よく で,文章表現が苦手な児童も,キーワードを組み できている」が増えている。 入れて書くことができるようになった。また,考 察をグループで検証する時間を設けたので,グル ープ内で認められた児童は,自信を持って考えを 実施前 18.2% 63.6% 27.0% 実施後 18.2% 56.8% 16.2% 発表することができた。 0% ○考察のポイントを示し,グループで書いた考察を 図14 の高い考察にまとめることができた(図12)。 自分で書い た考察 60% 80% 100% だいたいできている できていない 課題解決での思考に関する実態調査の変化 (N=33人) ホワイトボード等に書いた考察を,全体で練り上 げ,児童がそれをノートに朱書きすることで,質 40% よくできている あまりできていない そのポイントに沿って見せ合うことで,課題に合 った考察へとつなげていくことができた。さらに, 20% 図15は,「『この観察や実験をしたら,こんな結果 になるだろう』というような見通しを持って観察や 実験を行ったか」の回答結果である。事前調査で「で きていない」が80%を超えていたが,70%が「よく できている,だいたいできている」になった。 練り上げら れた考察 実施前 3.0% 84.8% 12.1% 図12 自分で書いた考察と練り上げられた考察 ② 中学校 ア 評価テストの結果から 実施後 16.1% 0% 単元が終了してから1か月後に,評価テストを行 54.8% 20% 40% よくできている あまりできていない 29.0% 60% 80% 100% だいたいできている できていない った。問題は,平成20年度熊本県学力調査「ゆうチ ャレンジ」中学2年理科問題4を使用した。すべて 図15 見通しを持った活動に関する実態調査の変化 (N=33人) の問題で県平均を上回った(図13)。特に,(5)「科 学的な思考・判断」の問題について,「実験結果か 図16は,「結果をもとに考察を書くことができた ら,デンプンが糖に変わったことを説明できる」で か」の回答結果である。90%以上が,考察を書くこ 県平均の定着率64.6%に対して,83.9%(十分満足 とができるようになった。 できる24人,おおむね満足できる2人,誤答3人, 以上のことから,学習シートの工夫や書き方のパ 無答2人)であった。そして,標準解答例では「デ ターン化,個からグループへの考えの練り上げ等を ンプンを糖に変える」と示されていたが,ほとんど 工夫することで,自ら調べる方法を考え,見通しを -理科- ある指導計画を立てる必要がある。 持って観察,実験を行うことができるようになり, 結果から考察を書こうとする意欲が高まったと考え ○アンケート調査で,「グループでの話合い活動に ついて発表できたか。」については高くなってい られる。 たが,「自分の考えで発表したか。」については, 実施前 6.1% 39.4% 51.5% 変化がほとんどなかった。これは,書き方のパタ 3.0% ーン化により,誰でも発表できるようになったが, 35.5% 実施後 0% 20% 54.8% 40% よくできている あまりできていない 図16 60% 9.7% 80% れていないと考えられる。自分の考えを言葉や図 100% 等でまとめていくような教師の発問や話合い活動 だいたいできている できていない の工夫等を行っていきたい。 考察を書くことに関する実態調査の変化 (N=33人) ウ 内容が似たようなものになり,生徒の満足が得ら 生徒の姿から 5 今後の展望 理科における言語活動の充実では,理科授業モデ ○仮説の設定で,生活経験や今までの学習内容を振 ルをもとに,それぞれの活動において具体策及び実 り返らせ,自分の考えをしっかり持たせることに 践方法を示し,研究を進めてきた。言語活動を充実 より,自分の考えを実験で確認していくような意 させるために,特に結果から課題を考察する活動に 欲的な姿が見られた。この意欲は,結果から考察 重点をおいた。児童生徒の課題に対する考察の考え する場面でも継続していた。 方や書き方を,初歩的な段階から徐々にグループや ○書き方のパターン化により,ほとんどの生徒が書 全体で高めることを中心に指導を重ねていった。こ けるようになり,グループでの話合いでも進んで のことで,児童生徒は,課題についての結論を,自 発表する姿が見られた。 分の言葉でまとめていくことができるようになり, ○書き込み欄を二段にして下段に自分の考え,上段 自信へとつなげられたのではないかと考える。 に参考になった考えを書き込めるように学習シー ただ,授業の中では,予想や解決の見通しを持つ トを工夫することにより,グループや全体で出た 活動や結果をまとめる活動においても,言語活動の 考えの中で参考になったものについては,書き込 充実は必要であり,様々な具体策とその実践方法を むことができ,考察を深めることができた。 考案し,研究を進めていく必要がある。話合い活動, (2) 課題 説明活動,レポート作成等を充実させ,理科授業モ ① デルをもとにした実践方法を,さらに検証して,よ 小学校 ○ホワイトボードを一斉に掲示して練り上げる方法 り具体的なものにし,各学校での科学的な思考力や は,児童の比べる視点が定まりにくかった。一つ 表現力を高めるために活用できるようにしていかな のグループの考察をじっくりと見て,添削してい ければならないと考える。 くような練り上げ方を考えていく必要がある。 ○科学的な表現力の向上のために,児童が科学的な 用語や概念をさらに活用するように,具体的な指 本研究で示した指導の工夫が,各学校・各教科等 における言語活動の充実のために役立てば幸いであ る。 導の工夫を考えて実践していく必要がある。 ○話合いが,うまく進まない場合が多かった。話合 いの具体的な指示を明確にする必要がある。 ② 中学校 ○仮説を設定し,見通しを持った実験計画を行うに 〈引用・参考文献〉 ・中央教育審議会(答申) (2008) 「幼稚園,小学校, 中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要 領等の改善について」 は,時間の確保が必要である。すべての実験につ ・文部科学省(2008)小学校学習指導要領解説理科編 いて十分な時間確保は難しい。どの内容で時間を ・角屋重樹,石井雅幸(2008)『小学校学習指導要領 確保すれば効果があるのかを吟味し,めりはりの の解説と展開理科編』教育出版
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