第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第 7 章 結論および今後の

第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
第7章
結論および今後の展望
第7章
7.1
結
結論
論
静脈施設における安全・安心システムの構築を目指して、独自のフォーマットを
作成し、事故・トラブル・ヒヤリハット事例DBおよび専門技術者の知見を集約し
た安全向上策DBを構築し、個別施設の施設や個別の技術に対する安全対応に向け
た検討を行った結果、以下の結論を得た。
7.1.1
事故・トラブル・ヒヤリハット事例データベース(ATHDB)の構築
と分析
事故の未然防止を実現するために、事故やトラブル、ヒヤリハットの用語を定義
するとともに、これまで発生した事故やトラブル、ヒヤリハット事例の横展開を目
指し、未だ構築されていない廃棄物処理・リサイクル関連施設の事故・トラブル・
ヒヤリハット事例データベースの構築を目指し、関連団体の報告書や施設へのヒア
リング調査結果を通じて、事故事例を収集し、入力・活用の効率化を視野に入れた
独自フォーマットを作成した。個別の施設や技術での活用を視野に入れ、施設の仕
様や処理対象物等の情報を整理する施設に関する情報と発生した事故やトラブル等
の状況とその被害だけではなく対応策まで整理する事故等に関する情報の2つから
なるものとした。さらに、キーワードで整理し、用語の統一も図ることで、データ
の蓄積や分析をしやすくするとともに、エクセルを用いてデータの管理を行うこと
で、管理のし易いものとなっている。
作成したフォーマットに従い、日本全国で発生した事例を集約し、事故・トラブ
ル・ヒヤリハット事例データベース(ATHDB-all)を構築した。1992
年~2007年に発生した事故・トラブル・ヒヤリハット事例を合計で3262件
集約できた。さらに、構築したATHDBを用いて、施設の種類や処理方式、規模、
処理対象物等の視点から全国で発生した事故・トラブルの状況を分析するとともに、
多くの施設を有する清掃組合や地域、事故が多発している施設等の特長をもった施
設郡を対象に分析も行った。焼却発電施設の事故・トラブル事例を分析した結果、
受入供給設備における転落事故や火災事故が頻発していることが判明した。これは
搬入業者や地域住民等の現場の技術者以外も出入りする設備であることが一因であ
ると考えられる。また、燃焼設備においては人手による普及が必要なトラブルが頻
発しており、そのために焼却炉における人身事故が多発していることが判明した。
さらに新技術である灰処理設備においてもトラブルが発生しており、未だに技術の
蓄積段階であることが推測される。この設備に置いても人身事故が多発していた。
リサイクルプラザにおいては受入供給設備における転落事故と火災事故が発生し
ており、焼却発電施設と同様の傾向が見られた。また、リサイクルプラザでは破砕
設備における爆発事故が頻発しており、次に高い受入供給設備の事故に比べて約4
倍の確率となっていた。
このような全体傾向の分析だけではなく、20施設を有する清掃組合のトラブル
事例の分析を行った結果、灰溶融炉の有無により灰処理設備におけるトラブルの発
生確率が約7倍に高まることが示された。これは灰溶融炉等の新技術の導入により、
既存の技術も複雑化したことが一因であると考えられる。
さらに、事故が多発している施設を対象にトラブル事例の分析を行ったところ、
結論-1
第7章
結論
燃焼設備および灰処理設備におけるトラブルが頻発していた。発生確率は全国版に
比べて約6倍となっていた。灰処理設備も埋立処理を実施する従来の技術にもかか
わらず、このような発生確率となったのは、島にある唯一の焼却施設であるため、
さまざまなものが搬入されることが要因であると考えられる。
また、多発している人身事故の分析として、被災者の被害部位別の分析を行った。
その結果、手周辺を出発点とし、負傷するものが多発しており、特に稼働中の危機
に安全を確認せず手を触れてしまうことがもっとも危険な事象であることが判明し
た。
これらによって得られた知見を基に、プラントメーカやオペレーション・メンテ
ナンス会社、自治体等の管理者のATHDBの活用方法や個別の施設や技術での勝
代方法を整理した。
7.1.2
安全向上策DBの構築とATHDBと連携させた活用法の提案
安全対策技術の効果的・効率的な導入やATHDB-allと連携させた分析等
のさまざまな段階での活用を目指し、文献調査や専門技術者へのアンケートにより、
安全向上策データベース(STDB:Safety Technique Database)を構築した。デー
タは独自のフォーマットにより、導入対象の施設種類や設備、装置・機器に関する
情報やその効果を集約してある。効果の定量化については、専門技術者に対して、
2つのアンケートを実施し、現在開発されている安全対策技術を網羅し、それを統
計解析することによって実施した。専門技術者に対して結果をフィードバックする
ことで、解析結果の確認も行っている。以上の検討を行い、150件の事例をもつ
STDBを構築した。
さらに、リスクの定量化を目指し、リスクを確率論的な被害額と定義し、事故が
発生した際に被る最大被害額とその発生率(1年間、1施設あたりに発生する件数)
の積により算出するとした。リスクの算出式を作成し、処理規模をベースとした想
定被害額の算出も可能とした。同時に、従来の棒グラフや円グラフ等による統計分
析結果の提示方法に加え、シナリオの概要を把握可能な提示方法としてATM
(Accident Tracing Map)を、横軸に被害額、縦軸に発生率をとることで、施設が持
つリスクの特長を表現することが可能なリスクマップによる提示方法を提案した。
また、ATHDBとSTDBを連携させた活用方法を検討した。ATHDBを用
いて算出した施設の潜在リスクに対して、STDBを活用しリスクを低減させる安
全向上策を定量的に検討可能であることを示した。また、STDBに集約している
イニシャルコストを用いることにより、経済性も考慮に入れた安全向上策の導入に
向けた検討が実現可能となった。さらに、ATHDBとSTDBを連携させ、施設
の操業体制や処理量、導入している安全対策技術等の特長を考慮に入れた分析を行
った。その結果、操業体制では委託方式が最もリスクが低く、一部委託方式が最も
リスクが高いことや操業段階に置いて爆発事故を防止するためには手選別工程を導
入することが効果的であること等を示した。
7.1.3
DBを活用した個別施設の安全操業情報管理システムの開発
個別施設において取得している情報の効率的な取得・活用を目指し、個別施設で
結論-2
第7章
結論
取得している情報の整理・分析を行った。その結果、個別施設では運転引き継ぎノ
ートをはじめとする現場の技術者の知見を蓄積したものや点検日報や修理日報、証
文品の発注日報等の操業に関するもの、溶融炉等の運転状態を蓄積するDCS履歴
データ等のさまざまな情報が存在することが判明した。さらに、現場の技術者が重
要な位置づけとしてとらえている運転引き継ぎノートの分析を行った。施設から1
年分のノートを入手し、その情報をキーワードに分類して整理したところ、約 10,000
件の情報を整理することができ、その中でも 2696 件が事故やトラブル、ヒヤリハッ
トに関するものであり、有効に活用できることを示した。
上記の安全にかかわる情報を効率的に取得・管理する安全操業情報管理システム
の構築を目指し、ICTを活用したシステムとして、事故やトラブル、ヒヤリハッ
トをはじめ、安全にかかわる操業情報を簡便に報告・収集可能なツールや非定常業
務の発生状況を自動的に管理できるICタグを用いた入退場情報取得システムを開
発した。さらに、運転員の安全教育のみならず、周辺住民等に対する施設見学等を
実現可能なツールとして、3D-VR技術を用いた運転員教育支援ツールAPT
(Accident Prevention Training tool)を開発した。開発したシステムの個別施設への
導入を目指し、汎用性の向上をハード面・ソフト面の両面から行った。
ICTを用いた情報取得ツールはサーバーを用いたシステムと Excel を用いたシ
ステムの2パターンを開発した。サーバーを用いたシステムはデータの共有化を容
易に実現でき、さらにツールの故障によるデータの損失がないという特長があり、
Excel を用いたシステムは汎用ソフトウェアを用いているため、導入に際し特別な
操作方法に関する教育を実施することがなく、ICT化が遅れている施設において
導入する際に威力を発揮するといえる。これによりこれまで実現できなかった個別
施設の操業情報の電子化・蓄積が可能となり、さらに共有化も図ることが可能とな
った。さらに、フォーマットを導入施設用にカスタマイズし、全体版のATHDB
-allを活用することで、事故の状況だけではなく、対策まで効率的に取得でき
ること、これまで改修工事の際に実施しなければならなかった対策を漏れなく実施
できることを示した。
ICタグを用いた入退場情報取得システムは現場の技術者へのヒアリング調査を
行い、運転員の作業を増やさず自動的に非定常業務の発生状況を把握可能なシステ
ムを目指し、開発を行った。システムの開発に際し、HF帯およびUHF帯のIC
タグを用い、その有効性に関する試験を実施した。通信距離の短いHF帯ICタグ
は、靴の裏にICタグを設置し、トタンの下に設置したアンテナ情を通る際に通信
を行うものとして検討した。この場合は歩く場合は通信ができるが、走る場合は通
信ができず、さまざまな条件が考えられる静脈施設において導入することが困難で
あることが判明した。UHF帯ICタグは、設置するアンテナの個数や出力、IC
タグの貼り付け位置をパラメータとして、5パターンの試験を行い、扉の上部に出
力100%でアンテナを1個設置し、ヘルメットの外側前頭葉部にICタグを1枚
貼りつけることによって、入退場情報を取得できることを示した。さらに、現場に
おいて油や汗、水によりICタグが汚れる場合を想定した実験も実施し、利用可能
であることを示した。この結果を受けて、個別施設への導入を目指し、独自のソフ
トウェアを開発し、実施設において入退場情報を取得できることを確認した。これ
結論-3
第7章
結論
により、運転員の負担を増加させることなく、設備区域への入退場の回数・作業時
間、作業内容の情報を取得できることを確認した。
現在実施されている机上教育とOJTを効果的に補完する新しい運転員教育ツー
ルとして、3DVRを用いた安全教育支援ツールAPTを提案し、個別施設におい
ても利用できる(コンテンツを作成できる)ソフトウェアの検討を行い、独自に開
発した3DCADデータを用いる WEIVS と汎用ソフトウェアである Second Life の
2パターンのAPTを開発した。さらに、個別施設にて容易に導入できるよう装置
や機器のユニット化を図り、3Dコンテンツを新しく作成するよりも、短い時間(試
験した施設では1/300に短縮)で作成できることを確認した。さらに、個別の施
設における実施方法について、その方法を整理した。
7.1.4
DBの活用による個別施設の安全向上に向けた対応の検討と実施例
第2章、3章で構築したATHDB-allとSTDBを活用するとともに、第
4章で開発した安全操業情報管理システムを活用し、個別2施設を対象にATHD
Bを構築した。安全操業管理システムは各施設に合わせて、フォーマットやシステ
ムのカスタマイズを行った。施設AではノートPCを利用し、Excel を用いたシス
テムを導入し、1年間で30件の情報を取得し、PDAを用いたシステムを導入し
た施設Bでは8カ月間で48件のヒヤリハット情報を取得した。さらに、各施設が
取得している情報を整理し、それらの中から情報を抽出した。
その結果、862件と800件の事例を持つデータベースを構築した。これを出
発点として、事故やトラブル、ヒヤリハットの発生状況の分析を行い、安全対策を
提案した。
溶融設備を持つ施設では、灰や溶融物を原因とするトラブルが発生しているため、
コンベヤやダクトにおいて、灰の除去装置や溶融炉の制御技術の蓄積を図ることが
重要であり、DCS履歴データや引き継ぎノートの電子化の継続的な実施を提案し
た。破砕・切断設備を持つ施設では産業廃棄物として鉄のリサイクルを行っている
ため、一般廃棄物処理施設のように可燃性物質の混入による爆発事故が発生する危
険性は少なく、重量物の搬送や荷下ろし、手解体中における人身事故やフォークリ
フトを起点とする人や施設との接触事故の発生が多く、人感センサーの設置や転倒
防止装置の導入等のハード面での安全対応とAPTを用いた安全教育の実施を提案
した。
さらに、個別施設への実施例をもとに、個別施設でのATHDBの活用法を提案
した。操業に関わる施設の管理者、現場の責任者、技術者のそれぞれの立場に立っ
た活用方法を整理するとともに、その例を示した。また、施設の設計者に対して、
施設の試運転段階や大規模な事故等の情報だけではなく、定常的な施設操業におい
て得られる事故のハード面での原因の分析結果やソフト面で発生し易い事故やトラ
ブルの情報を整理することによって、施設の改修や新しい施設の設計において活用
可能であることを示した。
7.1.5
DBを活用した体系的・定量的な安全設計評価手法の開発と実施例
ATHDBの個別技術への適用として、施設の計画・設計段階における安全配慮
結論-4
第7章
結論
設計を支援する安全設計評価手法SAD(Safety design analysis with Database)を開
発した。これまで主に利用されてきたリスクアセスメント手法の特長を整理し、S
ADはトップダウン方式の持つリスクの定量化とボトムアップ方式のリスクの網羅
の2つの特長をもつ手法として開発することとした。
個別技術のデータを蓄積したデータベースを出発点とすることで、リスクを網羅
し、第3章で示したリスクの算出法を用いて、定量的にリスクを算出し、第3章で
示したSTDBを活用することによって、定量的かつ経済性も考慮したうえで、あ
らかじめ設定しておいた基準値以下まで安全対応策の導入を検討可能な手法を開発
した。
SADを用いて、既存技術である破砕・選別施設と新技術であるバイオガス化施
設を対象に安全配慮設計を実施した。既存技術である破砕・選別施設ではATHD
B-allを活用するとともに、専門技術者の知見を追加し、331件の事例を持
つDBを構築し、これを出発点とした安全配慮設計を実施した。その結果、施設の
もつ30の潜在リスクシナリオが生成され、火災事故の延焼を防止する火災検知セ
ンサーと消火設備を連携させた安全対策や転落防止に向けた安全ネットの設置、落
雷による被害の防止を目指した避雷針の設置等、14種類の安全向上策の導入を提
案した。これにより施設の潜在リスクを50[万円/施設・年]以下に低減させること
ができた。
バイオガス化施設では、専門技術者とワークチームを組み、専門技術者の知見を
集約するだけではなく、実証プラントにおけるトラブル事例を収集し、安全配慮設
計に活用するDBを構築し、221件の潜在リスクを定量的に示した。さらに、リ
スクマップを用いて、施設の持つリスクが50[万円/施設・年]以下になるように、
対象施設で唯一基準を超えるボイラ設備におけるメタンガスの漏洩による爆発事故
の安全対策として、想定される事故被害額が1/10になる窒素パージ装置の設置や
事故発 生率 が1/2に なる配 管の 肉厚の 強化 、発生 率、 被害額 とも に1 /5に な る 不
活性ガスの吹込装置を提案した。
Adobe Air を用いたSADのソフトウェアのプロトタイプを開発し、汎用性の向上
に向けた検討を行った。
7.2
今後の展望
これまでの成果によって、オリジナルのフォーマットにより、日本全国で発生し
た事故やトラブル、ヒヤリハット事例を集約し構築したATHDBや専門技術者の
知見を整理したSTDBの構築を行い、これを個別の施設や技術に展開するための
ICTやVR技術を導入した安全操業管理システムや安全設計評価手法を開発し、
これらを個別施設や技術に適用させ、その有効性が示された。今後の展望を図7.
1に示す。
本研究で得られた静脈システムにおける安全・安心研究は社会に還元することが
重要である。そこで、研究を継続して実施し、開発した手法やシステムの高度化を
行うだけではなく、NPO 法人安心・安全情報センターを設立し、事故・トラブル・
ヒヤリハット事例データベース等の各種データベースの普及を図るとともに、関連
団体や企業等から委託を受け、施設や工場から事故やトラブル・ヒヤリハットに関
結論-5
第7章
結論
する情報を集約とその分析を行っていく。これによりフォーマットの普及が図れる
とともに、自動的に各所からデータを取得することが可能となる。さらに、環境総
合研究センターにて実施予定の安全プロジェクトマネージャー育成講座を将来的に
は NPO で実施することで、安全に関する情報管理の要請を行う。これらを国に働き
かけ資格化・制度化していくことを考えている。
加えて、永田勝也研究室で設立したベンチャー企業である株式会社早稲田環境研
究所内に、安全・安心3S(Safety ,Security, Sound)部門を設立し、こちらでは開
発したソフトウェアの社会への普及やシステムやツールの施設への適用を支援する。
具体的には自治体や企業等が安全配慮設計や操業診断、運転員教育を実施する際に
それを支援するとともに、安全・安心につながる情報を共有する際の支援を行う。
これらの活動を通して、得られた情報を永田研究室で集約し、さらなる事故・トラ
ブル・ヒヤリハット事例の分析や手法・システムの高度化等の研究も展開していく。
開発している手法やシステムは他分野へも十分応用できるものである。そこで、
将来的には他分野への拡張も視野に入れている。
その拡張分野として、現在、大学や研究機関における実験中の事故の防止と家庭
における事故の防止に向けた研究を展開している。大学においては早稲田大学にお
ける安全情報の管理の支援やDBの構築・分析を通した安全対応策の提案を実施し
ている。家庭における事故防止に向けては、NITE(独立行政法人 製品評価技術
基盤機構)が構築している製品事故の情報等を活用し、家庭における事故事例の分
析を行うとともに、APTの発展タイプとしてアクチュエータや体感グローブを開
新設予定
委託
関連団体
NPO法人 安心安全情報センター
資格化
制度化
・ATHDBの収集・普及・管理
・ATHDBの分析・公開
・市民等への説明の支援 等
安全プロマネ
育成講座
早稲田大学 永田研究室
早稲田大学 環境総合研究センター
~ システム安全安心研究会 ~
自治体等
他分野へ拡張
国
設置予定
・安全設計評価手法の高
度化と普及
・操業情報管理システムの
高度化と普及
・共創型の情報共有システ
ムの高度化と普及 等
企業
施設・工場
・安全配慮設計の支援
・操業情報管理の支援
・運転員への安全教育の支援
・安全・安心情報共有の支援 等
図7.1
株式会社 早稲田環境研究所
安心安全3S(トリプルエス)部門
(Safety ,Security, Sound )
静脈施設の安全研究の社会への還元
結論-6
1
第7章
結論
発・導入した体感型の安全教育支援システムの開発を行っている。さらなる展開
を図7.2に示す。今後進めていきたい分野として、静脈施設における安全対応シス
テムの中国等の発展途上国への展開と動脈施設への適用に向けた手法やシステムの
高度化を考えている。
静脈技術の開発が進んでいる日本が経験した事故やトラブルは今後、中国やイン
ド等の発展途上国において発生する可能性があり、構築したATHDB-allを
活用し、これから発生する可能性のある事故の未然防止に向けた取り組みを行うと
ともに、SADを用いて安全に配慮した施設設計にも活用できると思われる。導入
に際し、その国民性や倫理感等の因子が影響を与えてくると思われ、これら視野に
入れたカスタマイズ手法等を検討する。
リスク管理が進んでいる動脈施設においても、事故は発生しており、安全の向上
に向けた研究を行う必要性があると考える。本研究で整理した安全の向上にむけた
各種DBの構築や施設で所有している情報の整理方法、ICTを用いた情報の首都
システム、3D-VR技術を用いた安全運転教育や周辺住民の安心の情勢に向けた
システム、SADによる安全配慮設計の導入に向けた検討を行う。また、施設だけ
ではなく、製品を設計する際に活用できる安全設計評価手法の開発も検討する。
現在、実施中
大学や生活環境への展開
学生の事故の多発
子供・高齢者の事故の頻発
早大での事故事例の収集・分析や防止システムの
構築等を環境安全管理課などに提案している。
海外を含めた事故事例のDB化や体感VRを活
用した学習システムの開発を行っている。
体感グローブ
各研究室
学 生
報告
報告ツール
DBの構築・
情報活用
フォーマット
永田研究室
連携
環境安全管理課
振動モータ
低周波発振器
挟ま れ
痛み
分析結果の
フィードバック
安全対策技術
や体制の提案
技術企画総務課
今後、展開予定
海外への展開
動脈施設への展開
DBの構築、安全性の評価、安全教
育の活用
中国等の途上国で事故が多発
わが国で経験した事故が起こっており、
日本の事例が有効に活用できる。
リスク管理が進んでいる動脈施設にお
いても、適用可能
2
図7.2
他分野への研究の展開
早稲田大学の安全管理体制を調べると図7.3に示すように、環境安全管理課を中
心に事故事例の収集・分析や安全対策の導入が進められていた。しかし、環境安全
管理課が把握できる情報は消防や救急の出動を要請した大規模な事故に関するもの
結論-7
第7章
結論
※ 安全対策はヒアリングをもとに作成。
事故事例
構成
早稲田大学総務部
環境安全管理課
理工学部
技術企画総務課
実験室
研究室
実験室
研究室
共用施設
共用施設
技術企画
総務課
実験室
実験室
環境安全
管理課
化学
・物理
・生物
工作・
材料・
熱流体
研究室・
共用施設
安全対策
収集
活用
安全
教育
消防や救急
の出動を要
請した事故
のみ収集
なし
なし
実験室からの
報告事例 即時対応
のみ収集
なし
なし
手引き 巡視
技術系
HP
職員
発行
実施
予定
あり
なし
発行
実施
あり
掲示板
ガイダンス
時の注意
なし
なし
なし
なし
独自に
実施
あり
なし
なし
なし
研修会 ガイダンス
独自に収集
での発表 時の注意
なし
ヒヤリハット、トラブルの事例収集体制が整っていない。
なし
なし
学生
委員
配置
研究室
に配置
研究活動への安全対策がない。
大学全体としての安全管理体制が十分に整っていないことが判明。
図7.3
早稲田大学の安全体制と問題点
が中心であり、それ以外にも発生している理工学部の実験室や研究室において発
生している事故までは対応できていないのが現状である。理工学部内での事故に対
しては技術企画総務課が安全点検の実施や安全マニュアルの作成等の安全対策を導
入するとともに、実験室からの報告事例の整理を行っている。しかし、実験室・研
究室レベルでのヒヤリハットやトラブル事例の収集体制は整っておらず、また研究
活動への安全対策が各研究室任せになっているのが現状である。そこで、図7.4に
示すような実験室や研究室において発生した事例も効率的にDB化し、その分析を
通して安全対策の導入を検討する安全管理体制の構築を環境安全管理課に提案して
いる。技術企画総務課や実験室、独自のフォーマットで事例を収集している工作室
や熱流体実験室が蓄積してきた事例をもらい、静脈施設において構築した方法論を
用いてフォーマットを作成し、早稲田大学におけるATHDBを構築した。その際
には大阪大学や東京大学等の大学における安全体制の構築に向けた検討を進めてい
る大学へのヒアリング調査を実施し、その結果も用いた。
家庭における事故の未然防止に向けた研究展開では、NITEに対してヒアリン
グ調査を実施し、製品事故の未然防止に向けた国の動向や今後の展開を調査すると
ともに、NITEが収集している製品事故事例を入手し、その分析や活用方法の提
案を行っていく。NITEのDBを参照し、2004年4月~2008年10月に
発生した製品事故の分析を行うと、19,261 件の製品事故が発生していた。その全体
傾向をみると、消費者の不注意を原因とするものが多いことがわかる。これはNI
TEによる製品事故事例の開示や各製造メーカによりマニュアルやHP上において
事故情報の開示や事故の防止に向けた注意事項の説明はなされているが、事故情報
の開示が不十分であることを示しているといえる。そのため、事故の未然防止に向
結論-8
第7章
結論
研究活動中の事故
共用施設での事故
事故
トラブル
トラブル
ヒヤリハット
ヒヤリハット
実験室での事故
大学が事例収集
事故
実験室が
事例収集
収集されていない
アンケートにより存在証明
トラブル
学生安全委員
定期巡視者
ヒヤリハット
研究活動中のトラブル・ヒヤリハットの収集
技術系職員
共用設備:電気設備、廊下など
・事例分析結果の報告
・安全対策・事例活用案
の紹介
・事例分析結果の報告
・安全対策の提案
DBの構築・情報活用
・DBのフォーマット
・報告ツールの活用
図7.4
発生件数 件
5000
4000
3000
2000
大学
(環境安全管理課)
安全対策・
体制の提案
・他大学の安全体制例の紹介
・DBのフォーマットの提案
・DBの分析
6000
4
早稲田大学の安全の向上に向けた検討
11:その他
10:繊維製品
9:乳幼児用品
8:レジャー用品
7:保健衛生用品
6:身のまわり品
5:乗物・乗物用品
4:家庭用電気製品
3:燃焼器具
2:台所・食卓用品
1:家庭用電気製品
NITEのDBより
G1:原因不明
E2:消費者の不注意
A1:設計不良
事故
E1:消費者の誤使用
A2:製造不良
1000
0
A1 A2 A3 A4 B1 B2 B3 B4 C1 D1 D2 D3 E1 E2 E3 E4 F1 F2 G1 G2 H1 H2
※2004年4月~2008年10月
事故原因別の分類
製品の事故の全体傾向をみると、消費者が不注意により事故に至るものが多数
事故情報の開示が不十分であり、統一フォーマットによる
情報の収集・整理・活用が必要
U.S. Consumer Product
Safety Commission 等
国内のみならず、海外も含めた事故事例データベースの構築
図7.5
家庭の事故防止に向けた研究展開
けて、統一フォーマットによる情報の収集・整理やその活用方法の検討が必要で
ある。そこで、フォーマットを作成し、日本国内の事例だけではなく、先行的に製
結論-9
第7章
結論
品安全に向けた体制を整えているアメリカやオーストラリアにおける事例も集約し、
事故事例データベースの構築を行っていく。
APTの発展形として、永田勝也研究室で開発している体感型安全教育支援シス
テムを紹介する。図7.6にその概要を示す。本システムは3D-VR技術を活用し、
そこに独自に開発した力感を出力するアクチュエータと振動や痛み、切られ感や熱
を表現可能な体感グローブを連携させることによって、実際の事故の状況を体感し
ながら、事故の未然防止に向けた教育を行うシステムである。
プラットフォームの3D-VRソフトウェアは本研究にて開発したWEIVSを
用いている。そこにアクチュエータや振動グローブを制御する機能を追加している。
アクチュエータはファントムオムニという3D-CAD等に用いられているツール
を用いている。将来的には出力や可動範囲等を自由にカスタマイズ可能なアクチュ
エータの開発を行っていく。振動グローブは独自に開発したものであり、携帯電話
等に用いられている小型の振動モータや低周波発振器、ペルチェ素子を搭載したグ
ローブである。被災した際に、人が感じる痛みや振動、熱感等の刺激を、試験を行
うことによって解明し、振動モータや低周波発振機の取り付け位置の検討を行うと
ともに、その刺激パターンを蓄積することによって、さまざまな事故の状況を体感
できるシステムとなっている。ノートPCを中心にアクチュエータ、体感グローブ、
HMD(Head Mount Display)、ヘッドフォンでシステムを構成しているため、持ち
運びが容易であり、またさまざまな事故をこのシステムを用いて体感できる汎用性
の高い点もこのシステムの特長である。
映像
PC
XMLプログラム
により制御
出力
PCディスプレイor
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)
USB接続
出力
プログラムによる制御
外部電源
電流値変化
IEEE接続
ヘッドホン
相互制御
最終的には
PCで制御
位置検知
引き込まれ
アクチュエーター
電流パターンの作成
・可動範囲の拡張
・反力を出すモーターの出力UP
・手との結合部の作成
振動モーター
低周波発信機
新しいハード
振動
音
痛み
切られ 熱
拡張性を持ったシステム
新たなコンテンツの作成フロー
1.FormZで物体作成+アニメーション
2.3DSMAXでレンダリング
3.XMLでベースプログラムを加工
4.教育プログラムの作成
シナリオで設定したタイミングで電流が流れるよう制御
図7.6
体感型安全教育支援システムの開発
結論-10
研究業績
研究業績-11