フィードバック制御入門第7章 1

フィードバック制御入門 第7章
第 7 章 :フィードバック制御系のロバスト性解析
第 7 章 :フィードバック制御系のロバスト性解析
7.2 ロバスト安定性
7.1 不確かさとロバスト性
キーワード : ロバスト安定性, 相補感度関数
キーワード : ロバスト性, モデルの不確かさ,
ノミナルモデル, モデル集合
7.3 制御性能のロバスト性
キーワード : ノミナル性能, 感度関数,ロバスト性能
学習目標 : モデルの不確かさの記述法を習得し,ロバスト
安定性について, その性質と条件を理解する.
学習目標 : 制御系のロバスト性解析として, まずモデルと
それに含まれる不確かさの概念を理解する.
モデルの不確かさの記述法を習得する.
また,制御性能のノミナル性能,ロバスト性能
について学ぶ.
1
7. フィードバック制御系のロバスト性解析
2
[ 例 7.1 ] 高次の振動モード
7.1 不確かさとロバスト性
r
+
y
P (s )
K
−
ロバスト(robust):強い, 頑健な, 丈夫な…
開ループ伝達関数
L( s ) =
現実のシステム
3
Im
ゲイン余裕= ∞
−1
ω = 0 Re
K =1
図 7.1 (a) L( s ) =
1
GM
P
K =1
0.4
0. 2
0
0
2
6
4
8
t
K =1
4
[ 例 7.1 ]
[ 復習 ] ゲイン余裕 GM
1
K
= P( s) K
5s + 1
0.6
定数ゲイン
モデル : P(s )
O ω =∞
0.8
制御対象 P ( s ) =
1
5s + 1
実際の
~
制御対象 P ( s ) =
1
4
⋅
5s + 1 s 2 + 2 s + 4
1.5
振動モード
1
Im
ω =∞
O
Re
ω =0
振動モード:
ωn 2
2
s + 2ζωn s + ωn
5
ζ = 0 .1
ζ = 2.0
0.5
ζ = 1 .0
2
ζ = 0.5, ω n = 2
1
のベクトル軌跡
5s + 1
y(t)
• パラメータ値の誤差
• モデル化されない動特性
• 考慮されない非線形性
• 外乱 / 雑音
• 動作範囲 / 環境の変化
1
y(t )
モデルの不確かさ
[ 例 7.1 ]
図 ハードディスク
1次系(制御対象)
1
P( s) =
5s + 1
0
0
5
ω nt
10
15
図3.7 2次系のステップ応答
6
1
フィードバック制御入門 第7章
[ 例 7.1 ]
−1
Re
0
−2
K = 1 : 低周波域, 定常特性:あまり影響がない
K = 11 : 安定限界
1
K =1
−1
K = 17
小
K = 11
2
K =1
[ 例 7.1 ]
K = 17
3
O 1
y(t)
ω =∞
4
Im
0
大
2
6
4
t
K = 11(a)
K = 17 : 不安定
K を増大
8
(b)
フィードバックの効果
ゲイン余裕=
∞
図 7.2 振動モードを有する系のベクトル軌跡とステップ応答
トレードオフ:設計へ
K = 1 : 低周波域, 定常特性:あまり影響がない
小
モデルの不確かさに対するロバスト性
K = 11 : 安定限界
K = 17 : 不安定
大
7
[ 例 7.2 ] むだ時間
開ループ伝達関数
O
K
L( s) =
s ( s + 1)( s + 2)
[ 例 7.3 ] ゲイン変動・時定数変動
Re
制御対象: P =
K =1
実際の開ループ系
不確かなゲイン:
(a) むだ時間がない場合
K e−s
~
L ( s) =
s ( s + 1)( s + 2)
e− s :
不確かさの記述
Im
−1
K = 1.68
無視したむだ時間
K
Ts + 1
O
2 ≤ K ≤ 3;
K = 2.5(1 + 0.2δ ), δ ≤ 1
2.5 を中心に ± 20% の相対的変動
Im
−1
K = 2.3
8
ex) δ = 1 で K = 3
δ = −1 で K = 2
Re
K =1
K
平均
同様に「モデルの不確かさ
(b) むだ時間を含む場合
に対するロバスト性」の
図 7.3 むだ時間を含む系のベクトル軌跡
問題がある
0.2
K
2.5
2
2 .5
3
δ
+
+
9
[ 例 7.3 ]
T = 2.5 : K = 2, 2.5, 3
O
P:
Re
K =2
2.5
3
2
,
,
2.5s + 1 2.5s + 1 2.5s + 1
1本のベクトル軌跡
K = 2.5
Im
10
帯の幅:モデルの不確かさの「大きさ」を表している.
(ゲインに着目)
ノミナルモデル P(s )
(2,2)
(3,2)
Im
(2.5,2.5)
ω = 0.01
O
(2,3)
(3,3)
Re
ω =1
ゲイン
K =3
2 ≤ T ≤ 3, 2 ≤ K ≤ 3,
ベクトル軌跡の「帯」
モデル集合P
ω = 0.1
ω = 0.1
ω = 0 .4
図 7.4 ゲイン変動・時定数変動を有する
1 次系のベクトル軌跡
ω = 0. 2
周波数
図 7.5 不確かさと周波数応答の帯
11
12
2
フィードバック制御入門 第7章
不確かなシステム ( cf. 不確かなゲイン )
~
P ( s ) = (1 + ∆ ( s )W2 ( s )) P( s )
乗法的な不確かさ
~
P ( s)
~
P ( s ) = (1 + ∆( s )W2 ( s )) P( s )
| ∆( jω ) |≤ 1, ω
∀
W2 ( s)
~
~
P
P−P
−1 =
= ∆W2
P
P
公称モデル ( ノミナルモデル )
W2 ( s ) :不確かさの「大きさ」を記述 ( ゲインに着目 )
~
P (s)
~
P (s)
P
Im
円盤型の不確かさ
~
P − P = ∆W2 P ≤ W2 P
+
P (s )
+
( ⇔ 加法的な不確かさ)
∆(s)
W2 ( s)
+
P (s )
cf 演習問題[3]
~
P ( s) ∈ P :モデル集合
∆(s )
+
Re
cf 周波数応答軌跡の
「帯」を囲む
| W2 ( jω ) P ( jω ) |
P ( jω )
(Q ∆ ≤ 1)
図 7.6 乗法的な不確かさとモデル集合13
O
図 7.7 乗法的な不確かさと
モデル集合のベクトル軌跡 14
[ 復習 ] 不確かなシステム ( cf. 不確かなゲイン )
復習
~
P ( s ) = (1 + ∆ ( s )W2 ( s )) P( s )
点 α を中心とする半径 r の円 C
の内部の点 z は, z と
α
の距離
公称モデル ( ノミナルモデル )
| z − α | が r より小さい点の集合
だから,不等式 | z − α |< r を満たす.
W2 ( s ) :不確かさの「大きさ」を記述 ( ゲインに着目 )
~
P ( s) ∈ P :モデル集合
y
r
| z − α |< r
~
P (s)
| z − α |= r
O
P
x
[ 例 7.4 ] むだ時間変動
1 − sL
~
P ( s) =
e , 0 ≤ L ≤1
s +1
1
ノミナルモデル P ( s ) =
s +1
~
~
P
P−P
乗法的な不確かさの大きさ
−1 =
= e − jωL − 1
P
P
| e − jωL − 1 | 乗法的な不確かさの大きさ
(の上限値)
−1
1
O
Re
0 ≤ω <π :
e − jωL − 1 ≤ e − jω − 1
ω ≥π :
(Q 0 ≤ L ≤ 1)
e − jωL − 1 ≤ 2
17
∆(s)
+
P (s )
+
図 7.6 乗法的な不確かさとモデル集合16
15
e − j ωL
~
P (s)
W2 ( s)
α
Im
∀
| ∆( jω ) |≤ 1, ω
[ 例 7.4 ]
[dB]
20
乗法的な不確かさの
大きさ(の上限値)
0 ≤ ω < π : | e − jω − 1 |
ω ≥π : 2
不確かさの周波数重み
W2 ( s ) =
P( s ) =
2.1s
s +1
2
0
| W2 ( jω ) |
− 20
− 40
| e − jω − 1 |
起こりうる不確かさを − 60 −3
0
1
2
10 −2 10 −1
すべてカバーしている. 10
ω 10 π 10 10
図 7.8 むだ時間変動に対する
周波数重み関数
2.1s
1
, W2 ( s) =
として,
s +1
s +1
モデル集合 P = {(1 + ∆( s )W2 ( s )) P( s ), | ∆( jω ) |≤ 1, ∀ω} を考えると,
1 − sL
~
任意の P ( s ) =
e , 0 ≤ L ≤ 1 はこのモデル集合の中に含まれる.
s +1
18
3
フィードバック制御入門 第7章
7.2 ロバスト安定性
ロバスト安定性とは
~
P (s)
+
K (s )
コントローラ K (s ) が集合 P に属する
~
すべての P ( s) に対して内部安定性を
∆ (s )
W2 ( s)
+
+
P (s )
−
保証すること
~
P (s)
図 7.9 乗法的な不確かさを有するフィードバック系
+
−
モデルに不確かさがある場合でも,
内部安定性は保たれるのか?
不確かなモデル
~
P ( s ) = (1 + ∆( s )W2 ( s )) P ( s )
Re
半径 | W2 L |, 中心 L の円盤の内側
= L( s ) + ∆( s )W2 ( s ) L( s )
Im
−1
O
| −1 − L | =| 1 + L |
− 1 と L の距離
= (1 + ∆( s)W2 ( s)) P ( s ) K ( s )
L(s)
+
+
20
~
L のベクトル軌跡
~
| L − L | =| ∆W2 L | ≤| W2 L |
中心:
L( jω )
不確かな開ループ伝達関数
~
~
L (s) = P (s) K (s)
P(s )
K (s )
∆ (s )
19
Im
O
−1
W2 ( s )
| W2 ( jω ) L( jω ) |
Re
中心:
L ( jω )
| 1 + L ( jω ) |
| W2 L | < | 1 + L |, ∀ ω ならば
~
任意の L について,そのベクトル
軌跡が点 (−1,0) をまわらない.
開ループの帯
~
任意の L について, そのベクトル軌跡
が点 (−1,0) をまわらなければ安定
ロバスト安定
(Q ナイキストの安定判別法)
21
もし, W2 L ≥ 1 + L とすると
Im
−1
| W2 ( jω ) L( jω ) |
O
W2 L
< 1,
∴
1+ L
T (s) =
| 1 + L ( jω ) |
図 7.10 ベクトル軌跡による
ロバスト安定性
ω
22
r
相補感度関数
Re
∀
+
−
L( s)
P( s ) K ( s)
=
1 + L( s ) 1 + P( s) K ( s )
K (s)
P(s )
y
: r → y への伝達関数
感度関数
L( jω )
| W2 ( jω ) L( jω ) |
| W2 L |≥| 1 + L |: 不安定の可能性
S ( s) =
1
より,
1 + P( s) K ( s)
S (s) + T (s) =
23
PK
1
+
=1
1 + PK 1 + PK
24
4
フィードバック制御入門 第7章
相補感度関数を用いると
W2 L
< 1,
1+ L
∀
~
P (s)
ω
⇒ | W2T |< 1, ∀ ω
1
| W2 ( jω ) |
| T ( jω ) |
| T |<
1
, ∀ω
| W2 |
T
+
+
P(s )
−W 2( s )T ( s )
図 7.11 相補感度関数と
ロバスト安定性
は小さい方が良い
∆(s)
ω
0 dB
よって,
K (s)
−
W2 ( s)
W2 ( s)
K (s)
−
∆(s)
+
+
P(s )
図 7.12 ロバスト安定性と小ゲイン定理
25
−W 2( s )T ( s )
K (s )
−
26
7.3 制御性能のロバスト性
∆(s)
W2 ( s)
+
+
P (s )
ノミナル性能
r
d
+ e
−
| ∆ |≤ 1
−W 2( s )T ( s )
| W2T |< 1
[ 例 ] 外乱 d ( ω 0以下):
y = Sd より
| S |<
1
100
| W1 |≥ 100,
∀
ω ≤ ω0
∀
ω ≤ ω0
r + e
−
u
| S |< 1 , ∀ ω
| W1 |
P (s )
+
d
+
y
[dB]
| S ( jω ) |
∞
| S |< 1
ω
| S ( jω ) |
ω
| W1S |< 1, ∀ ω
ノミナル性能
28
ウォーターベッド効果
∫0 log | S ( jω ) | dω = 0
1
| W1 ( jω ) |
y
1
r : (目標値応答)
1 + PK
ボードの感度積分
(安定, 相対次数 2 以上)
ω0
+ +
すべての周波数帯域で感度関数 S を小さくできない
1
100
0 [dB]
e=
27
1
未満にしたい
100
|S|
W1 ( s ) :重み関数
⇒
K (s )
P(s )
1
∆T =
∆ P : パラメータ変動に対する感度
1 + PK
1
y=
d : 外乱に対する感度
1 + PK
図 7.12 ロバスト安定性と小ゲイン定理
1
: 小さい方がよい
S=
1 + PK
u
図 7.13 フィードバック制御系
∆ (s )
フィードバック性能の指標
K ( s)
(log | S |< 0)
ならば, 別の周波数帯で
| S |> 1
(log | S |> 0)
+
0
− 10
−
100
101
図 7.17 ウォーターベッド効果
となる
性能の限界
S +T =1
29
図 7.14 感度関数とノミナル性能
10
S=
PK
1
, T=
1 + PK
1 + PK
30
5
フィードバック制御入門 第7章
感度関数
7章 演習問題 【6】
制御対象 P (s ) の不安定極を p,
不安定零点を z としたとき,
S ( p ) = 0, T ( p ) = 1
S ( z ) = 1,
S ( s) =
拘束条件
S +T =1
性能の限界
1
| S |<
100
| W1 |≥ 100,
PK
1
, T=
1 + PK
1 + PK
| W1S |< 1,
∀
S ( z) =
ω ≤ ω0
∀
ω ≤ ω0
∀
ノミナル性能
−1
−1
O Re
| W1 ( jω ) |
| 1 + L ( jω ) |
O
| W1 ( jω ) |
L ( jω )
| W2 L | < | 1 + L |
∴ W2T < 1,
−1
不確かな開ループ伝達関数
1
| T |<
,
| W2 |
ω
| W1S |< 1,
∀
⇒
ω
| W2T |< 1,
33
ω
Im
Re
中心:
L( jω )
ω
∀
1
| W1 ( jω ) |
| T ( jω ) |
| S ( jω ) |
ω
0 dB
~
S=
ω
y
−
(不確かな) 感度関数
1
~
~ , P = (1 + ∆W2 )P
1 + PK
~
~
( ∆ = 0 のとき P = P, S = S ; ノミナル性能)
1
| W2 ( jω ) |
ω
不確かさがある場合でも, (安定性だけでなく)
~
(ii) | W1S |< 1,
35
~
P (s)
性能も保持されるのか?
ロバスト性能とは
トレードオフ
S +T =1
図 7.10 ベクトル軌跡による
ロバスト安定性 34
u
r + e
K (s)
P( s)
r + e
−
(i) ロバスト安定
補間条件
| W2 ( jω ) L( jω ) |
安定
ロバスト性能
∀
T は小さい方が良い
S は小さい方が良い
0 dB
∀
O
| 1 + L ( jω ) |
任意の L について, そのベクトル
軌跡が点 (−1,0) をまわらなければ
ロバスト安定性
ノミナル性能
⇒
ω
~
L ( s) = L( s) + ∆ ( s)W2 ( s ) L( s )
近づくと性能が良くない
図 7.15 ベクトル軌跡によるノミナル性能
∀
∀
W2 L
< 1, ∀ ω
1+ L
~
1
| S |<
,
| W1 |
| S ( jω ) |
ω
~
P ( s ) = (1 + ∆( s)W2 ( s )) P( s)
Re
y
32
図 7.14 感度関数とノミナル性能
内部安定性を保証すること
Im
+
ω
0 [dB]
不確かなモデル
Im
d
ω0
コントローラ K ( s )が集合P に
~
属するすべての P ( s ) に対して
L は (−1,0) から | W1 | だけ離れていなければならない
+
1
| W1 ( jω ) |
[ 復習 ] ロバスト安定性
1
1
=
1 + PK 1 + L
P(s)
| W1S |< 1, ∀ ω
31
ω
u
1
100
W1 ( s ) :重み関数
⇒
K (s)
1
未満にしたい
100
|S|
| S |< 1 , ∀ ω
| W1 |
1
1
= =1
1 + P( z ) K ( z ) 1
=0
⇒ | W1 |<| 1 + L |,
ω
∀
極零相殺しない
P( z ) = 0
S +T =1
−
y = Sd より
1
=0
1 + P( p) K ( p)
= ∞ 不安定な
S ( z) = 1
S=
[ 例 ] 外乱 d ( ω 0以下):
P ( p) = ∞
S ( p) =
r + e
1
: 小さい方がよい
S=
1 + PK
S ( p) = 0
T ( z) = 0
なる条件(補間拘束)を満たさな
ければならない
S=
[復習] フィードバック性能の指標
1
1 + P(s) K ( s)
∀
ω,
∀
K (s )
u
W2 ( s )
∆ (s )
y
P (s )
~
P ∈P
36
6
フィードバック制御入門 第7章
ロバスト性能条件:
~
任意の L について, そのベクトル
軌跡が (−1,0) から | W1 | だけ離れていなければならない
Im
−1
| 1 + L ( jω ) |
L( jω )
⇒
Im
−1
O
O Re
| W1 ( jω ) |
| W1 | + | W2 L | < | 1 + L |
Re
中心:
L ( jω )
| 1 + L ( jω ) |
W1
WL
+ 2 <1
1+ L
1+ L
∴ | W1S | + | W2T |< 1, ∀ ω
| W1 ( jω ) |
−1
Im
O Re
| 1 + L ( jω ) |
L ( jω )
| W2 ( jω ) L( jω ) |
図 7.16 ベクトル軌跡に
よるロバスト性能
| W2 ( jω ) L( jω ) |
37
38
フィードバック制御系のロバスト性解析
ノミナル安定 ( NS ) : φ = DP DK + N P N K = 0 が安定
( S , T , KS , PS が安定 )
ノミナル性能 ( NP ) : | W1S |< 1,
∀
ロバスト安定 ( RS ) : | W2T |< 1,
ω
∀
ω
ロバスト性能 ( RP ) : | W1S | + | W2T |< 1,
補間条件 : S + T = 1,
∀
∀
ω
ω
39
7