電磁気学で使う数学:第4回

2011 年度全学自由研究ゼミナール
電磁気学で使う数学:第 4 回
10 月 27 日 清野和彦
1.4
1.4.1
スカラー場の線積分再論
スカラー場の線積分の定義式を直接導く
第 1.2.2 節でスカラー場の線積分の曲線 C に対する一般のパラメタ付けを使った定義式を得ま
∫
した。それによってスカラー場 φ と曲線 C が具体的に与えられたとき線積分 C φdl を計算でき
るようになりました。(もちろん、φ を表す関数や C をパラメタ付けする関数がある程度簡単で
なければなりませんが。)また、ベクトル場の線積分はスカラー積によってスカラー場の線積分に
帰着する形で定義されたので、ベクトル場の線積分も具体的に計算可能です。しかし、肝心のスカ
ラー場の線積分の一般的な定義式は置換積分を使って導いたので、スカラー場の線積分の図形的な
イメージと定義式とのつながりがわかりにくくなってしまっています。そこで、「曲線の長さパラ
メタ s」を経由せずにスカラー場の線積分の定義式と図形的意味(曲がった面の面積)を直接結び
つけておきましょう。この考察は、線積分の定義式に |x′ (t)| が出てきていることの理由が直接理
解できるようになるだけではなく、重積分や面積分を定義するときにも生きてきます。
「定積分はグラフと x 軸で挟まれた部分の面積である」ということをスカラー場の線積分の値
の解釈にそのまま使うには、どうしてもパラメタのなす軸は「C の端からの長さ」でなければなり
ません。だから、一般のパラメタ付けによる線積分の定義式を、定積分を直接利用して導くのは諦
めざるを得ません。そこで、定積分の値そのものを考えるのではなく近似値で考えましょう。区分
求積法の考え方です。(数学 I で高校のときとは別の「定積分の定義」を既に学んだ人には「リー
マン和を考える」と言った方がわかりやすいかも知れません。)
記号が汚くなるのを防ぐために、C のパラメタ付け x(t) = (x(t), y(t)) において t の範囲を
0 ≤ t ≤ 1 としてしまいましょう。スカラー場の線積分を考えるのですから、もちろん x(t) は t が
0 から 1 まで増えるにつれて C の片方の端点からもう一方の端点まで止まることなく滑らかに進
んで行くものとします。つまり、
< t < 1 において常に速度ベクトルはゼロベクトルでない、す
(
) ( 0)
′
x
(t)
0
なわち x′ (t) =
̸=
が成り立っているということです。
y ′ (t)
0
今の場合、区分求積法で考える(あるいはリーマン和を考える)とは次のように近似値を作るこ
とです。まず、パラメタの区間 [0, 1] を n 等分します。(もちろん等分でなくてもよいのですが、
ここでは面倒を省くために等分とします。)分点は
k
n
k = 0, 1, 2, · · · , n
です。記号がゴチャゴチャするのを防ぐために、
k
tk =
n
(
xk = x(tk )
yk = y(tk )
xk = x(tk ) =
xk
yk
)
と書くことにしましょう。閉区間 [tk−1 , tk ] に対応する C の小部分、すなわち点 xk−1 から xk
までの部分において「屏風」の高さを f (xk ) = f (xk , yk ) にしてしまった長方形を考えます。(高
さは端点でとらなくてもよいのですが、面倒なので端点にします。)長方形とはいっても C に沿っ
2
第4回
て曲がっています。このような n 個の長方形の面積の和をスカラー場の線積分の値の近似値と考
えるのが区分求積法の考え方です(図 12)。
✓
✏
スカラー場 φ の曲線 C 上の部分のグラフ
z
x0
x2 x3
x1
x4
曲線 C
x5
x
✒
図 12: 「屏風」をいくつかの「曲がった長方形」で近似する。
✑
このような長方形たちは底辺が C の一部なので、底辺の長さを式であらわすには「曲線の長さ」
を表す積分を使わなくてはなりません。ところが、曲線の長さは「値が常に 1 であるスカラー場の
線積分」の値ですので、ここで曲線の長さを表す積分を使ってしまうと、結論を認めて結論を導く
ような感じになってしまって「線積分の定義式と屏風の面積を直接結びつける」という目的に反し
てしまいます。そこで、長方形の底辺である C の一部も線分で近似してみましょう。そうすれば
積分を使わずに長方形の面積を計算できるからです。
今、曲線 C は微分可能としているので、C 上の点 P の極近くでは C は P における接線と似
ているでしょう。このことを使って、C の点 xk−1 から点 xk までの部分の長さを点 xk における
接線の対応する部分の長さで近似することにしましょう。点 xk における C の接線の式は、
「接点」+(「パラメタ」−「接点でのパラメタの値」)×「接点での速度」
すなわち、ベクトルの書き方で
(
)
x
y
(
=
xk
yk
)
(
+ (t − tk )
x′ (tk )
y ′ (tk )
)
となります。接線上の点の座標を縦に並べた縦ベクトルを l(t) と書くことにすればこの式は
l(t) = xk + (t − tk )x′ (tk )
となります。接点は接線と曲線 C で共通です。一方、C 上の点 xk−1 に対応する接線上の点とし
ては、接線の式で t = tk−1 とした点、つまり、
l(tk−1 ) = xk + (tk−1 − tk )x′ (tk ) = xk −
1 ′
x (tk )
n
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第4回
を選ぶのが自然でしょう。この 2 点間の線分の長さは、
√(
(
))2 (
(
))2
1 ′
1 ′
|xk − l(tk−1 )| =
xk − xk − x (tk )
+ yk − yk − y (tk )
n
n
1
1√ ′
x (tk )2 + y ′ (tk )2 = |x′ (tk )|
=
n
n
となります(図 13)。
✓
✏
y
点 xk における曲線 C の接線
l(tk−1 )
xk = x(tk ) = l(tk )
xk−1 = x(tk−1 )
曲線 C
x
✒
図 13: 「C の一部分」の「接線の一部分」による近似。
✑
以上より、この線分を底辺とし f (xk ) = f (x(tk )) を高さとする長方形の面積を k = 1 から k = n
まで足した値は
n
∑
f (x(tk ))|x′ (tk )|
k=1
1
n
(12)
であることがわかりました。これが欲しかったスカラー場の線積分の値の近似値であり、特に分割
を「無限に細かく」すれば、つまり n → ∞ の極限ではスカラー場の線積分の値に収束するでしょ
う。そして、実際に式 (12) で n → ∞ とすると、高校のときに学んだとおりに(あるいは、数学 I
で「定積分の定義」を学んでいるなら、それに従って)、
∫ 1
∫ 1
√
f (x(t))|x′ (t)|dt =
f (x(t), y(t)) x′ (t)2 + y ′ (t)2 dt
0
0
に収束します。これがスカラー場の線積分の式の図形的意味(あるいは、区分求積法(リーマン和
の考え方)による直接的なスカラー場の線積分の定義)です。
注意. 既に触れたとおり、常に値が 1 のスカラー場を線積分すると曲線 C の長さになります。だから、以上
の説明で f (x(t), y(t)) をすべて 1 にすると「曲線の長さの公式」の導出になります。★
注意. 以上の議論を曲線 C が x 軸に含まれる線分の場合に適用すると、「常に x′ (t) > 0 の場合の置換積分
の公式」の区分求積法(リーマン和の考え方)による導出が得られます。この場合常に
y ′ (t) = 0 であり、そ
√
′
′
′
′
2
′
2
の上 x (t) > 0 としていることから |x (t)| = x (t) + y (t) = x (t) となっているので、g(x) = f (x, 0) に
よって g(x) を定義すれば、式 (12) は
n
∑
1
g(x(tk ))x′ (t)
n
k=1
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第4回
となり、n → ∞ とすると
∫
1
g(x(t))x′ (t)dt
0
に収束します。一方、C が (a, 0) と (b, 0)(ただし a < b)を端点とする線分なら、スカラー場の線積分は
xz 平面においてその線分と z = f (x, 0) で挟まれた部分の面積なので、その値は
∫ b
∫ b
f (x, 0)dx =
g(x)dx
a
a
′
となります。これで、常に x (t) > 0 ならば
∫ b
∫
g(x)dx =
a
1
g(x(t))x′ (t)dt
0
という置換積分の公式が導かれました。★
1.5
1.5.1
スカラー場の体積分
スカラー場の体積分とは何か
大きさを持った物体が空間内に固定されているとします。岩のようなものを想像して頂いても
よいですし、あるいはもっと大きなスケールで月や地球などを思い浮かべてもらっても結構です。
(小さい物はあまりお勧めしません。)その物体(の占めている場所)を D とします。その物体の
各点における密度は D を定義域とするスカラー場になります。それを φ と書きましょう。このと
き、スカラー場 φ の D における体積分(体積積分、重積分、三重積分)の値とはその物体の質
量 M のことであると「定義」します。(これだけの説明では数学とは言い難いので、カギ括弧を
付けて「定義」と書きました。)記号はいろいろあるようですが、このゼミでは
∫
φdV = M
D
16
と書くことにしましょう 。
これは 1 変数関数の定積分の自然な拡張になっており、3 次元空間だけに限らずすべての次元で
考えることのできる積分です。1 次元なら、密度が一様でない針金の密度関数を普通に定積分する
と針金全体の重さになりますし、2 次元なら、やはり密度が一様でない薄い板の密度関数を「積分」
すると板全体の重さになる、というものです。4 次元以上になるともはや想像することは不可能で
すが、抽象的には同じようなことを考えられるということは納得してもらえるものと思います。こ
のように次元(変数の数)によらずに同じように考えられる概念に 3 次元特有っぽい「体積分」と
いう名前はふさわしくないので、普通は重積分、あるいは次元(変数の数)を明示して n 重積分
と呼びます。しかし、電磁気学では「世界」は 3 次元空間ですし、座標系を固定しないとスカラー
場は 3 変数関数と見なせませんので、電磁気学で使う場合には体積分や体積積分という呼び方をす
る人も多いようです。
さて、3 次元空間で具体的なイメージを持つには密度という考え方を使わざるを得ないと思うの
ですが、密度って結構想像しにくいかも知れません。そこで、例によって次元を一つ下げて、平面
を「世界」であるとしましょう。そして、スカラー場の値は密度ではなく高さであるとして考えて
みます。(3 次元空間を離れて考えることにするので、
「体積分」ではなく「重積分」という呼び方
を使うことにします。)こうすると、始めに説明した重積分の「定義」は
平面上の領域 D とスカラー場 φ のグラフに挟まれた部分の体積
16 Volume
の V です。
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第4回
をスカラー場 φ の D における重積分の値と「定義」する、と言い換えられます。(密度で考える
とスカラー場の値が負になることはあり得ないのですが、このように高さで考えるとスカラー場の
値が負になることもありでしょう。この場合、1 変数関数の定積分の場合と全く同様に、φ の値が
負になっている部分の体積は負とします。)このように考えれば、重積分が 1 変数関数の定積分と
同じ考えだということを何の抵抗もなく納得してもらえるのではないでしょうか。なお、「世界」
が平面のときは体積のイメージの強い V を使うと違和感があるかも知れませんが、
「世界」が平面
だろうと空間だろうと考えていることは同じだということを強調するために、「世界」が平面でも
∫
あえて同じ記号で
φdV
D
と書くことにしてしまいます。
1.5.2
体積分(重積分)の定義
「以上、重積分の定義終わり!」と言ってもよいくらいなのですが、もちろん、このようなイ
メージ的な「定義」だけでは実際の計算や変数変換のようなテクニックをキチンと手に入れること
ができません。前小節のように説明すると重積分なんて既によく知っている概念のように思うかも
知れませんが、実はこれまでに学んできた数学の中の道具では重積分を直接表すことはできませ
ん。完全に新しい概念です。線積分が 1 変数関数の定積分を利用して定義できたのと同じようには
いかないのです。だから、重積分を定義するには、例えば初めて微分を定義したときのように極限
を使って定義することになります。ポイントは
全体の体積は部分部分の体積の和である
ということ、つまり、積分は和という概念の拡張なのだ、ということです。具体的には、前節の最
後に線積分を区分求積法で説明した、その考え方を多変数に拡張することで定義します。
注意. 「体積といえば断面積の積分じゃない?」と思った人も多いと思います。それについては次の小節で説
明します。★
いきなり重積分から始めると混乱しやすいので、まずは 1 変数関数の定積分の、この視点(す
なわち区分求積法、あるいはリーマン和)からの定義を紹介しましょう。これは前節の最後の方で
も説明したことですが、積分を根本から考えるときの「故郷」となる考え方ですので、重複を厭わ
ず、しかもより詳しく説明し直します。
有界閉区間 [a, b] に対し、
a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b
のことを [a, b] の分割と言います。つまり、[a, b] の分割とは a に始まり b に終わる狭義単調増加
な有限数列のことです。(n は任意の正整数です。)いちいち xk などを書くのが面倒なので ∆ と
いう 1 文字で表すことにします。
[a, b] の分割 ∆ に対し、その各小区間 [xk−1 , xk ] に属する点 ξk を一つ任意に決め、[xk−1 , xk ]
の代表点と呼ぶことにします。代表点も有限数列
ξ1 ≤ ξ2 ≤ · · · ≤ ξn
をなします。
(等号が成り立っている場所があることもあり得ます。)面倒なので、この有限数列の
ことを太字一文字で ξ と書くことにしましょう。
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第4回
さて、f (x) を閉区間 [a, b] で定義された関数とします。(連続関数でなくてもかまいません。)
[a, b] の分割 ∆ と代表点の列 ξ を決めたとき、∆, ξ に関する f (x) のリーマン和という実数を
R∆,ξ (f ) =
n
∑
f (ξk )(xk − xk−1 )
k=1
によって定義します。小区間 [xk−1 , xk ] においても f (x) の値は変動していますが、大雑把に f (ξk )
という値で代表させてしまって、その部分の面積を高さ f (ξk )、幅 xk − xk−1 の長方形の面積で置
き換えてしまうわけです。だから、このリーマン和が我々の欲しい面積の近似値であることは納得
してもらえることと思います(図 14)。
✓
✏
y
f (x)
O
a = x0 ξ1
x1
ξ2
x2ξ3 b = x3
x
図 14: リーマン和。
✒
✑
では、どうやったら近似がよくなるでしょうか?それには分割をどんどん細かくして行けば良さ
そうです。ただし、
「分割を細かく」という言葉の意味は、
「すべての xk − xk−1 が 0 に近づく」と
いう意味であって、例えば、[a, b] の a の近くだけ細かく分割しても b の近くでは全然細かくなっ
ていない、というようなのは困ります。そこで、分割 ∆ に対し xk − xk−1 の最大値を「分割の幅」
と呼び |∆| と書くことにしましょう。
|∆| = max{x1 − x0 , x2 − x1 , . . . , xn − xn−1 }
です。すると、リーマン和の値の近似をよくするとは、「分割の幅」を 0 に近づけること、つまり
|∆| → 0 の極限を考えることを意味するでしょう。そこで、
∫ b
f (x)dx = lim R∆,ξ (f )
a
|∆|→0
と改めて定義します。
注意. 詳しく言うと、右辺が存在するとき積分可能であり、存在したその極限値で左辺を定義するわけです
が、このゼミでは積分不可能になるような関数を相手にする気はさらさらないので、極限の存在は気にしな
いことにします。例えば、連続関数や、有限個の点でのみ不連続で全体として有界17 な関数なら O.K. です。
17 [a, b] 内のどの x に対しても |f (x)| < M が成り立つ x によらない M が存在すること、つまり、y = f (x) のグラフ
がある幅に納まっていることです。
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とは言え、この定義の「厳しさ」について一言付け加えておきます。
|∆| → 0 というのは、微分の定義に出てくる h → 0 などとは違って、非常に多くの状況を一言で片づけて
いる言い方です。つまり、|∆| → 0 での極限が存在するというのは、別の言い方をすると、
m → ∞ のとき |∆m | → 0 となるようなどのような分割の列 {∆m } とそれに付随するあらゆる
代表点の取り方に対しても、m → ∞ とすると同じ値に収束する。
という、とても厳しいことを要求しているのです。★
注意. このようにして定義し直した積分が今までの積分と同じものであるということはもちろん証明しなけ
ればなりません。どうやって証明するのかというと、定義し直した積分も微分積分の基本定理を満たすこと
を証明するわけです。(ここでは省略します。)★
このまねをして重積分を定義しようというわけです。説明は「世界」が平面である場合、つまり
2 変数の場合で行います。
まず、平面に座標系を一つ固定します。このとき必ず正規直交座標系を取ります。なぜ正規直交
座標系でないと困るのかというと、各辺が座標軸に平行な四角形が長方形になってくれないと面積
の計算が大変になってしまうからです。
(どこに影響しているかは出てきたときに指摘します。)さ
て、積分範囲 D はいろいろな形があり得ますが、まずは各辺が座標軸に平行な長方形
I = [a, b] × [c, d] = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, c ≤ y ≤ d}
で考えましょう。
1 変数の場合と同様に、積分範囲を「分割」し、各小部分から「代表点」を選び出します。その
「分割」と「代表点」をキチンと定義すると次のようになります。
✓
✏
定義 3. xy 平面において、x 軸上の有界閉区間 Ix = [a, b] とその分割
∆x : a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b
および y 軸上の有界閉区間 Iy = [c, d] とその分割
∆y : c = y0 < y1 < · · · < ym−1 < ym = d
に対し、xy 平面における部分集合 Iij (1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m) を
Iij = [xi−1 , xi ] × [yj−1 , yj ]
と定義し、
∆ = {Iij | 1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m}
を集合 I = Ix × Iy の分割という。部分集合 Iij の対角線の長さの最大値、つまり
|∆| =
√
2
2
(|∆x |) + (|∆y |)
のことを ∆ の幅という。
また、分割 ∆ に対し、xi−1 ≤ ξij ≤ xi , yj−1 ≤ ηij ≤ yj を満たす (ξij , ηij ) のことを部分集
合 Iij の代表点という。
✒
定義をじっくり読むより次の図 15 を見た方が早いでしょう。
∆ のすべての Iij から代表点を一つずつ選んでできる点の集合
{(ξij , ηij ) | 1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m}
✑
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第4回
✓
✏
(ξ32 , η32 )
d = y3
y2
y1
c = y0
x0
∥
a
✒
x1
x2
x3
x4
∥
b
図 15: I = [a, b] × [c, d] の分割と代表点の例。
✑
のことを、面倒なので太字一文字で ξ と表すことにします。
分割 ∆ とその代表点の集合 ξ を決めるごとに体積の「近似値」が決まります。その「近似値」
のことをリーマン和と言います。きちんとした定義は次のようになります。
✓
✏
定義 4. 集合 I = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f (x, y) と、I の分割 ∆ およびその代表点
の集合 ξ に対し
∑
R∆,ξ (f ) =
f (ξij , ηij ) (xi − xi−1 ) (yj − yj−1 )
1≤i≤n
1≤j≤m
を (∆, ξ) に対する関数 f (x, y) のリーマン和という。
✒
✑
Iij の面積が (xi − xi−1 )(yj − yj−1 ) という単なる掛け算になるために正規直交座標系である必
要があったわけです。それに高さ f (ξij , ηij ) を掛けたものが一つの直方体の体積です。そしてそれ
らをすべて足し合わせたものがリーマン和なのです。
このように設定した上で分割を無限に細かくしていけば、つまり分割の幅 |∆| をどんどん小さ
くしていけば、近似がどんどん良くなっていき、ついには目指す体積に収束する、と信じてよいで
しょう。そこで、重積分を次のように定義することになります。
✓
✏
定義 5. I = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f (x, y) に対し、
∫
f (x, y)dxdy = lim R∆,ξ (f )
I
|∆|→0
と定義し、f (x, y) の I での重積分という。
✒
✑
リーマン和や重積分のイメージとして、次のような具体例を考えるとしっくり来るかも知れま
せん。
f (x, y) を、(x, y) で指定される場所で一年間に降った雨の量とします。すると、重積分とは、積
分範囲内に一年間に降った雨の総量のこととなります。そして、リーマン和とは、積分範囲を適当
にいくつかの小さな部分に分けて、その一つ一つの小さな部分に一ヶ所ずつ測定地点を指定して、
その地点で観測された降水量でその小部分の降水量を代表させることによって得られる総雨量の近
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第4回
似値のことです。つまり、天気予報に出てくるアメダスの雨量の棒グラフにおいて、すべての棒の
体積を足したもので総雨量の近似値とする、という考え方がまさにリーマン和の考え方と同じなの
です。そして、すべての小部分の面積が 0 になる極限、つまりアメダスの観測地点をどんどん増や
していった極限をとると、近似値ではない本当の正確な降雨量がわかる、これが重積分だというわ
けです。
さて、ここまでは積分範囲が I = [a, b] × [c, d] という、各辺が x 軸や y 軸と平行な長方形しか
考えませんでした。しかし、実際に出会う積分範囲は円とか三角形とかその他諸々いろいろとあり
ます。そのような一般の積分範囲 D を考えましょう。(ただし D は有界18 とします。)D を定義
域とする連続関数 f (x, y) の重積分はどのように定義したらよいでしょうか。
もっとも安直な方法は、D をすっぽりと含んでしまう長方形 I を勝手にとってきて、f (x, y) を
D 以外では恒等的に 0 として拡張し、それを I で重積分することです。積分の値が D を含む長方
形の取り方によらないことは納得できるでしょう。(ここでは省略しますが、もちろん証明は必要
です。かなり形式的なものですが。)そこで、この「安直な積分」を重積分の定義として採用し、
長方形のときと同じ記号で書くことにしましょう。
✓
✏
定義 6. f (x, y) を D 上で定義された関数とする。D を含む区間 I を一つ取り、I 上の関数
f˜(x, y) を


(x, y) ∈ D
 f (x, y)
˜
f (x, y) =


0
(x, y) ̸∈ D
と定義して、f (x, y) の D における重積分を
∫
∫
f (x, y)dxdy = f˜(x, y)dxdy
D
I
によって定義する。
✒
✑
問題が一つあります。たとえ f (x, y) が連続でも、拡張された関数 f˜(x, y) は不連続になってし
まって積分できないかも知れないということです。実際積分できなくなってしまう場合がありま
す。しかし、多角形や円のように
有限個の角を除いて滑らかな曲線に囲まれた図形
なら大丈夫です。結局、我々が普通に思いつくような積分範囲なら問題ないといってよいでしょう。
3 変数関数の重積分も同様に定義され、同様の記号で表します。記号が二種類出てきてしまった
ので、最後にきちんとその関係を書いておきましょう。
✓
✏
定義 7. D を空間内の領域、φ をスカラー場で定義域が D を含むものとする。空間に正規直
交座標系 xyz を固定し、それによって φ を表す 3 変数関数を f (x, y, z) とする。このとき、
スカラー場 φ の領域 D における体積分を
∫
∫
φdV =
f (x, y, z)dxdydz
D
D
によって定義する。
✒
18 D
をすっぽり中に含む円が存在することです。D が無限の彼方に広がっていっていないことを意味します。
✑
10
第4回
1.5.3
体積分(重積分)の計算
重積分は新しい概念であり、1 変数関数の積分などを使って定義することができないので、直接
定義に訴える以外に計算できない、すなわち、
(何か新しい手法を開発しない限り)
「事実上計算不
可能」な値であるように見えます。しかし、例えば回転体の体積を求めるとき、ごく自然に「x =
一定という平面で立体を切った断面の面積を x について積分する」という方法を採るでしょう。高
校の教科書にも図 16 のようなものが載っています。 図は回転体ですが、教科書の記述はもっと一
✓
✏
S(x)
a
x
b
図 16: 定積分と体積 : 次の図のような立体の体積 V は V =
✒
∫b
a
S(x)dx である。
✑
般の図形で書いてありますし、そういう練習問題も載っています。
一般に、I = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f (x, y) に対し、
)
)
∫ d (∫ b
∫ b (∫ d
f (x, y)dx dy
f (x, y)dy dx
c
a
a
c
の二つを累次積分と言います。
直感(直観?)の通り、f (x, y) がそれほど変な関数でなければ上の二つの値はどちらも重積分の
値と一致するということが証明できます19 。つまり、
)
∫ (∫
∫
d
f (x, y)dx dy =
c
∫
b
a
b
(∫
f (x, y)dxdy =
I
)
d
f (x, y)dy dx
a
c
が成り立ちます。
(この事実をフビニの定理と言います。)だから、重積分は実際には 1 変数関数の
積分を 2 回(もちろん 3 変数なら 3 回)行うことで計算できます。
特に、積分範囲が長方形でない場合、例えば、a < x < b を満たす任意の x に対して α(x) < β(x)
を満たしている二つの連続関数 α, β によって
D = {(x, y) ∈ R2 | α(x) ≤ y ≤ β(x), a ≤ x ≤ b}
となっているとき(図 17)、
∫
b
(∫
)
β(x)
f (x, y)dy dx
a
α(x)
というようにして重積分を計算することができます。
注意. 「重積分と累次積分の違いが分からない。同じものにしか見えない。」という人も多いかも知れません。
重積分と累次積分の違いは「豆腐と蒲鉾」の切り方の違いと言えます。重積分は、0 ≤ z ≤ f (x, y) の部分を縦
19 証明はこのゼミのレベルを超えているので紹介しません。あしからずご了承ください。
11
第4回
✓
✏
y
y = β(x)
D
y = α(x)
O
a
b
x
図 17: 二つの関数のグラフによって挟まれた積分領域。
✒
✑
横に切って、一つ一つの縦長の部分を直方体で近似します。一方、累次積分は同じものを蒲鉾のように縦にだ
け切って、一枚一枚の薄っぺらな部分の体積を「断面に厚みを付けたもの」で近似するわけです。この二つは
概念として違うのに(f (x, y) が変な関数でなければ)値が一致する、というのがフビニの定理なのです。★
問題 8. 平面に正規直交座標系 xy を一つ固定し、二つの領域 I と D をその座標系で
I = [0, 1] × [0, 1]
D = {(x, y) | y ≥ x2 } ∩ I
とあらわされるものとする。同じ座標系で f (x, y) = xy によって表わされるスカラー場 φ に対し、
∫
∫
φdV
φdV
I
D
を計算せよ。
問題 9. 半径 r > 0 の円の面積を、その円板を定義域とする「値が常に 1」のスカラー場の重積分
と考えて計算せよ。
問題 10. 半径 r > 0 の球の体積を、その球体を定義域とする「値が常に 1」のスカラー場の体積
分と考えて計算せよ。
問題 11. xyz を空間の正規直交座標系とする。領域 D を
D = {(x, y, z) | 0 ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ x2 , 0 ≤ z ≤ 1, y + z ≤ x}
とし、スカラー場 φ をこの座標系で表した関数 f (x, y, z) が
f (x, y, z) = z
のとき、
∫
φdV
D
を計算せよ。
12
第4回
問題の解答
問題 8 の解答
フビニの定理によって、
∫
∫
f (x, y)dxdy =
I
1
( ∫
y
0
)
∫
xdx dy =
1
0
( ∫
x
1
0
1
)
ydy dx
0
∫1
∫1
∫1
∫1
です。
(y は x での積分では定数扱いですので、 0 xydx = y 0 xdx です。 0 xydy = x 0 ydy で
あることも同様です。)関数 f (x, y) = xy と積分区間 I が x と y について対称なので、中辺と右
辺は全く同じ計算過程になります。右辺で計算してみると、
∫
1
( ∫
y
0
1
)
∫
xdx dy =
0
[
1
x
0
1 2
y
2
]1
dx =
0
1
2
∫
1
xdx =
0
]1
[
1 1 2
1
x
=
2 2
4
0
となります。どちらの変数から先に積分しても同じ計算過程になることは次のように式変形してみ
∫1
るとよくわかるでしょう。例えば 0 xdx には y が関係していないので y で積分する上ではこれ
∫1
は定数扱いできます。そこで 0 xdx を y での積分の外に出してしまいましょう。すると、
∫
1
(∫
0
1
)
∫
xydx dy =
0
1
( ∫
y
0
1
)
(∫
xdx dy =
0
1
) (∫
xdx
0
)
1
ydy
0
となります。これは x と y について対称な式になっています。
D は、x を決めるごとに y の範囲が決まると考えた場合
D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, x2 ≤ y ≤ 1}
となりますし、y を決めるごとに x の範囲が決まると考えた場合
D = {(x, y) | 0 ≤ y ≤ 1, 0 ≤ x ≤
√
y}
となります。まず x を止めて y について積分するには D を上のように見なし、まず y を止めて
x について積分するには下のように見なします。もちろんフビニの定理によってどちらも重積分の
値と一致しますので、
)
)
∫
∫ ( ∫
∫ ( ∫ √
1
1
f (x, y)dxdy =
x
D
1
ydy dx =
x2
0
y
y
0
xdx dy
0
となります。中辺で計算すると
∫
1
( ∫
x
1
)
∫
ydy dx =
x2
0
[
1
x
0
1 2
y
2
となり、右辺で計算すると
)
∫ ( ∫ √
y
1
1
xdx dy =
y
0
∫
0
]1
0
dx =
x2
[
1
y x2
2
1
2
∫
]√y
0
1
(
0
[
]1
)
1
1 1 2 1 6
x − x
=
x − x5 dx =
2 2
6
6
0
1
dy =
2
∫1
∫
1
]1
[
1
1 1 3
=
y dy =
y
2 3
6
0
2
0
∫ √y
ydy は x の関数、 0 xdx は y の関数な
ので、積分範囲が I の場合のような「x での積分」×「y での積分」という形への式変形はできま
となり、ちゃんと一致します。なお、こちらの場合
せん。 □
x2
13
第4回
問題 9 の解答
半径 r の円板 D は、例えば
{
D = (x, y) ∈ R2
|x| ≤ r, |y| ≤
と表せます。よって、フビニの定理により
∫ (∫ √
∫
1dxdy =
√
− r 2 −x2
−r
D
)
r 2 −x2
r
}
√
r2 − x2
∫
1
1dy dx =
−1
√
2 r2 − x2 dx
となります。これは、例えば x = r sin θ と置換して、
∫
1
2
−1
∫
√
r2 − x2 dx =
π
2
2
−π
2
π
2
cos2 θdθ
0
∫
=2r
∫
√
r2 − r2 sin2 θr cos θdθ = 4r2
π
2
2
0
] π2
[
1
(1 + cos 2θ)dθ = 2r θ + sin 2θ
= πr2
2
0
2
と計算できます。 □
問題 10 の解答
半径 r の球体 B は、例えば
{
B = (x, y, z) ∈ R3
|x| ≤ r, |y| ≤
と表せます。よって、フビニの定理により
∫
∫ (∫ √
r 2 −x2
−r
√
− r 2 −x2
となります。ここで、x を定数と見て
同じ計算により、
∫ √ 2 2 (∫ √
r −x
√
− r 2 −x2
−
1dz
r 2 −x2 −y 2
−
√
)
1dz
)
dy dx
r 2 −x2 −y 2
r2 − x2 = s とおくと、y と z による積分は問題 9 と全く
∫
s
dy =
−s
となります。よって、
∫
∫
1dxdydz =
B
√
)
r 2 −x2 −y 2
√
(∫ √ 2 2 2
r −x −y
r
1dxdydz =
B
}
√
√
r2 − x2 , |z| ≤ r2 − x2 − y 2
(∫ √ 2 2
s −y
√
−
)
1dz
s2 −y 2
dy = πs2 = π(r2 − x2 )
[
]r
1
4
π(r2 − x2 )dx = π r2 x − x3
= πr3
3
3
−r
−r
r
となります。 □
問題 11 の解答
累次積分で計算するために、D に含まれる (x, y, z) について変数の間の関係を見てみましょう。
例えば、x として [0, 1] に含まれる x0 を任意に固定すると、y の範囲は [0, x0 2 ] となり、この
範囲から y0 を一つ固定すると、z の範囲は [0, x0 − y0 ] となります。
(0 ≤ x0 ≤ 1 であることから
x0 2 ≤ x0 であり、y0 ≤ x0 2 なのですから x0 − y0 ≥ 0 です。)つまり、x を決めると y の範囲が
14
第4回
決まり、さらに y を決めると z の範囲が決まります。そこで、z で積分してから y で積分し、最
後に x で積分するという順番で累次積分しましょう。すると、
)
∫
∫
∫ (∫ 2 (∫
x
1
φdV =
D
x−y
zdz dy dx
zdxdydz =
D
(∫
)
0
0
)
0
)
∫ (∫ x2
1 1
=
dy dx =
(x − y)2 dy dx
2 0
0
0
0
0
]x2
)
∫ [
∫ (
1 1
1 1
1
1
1
3
dx =
=
− (x − y)
− (x − x2 )3 + x3 dx
2 0
3
2 0
3
3
0
)
(
)
∫ 1(
1 1 1 11
17
1
1
=
x4 − x5 + x6 dx =
− +
=
2 0
3
2 5 6 37
420
∫
1
x2
[
1 2
z
2
]x−y
です。 □
注意. もちろん、積分する変数の順番はこの限りではありません。残りの 5 つの順番についても考えてみて
下さい。★