電磁気学で使う数学:第4回

2008 年度全学自由研究ゼミナール
電磁気学で使う数学:第 4 回
11 月 4 日 清野和彦
1.4
1.4.1
スカラー場の体積分
スカラー場の体積分とは何か
大きさを持った物体が空間内に固定されているとします。岩のようなものを想
像して頂いてもよいですし、あるいはもっと大きなスケールで月や地球などを思
い浮かべてもらっても結構です。(小さい物はあまりお勧めしません。)その物体
(の占めている場所)を D とします。その物体の各点における密度は D を定義域
とするスカラー場になります。それを φ と書きましょう。このとき、スカラー場
φ の D における体積分(体積積分、重積分、三重積分)の値とはその物体の質量
M のことであると「定義」します。(これだけの説明では数学とは言い難いので、
カギ括弧を付けて「定義」と書きました。)記号はいろいろあるようですが、この
ゼミでは
∫
φdV = M
D
と書くことにしましょう1 。
これは 1 変数関数の定積分の自然な拡張になっており、3 次元空間だけに限らず
すべての次元で考えることのできる積分です。1 次元なら、密度が一様でない針金
の密度関数を普通に定積分すると針金全体の重さになりますし、2 次元なら、やは
り密度が一様でない薄い板の密度関数を「積分」すると板全体の重さになる、とい
うものです。4 次元以上になるともはや想像することは不可能ですが、抽象的には
同じようなことを考えられるということは納得してもらえるものと思います。こ
のように次元(変数の数)によらずに同じように考えられる概念に 3 次元特有っ
ぽい「体積分」という名前を付けることはもちろんできないので、普通は重積分、
あるいは次元(変数の数)を明示して n 重積分と呼びます。しかし、もちろん電
磁気学では「世界」は 3 次元空間ですから、電磁気学で使う場合には体積分や体
積積分という呼び方をする人も多いようです。
さて、3 次元空間で具体的なイメージを持つには密度という考え方を使わざるを
得ないと思うのですが、密度って結構想像しにくいかも知れません。そこで、例
によって次元を一つ下げて、平面を「世界」であるとしましょう。そして、スカ
ラー場の値は密度ではなく高さであるとして考えてみます。(3 次元空間を離れて
考えることにするので、
「体積分」ではなく「重積分」という呼び方を使うことに
します。)こうすると、始めに説明した重積分の「定義」は
1
Volume の V です。
2
第4回
平面上の領域 D とスカラー場 φ のグラフに挟まれた部分の体積
をスカラー場 φ の D における重積分の値と「定義」する、と言い換えられます。
(密度で考えるとスカラー場の値が負になることはあり得ないのですが、このよう
に高さで考えるとスカラー場の値が負になることもありでしょう。この場合、1 変
数関数の定積分の場合と全く同様に、φ の値が負になっている部分の体積は負と
します。)このように考えれば、重積分が 1 変数関数の定積分と同じ考えだという
ことを何の抵抗もなく納得してもらえるのではないでしょうか。なお、
「世界」が
平面のときは体積のイメージの強い V を使うと違和感があるかも知れませんが、
「世界」が平面だろうと空間だろうと考えていることは同じだということを強調す
るために、「世界」が平面でもあえて同じ記号で
∫
φdV
D
と書くことにしてしまいましょう。
1.4.2
体積分(重積分)の定義
「以上、重積分の定義終わり!」と言ってもよいくらいなのですが、もちろん、
このようなイメージ的な「定義」だけでは実際の計算や変数変換のようなテクニッ
クをキチンと手に入れることができません。前小節のように説明すると重積分な
んて既によく知っている概念のように思うかも知れませんが、実はこれまでに学
んできた数学の中の道具では重積分を直接表すことはできません。完全に新しい
概念です。線積分が 1 変数関数の定積分を利用して定義できたようにはいかない
のです。だから、重積分を定義するには、例えば初めて微分を定義したときのよ
うに極限を使って定義することになります。ポイントは
全体の体積は部分部分の体積の和である
ということ、つまり、積分は和という概念の拡張なのだ、ということです。具体的
には、前節の最後に線積分を区分求積法で説明した、その考え方を多変数に拡張
することで定義します。
注意. 「体積といえば断面積の積分じゃない?」と思った人も多いと思います。それについ
ては次の小節で説明します。★
いきなり重積分から始めると混乱しやすいので、まずは 1 変数関数の定積分の、
この視点(すなわち区分求積法、あるいはリーマン和)からの定義を紹介しましょ
う。これは前節の最後の方でも説明したことですが、積分を根本から考えるとき
の「故郷」となる考え方ですので、重複を厭わず、しかもより詳しく説明し直し
ます。
3
第4回
有界閉区間 [a, b] に対し、
a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b
のことを [a, b] の分割と言います。つまり、[a, b] の分割とは a に始まり b に終わ
る狭義単調増加な有限数列のことです。いちいち xk などを書くのが面倒なので ∆
という 1 文字で済ますことにします。
[a, b] の分割 ∆ に対し、その各小区間 [xk−1 , xk ] の点 ξk を一つ任意に決め、
[xk−1 , xk ] の代表点と呼ぶことにします。代表点も有限数列
ξ1 ≤ ξ2 ≤ · · · ≤ ξn
をなします。
(等号が成り立っている場所があることもあり得ます。)面倒なので、
この有限数列のことを太字一文字で ξ と書くことにしましょう。
さて、f (x) を閉区間 [a, b] で定義された関数とします。
(連続関数でなくてもか
まいません。)[a, b] の分割 ∆ と代表点の列 ξ を決めたとき、∆, ξ に関する f (x)
のリーマン和という実数を
R∆,ξ (f ) :=
n
∑
f (ξk )(xk − xk−1 )
k=1
によって定義します。小区間 [xk−1 , xk ] でももちろん f (x) は値が変動しているわ
けですが、大雑把に f (ξk ) という値で代表させてしまって、その部分の面積を高
さ f (ξk )、幅 xk − xk−1 の長方形の面積で置き換えてしまうわけです。だから、こ
のリーマン和が我々の欲しい面積の近似値であることは納得してもらえることと
思います(図 1)。
では、どうやったら近似がよくなるでしょうか?それには分割をどんどん細かく
して行けば良さそうです。ただし、「分割を細かく」という言葉の意味は、「すべ
ての xk − xk−1 が 0 に近づく」という意味であって、例えば、[a, b] の a の近くだ
け細かく分割しても b の近くでは全然細かくなっていない、というようなのは困
ります。そこで、分割 ∆ に対し xk − xk−1 の最大値を「分割の幅」と呼び |∆| と
書くことにしましょう。すると、リーマン和の値の近似をよくするとは、
「分割の
幅」を 0 に近づけること、つまり |∆| → 0 の極限を考えることを意味するでしょ
う。そこで、
∫
b
f (x)dx := lim R∆,ξ (f )
a
|∆|→0
と改めて定義します。
注意. 詳しく言うと、右辺が存在するとき積分可能であり、存在したその極限値で左辺を
定義するわけですが、このゼミでは積分不可能になるような関数を相手にする気はさらさ
らないので、極限の存在は気にしなくて大丈夫です。例えば、連続関数や、有限個の点で
のみ不連続で全体として有界2 な関数なら O.K. です。
[a, b] 内のどの x に対しても |f (x)| < M が成り立つ x によらない M が存在すること、つま
り、y = f (x) のグラフがある幅に納まっていることです。
2
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第4回
✓
✏
y
f (x)
O
a = x0
ξ1
x1
ξ2
x 2 ξ3 b = x3
x
図 1: リーマン和。
✒
✑
とは言え、この定義の「厳しさ」について一言付け加えておきます。
|∆| → 0 というのは、微分の定義に出てくる h → 0 などとは違って、非常に多くの状
況を一言で片づけている言い方です。つまり、|∆| → 0 での極限が存在するというのは、
別の言い方をすると、
m → ∞ のとき |∆m | → 0 となるようなどのような分割の列 {∆m } とそれに
付随するあらゆる代表点の取り方に対しても、m → ∞ とすると同じ値に収
束する。
という、とても厳しいことを要求しているのです。★
注意. このようにして定義し直した積分が今までの積分と同じものであるということはも
ちろん証明しなければなりません。どうやって証明するのかというと、定義し直した積分
も微分積分の基本定理を満たすことを証明するわけです。(ここでは省略します。)★
このまねをして重積分を定義しようというわけです。説明は「世界」が平面で
ある場合、つまり 2 変数の場合で行います。
まず、平面に座標系を一つ固定します。このとき必ず直交座標系を取ります。な
ぜ直交座標系でないと困るのかというと、各辺が座標軸に平行な四角形が長方形
になってくれないと面積の計算が大変になってしまうからです。
(どこに影響して
いるかは出てきたときに指摘します。)さて、積分範囲 D はいろいろな形があり
得ますが、まずは各辺が座標軸に平行な長方形
I := [a, b] × [c, d] = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, c ≤ y ≤ d}
で考えましょう。
5
第4回
1 変数の場合と同様に、積分範囲を「分割」し、各小部分から「代表点」を選び
出します。その「分割」と「代表点」をキチンと定義すると次のようになります。
✓
✏
定義. xy 平面において、x 軸上の有界閉区間 Ix = [a, b] とその分割
∆x : a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b
および y 軸上の有界閉区間 Iy = [c, d] とその分割
∆y : c = y0 < y1 < · · · < ym−1 < ym = d
に対し、xy 平面における部分集合 Iij (1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m) を
Iij = [xi−1 , xi ] × [yj−1 , yj ]
と定義し、
∆ = {Iij | 1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m}
を集合 I = Ix × Iy の分割という。部分集合 Iij の対角線の長さの最大値、つ
まり
√
|∆| = (|∆x |)2 + (|∆y |)2
のことを ∆ の幅という。
また、分割 ∆ に対し、xi−1 ≤ ξij ≤ xi , yj−1 ≤ ηij ≤ yj を満たす (ξij , ηij ) のこ
とを部分集合 Iij の代表点という。
✒
✑
定義をじっくり読むより次の図 2 を見た方が早いでしょう。
∆ のすべての Iij から代表点を一つずつ選んでできる点の集合
{(ξij , ηij ) | 1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m}
のことを、面倒なので太字一文字で ξ と表すことにします。
分割 ∆ とその代表点の集合 ξ を決めるごとに体積の「近似値」が決まります。
その「近似値」のことをリーマン和と言います。きちんとした定義は次のように
なります。
✓
✏
定義. 集合 I = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f (x, y) と、I の分割 ∆ および
その代表点の集合 ξ に対し
∑
R∆,ξ (f ) =
f (ξij , ηij ) (xi − xi−1 ) (yj − yj−1 )
1≤i≤n
1≤j≤m
を (∆, ξ) に対する関数 f (x, y) のリーマン和という。
✒
✑
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第4回
✓
✏
(ξ32 , η32 )
d = y3
y2
y1
c = y0
x0
∥
a
✒
x1
x2
x3
x4
∥
b
図 2: I = [a, b] × [c, d] の分割と代表点の例。
✑
Iij の面積が (xi − xi−1 )(yj − yj−1 ) という単なる掛け算になるために直交座標系
である必要があったわけです。それに高さ f (ξij , ηij ) を掛けたものが一つの直方体
の体積です。そしてそれらをすべて足し合わせたものがリーマン和なわけです。
このように設定した上で分割を無限に細かくしていけば、つまり分割の幅 |∆|
をどんどん小さくしていけば、近似がどんどん良くなっていき、ついには目指す
体積に収束する、と信じてよいでしょう。そこで、重積分を次のように定義する
ことになります。
✓
✏
定義. I = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f (x, y) に対し、
∫
f (x, y)dxdy := lim R∆,ξ (f )
I
|∆|→0
と定義し、f (x, y) の I での重積分という。
✒
✑
リーマン和や重積分のイメージとして、次のような具体例を考えるとしっくり
来るかも知れません。
f (x, y) を、(x, y) で指定される場所で一年間に降った雨の量とします。すると、
重積分とは、積分範囲内に一年間に降った雨の総量のこととなります。そして、
リーマン和とは、積分範囲を適当にいくつかの小さな部分に分けて、その一つ一
つの小さな部分に一ヶ所ずつ測定地点を指定して、その地点で観測された降水量
でその小部分の降水量を代表させることによって得られる総雨量の近似値のこと
です。つまり、天気予報に出てくるアメダスの雨量の棒グラフで、すべての棒の
体積を足したもので総雨量の近似値とする、という考え方がまさにリーマン和の
7
第4回
考え方と同じなのです。そして、すべての小部分の面積が 0 になる極限、つまり
アメダスの観測地点をどんどん増やしていった極限をとると、近似値ではない本
当の正確な降雨量がわかる、これが重積分なわけです。
さて、ここまでは積分範囲が I = [a, b] × [c, d] という、各辺が x 軸や y 軸と
平行な長方形しか考えませんでした。しかし、実際に出会う積分範囲は円とか三
角形とかその他諸々いろいろとあります。そのような一般の積分範囲 D を考えま
しょう。(ただし D は有界3 とします。)D を定義域とする連続関数 f (x, y) の重
積分はどのように定義したらよいでしょうか。
もっとも安直な方法は、D をすっぽりと含んでしまう長方形 I を勝手にとって
きて、f (x, y) を D 以外では恒等的に 0 として拡張し、それを I で重積分するこ
とです。積分の値が D を含む長方形の取り方によらないことは納得できるでしょ
う。
(もちろん、証明は必要です。かなり形式的なものですが。)そこで、この「安
直な積分」を重積分の定義として採用し、長方形のときと同じ記号で書くことに
しましょう。
✓
✏
定義. f (x, y) を D 上で定義された関数とする。D を含む区間 I を一つ取り、
I 上の関数 f˜(x, y) を


(x, y) ∈ D
 f (x, y),
f˜(x, y) =


0,
(x, y) ̸∈ D
と定義して、f (x, y) の D における重積分を
∫
∫
f (x, y)dxdy := f˜(x, y)dxdy
D
J
と定義する。
✒
✑
問題が一つあります。たとえ f (x, y) が連続でも、拡張された関数 f˜(x, y) は不
連続になってしまって積分できないかも知れないということです。実際積分でき
なくなってしまう場合があります。しかし、多角形や円のように
有限個の角を除いて滑らかな曲線に囲まれた図形
なら大丈夫です。結局、我々が普通に思いつくような積分範囲なら問題ないといっ
てよいでしょう。
3 変数関数の重積分も同様に定義され、同様の記号で表します。記号が二種類出
てきてしまったので、最後にきちんとその関係を書いておきましょう。
3
D をすっぽり中に含む円が存在することです。D が無限の彼方に広がっていっていないこと
を意味します。
8
第4回
✓
✏
定義. D を空間内の領域、φ をスカラー場で定義域が D を含むものとする。空
間に直交座標系 xyz を固定し、それによって φ を表す 3 変数関数を f (x, y, z)
とする。このとき、スカラー場 φ の領域 D における体積分は、
∫
∫
φdV =
f (x, y, z)dxdydz
D
D
によって定義される。
✒
1.4.3
✑
体積分(重積分)の計算
重積分は完全に新しい概念であり、1 変数関数の積分などを使って定義すること
ができない概念なので、直接定義に訴える以外に計算できない、すなわち、
(何か
新しい手法を開発しない限り)「事実上計算不可能」な値であるように見えます。
しかし、例えば回転体の体積を求めるとき、ごく自然に「x = 一定という平面で
立体を切った断面の面積を x について積分する」という方法を採るでしょう。高
校の教科書にも図 3 のようなものが載っています。 図は回転体ですが、教科書の
✓
✏
S(x)
a
x
b
図 3: 定積分と体積 : 次の図のような立体の体積 V は V =
∫b
a
S(x)dx である。
✒
✑
記述はもっと一般の図形で書いてありますし、そういう練習問題も載っています。
一般に、I = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f (x, y) に対し、
∫
d
(∫
b
)
∫ b (∫
f (x, y)dx dy,
c
a
d
)
f (x, y)dy dx
a
c
の二つを累次積分と言います。
直感(直観?)の通り、f (x, y) がそれほど変な関数でなければ上の二つの値はど
9
第4回
ちらも重積分の値と一致するということが証明できます4 。つまり、
)
)
∫ d (∫ b
∫
∫ b (∫ d
f (x, y)dy dx
f (x, y)dx dy = f (x, y)dxdy =
c
a
I
a
c
が成り立ちます。
(この事実をフビニの定理と言います。)だから、重積分は実際に
は 1 変数関数の積分を 2 回(もちろん 3 次元なら 3 回)行うことで計算できます。
特に、積分範囲が長方形でない場合、例えば、α(x) < β(x) を満たす二つの関数
によって、
D = {(x, y) ∈ R2 | α(x) ≤ y ≤ β(x), a ≤ x ≤ b}
となっているとき(図 4)、
∫ b (∫
β(x)
)
f (x, y)dy dx
a
α(x)
というふうにして重積分を計算することができます。
✓
✏
y
y = β(x)
D
y = α(x)
O
✒
a
b
x
図 4: 二つの関数のグラフによって挟まれた積分領域。
✑
注意. 「重積分と累次積分の違いが分からない。同じものにしか見えない。」という人も
多いかも知れません。重積分と累次積分の違いは「豆腐と蒲鉾」の切り方の違いと言えま
す。重積分は、0 ≤ z ≤ f (x, y) の部分を縦横に切って、一つ一つの縦長の部分を直方体で
近似します。一方、累次積分は同じものを蒲鉾のように縦にだけ切って、一枚一枚の薄っ
ぺらな部分の体積を「断面に厚みを付けたもの」で近似するわけです。この二つは概念と
して違うのに(f (x, y) が変な関数でなければ)値が一致する、というのがフビニの定理
なのです。★
4
証明はこのゼミのレベルを超えているので紹介しません。あしからずご了承ください。
10
第4回
問題 8. 平面に直交座標系 xy を一つ固定し、二つの領域 I と D をその座標系で
I = [0, 1] × [0, 1],
D = {(x, y) | y ≥ x2 } ∩ I
とあらわされるものとする。同じ座標系で f (x, y) = xy によって表わされるスカ
ラー場 φ に対し、
∫
∫
φdV,
φdV
I
D
を計算せよ。
問題 9. 半径 r > 0 の円の面積を、その円板を定義域とする「値が常に 1」のスカ
ラー場の重積分と考えて計算せよ。
問題 10. 半径 r > 0 の球の体積を、その球体を定義域とする「値が常に 1」のス
カラー場の体積分と考えて計算せよ。
問題 11. xyz を空間の直交座標系とする。領域 D を
D = {(x, y, z) | 0 ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ x2 , 0 ≤ z ≤ 1, y + z ≤ x}
とし、スカラー場 φ をこの座標系で表した関数 f (x, y, z) が
f (x, y, z) = z
のとき、
∫
φdV
D
を計算せよ。
11
第4回
問題 8 の解答
フビニの定理によって、
∫
∫
f (x, y)dxdy =
I
1
0
( ∫
y
1
)
∫
1
xdx dy =
0
( ∫
x
0
)
1
ydy dx
0
∫1
∫1
です。(y は x での積分では定数扱いですので、 0 xydx = y 0 xdx です。)関数
f (x, y) = xy と積分区間 I が x と y について対称なので、中辺と右辺は全く同じ
計算過程になります。右辺で計算してみると、
[
]1
]1
∫ 1 [
∫
1 2
1 1 2
1 1
1
=
x y
xdx =
x
dx =
=
2
2 0
2 2
4
0
0
0
となります。どちらの変数から先に積分しても同じ計算過程になることは次のよ
∫1
うに式変形してみるとよくわかるでしょう。例えば 0 xdx には y が関係してい
∫1
ないので y で積分する上ではこれは定数扱いできます。そこで 0 xdx を y での
積分の外に出してしまいましょう。すると、
)
)
(∫ 1
) (∫ 1
)
∫ 1 (∫ 1
∫ 1( ∫ 1
xydx dy =
y
xdx dy =
xdx
ydy
0
0
0
0
0
0
となります。これは x と y について対称な式になっています。
D は、x を決めるごとに y の範囲が決まると考えた場合
D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, x2 ≤ y ≤ 1}
となりますし、y を決めるごとに x の範囲が決まると考えた場合
√
D = {(x, y) | 0 ≤ y ≤ 1, 0 ≤ x ≤ y}
となります。まず x を止めて y について積分するには D を上のように見なし、ま
ず y を止めて x について積分するには下のように見なします。もちろんフビニの
定理によってどちらも重積分の値と一致しますので、
)
)
∫
∫ 1( ∫ 1
∫ 1 ( ∫ √y
f (x, y)dxdy =
x
ydy dx =
y
xdx dy
D
0
x2
0
0
となります。中辺で計算すると
]1
]1
[
∫
∫ 1 [
)
1 1(
1
1 1 2 1 6
1 2
5
dx =
=
x − x dx =
x − x
=
x y
2
2 0
2 2
6
6
0
x2
0
となり、右辺で計算すると
]√y
]1
[
∫ 1 [
∫
1
1 2
1 1 2
1 1 3
=
=
y x
dy =
y dy =
y
2
2 0
2 3
6
0
0
0
∫1
∫ √y
となり、ちゃんと一致します。なお、こちらの場合 x2 ydy は x の関数、 0 xdx
は y の関数なので、積分範囲が I の場合のような式変形はできません。 □
12
第4回
問題 9 の解答
半径 r の円板 D は、例えば
{
D = (x, y) ∈ R2
|x| ≤ r, |y| ≤
と表せます。よって、フビニの定理により
)
∫
∫ (∫ √ 2 2
1dxdy =
√
− r 2 −x2
−r
D
∫
r −x
r
√
r 2 − x2
}
√
2 r2 − x2 dx
1
1dy dx =
−1
となります。これは、例えば x = r sin θ と置換して、
∫
∫
√
2
2
2 r2 − r2 sin θr cos θdθ = 4r
π
2
=
− π2
π
2
cos2 θdθ
0
∫
π
2
=2r2
0
[
] π2
1
2
(1 + cos 2θ)dθ = 2r θ + sin 2θ = πr2
2
0
と計算できます。 □
問題 10 の解答
半径 r の球体 B は、例えば
{
}
√
√
B = (x, y, z) ∈ R3 |x| ≤ r, |y| ≤ r2 − x2 , |z| ≤ r2 − x2 − y 2
と表せます。よって、フビニの定理により
∫
∫ (∫ √ 2 2 (∫ √
r −x
r
1dxdydz =
−r
B
√
− r2 −x2
となります。ここで、x を定数と見て
は問題 10 と全く同じ計算により、
)
∫ √ 2 2 (∫ √ 2 2 2
∫
r −x
r −x −y
√
− r 2 −x2
−
√
1dz
となります。 □
s
−s
√
1dz
)
dy dx
r 2 −x2 −y 2
r2 − x2 = s とおくと、y と z による積分
(∫ √ 2 2
s −y
dy =
r 2 −x2 −y 2
となります。よって、
∫
∫
1dxdydz =
B
√
−
)
r 2 −x2 −y 2
−
√
)
1dz
s2 −y 2
dy = πs2 = π(r2 − x2 )
]r
[
4
1 3
2
= πr3
π(r − x )dx = π r x − x
3
3
−r
−r
r
2
2
13
第4回
問題 11 の解答
累次積分で計算するために、D に含まれる (x, y, z) について変数の間の関係を
見てみましょう。
例えば、x として [0, 1] に含まれる x0 を任意に固定すると、y の範囲は [0, x0 2 ]
となり、この範囲から y0 を一つ固定すると、z の範囲は [0, x0 − y0 ] となります。
(0 ≤ x0 ≤ 1 であることから x0 2 ≤ x0 であり、y0 ≤ x0 2 なのですから x0 − y0 ≥ 0
です。)つまり、x を決めると y の範囲が決まり、さらに y を決めると z の範囲
が決まります。そこで、z で積分してから y で積分し、最後に x で積分するとい
う順番で累次積分しましょう。すると、
) )
∫ ( ∫ 2 (∫
∫
∫
x
1
D
x−y
zdz dy dx
zdxdydz =
φdV =
D
0
1
x2
[
1 2
z
2
]x−y
)
0
)
∫ (∫ x2
1 1
=
dy dx =
(x − y)2 dy dx
2
0
0
0
0
0
]x2
)
∫ 1[
∫ 1(
1
1
1
1
1 3
3
2 3
=
− (x − y)
dx =
− (x − x ) + x dx
2 0
3
2 0
3
3
0
)
(
)
∫ 1(
1
1
1 1 1 11
17
=
x4 − x5 + x6 dx =
− +
=
2 0
3
2 5 6 37
420
∫
(∫
0
です。 □
注意. もちろん、積分する変数の順番はこの限りではありません。残りの 5 つの順番につ
いても考えてみて下さい。★