第6章 力積と運動量

第6章
力積と運動量
6–1,2 力積と運動量
質量と速度の積,p
⃗ = m⃗v を運動量と呼ぶ.運動量を用いると運動方程式は
d⃗p
= F⃗
dt
時間で積分して
p⃗f − p⃗i =
∫
tf
∫
tf
F⃗ (t)dt
ti
F⃗ (t)dt を力積と呼ぶ.運動量の変化は力積に等しい.
ti
6–3 運動量保存の法則(衝突する二つの物体)
衝突 · · · 二つの物体が短い時間内で相互作用すること
物体 1 の最初と最後の運動量を p
⃗1i および p⃗1f ,物体 2 の最初と最後の運動量を
p⃗2i および p⃗2f とする.衝突の際,物体 1 から 2 に働く力を F⃗1→2 ,物体 2 から 1 に
⃗2→1 とすると運動量の変化と力積の関係から
働く力を F
p⃗1f − p⃗1i =
p⃗2f − p⃗2i =
∫
tf
ti
∫
tf
ti
F⃗2→1 (t)dt
F⃗1→2 (t)dt
⃗2→1 = −F⃗1→2 だから
上式を辺々足し合わせる.作用反作用の法則より F
p⃗1f + p⃗2f = p⃗1i + p⃗2i
衝突前後で運動量の総量は変化しない.これを運動量保存の法則という.
6–4 運動量が保存しない系とは?
運動量は閉じた系(内力のみが働く系,外力の合力がゼロの系)でしか保存し
ないことに注意.地上に落下する物体の運動量は保存していない.物体と地球で
構成される閉じた系では保存している.
6–1
6–5∼7 衝突
• 跳ね返り係数 e
V2 − V1
v2 − v1
ここで v1 および v2 は衝突前の物体 1 および 2 の速度,V1 および V2 は衝突後
の物体 1 および 2 の速度
e=−
• 完全非弾性衝突 · · · 全く跳ね返らない(跳ね返り係数がゼロの)衝突
質量 m1 と m2 の二つの物体の完全非弾性衝突.最初の全運動量は
Pin = m1⃗v1 + m2⃗v2
衝突後跳ね返らないから同じ速度 ⃗v で運動.衝突後の全運動量は
Pout = (m1 + m2 ) ⃗v
閉じた系であるから Pin = Pout .よって
⃗v =
m1⃗v1 + m2⃗v2
m1 + m2
• 完全弾性衝突 · · · 跳ね返り係数が 1 の衝突.エネルギーが保存
1
1
1
1
m1 v1 + m2 v2 = m1 V1 + m2 V2 ,
m1 v12 + m2 v22 = m1 V12 + m2 V22
2
2
2
2
V2 ,V1 を消去して
(
)
(
)
(
)
(
)
m1 − m2
2m2
2m1
m2 − m1
V1 =
v1 +
v2 , V 2 =
v1 +
v2
m1 + m2
m1 + m2
m1 + m2
m1 + m2
m1 = m2 のとき
V1 = v2 ,
V 2 = v1
m2 >> m1 のとき
V1 ≈ −v1 + 2v2 ,
V 2 ≈ v2
6–9 ビリヤード
静止しているボール 2 にボール 1 を速度 ⃗v1 で衝突させる.運動量保存則より
m⃗v1 = mV⃗1 + mV⃗2
→
完全弾性衝突とするとエネルギー保存則より
1 2 1 ⃗2 1 ⃗2
m⃗v = mV1 + mV2
→
2 1 2
2
(
V⃗1 + V⃗2
)2
⃗v1 = V⃗1 + V⃗2
⃗v12 = V⃗12 + V⃗22
= V⃗12 + 2V⃗1 · V⃗2 + V⃗22 だから
V⃗1 · V⃗2 = 0
→
衝突後の二つのボールの運動方向は互いに直交する
6–2
6–10 質量中心の運動
多数の質点の集まりからなる系の全運動量
P⃗ = p⃗1 + p⃗2 + p⃗3 + · · · = m1⃗v1 + m2⃗v2 + m3⃗v3 + · · ·
d
(m1⃗r1 + m2⃗r2 + m3⃗r3 + · · ·)
=
dt
⃗rcm =
∑N
i=1
mi⃗ri /M ,M =
∑N
i=1
mi とすると
d⃗rcm
= M⃗vcm
P⃗ = M
dt
全運動量は全質量と質量中心の速度の積
6–11 連続的な物体の重心
全質量を M =
∫
dm として
⃗xcm =
1 ∫
⃗xdm
M
直角三角形の板の場合,dm = ρ(b/a)xdx だから
∫a
∫
xcm
( )
b
x2 dx
xdm
2
0
a
= ∫
= ∫a (b)
= a
dm
3
0 ρ a xdx
ρ
dm = ρ(a/b)(b − y)dy だから
∫
∫
ycm
[
( )
]b
b
1
a
by 2 − 13 y 3
ydm
1
0 ρ b (b − y)ydy
2
0
= ∫ b (a)
= [
= ∫
]b = b
dm
3
by − 12 y 2
0 ρ b (b − y)dy
0
6–12,13 衝突と重心座標系
重心に対する相対速度
u1 = v1 − vcm = v1 −
u2 = v2 − vcm = v2 −
m2 (v1 − v2 )
m1 v1 + m2 v2
=
m1 + m2
m1 + m2
m1 v1 + m2 v2
m1 (v1 − v2 )
=−
m1 + m2
m1 + m2
完全非弾性衝突では U1 = U2 = 0
完全弾性衝突では
U1 = −
m2 (v1 − v2 )
,
m1 + m2
6–3
U2 =
m1 (v1 − v2 )
m1 + m2
Ex. 6-1
一直線上を運動する 2 つの球 A および B がある.質量はそれぞれ m および M
である.はじめ B が静止していて,これに A が速度 u で衝突するものとする.衝
突が完全に弾性的であるとして,球 A から球 B に移るエネルギーを求めよ.また
移るエネルギーが最大となるのはどのような場合か?そのときどれだけのエネル
ギーが移るか?
Ex. 6-2
質量 2M の物体が速度 V で飛んできて棒に当り 2 つに割れ,どちらも速度 V /2
で進行方向から 60 度の方向に飛んで行った.棒が受けた力積を求めよ.
Ex. 6-3
質量 m の球が壁面に直角に V の速さで飛んできたとする.完全弾性的に跳ね
返って飛び去った場合に壁が受ける力積はどれだけか?また,跳ね返らずに壁に
めり込んだ場合に壁が受ける力積はどれだけか?同じ球が 1 秒間に N 個飛んでき
て,完全弾性的に跳ね返って飛び去った場合,跳ね返らずに全て壁にめり込んだ
場合それぞれについて壁が受ける力はどれだけか?
Ex. 6-4
右図のように,床の上に置かれた鎖の一方の端に力を加え一
定の速さ v で鉛直上方に引き上げる.鎖の単位長さ当りの質量
が ρ であり,鉛直の部分の長さが x になっている時,鎖を引き
上げるのに必要な力 F を次の手順で求めよ.
(1) 鎖の鉛直部分の長さが x であるとき,微小時間 dt の間に
鎖に与えられた力積を求めよ.
(2) 鎖の鉛直部分の長さが x であるとき,微小時間 dt の間に
変化した運動量を求めよ.
(3) 鎖を引き上げるのに必要な力 F を,x および v ,ρ と重力
加速度 g を用いて表せ.
6–4
F
v
x
Ex. 6-5
次の手順で半径 a,厚さ d,密度 ρ の半円盤の重心の位置を求めよ.
(1) 半円盤上の微小要素の面積を極座標 (r, θ) で表すと rdθdr となる.このとき,
この微小要素の質量 dm を求めよ.
(2) 半円盤の中心を原点とし,中心から弧に向かう対称軸を y 軸とする座標系を
取る.このとき半円盤上の位置 (x, y) を極座標 (r, θ) で表せ.
∫
∫
(3) 重心の位置の x 座標および y 座標が xcm = xdm/ dm,ycm =
で表されることを用いて,重心の位置を求めよ.
6–5
∫
∫
ydm/ dm