都市生活パターンに着目した自転車共同利用システムの評価

都市生活パターンに着目した自転車共同利用システムの評価*
Evaluation for Sharing Bicycle System Focused on Urban Life Pattern*
羽藤英二**・藤井敬士***・原祐輔***
By Eiji HATO**・Keishi FUJII***・Yusuke HARA***
1.はじめに
集約型の都市構造の実現,中心市街地活性化といっ
た諸相が都市計画の分野で語られることは多い.モビリ
ティの側面からこうした問題を考えると,集約化された
都市構造の拠点の内部空間の可動性を高めるとともに,
こうした拠点におけるモビリティの結節性を拡張してい
く必要があるだろう.結節性の拡張は,a)郊外から中心
地への交通結節点となる駅,駐車場,b)バス停や路面電
車電停,c)小さな駅(モビリティの都市空間への埋め込
み)といった段階的なデザインに分けて考えることが出
来る.空間の魅力に対して可動性が低ければ,人は不満
を抱く.場合によってはそのことがまた来たいと思わせ
る因子となってリピーターを増やす場合もあるだろうが,
拠点の内部空間の魅力がよほど高い場合に限られよう.
たとえば,いくつかの異なるディストリクトで構成され
る空間の内部構造に対して自由自在に回遊性を高めるモ
ビリティの埋め込みが重要である.人工的に1-2年の計
画.建設期間で生みだされる郊外型ショッピングセンタ
ーの質やバリアフリーな可動性に対して,数十年あるい
は何百年かけて形成されてきたモザイクのような都市空
間は質は高いものの,いくつかのイメージの異なるメゾ
空間の離散的組み合わせで構成されており,可動性も低
い.このため限られた街路空間と交通結節空間をリノベ
ーションして,こうした空間の回遊性を高めることが必
要不可欠であるといえるだろう.
こうした回遊性の仮説は,モビリティの私有の概念
に関連している.モビリティが私有の形態をとっている
ことで,回遊パターンはそのことの拘束を受けざるを得
ない.たとえば,車で都心に向かった場合,いったん駐
車場にとめた後の可動性は「歩行」に限定されるケース
*キーワーズ:目的地選択,交通手段選択,活動分析,交
通行動分析
**正員,工博,東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻
(東京都文京区本郷7-3-1,TEL:03-5841-1672,
[email protected])
***学生員,東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻
(東京都文京区本郷7-3-1,TEL:03-5841-1672,
[email protected])
が多い.これは「車」をおいた場所に最後は戻ってこな
いといけないためであり,結局は「歩行」のしやすさが
街の魅力を限定しているということになる.これに対し
てコミュニティに共同利用自転車のようなモビリティが
用意されている場合,そのコミュニティの訪問者が,い
ったんある場所を訪問した後,用意されている駐輪施設
と自転車を用いて次の目的地へと渡り歩くことが簡単と
なる.離散的に存在している都市ストックから質の高い
サービスを受けることが可能になるといえるだろう.
本稿では,こうした仮説について,実際のデータを
用いて都心の回遊パターンの分析を行い,都市構造とア
クティビティパターンおよびモビリティの特性の関係性
について考察を行った.さらに,自転車共同利用の実験
を実際に行った上で,プローブパーソン連動型のSP実験
を行い,こうした乗り捨て可能なモビリティシステムの
都心への導入可能性を評価したい.
2.空間モデルと移動システム
(1)協調型交通サービス
協調型交通サービスは,「人々の協調のもとに成り立
っている交通サービス」として定義する.元来,協調と
は「異なった環境や立場に存する複数の者が互いに助け
合ったり譲り合ったりしながら同じ目標に向かって任務
を遂行する」という意味だが,協調の対象,すなわち最
適な目標に向けて互いが調整する対象には,a)モビリテ
ィそのもののシェアリング,b)料金や運行頻度といった
サービス水準の調整,c)駐車場などのスペースのシェア
リングなどが含まれる.わが国における協調型の交通サ
ービスの代表選手はa)であればベリブのような自転車共
同利用実験,b)であれば金沢のバストリガーサービス,
c)は既存のコンビニ駐車場の一部を利用したCSなどの
仕組みが考えられよう.こうしたサービスでは,オーク
ションなどを利用した利用権取引システムによる最適な
サービス水準の調整システムや,携帯電話やRFIDタグを
用いた個人認証型の予約システムが必要不可欠である.
従前の研究では,太田1)2)らが行ってきたカーシェア
リングに関する先駆的研究がある.モビリティ,スペー
ス,移動空間,時間,機会をシェアする協調型交通サー
表-1 サービスシステム構成
項目
内容
実施主体
松山交通エコネット協議会
運用期間
2009年 1月31日-3月6日(7-23時)
アクティビティパターンの選択
HNH
ポート数
12箇所
自転車
50台(国産)
利用料金
500円で期間中乗り放題
認証
Felica ICカード(伊予鉄e-カードを利用)
施錠
自動施錠/手動施錠を併用
参加者
会員制:77人
システム
携帯とウエブで稼動状況/利用ポイントなどを確認
(利用者/管理者用)
在庫調整
携帯を利用し,1日2時間帯で確認・調整
メインテナンス
地元自転車店が2週間に1回実施
ビスでは,スイスのカーシェアリング(CS)やパリの
ベリブなどは先例としてあげられるだろう.利用時間設
定は15分から1日単位まで様々に設定されており,保有
コスト・駐車駐輪コストが不要であることが大きな特徴
である.一般的な家庭において,車は価格が高く固定費
がかかる.さらに日本では,使用される時間が1日平均
で1~2時間ぐらいと稼働率が低い反面,(持っているか
ら乗るというような)サンクコスト問題もあるだろう.
これに対して,カーシェアリングは1台の車を複数人で
使用することによって固定費を分散することができる
(そのため,規模のメリットが働く).こうしたシステ
ムを寧ろサブシステムとして,ハイブリッドな統合型の
システムとして再整理している例は,MITが提案してい
るモバイルメッシュネットワークのような試みがある.
これに対して本研究では,携帯電話とRFIDタグを利用
した単純なシステムを実際の都市圏に外挿することで,
都市システムの中での実装課題を探ることを考える.
HNH+
HOH
HOH+
第一目的地と交通手段(=都心部への端末手段)の選択
ゾーン1
ゾーン2
徒歩
ゾーン17
・・・・・・
自転車
自動車
公共交通
第二目的地と交通手段の選択
ゾーン1
ゾーン3
徒歩
ゾーン17
・・・・・・
自転車
自動車
エリア外
公共交通
図-1 アクティビティモデルのツリー構造
線駅などでは,朝夕に需要が集中している.これに対し
て中心市街地では昼間や夕方の利用が多い.また平日,
休日でも利用パターンには大きな違いが見られた.こう
した多様な違いは,生活-交通パターンやサービス条件
に対する感度に対してどのような影響を与えているだろ
うか,次にアクティビティモデルを用いて定量的な分析
評価を実施する.
3.アクティビティモデルの推定
本研究ではBowman & Ben-Akiva型のアクティビティ
モデルを用いて,都市空間におけるアクティビティパタ
ーンの選択行動の分析を行った(図-1).式(1)-式(5)に
各段階の選択確率を示す.
sub , m main , s main , p
expVmssub
Pr[msub | ssub , mmain , smain , p ] =
(1)
∑ expV
ssub , mmain , s main , p
msub
msub
Pr[ssub | mmain , smain , p ] =
(
exp Vsmsubmain , s main , p + S smsubmain , s main , p
∑ exp(V
m main , s main , p
s sub
+S
)
m main , s main , p
s sub
)
(2)
s sub
(2)実装サービス
本研究で実装したサービスシステムの構成を表-1に
示す.本システムは柏で行われてきたスマートモビリテ
ィネットワーク3)を下敷きに,複数ポートを都市内に12
箇所配置し,それぞれに自転車をおくことでいつでも利
用できるシステムを考えた.またICカード,携帯電話と
ポイントシステムを連動させた協調型交通サービスとし
て実装し,実際に実験を実施した.
(
,p
main , p
exp V msmain
+ S msmain
main
Pr[m main | s main , p ] =
∑ exp(V
mmain
Pr[ s main | p ] =
s main , p
mmain
+S
(
p
exp V smain
+ S spmain
∑ exp(V
p
s main
+S
)
p
s main
)
s main , p
mmain
)
)
(3)
(4)
s main
Pr[ p ] =
exp(V p + S p )
∑ exp(V
p
+Sp)
(5)
p
(3)実装サービス実験
実装サービス実験は1月31日から3月6日にかけて実施
した.会員数は約80人で自転車数は50台を用意した.通
常のシステムに比べて,会員一人当たりの自転車数は多
いものの,これは共同利用の規模が小さいためである.
またポートの需要供給のバランスは調整が必要な場合が
散見された.都市空間のフリンジにあたる路面電車環状
ここで, p はアクティビティパターン, s main は主要目
的地, mmain は主要交通手段, s sub は副目的地, msub
は副交通手段, S はログサム変数を表す.
上位にアクティビティパターン選択,次に目的地選
択-交通機関選択を連鎖させる意思決定モデルを考える.
段階推定結果を表-2に示す.推定にあたっては居住地
別のモデルを推定した.モビリティの選択に制約の少な
4.自転車共同利用評価のための目的地-交通機関選択
モデル
★
④
★
②
③
①
★
⑪
⑬
⑭
⑤
★
★⑦
★
⑥ ★ ⑧★
⑮
⑰
★
★
★⑫
⑩
★⑨
⑯
次に実際に自転車共同利用を実施した利用者に対し
て共同利用のサービス変数を変化させたSP調査を実施し,
目的地-交通機関選択モデルを推定する.モデル式を式
(6)に示す.
P(d , m ) = P(m | d )P(d ) =
exp{μ (Vm + Vdm )}
∑ exp{μ (Vm' + Vdm' )}
(6)
m'
図-2 都心エリア,ゾーン定義
い都心居住者と,制約の多い郊外居住者の比較を行う.
ここで,図-2で示す都心エリア内に自宅が存在する人
を都心居住者,それ以外の人を郊外居住者と定義する.
なお,図中の番号は目的地選択のゾーン番号に対応して
いる.また,ゾーン18は都心エリア外を指し,都心エリ
アからの帰宅を意味している.
アクティビティパターンの選択については都心居住
者と郊外居住者で大きな違いがあることがわかる.都心
居住者のアクティビティパターンの決定は確率的である
のに対して,郊外居住者のパターン選択は確定的に行わ
れており,尤度比に大きな違いがみられる.特に休日か
平日であるかが,郊外居住者のアクティビティパターン
の選択には大きな影響を与えているのに対して,都心居
住者は平日も休日も関係なく自由度の高いアクティビテ
ィ選択を行っていることが明らかとなった.
次に主要目的地の選択については,郊外居住者と都
心居住者でゾーン7,8,10でパラメータの正負が逆転す
る現象が発生しており,目的地選択に対する嗜好の違い
が伺える.また郊外居住者の方が目的地選択の意思決定
を確定的に行っていることがわかる.交通機関選択につ
いては車への依存度が高く,都心居住者,郊外居住者と
もに自転車ダミーが負で有意な値を示している.また主
要目的地への移動時間価値は郊外居住者の方が高く,都
心居住者の場合アクセス時間は有意なパラメータ値を示
しておらず,感度は低い.
副目的地の選択についてみると,主目的地の選択と
同様に郊外居住者の方が目的地選択の意思決定を確定的
に行っていることがわかる.第二目的地へのモビリティ
選択に対するパラメータ値をみると,都心居住者の方が
時間価値がアクセス時間,旅行時間ともに高いことがわ
かる.こうした傾向は,郊外居住者の移動制約が大きく
時間最短の移動を行えていない可能性を示唆している.
また主目的地選択に比べ,アクセス時間の価値が高い.
ここで, d は目的地, m は交通機関,V は効用関数の
確定項, μ はスケールパラメータを表す.
推定結果を表-3に示す.最初30分無料ダミー変数が
有意な値を示していることがわかる.こうした結果は,
利用者の共同利用の実際の利用パターンにおいて30分以
内の短時間利用回数が270回を越えており,全体に占め
る割合も高いことから,短時間利用層がセンシティブに
反応したものと考える.ただし大半の利用が30分以内で
あることから,収益性の問題を考えた場合,無料性の導
入には注意が必要であろう.
駐車・駐輪料金は5%有意には達しないものの,高いt
値を示しており,目的地-交通機関選択においては,駐
車・駐輪コストに対する意識が高いことが伺える.この
ことは共同利用システムが駐輪料金程度の利用料金で利
用できる設定を考えれば,それだけで共同利用の消費者
余剰が生まれる可能性が高いこと意味する.共同利用の
駐輪場の配置位置を計画的に行うことで,駐車駐輪問題
との一体的な解決策を検討することの価値が高いといえ
るだろう.
都心居住者と郊外居住者の違いについては,郊外居
住者は鉄道・路面電車に対する利用意識が高いのに対し,
都心居住者は低いことから,鉄道・路面電車が郊外から
都心への端末交通手段の役割を果たしていると考えられ
る.また,都心居住者の方がLOS変数に対する感度が全
体的に高いことは,アクティビティモデルの副目的地選
択と同様,郊外居住者の移動制約の大きさを示唆するも
のである.
5.考察
アクティビティモデルの推定結果からは,a)郊外居住
者と都心居住者では生活パターンの自由度や,目的地選
択嗜好が大きく異なる,b)都心居住者でアクティビティ
パターン-目的地選択の自由度が高い,c)主要目的地選
択において郊外居住者の時間価値が高いのに対して,都
心居住者では副目的地への移動に際しての時間価値が高
い.d)副目的地への移動に際してはラインホール時間よ
りもアクセス時間の重要度が高いことなどが明らかとな
-0.75(-0.61)
1.40(1.76)
-0.64(-0.52)
-1.19(-2.52)
2.22(8.93)
-0.55(-1.43)
ゾーン3
ゾーン4
ゾーン5
1.10(1.34)
2.05(2.73)
0.19(0.62)
1.50(5.84)
ゾーン15
ゾーン16
-141.4
-138.5
-0.007
102
-904.3
0.210
829
修正済みρ 2
サンプル数
717
0.258
-733.9
829
0.201
-1838.7
-287.3
102
0.152
-227.7
-2003.1
717
0.218
-1550.7
829
0.184
-933.2
-1149.2
102
0.040
-131.7
-141.4
料金[円]
-1149.2
0.00(0.02)
-0.02(-3.81)
-0.01(-2.47)
-0.01(-10.0)
アクセス時間[分]
最終尤度
-0.05(-8.18)
-0.04(-16.6)
所要時間[分]
初期尤度
-2.52(-7.18)
-1.24(-12.1)
自転車定数項
-2320.4
1.41(5.12)
-0.04(-0.13)
1.22(4.35)
-1.11(-10.3)
0.13(0.28)
1.01(2.44)
1.28(3.22)
-1.35(-1.71)
0.30(0.39)
0.67(0.97)
0.50(0.70)
-15.6(-0.01)
-15.8(-0.01)
0.79(1.14)
-16.1(-0.01)
-16.2(-0.01)
-1.14(-0.98)
0.18(0.23)
-16.0(-0.01)
0.95(1.39)
717
0.227
-764.8
-994.0
-0.00(-8.84)
-0.02(-2.42)
-0.04(-14.9)
829
0.566
-1039.6
-2431.7
102
0.153
-256.5
-322.1
2.01(3.33)
2.68(3.65)
1.51(5.84)
ゾーン14
2.38(9.16)
-1.03(-2.15)
0.46(-0.50)
-1.12(-0.97)
-0.89(-0.77)
1.57(2.02)
2.36(9.61)
-15.0(-0.02)
0.24(0.51)
-14.9(-0.02)
-1.00(-1.47)
0.74(1.73)
0.76(1.79)
-14.9(-0.02)
1.13(2.77)
-0.48(-0.84)
4.24(11.9)
-0.72(-0.59)
-0.99(-2.22)
ゾーン12
ゾーン13
-0.65(-1.55)
都心居住者
副目的地選択
パラメータ値(t値)
-0.70(-1.15)-
全データ
-0.09(-0.17)
-14.4(-0.02)
-0.76(-1.87)
ゾーン11
-0.38(-1.01)
-1.33(-2.59)
郊外居住者
ゾーン18
1.53(1.97)
0.11(0.33)
パラメータ値(t値)
都心居住者
主要交通手段選択
ゾーン17
-14.1(-0.02)
-1.44(-2.84)
ゾーン9
ゾーン10
-2.26(-3.01)
全データ
1.31(2.02)
0.35(0.38)
-1.45(-2.87)
ゾーン8
0.28(0.87)
0.99(3.45)
-0.54(-1.33)
2.28(8.67)
-1.25(-2.45)
0.66(2.16)
0.52(1.65)
郊外居住者
1.19(2.94)
0.35(0.39)
-0.01(-0.01)
0.94(3.44)
0.25(0.82)
ゾーン6
ゾーン7
-994.0
0.40(0.44)
0.85(1.02)
0.51(1.71)
1.13(6.18)
2.44(16.9)
パラメータ値(t値)
都心居住者
主要目的地選択
0.69(2.40)
0.88(1.95)
1.08(6.50)
女性ダミー(HOH)
0.80(5.27)
全データ
ゾーン2
0.16(0.55)
2.10(16.9)
平日ダミー(HNH,HNH+)
-1.49(-12.2)
郊外居住者
ゾーン1
-0.28(-0.85)
0.60(4.49)
-0.35(-1.27)
-1.37(-12.3)
HOH定数項
パラメータ値(t値)
HNH+定数項
説明変数
都心居住者
アクティビティパターン選択
全データ
表-2 アクティビティモデル推定結果
717
0.644
-724.7
-2085.2
4.67(10.4)
0.22(-0.36)
0.98(1.87)
0.02(0.03)
1.05(2.01)
1.54(3.15)
-0.89(-1.06)
-14.7(-0.02)
0.49(0.67)
-14.7(-0.02)
-0.52(-0.72)
1.16(2.26)
0.99(1.90)
-14.7(-0.02)
1.21(2.38)
-0.23(-0.34)
-0.92(-1.11)
郊外居住者
都心居住者
副交通手段選択
187
0.409
-149.1
-259.2
-0.02(-3.90)
-0.23(-2.70)
-0.08(-5.81)
58
0.468
-38.8
-80.4
-0.01(-2.16)
-0.25(-1.31)
-0.11(-3.39)
-1.00(-2.48)
パラメータ値(t値)
-1.22(-5.53)
全データ
129
0.375
-107.8
-178.8
-0.02(-3.16)
-0.22(-2.31)
-0.07(-4.63)
-1.28(-4.80)
郊外居住者
表-3 SPデータを用いた目的地-交通機関選択モデル推定結果
全データ
説明変数
パラメータ値
自動車ダミー[中心市街地,中心北部]
2.58
自転車ダミー[中心市街地]
3.36
鉄道・路面電車ダミー[松山駅・市駅]
徒歩ダミー[中心市街地]
-1
都心居住者
パラメータ値
t値
郊外居住者
t値
3.61
5.31
2.74
7.15
4.35
2.97
7.34×10
1.58
-9.98
1.70
4.43
2.08
-2
-7.21×10
3.33
パラメータ値
t値
9.95×10-1
9.73×10-1
2.95
5.59
-1
9.79×10
1.10
2.02
所要時間[分]
-1.79×10-4
-1.59×10-1
-5.39×10-2
-1.77
料金[円]
-4.06×10-4
-3.02×10-1
-4.09×10-3
-9.42×10-1
-1.60×10-3
-1.01
-3
-1
-3
-1
-1.79×10-3
-6.28×10-1
アクセス時間[分]
-5.37×10
駐車場・駐輪場料金[円]
-2.79×10-3
-1.63
-5.25×10-3
-1.28
-2.32×10-3
-9.82×10-1
イグレス時間[分]
-1.29×10-3
-6.73×10-1
-1.34×10-2
-1.82
4.43×10-4
1.91×10-1
1.22
2.01
1.13
2.30
2.40
2.78×10
-2.80×10-1
-1.47×10
共同利用自転車最初30分無料ダミー
4.10×10
-3.10×10-4
2.01
2.18
初期尤度
-358.4
-129.0
-229.3
最終尤度
-195.8
-52.7
-133.8
修正済みρ2
0.426
0.514
0.373
サンプル数
100
36
64
った.
副次アクティビティ選択は回遊性に関する意思決定を
示していると考えられるが,回遊時の交通機関選択では
モビリティへのアクセス時間が重要となっており,都心
の回遊性を高めていく上では高密度なモビリティ環境の
整備が必要不可欠であることが伺える.これに対して,
主活動選択では寧ろラインホール時間の短縮に寄与する
主たる交通機関のネットワーク整備が重要といえるだろ
う.
こうした結果は,モビリティシステムの階層的整備の
必要性を裏付けるもので,都市空間システムにおける移
動の結節性をデザインすることの重要性を示している.
これはすなわち,副次アクティビティの発生に際しては
ラインホール時間よりもアクセス時間が2倍以上の時間
価値をもっており,同一交通機関を用いるのであれば主
活動におけるイグレス環境の戦略的なデザインが重要で
あり,共同利用のようにどこでも乗り捨てて,歩きまわ
った後,異なる場所からアクセスを気にしないで移動で
きるモビリティ整備の重要を裏付けるものであるといえ
るだろう.目的地選択においてもこうしたモビリティ環
境の整備が副次的な選択に貢献することが示された.
またSP実験からは,共同利用サービスにおける公共交
通との連携,利用料金設計の重要性が示された.こうし
た結果を,先に示された主-副次活動選択モデルとあわ
せて考察すると,郊外からの結節部における協調型交通
サービスの優遇および公共交通サービスとの連携による
主活動から副次活動への自転車への接続性向上と,都心
地域の回遊性を高めるためにアクセシビリティの高いポ
ート配置を確保した消費者余剰の高いサービス設計が求
められていることが明らかとなった.
しかし,一方で,現実にこうしたサービスの導入を考
えるなら,インフラ化を進めるのか,広告料で運用する
のか,自己採算性を高めるのかについて,都市規模やネ
ットワーク特性に応じたいくつかのサービスシナリオが
考えられよう.したがって今後は,自律運用が可能な協
調型交通サービスを実現していく上で,都市空間の経済
へ与える影響とサービス設計が可能な利用者モデルの高
度化が重要となる.特に都心部では微視的なサービス水
準に利用者が影響を受けるとともに様々な料金システム
の導入が考えられるため5),PPデータを用いて,MCMC
を援用した利用者モデルの構築が必要不可欠であろう.
謝辞:なお本研究を実施するにあたって文部科学省科研
費基盤A「プローブ技術を援用したデータフュージョン
理論による総合的交通行動調査の高度化 」(代表:羽
藤英二)からサポートを頂くとともに,システムの実装
についてはトランスフィールドの高田氏,斉藤氏,林氏
の協力を受けた.ここに感謝の意を表す.
【参考文献】
1)太田勝敏:マイカーに代わる新しい交通手段―カー
シェアリングの意義,交通工学,Vol.36,No.2,pp.1-4,
2001.
2)交通エコロジーモビリティ財団,自動車共同利用
(カーシェアリング)社会実験報告書,2003.
3)渡辺美穂,羽藤英二,自転車の共同利用サービスの
実装とその評価に関する研究,ITSシンポジウム論文集,
CDROM,2008.
4)羽藤英二,自転車共同利用システムの評価,土木学
会土木計画学研究委員会 ワンディセミナー 配布資料,
2009.
5)原祐輔・羽藤英二,協調型料金システムの挙動とそ
の理論的特性,土木計画学秋大会論文集,CDROM(予
定),2009.