皮 膚 科 専 門 医 に 学 ぶ CONTENTS 基 礎 編 疾 患 編 ● 皮膚の構造 ……………………… 1 ● アトピー性皮膚炎 ………………… 8 ● 正しい塗布量 …………………… 2 ● 乾 癬 …………………………… 9 ● 正しい塗布方法 ① ……………… 3 ● 皮膚真菌症………………………10 ● 正しい塗布方法 ② ……………… 4 ● 伝染性膿痂疹(とびひ)………… 11 ● ステロイド外用薬の適正使用…… 5 ● 皮脂欠乏性湿疹 ………………… 12 ● ビタミンD3外用薬の適正使用…… 6 ● 接触皮膚炎、 手湿疹……………… 13 ● 抗真菌外用薬の適正使用 ……… 7 ● 熱傷(やけど)…………………… 14 参考 エキスパートナースを目指して 外用薬の基礎知識 監修: 群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授 石川 治 正敏 群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 講師 天野 博雄 群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 講師 安部 協力: 皮疹をあらわす用語 【 原 発 疹 】 最初にあらわれる皮疹 紅 斑(こうはん) :真皮乳頭層の血管拡張や充血により起こる紅色の斑 紫 斑(し は ん) :皮内出血による紫色の斑 色 素 斑(しきそはん) :メラニンなどによる黒褐色の斑 丘 疹(きゅうしん) :直径 5mm 程度までの皮膚表面から隆起した皮疹 結 節(けっせつ) :丘疹より大きな隆起性皮疹 水 疱(すい ほう) :透明な内容物を有する隆起性皮疹 膿 疱(のうほう) :黄白色調の内容物を有する隆起性皮疹 【 続 発 疹 】 原発疹や他の続発疹に次いで出てくる皮疹 鱗 屑(りんせつ) :角質が蓄積した結果、白色のフケ様物質が付着した状態 痂 皮(か ひ) :角質や滲出液が皮膚表面に固着したもの び ら ん:表皮の剥離した状態 瘢 痕(はんこん) :一度欠損した皮膚が、結合組織を主とする肉芽組織の 増生により修復されたもの 萎 縮(いしゅく) :皮膚全体が薄くなった状態 皮膚科は軟膏処置やスキンケアなど、看護師の果たす役割が大切です。 看護師が外用薬の正しい 使い方、効果と副作用を理解し、疾患ごとに 【その他】 患者へ適切な指導を行うことは、皮膚科診療の向上につながります。 本冊子は、外用薬の基礎および疾患に関する知識と日常診療における ナーシングケアのポイントをまとめたものです。 苔 癬 化(たいせんか) :炎症が繰り返されて表皮が肥厚した状態 提供: 2012年10月作成 GT25 -1210P ANT TZ 007B 基礎編 皮膚の構造 正しい塗布量 皮膚は外側から順に、表皮、真皮、皮下組織に分かれます。 ステロイド外用薬の塗布量を患者さんにわかりやすく説明する際は F TU(フィンガーチップユニット)という考え方が便利です。 (Long CC et al.:Clin Exp Dermatol. 16(6) :444-447, 1991) 表皮は外部の病原微生物や化学物 質が体の中に侵入するのを防いだり、 体内の水分を保つ、いわゆるバリア の働きを持ちます。 表皮 真皮の大部分はコラーゲン(線維性 の蛋白質)とムコ多糖です。その中 に毛細血管、知覚神経、毛包・皮脂 腺などが分布します。 真皮 皮下組織は大部分が皮下脂肪で外部 からの 衝 撃を和らげるクッションと エネルギー貯蔵の役割を果たしてい ます。 皮下 組織 表皮の重要な働きはバリア機能です。 表皮は角層、顆粒層、有棘層、基底層の 4 層がブロック塀のように積み重なっています。 特に角層と皮脂膜はバリア機能において重要で、外部刺激から体を守ったり、体内の水分が外に 逃げていかないようにしています。 外部刺激 軟 クリーム の 場 合 膏・ ロ ョン の 場 ーシ 合 チューブに入ったステロイド外 用 薬の場合、大人の人差し指の先端 から第1関節までチューブから出 した量を1FTUといいます。 ローションでは1円玉大に相当 します。 1FTU =約0.5g※1 ※1 ステロイド外 用 薬の チューブの口 径 、開 けた穴 の 大きさなど によって、量が異なる 場合もあります。 1FTUを「手のひら2枚分」の 広さに塗るのが適量。※2 ※2 保湿剤の場合はステロイド外用薬より 多めに塗布します。 外用薬は皮溝に沿って塗布します。 皮溝の走行は身体の各部位で一定方向に決まっています。 外用薬は皮溝に 沿って塗布します。 外部刺激 皮脂膜 皮膚の保湿能は角層内の3つの 因子が深く関係しています。 角 層 顆粒層 ①皮脂膜 ②天然保湿因子 ③セラミド (角層細胞間脂質) 基底層 正常な皮膚 1 水分 水分 バリア機能が 低下している皮膚 t★Car er e 水分 ドライスキンなど、バリア機能が 低下している皮膚は外部刺激を 受けやすく、水分が逃げやすい 状 態となり、様々なスキントラ ブルがおこります。 皮溝の走行方向 Exp 有棘層 指先や手のひらを使って、やさしく丁寧に ひろげます。 外用療法指導ではデモンストレーションが有効です! 患者の皮膚に置いて手のひら2枚分を実際に患者とともに確認します。 そして、患者が実際に用いる軟膏を1F TUとり、皮溝に沿って軽く擦り込む よう実演することもよいでしょう。 2 基礎編 正しい塗布方法 1 正しい塗布方法 2 外用薬の経皮吸収率は部位・皮疹の状態・患者の年齢などによって異なります。 前腕(屈側) を1.0とした時の比率 前額部 6.0 ● 頭皮 3.5 下顎 13.0 腋窩 3.6 前腕 (屈側)1.0 背中 1.7 ● 前腕 (伸側)1.1 手掌 0.83 ● 陰嚢 42.0 足関節部 0.42 角層の薄い部位(顔面、 首など) では 吸収率が高くなります。 乳 幼児や高 齢 者は角層が薄いため 吸収率が高くなります。 乾燥した皮膚、炎症部位、びらん面 などではバリア機能が低下している ため吸収率が高くなります。 足底 0.14 特 徴 薬剤浸透性 膏 ● 保護・保湿性に優れる 低 ク リ ー ム ● 軟膏よりもさらりとした使用感 高 ロ ー ション ● 刺激性 クリームよりもさらにさらりとした使用感 低 ● ● 高 頭皮など 保湿性が高く、低刺激のため、乾燥面や亀裂面に塗布する。 鱗屑・痂皮を除去する。 ● 保湿性が高く、乾燥を防止する。 水 溶 性 軟 膏 ● 滲出液の吸収性に優れる。 親 水 軟 膏 ● 保湿効果に優れている。 (バニシングクリーム) 吸 水 軟 膏 ● 塗り心地がよく、塗った時に皮膚表面の熱を奪う性質がある。 (コールドクリーム) e ● ● ● ● ● 軟膏を塗った上からポリエチレンフィルムで 被う方法。 (密封塗布法) 経皮吸収率が上がるので、単純塗布で十分 ※ な効果が得られない場合などに用いる。 ODT法 1 へらを使い5cm四方あたり 亜鉛華軟膏5gの割合でリント 布の裏面にたっぷりと伸ばす。 ● ● ● 湿潤の強い部分 肥厚、苔癬化した部分 角層肥厚部分 ● 処置が簡単 経皮吸収率が高まる。 リント布は痂皮の除去や びらん面の保護(掻破 防止) に有効。 重層法以上に 経皮吸収率が高まる。 ● 季節による剤形の使い分け 皮膚が乾燥しやすい冬には軟膏、高温多湿の夏はクリーム・ローションなど、 季節による使い分けもよいでしょう。 5c m 四 方に切り、四 隅に 切れ込みを入れる。 3 滲出液が排出されるよう1∼2mmの隙間を あけて貼付し、ガーゼで固定する。 〈理由 1 〉 角層が湿っていると外用薬の経皮吸収が良い(角層が膨潤し浸透しやすい状態に なっている)。 〈理由 2 〉 入浴により皮膚に付着している汗や汚れ、前回塗布した軟膏、軟化した痂皮などを 落とすことができ清潔が保たれている。 外用薬の混合について 混合はコンプライアンス向上などのメリットを有しますが、一方で力価の低下や安定性の問題に 留意する必要があります。また、基剤による希釈率と効果の減弱率は必ずしも一致しないこと に注意する必要があります。 ● びらん面への塗布 クリームをびらん面へ塗布すると刺激により痛み等を起こすことがあります。 迷った際には軟膏を選択するほうがよいでしょう。 2 大きいまま貼らず、はさみで 塗布は、入浴後15分以内が望ましい。 t★Car er e Exp ※ワセリンは精製の程度により製品が異なり、サンホワイト>プロペト>白色ワセリンの順に純度が高くなります。 3 ● 乾燥面 油脂(ワセリン)※ t★Car er 重 層 法 外用薬を塗った上に亜鉛華軟膏などを厚く 湿潤の強い部分 伸ばしたリント布を貼付する方法。 苔癬化した部分 亜鉛華軟膏をすでにリント布に伸ばした 痂皮や鱗屑の付着した 部分 ボチシートも市販されている。 ● 適 応 特 徴、 使 い 方 亜 鉛 華 軟 膏 単純塗布 利 点 びらん面を含むあらゆる皮疹 基剤には多くの種類があり、基剤自体も外用薬として使われています。 基剤の種類 あらゆる皮疹 乾燥している部分 重層法の手順 外用薬は基剤によって剤形が異なり、 部位や皮疹の状態によって剤形を使い分けることが大切です。 剤 形 適 応 ● ※密封による汗疹・感染などには注意が必要。基本的には最大半日程度とする。 (Feldman et al.:J Invest Derm 48(2) :181-183, 1967より引用改変) 軟 解 説 病変部に直接塗布する方法。強くすり込ま ずに皮溝に沿ってやさしく塗るのがコツ。 Exp 部位別の吸収率 部位や皮疹の状態によって塗布方法を使い分けましょう。 ● 外用薬では混合してはいけない組み合わせがあります。 患者には医師から指示された薬以外は混合しないよう指導します。 ● 混合時の細菌汚染に注意! 混合調剤された外用薬は冷蔵庫に保管するとともに、使用前にはよく手を洗う よう指導します。 4 ステロイド外用薬の 適正使用 基礎編 ビタミンD 3外用薬の 適正使用 ステロイドはもともと副腎でつくられるホルモンで、体内で起こっている炎症を 軽減する働きがあります。人工的に合成したステロイドを含むステロイド外用 薬は速効性の抗炎症作用を有します。 アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎ほか、種々の炎症性皮膚疾患 適応症 主な副作用 ● ● ● 皮膚が薄くなる 毛細血管が目立つ 多毛 など 薬の強さに応じて、5つの ランクに分けられています。 強 Strongest 適切な強さのステロイド外用薬を 適切な期間の使用にとどめることで、 これらの副作用は回避することができます。 皮疹の重症度、部位、年齢などによって ランクを使い分けます。 部位 年齢 皮疹の 重症度 最重症 Very strong 体幹、 成人 四肢 重 症 Strongest 経皮吸収率が高い顔や首は medium以下、 同様に高齢者・小児は medium以下 顔、首 (mild) 高齢者、 軽 症 小児 乳幼児 弱 Weak 軽 微 主な副作用 ● ● 軽症から中等症の乾癬治療の 第一選択薬となっています。 高カルシウム血症 塗布時のピリピリ感 など 各製品添付文書には、1週間または 1日の使用上限量が記載されています。 ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬をうまく組み合わせることで 治療効果を高め、かつ副作用発現リスクを軽減することが可能です。 〈組合せ例〉 朝晩で塗り分け、 または混合 ステロイド + ビタミンD3 Very strong 炎症の程度 中等症 Medium 乾癬ほか、 種々の炎症性角化症 適応症 (部位限定) Strong Strong 活性型ビタミンD3は表皮細胞の増殖抑制と分化誘導作用のほかに、 炎症性サイトカインの調節など多様な作用を有します。 ビタミンD3外用薬は表皮細胞の異常増殖と分化を正常化させます。 Medium or Weak ステロイド外用薬で早期に寛解導入し、 徐々にビタミンD 3 外用薬に移 行する 方法がよく用いられます。 (シークエンシャル療法) 平日 週末 ビタミンD3 ステロイド ステロイド外用薬は使用せず、 保湿剤のみによるスキンケア ビタミンD3 経 過 注)急性炎症(虫刺されなど) にはStrongランク以上の外用薬を 顔や首に対して使うことがあります。 ● 患者のアドヒアランス維持が重要です! t★Car ● 全身への副作用は? 外用薬は内服薬や注射薬と異なり、経皮吸収され患部に直接作用するため 血中に入る量はごくわずかです。そのため、Very strongランク以下の外用薬 の通常使用量(1日10g以下)では全身性の副作用はまず問題になりません。 5 Exp 色素沈着はステロイド外用薬の副作用によるものではありません。これは炎 症鎮静後の色素沈着であり、むしろ早期よりステロイドを用いて炎症を抑える ことで色素沈着を回避できます。 er e t★Car er e Exp ●「ステロイド外用薬を塗ると肌が黒くなる」って本当? ビタミンD3外用薬はステロイド外用薬に比べると効果発現までに時間を要する ため、患者が治療意欲を維持できるよう指導することが大切です。 ● 高カルシウム血症に注意! 腎機能が低下している患者やサプリメントとしてカルシウム剤を服用している 患者などは高カルシウム血症を起こす可能性が高まるので、事前に確認して おく必要があります。 ● 刺激感が気になるときは? ビタミンD3外用薬は朝または昼に塗り、就寝前の外用は避けるなどの工夫も 有用です。 6 抗真菌外用薬の 適正使用 基礎編 抗真菌外用薬は真菌の細胞壁に結合、または細胞壁の生合成を阻害することで 真菌の増殖を抑制します。 適応症 白癬、カンジダ症、癜風ほか、種々の真菌感染症 主な副作用 ● ● 疾患編 アトピー性皮膚炎 疾 患 アトピックドライスキン 外部刺激 水分 水分 外部刺激 接触皮膚炎 そう痒 など 抗真菌外用薬には下記のような系統があります。 イミダゾール系 適 応 疾 患 ● 白癬、カンジダ症、癜風 チオカルバミン酸系 白癬、癜風 ベンジルアミン系 白癬、癜風 アリルアミン系 白癬、カンジダ症、癜風 モルホリン系 白癬、カンジダ症、癜風 ● イミダゾール系は抗菌域が広く、 白 癬、カンジダ 症ともに適 応 が あります。 イミダ ゾール 系 以 外 の 系 統 は、 特に白癬菌に対する抗菌力が強 化されています。 OTC薬と医療用薬(OTC:Over The Counter, 一般用医薬品) OTC薬を使用していたが症状が改善されなかったため来院する患者が多くいます。 改善しない理由としてはOTC薬は医療用薬にくらべて主成分の濃度が低い場合や、患者の外用 量や外用期間が適切でないケースもあります。また、OTC薬は主成分以外に殺菌薬や消毒薬等 が含まれている場合があり、接触皮膚炎を起こしやすくなります。 OTC薬と同じ製品であることに不安に思う患者に対してはOTC化されていない薬剤を選択する ことも有用です。 e アトピー性皮膚炎の治療では日常生活に支障がない程度に病勢をコントロールする ことをめざします。ステロイド外用薬またはタクロリムス軟膏で炎 症をすみやかに 抑えるようにします。 ステロイド外用薬は部位によるランクの使い分けと寛解後の漸減またはランクダウンがポイント となります。 保湿剤などによりバリア機能の低下を補完し、また抗ヒスタミン薬の内服により 痒みの軽減と掻破による悪化を予防します。 ステロイド外用薬などで炎症を治めてもスキンケアを怠ると症状は再燃してしまいます。 保湿剤などを上手に使い皮膚の乾燥を防ぎバリア機能をよい状態に保つことが大切です。 白癬をはじめ皮膚真菌症はしつこく治りにくい疾患です。 抗真菌外用薬の使用にあたっては正しい外用量、外用方法、外用期間を守る ことが大切であることを説明します。 ● 皮膚の清潔保持のため入浴やシャワーを励行します。 t★Car ● 外用指導の際は、 患者の行動指標になりやすい具体的な説明をこころ がけます。 ● 感染 症予防のために洗浄は有効ですが、洗いすぎは乾燥を助長し 皮脂欠乏性湿疹などの原因となることがあります。 軽石やナイロンタオルでの擦りすぎに注意するよう指導します。 7 治 療 er e Exp ● 患者のコンプライアンスが外用療法の成否を決定します。 t★Car er 角層のセラミドの減少により皮膚が乾燥し、 バリア機能が低下しています。 バリア機能の低下した皮膚にさまざまな外部 刺激が加わって炎症がおこります。 Exp 分 類 名 アトピー性 皮 膚炎は良くなったり 悪くなったりを繰り返す痒みのある 湿疹ができる疾患で、患者の多くは アトピー素因 (遺伝的体質) をもって います。 炎 症の主たる原因はダニ・ホコリ などによるアレルギー反応のほか、 バリア 機能の 低下した皮 膚(アト ピックドライスキン)にあります。 ● バリア機能の低下している皮膚には弱酸性石鹸をすすめます。 熱すぎるお湯は皮脂が除去され乾燥の原因となるため、お湯の温度は40℃ までを目安とするよう指導します。 入浴剤を使う場合は目的によりうまく選択することが大切です。 (リラックス効果、血流促進・保温効果、保湿効果、皮膚清浄効果など) ● ● ● 室内を清潔に保ち、適温・適湿の環境を心がけるよう指導します。 ● 1日1回の外用であれば入浴 後の外用を推奨します。 ● 刺激の少ない衣服を着るよう指導します。 入浴後は角層が柔らかく、薬剤が吸収されやすいためです。 ● 爪を短く切り、掻破しないよう指導します。 8 疾患編 乾 癬 皮膚真菌症 疾 患 疾 患 乾癬は皮膚が赤くなって盛り上がり (紅斑) 、 表面に銀白色のフケのようなもの (鱗屑) ができて、ポロポロとはがれ落ちる(落屑) 慢性の皮膚疾患です。 約半数の患者は痒みを訴え、見た目の問 題から患者の QOLを著しく低下させます。 なお、人に感染することはありません。 乾癬の皮膚 皮膚真菌症は 真菌 (カビ)による皮膚感 染症です。 白癬やカンジダ症などの浅在性皮膚真菌 症と深在性皮膚真菌症に分類されます。 白癬は皮膚真菌症の90%以上を占める 皮膚糸状菌が原因です。感染した部位 によって足白癬、手白癬、爪白癬、股部 白癬などに分類されます。 皮膚糸状菌 (白癬菌) 正常皮 膚に比 較し、厚い部分と薄い 部分が交互にみられます。 正常皮膚にくらべて、表皮細胞の異常 な増殖がみられます。 白癬は皮膚糸状菌が 角層に感染して発症します。 治 療 中等症までの尋常性乾癬ではビタミンD 3 外用薬による外用療法が第一選択となり ます。さらに、ステロイド外用薬をうまく組み合わせることにより治療効果を高め、 かつ、副作用発現リスクを軽減することが可能です。 光線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB)との併用も有効です。 重症例や増悪時には必要に応じて内服療法や生物学的製剤を使用します。 個々の患者の状況に応じて、患者のニーズに合った治療法を選択します。 同一の治療法を長期間行うことによる副作用の発現を防止するため、 一定期間ごとに他の治療法に変更することも有効といわれています (ローテーション療法) 。 治 療 白癬治療の基本は抗真菌薬の外用です。 ● ● 線光 療 法 外 用 療 法 外 用 療法 内 服 療 法 ただし、爪白癬、角質増殖型足白癬などは抗真菌薬の内服適応となります。 白癬の確定診断は顕微鏡を用いた直接鏡検で行います。見た目で安易に判断してはなりません。 びらんや浸軟がある場合はステロイド外用薬などで病変を改善させてから抗真菌 外用薬を使用します。 症状がなくなったように見えても白癬菌は角層で生き残っています。 そのため、外見的に患部がきれいになってからも 1∼2ヵ月は外用薬治療を継続します。 ● ケブネル現象に注意します。 ケブネル現象とは発疹のない正常な皮膚を掻いたり傷つけたりするとそこに 新たな発疹が出現することです。 爪を短く切り、掻破しないよう指導します。 ケブネル現象の原因は患者によって様々です。患者ごとの生活状況にもとづ いた具体的な指導が有効です。 (下着、ベルト、メガネ、マッサージ器による 刺激、肘や膝をつく習慣 など) ● 乾癬は見た目が気になり治療も長期にわたるので患者の精神的サポート が非常に大切です。 er e ● ● 紫外線は乾癬に有効です。適度の日光浴も良い工夫です。 9 t★Car ● Exp t★Car er e Exp ● ● 菌は症状のない部位にも付着しています。そのため、 病変部だけでなく病変周囲も含め広い範囲に塗るよう 指導します。 ● 足白癬の場合は患部だけでなく、趾間や足底全体に くまなく塗るよう指導します。 塗布部位 ● バスマットやタオルの共用により感染することがあります。 他人に感染させないように配慮するよう説明しましょう。 10 伝染性膿痂疹 (とびひ) 疾患編 疾 患 皮 脂欠乏性湿 疹 疾 患 伝染性膿痂疹は細菌による皮膚感染症です。 虫刺されやひっかき傷に細菌が感染して起こります。 黄色ブドウ球菌による水疱性膿痂疹と、化膿性レンサ 球菌による痂皮性膿痂疹に大別されます。 黄色ブドウ球菌 痒みの機序 ①外部刺激 ②知覚神経終末から 神経ペプチドが放出される ドライスキンはバリア機能が低下した状態 であり、外部刺激や痒みによる搔破が加 わると皮脂欠乏性湿疹を発症します。 水疱性膿痂疹は水疱を主体とする病変で、乳幼児に多く 発症し、夏季に多くみられます。 痂皮性膿痂疹は痂皮を主体とする病変で、季節・年齢に 関係なく発症し、 発熱などの症状もみられます。 水疱性膿痂疹は黄色ブドウ球菌が 表皮に感染してエンテロトキシンと いう毒素を放出するため発症します。 ヒスタミン 知覚神経 ④ 痒みとして認識 治 療 抗菌薬の内服とともに局所に抗菌外用薬や亜鉛華軟膏を塗布します。 保湿剤の外用が基本になります。 保湿剤は右のような効果をもつ ものを選択します。 抗菌薬の選択にあたっては細菌培養・同定・感受性試験を行います。 水疱性膿痂疹 ● ● ● 黄色ブドウ球菌に感受性のある経口セフェム系が第一選択です。 湿潤がとれても紅斑が残る場合はステロイド外用薬に亜鉛華軟膏を重層してガーゼで覆い、 拡大・増悪を予防します。 なお、近年多くの黄色ブドウ球菌はゲンタマイシン耐性であり、ゲンタマイシン含有ステロイド 外用薬の安易な使用は控えるべきです。 Exp e t★Car er er ● ● ● ● タオルや衣服を介して感染することもあるので共用しないよう指導します。 種 類 被膜形成 ワセリン など モイスチャライザー 効果 角層内で 水分保持 ヘパリン類似物質 など ● 保湿剤は多めに塗るほうが効果的です。 ステロイド外用薬より多めに塗布します。 「塗った後に皮膚が少し光って見え、ティッシュペーパーが付着する程度」と 指導します。 1日1回よりも2回外用をすすめます。 ● 指導します。 患部に触らないよう注意し、また爪を短く切り掻破しないよう指導します。 かゆみが強い場合はガーゼなどで保護します。 石鹸を泡立ててやさしく洗うよう指導します。 皮疹が湿潤している場合にはシャワー浴を行います。 家族に乳幼児や小児がいる場合は患児の入浴をあとにする配慮も大切です。 機 能 エモリエント 効 果 ● 冬は乾燥しやすく痒みが増します。加湿器などで部屋の湿度を保つよう ● 搔破予防のため爪は短く整えるよう指導します。 ● 肌着類はなるべく肌にやさしい木綿製のものをすすめます。 ● シャワーなどによる皮膚の洗浄が何より大切です。 ● ドライスキンでは外部 刺激により知覚神経が 刺激を受けやすいため、 痒みが発生しやすい。 ● ● 伝染性膿痂疹は患部を触った手を介して体のあちこちに感染します。 ● e ● ペニシリン系が第一選択です。 厚い痂皮が固着する場合は亜鉛華軟膏を貼付して早めに除去します。 t★Car Exp ● 冬季、下肢に好発し、皮膚がカサカサして はがれ落ちたり、ひび割れたりします。 搔破により湿疹化した部分に対してはステロイド外用薬を使用します。 ドライスキンに伴う痒みに対しては抗ヒスタミン薬を内服します。 痂皮性膿痂疹 11 ③肥満細胞が刺激され ヒスタミン (痒み物質) が分泌される 治 療 ● 加齢などが原因で表皮の保湿因子(皮脂 膜、天然保湿因子、セラミド)が減少すると ドライスキンになります。 ● 入浴時は洗いすぎによる皮脂膜の除去を避けるよう指導します。 ● 保湿剤 ● ● バリア機能の低下している皮膚には弱酸性石鹸をすすめます。 熱すぎるお湯は皮脂が除去され乾燥の原因となるため、お湯の温度は40℃ までを目安とするよう指導します。 保湿効果のある入浴剤も有用です。 12 接触 皮 膚炎 手湿 疹 疾患編 疾 患 熱傷(やけど) 疾 患 接触皮膚炎は何らかの 刺激物質または抗 原が 皮膚に接触することによって湿疹性の炎症反応 が起こることをいいます。 前者を一次刺激性接触皮膚炎、後者をアレルギー 性接触皮膚炎と呼びます。 手湿疹(手荒れ)は一次刺激性接触皮膚炎の一種 です。水仕事や洗剤、医薬品などの頻用により手 指角層のバリア機能が低下することにより乾燥 や外部刺激による角化、指紋の消失、ひび割れな どの症状がみられます。 浅達性 Ⅱ度熱傷 接触皮膚炎は原因物質の同定と排除が治療の基本となります。 原因物質の同定にはパッチテストを行うことがあります。 炎症の程度に応じてステロイド外用薬を使い分けます。 Ⅱ度熱 傷 深達性 Ⅱ度熱傷 表皮まで 浅 達性 真皮浅層まで 深 達性 真皮深層まで Ⅲ度熱 傷 皮下組織まで 局 所 所 見 発赤 水疱 白色皮膚 神経消失のため痛みがない Ⅲ度熱傷 治 療 熱傷深達度により治療方針を決定します。 Ⅰ度熱傷:抗炎症と鎮痛を目的としてステロイド外用薬を塗布します。 Ⅱ度熱傷:創面の性状(滲出液、感染、壊死物質の有無)により治療は異なります。安易 な判断をせず、医師の指示による外用療法を行いましょう。水疱は極力除去せず、 巨大なものは内容液を除去し水疱蓋はそのままにしましょう。 滲出液が多い時:水溶性軟膏(マクロゴール)など 感染予防:バシトラシン・フラジオマイシン硫酸塩含有軟膏、ゲンタマイシン硫酸塩軟膏など 壊死物質除去:ブロメライン軟膏、スルファジアジン銀クリームなど 手指は角層が厚く経皮吸収率が低いため Strong や Very strongのステロイド外用薬を用います。 症状が激しい場合は専門医の指導のもとに短期間のステロイド薬の内服を併用します。 痒みが強い場合は抗ヒスタミン薬を内服します。 t★Car er e Exp 深 さ Ⅰ度熱 傷 患部をすぐに水道水などの流水で冷やし、出来るだけ 早く受診することが大切です。 治 療 ● 原因物質が同定できない場合や職業上原因物質の排除が難しい場合 Ⅲ度熱傷:自然治癒が難しいため植皮術が原則です。 「ケロイド」や「ひきつれ」などの瘢痕が残る場合はステロイド外用薬によって傷跡が 目立たなくなるように治療します。 外用薬は刺激の少ない油性軟膏を使用します。 には難治となる傾向があり、生活上の注意が特に重要となります。 ● 刺激を避けるため木綿製の手袋の着用をすすめます。また、睡眠中の搔 ● アロエなどの民間療法は感染を助長する場合が多いため、自己判断で 破予防のため寝る時も着用をすすめます。 ● 手指のバリア機能を保つため手の洗いすぎに注意し、手を洗ったあとに は保湿剤をこまめに塗るよう指導します。 ● 治療にはランクの強いステロイド外用薬を使うことが多いので、誤って患 部以外に薬がつかないように塗布後すみやかに手を洗うよう指導します。 Exp するよう指導します。 t★Car er e ● 水仕事をする際には木綿製の手袋の上からさらにゴム手袋などを着用 13 熱傷は熱により細胞のたんぱく質が凝固する組織傷害 です。熱傷深達度によりⅠ∼Ⅲ度に分類されます。 Ⅰ度熱傷 の民間療法は行わないよう指導します。 ● 深達性Ⅱ度熱傷、Ⅲ度熱傷の場合は瘢痕が残りやすいですが、目立た なくする方法があることを伝えます。 ● 肥厚性の瘢痕には包帯などによる圧迫 療法が 有効であることを指導 します。 ● 治療後は炎症性の色素沈着をきたすことが多く、紫外線対策も大切で あることを指導します。 14
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