シンポジウム:SY-1~ SY-7

SY-1
外来維持血液透析患者におけるサルコぺニアの評価と意義
山口大学医学部泌尿器科1)、聖比留会セントヒル病院2)、
山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学3)
○磯山直仁1)、藤井善蔵2)、大塚知明2)、田中真貴子2)、竹下信一郎2)、
白上巧作3)、池上直慶3)、堀内景一郎2)、中村公彦1)、内山浩一1)、
矢野雅文3)、松山豪泰1)、松﨑益德2)
一般的に年齢と共に身体構成の変化は骨格筋の減少で特徴付けられ、サルコペニア
と呼ばれ、その罹患率は7~31%にも及んでいるといわれているが、その発生には、
神経系、ホルモン動態、代謝性変化、栄養状態、さらには免疫や炎症反応など、多因
子が複雑に関与していると考えられている。このことは主に欧米を中心に提唱されて
きたが、人種差により評価は困難であった。しかし2014年アジアワーキンググルー
プにより定義づけられたことでわれわれも検討することが可能となった。以前われわ
れは二次性サルコペニアの一つである慢性腎臓病患者で検討し、透析療法の導入時サ
ルコペニアであった患者がそうでない患者と比較し、予後が悪いことを示した。
一方、血液透析患者における検討は進んでいない。
われわれは2010年より血液透析患者221例(中間年齢:66歳、61%男性、透析期間:
5.8年)に対し、MFBIAにて四肢筋肉量を測定。SMI(Skeletal muscle mass index;
四肢筋肉量/身長2)を基に検討した。サルコペニアの有病率は52%と高く、65歳以
上の生存率に寄与しており、男女差も認められた。このことは癌死、重症心不全死を
除いても同様であった。さらにSMIは骨代謝、動脈硬化、炎症、栄養とも有意な関連
を認めた。今後、血液透析患者においてもサルコペニアを正確に診断し、多面的な治
療介入が必要であると思われた。
SY-2
腎臓リハビリテーション立ち上げから開始まで
医療法人社団尾﨑病院
○尾﨑 舞、谷口浩平、西山裕貴、松森崇志、岡 学、吉田衣里、
杉本由美、田中将士、武田祐樹、福本文絵、宮本久美子
はじめに
高齢透析患者の増加とともに通院が困難になり、入院や施設入所による透析をせざるをえ
ないケースが増えている。立位や短距離の歩行が軽度の介助で可能であれば、住み慣れた家
で生活し、透析への通院は可能である。透析中にリハビリを行うことで機能維持を実現して
いる施設があり、高齢者が多い我々の施設で導入することは非常に有意義であり、また、当
院の使命である“人生後半のトータルサポート”という面からも積極的に取り組むことにした。
腎リハ開始までの経過
透析室、リハビリテーション科からスタッフを選出し、月一回の検討会を平成26年4月よ
り開催した。検討会では11月を開始目標とし、それまでに必要な知識の習得、施設見学、対
象患者、リハビリ内容、開始前の患者のメディカルチェック、開始にあたっての説明、同意書、
開始時の負荷、開始後の評価、をそれぞれ検討し、必要書類を作成した。
開始後の経過
1クールにつき1人を対象者とし1カ月間はセラピストが1対1でリハビの指導を行っ
た。リハビリの仕方、流れを透析スタッフが習得し、以降は透析スタッフが対応している。
透析中のトラブルなく順調に行えている。
考察
高齢者の透析患者は予測していた以上に筋力が低下しており、リハビリ内容の変更が必要
であった。開始より半年経過するとリハビリ負荷の増量や時間延長を希望し、意欲の向上が
見られた。
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SY-3
腎不全患者における腎臓リハビリテーションについて
広島大学病院 腎臓内科1)、
大町土谷クリニック2)、
小田内科クリニック3)
○佐々木健介1)、高橋直子2)、小田弘明3)、正木崇生1)
高齢化の進むわが国において、高齢者におけるFrailty(フレイル)やサルコぺニ
アなどの病態が注目されており、そのような高齢者を早期に診断し適切な介入をする
ことにより、機能障害に陥らず生活機能が維持することが求められている。CKDや
慢性透析患者においても、近年、運動療法による介入が行われ始めており、腎臓リハ
ビリテーションは運動耐容能やQOLを向上させるのみならず、腎障害の進展を抑制
し生命予後を改善する積極的な治療法として期待されている。透析患者においては死
亡と活動の低下とに関連性があること(Am J Kidney Dis. 2003)や、QOLの低下は
入院や死亡など重要なアウトカムに関連していること(Am J Kidney Dis. 2003,
Kidney Int. 2008)などの報告がなされており、最近は「透析中の運動療法」も取り
入れる施設も多く存在する。しかし、CKD患者においては、運動療法が心血管疾患
のリスクファクターを改善するという報告はなされているが(Cochrane Database
Syst Rev. 2011)、運動療法がCKDの発症・進展に影響を与えるかどうか明らかでは
ない。
本講演では、透析患者を中心に慢性腎不全における腎臓リハビリテーションの現状
について、我々の取り組みを若干の文献的考察を含めて紹介する。
SY-4
透析患者の運動療法~サルコぺニアの進行を止められるか~
聖比留会セントヒル病院1)、
山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学2)、
山口大学医学部泌尿器科3)
○池上直慶1,2)、藤井善蔵1,2)、大塚知明1)、田中真貴子1)、
竹下信一郎1)、白上巧作2)、磯山直仁3)、堀内景一郎3)、中村公彦3)、
内山浩一3)、松山豪泰3)、矢野雅文2)、松﨑益德1)
一次性サルコぺニアに関してヨーロッパでの基準を基に知見が集積している中、2014年にア
ジアワーキンググループにより発表された定義に基づき我々は二次性サルコぺニアである透析
患者について解析した。外来患者221名を2010年以降MFBIAであるInBodyを用い診断基準に
基づいて追跡すると、サルコぺニアを有する65歳以上の透析患者は有意な生存率の低下を認め、
また心疾患を伴うサルコぺニアや最終的に癌死となったカヘキシアの患者を除いてもなお有意
であった。またSMIによるサルコぺニアの有無により、PEWの指標であるGNRI、炎症の指標
であるCRP、動脈硬化の指標であるPWV、骨代謝の指標であるオステオカルシンやDIPで求め
られる骨皮質幅指数、骨密度、さらにはKDQOLのいくつかの指標について有意な違いが認め
られた。
一方2011年より当院では透析中の運動療法を開始した。四肢のアンクルウェイトトレーニン
グにて開始し、透析中の循環変動のない事を確認し、導入2年目より各透析ベッドに備え付け
られたEIZOシステムにてレベル別の運動療法ブログラムを作成、各患者が処方された運動強
度を選択し、ビデオを見ながら実践することを開始した。運動強度は透析中の循環変動と運動
後のボルグスケールにより決定しInBodyによる評価の他、TUGやCS30を含む、てんとう虫テ
ストを定期的に施行した。これら53名の運動療法群と非運動療法群のSMIを含む前述のパラ
メーターの変化につき報告する。
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SY-5
透析患者の下肢血流について
ー当院における ABI の検討を中心にー
新開山本クリニック1)、山陰労災病院心臓血管外科2)
鳥取大学医学部付属病院放射線科3)
○実松宏巳1)、山本泰久1)、小野公誉2)、黒田弘明2)、足立 憲3)、
大内泰文3)
「はじめに」Peripheral artery disease(PAD)は透析患者においても生命予後不良因子と言
われている。PADの評価方法としては以前よりankle-brachial blood pressure index(ABI)が
広く臨床で使用されている。今回、当院透析患者におけるABIの結果を検討したので報告する。
「対象と方法」平成26年1月から平成27年7月の間にABIを施行した血液透析患者180名を対
象とし、後ろ向きに調べた。ABIは0.9未満を異常値とし、左右どちらかが0.9未満であった場合
を異常群、それ以外を正常群とした。異常群と正常群の間で性別・年齢・透析歴・糖尿病の有
無につき検討した。異常群は他院に紹介し、エコー、MRI、血管造影等の検査を施行していた
だき、必要な場合は加療をおこなっていただいた。
「結果」180名中46名(25.5%)が異常群であった。平均年齢は正常群63.7歳(30~90)、異常
群69.9歳(28~93)で有意に異常群が高齢であった。糖尿病の有無は正常群で有:無=54:
80、異常群で有:無=33:13で異常群が有意に糖尿病の有病率が高かった。性別は正常群で男:
女=85:49、異常群で男:女=32:14で、透析歴は正常群7.0年(0.2~38)、異常群6.3年(0.3~
30)で共に両群間で有意差はなかった。異常群の内36名(78.2%)がPADを有していた。PAD
を認めた患者の内14名(38.8%)に治療が行われており、そのほとんどが血管内治療であった。
「結語」透析患者はPADの危険性が高いので、ABI等で定期的にチェックすることが重要であ
る。高齢・糖尿病の患者はさらに注意が必要と思われる。
一部の症例に関してはSPP(皮膚組織灌流圧)も測定したので、ABIとの比較検討の結果も
合わせて発表する予定である。
SY-6
いつまでも自分の“足”で歩くことを支える
島根大学医学部附属病院
○石川万里子
様々な病を持ちながらもその人(方)らしい生活、人生を送っていただきたい。人
生の目標は人それぞれだが、「自分のことはできるだけ自分でしたい」と話される方
も多い。その中に、「自分の足で歩く」ことも含まれ、そのために、「足」を守ること
が大切である。
透析患者さんは、動脈硬化による下肢血流障害により、小さな傷でも悪化して傷が
拡大し潰瘍形成、壊死、最終的には下肢切断に至る場合もある。加齢や糖尿病による
神経障害、視力障害も重なるとリスクは更に高くなる。足のトラブルを回避するため
に、予防・早期発見・早期治療が必要となる。そのために看護師は、胼胝、鶏眼、白
癬菌による爪の肥厚、治癒後の潰瘍の状態などをチェックしたり、その原因をアセス
メントしたりする。その上で、足や爪のケア、保湿・保護対策などのセルフケア方法
を患者、時には家族に指導して患者の足を守るサポートをする。
足の小さなトラブルでも、身体状況だけでなく生活状況やADLや足への関心の程
度などのセルフケア状況など、様々な背景がある。患者個別の状況によるアセスメン
トをし、対策を立て、患者自身が出来るセルフケア、家族や周囲のサポートがどの程
度可能か、必要かを考え、患者やサポート者と相談してケアをすすめていくことが大
切だ。
患者さんの足を看ることは、生活を看ることであり、患者さんの生活をサポートす
ることにつながる。自分の“足”で歩く、その人らしい人生を支えたい。
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SY-7
元気に食べてサルコペニアの予防を
岡山済生会総合病院 栄養科
○小野真由子
わが国の透析導入の最も頻度の高い年齢層は75~80歳であり、高齢腎不全患者は
増加の一途にある。近年、高齢腎不全患者のサルコぺニアが問題となっており、その
対策は重要である。腎不全患者がサルコぺニアになる原因として、タンパク質エネル
ギー栄養障害(protein energy wasting;PEW)が指摘されている。栄養障害をきた
しやすい原因としては、過剰な食事制限による摂取量の減少、尿毒症症状による食欲
低下、蛋白質の合成低下と異化の亢進、さらに透析による栄養素喪失などがあげられ
る。
当院では、保存期腎不全患者においては個人栄養指導の他に集団栄養指導として、
年3回の腎臓病教室と年1回の料理教室を開催している。個人栄養指導では日常の食
事の記録や写真より栄養評価し、アドバイスを行っている。医師、看護師、管理栄養
士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど多職種が情報を共有し、患者を指導してい
る。料理教室では実際に調理し、皆で食べることでより具体的な指導が出来るのみな
らず、食事療法継続の意欲を引き出し、患者同士の交流の場となっている。また、透
析患者では食事記録により食事摂取量を評価し、毎月のリーフレットで情報提供と指
導をしている。
腎不全患者におけるサルコぺニアに対する栄養療法のエビデンスは現時点では乏し
いが、患者個々の状態やステージに応じた適切な栄養管理を行うことで、リスクを少
しでも減らすことが大切であると考えられる。
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