診断に難渋・・・ 身体所見に救われた高齢女性の1例 長野松代総合病院 総合診療科 石津富久恵 <症例>80代女性 <主訴>味が分からない(味覚障害)・食欲不振・食後嘔 吐・上腹部痛・体重減少・下痢 <現病歴> 生来健康で定期的な通院歴なし。X年5月より上記症 状が出現。 外来にて上部消化管内視鏡検査を実施し、胃~十二 指腸に多発するポリープと萎縮性胃炎の所見を認め た。亜鉛補充と胃粘膜保護剤、制酸剤の投与で経過 を見るも症状不変。るいそうが進行したため、X年11 月に精査加療目的で入院となった。発赤性で大小不動の円形~亜 有茎性隆起がびまん性に多発 「イクラ状外観」 隆起間の介在粘膜にも発赤や 浮腫が認められる <身体所見> 身長144.8cm 体重33.8Kg(発症前45Kg) 体表リンパ節触知せず 甲状腺 腫大なし 圧痛なし 四肢 浮腫なし るいそう著明 心音 S1→S2→S3(-)S4(-), no murmur 肺音 肺雑音なし 腹部 平坦かつ軟、腸蠕動音やや低下、圧痛なし、腫 瘤触知せず、肝脾腫大なし 追加で確認したい身体所見について discussionしてみましょう <検査所見> ●血算 WBC RBC Hb MCV PLT 3800 484 11.1 78.3 25.2 /mcL 106/mcL g/dl ●生化学 AST ALT LDH GGT ALP T-bil BUN Cre UA Na K TP Alb 20 11 188 9 121 0.7 17.4 0.55 3.9 141 3.9 4.8 2.8 IU/L IU/L IU/L IU/L IU/L mg/dl mg/dl mg/dl mg/dl mEq/L mEq/L g/dl g/dl 106/mcL HbA1c IgM IgG IgA Fe フェリチン Mg Zn ESR1時間値 4.4 41 908 112 143 30 1.7 3 8 % mg/dl mg/dl mg/dl mcg/dl ng/ml mcg/dl mcg/dl mm ●腫瘍マーカー CEA CA19-9 1.3 11.4 ng/ml U/ml ●内分泌 fT3 TSH ACTH 血漿コルチーゾル 2.65 3.24 45.5 6.2 pg/ml mcIU/ml pg/ml mcg/ml 鑑別診断は?そしてどうする・・・? <検査所見> 下部消化管内視鏡検査 α1アンチトリプシンクリアランス 106ml/day 99mTc-HSA消化管シンチグラフィ 病態メカニズムは 蛋白漏出性胃腸炎 横行結腸にRI貯留 注射時 24時間後 <身体所見>追加 ベッドサイドで枕に頭髪が多数! 「そういえばここ半年ものすごく毛 が抜けるのよ」 「この手、ひどいでしょう?」 指尖周囲の色素沈着 爪甲尖端の白濁と剥離 爪母横溝 爪甲全体が萎縮 手掌に多発する褐色斑が 散在(色素沈着) 汎発性脱毛 眉毛や体毛は 脱落目立たず 症状:食欲不振・上腹部痛・味覚障害・下痢 身体所見:汎発性頭髪脱毛・手掌色素沈着・爪変形 検査所見:α1アンチトリプシンクリアランス上昇 99mTc-HSA消化管シンチグラフィで蛋白漏出あり 内視鏡所見:多発性消化管ポリポーシス 内視鏡病理: 腺管過形成・粘液産生・間質への炎症細胞浸潤 診断は? Chronkhite-Canada症候群 <臨床経過> TPNによる栄養管理開始し、精査。 Cronkhite-Canada症候群と確定診断。ステロイド投 与を行い、食事摂取可能となったため漸減しTPN離脱。 以後外来通院にて経過観察中。わずかな色素沈着と 味覚異常、消化管ポリポーシスは残存。 20mg/day PSL TPN 5mg/day TPN 脱毛 BW 45Kg 爪甲異常 BW 42Kg 色素沈着 味覚異常 X年6月 BW 33Kg 12月 X+1年6月 色素沈着をきたす疾患 I.びまん性色素沈着 1.内分泌疾患 a)Addison病 b)Cushing症候群 c)ACTH分泌腫瘍 d)甲状腺機能亢進症 2.代謝異常(沈着症) a)慢性肝障害 b)ヘモクロマトーシス c)ポルフィリン症 d)Wilson病 e)慢性腎不全 3.薬剤 a)クロルプロマジン b)抗がん剤 c)ACTH d)ミノサイクリン e)ヒ素、銀 II.限局性色素沈着 1.Peutz-Jeghers症候群 2.Recklinghausen母斑症 3.Albright症候群 4.Leopard小興奮 5.Chronkhite-Canada症候群 6.Werner症候群 7.薬剤 a)抗がん剤 ブレオマイシン、5-FU、サイクロフォスファマイド b)経口避妊薬 c)アミオダロン d)ヒダントイン ←Addison病 びまん性色素沈着 ↓Crow-Fukase症候群 びまん性色素沈着 口腔内病変なし ←Peutz-Jwghers症候群 黒子の多発 代表的な爪所見 ★匙状爪 spoon nail:鉄欠乏性貧血 ★ばち状指:慢性肺疾患、先天性心疾患、 甲状腺機能亢進症など ★爪の生育を利用した所見 指の爪の生育速度は0.1mm/day ←爪甲横溝(Beau's line):障害の発症時期や反復状 況を示す ←黒色線条:メラノサイト の活性増加を示す →黄色爪症候群:爪甲の 著しい遅延を示す Todays' Tips 総合医の仕事はよくある問題・症状・徴候を適切 に判断し対応すること 総合医は臓器専門医ほどの診断能力は個別に はないが、総合力は!!である 典型的な診断・対応でうまくいかないときは・・・ ・救命のための病態生理を突き止める問題解決 手法 ・心理社会的背景への介入 ・幅広い身体診察 皮膚や爪を見てみよう! 解決の糸口になることが案外あります 日本プライマリ・ケア連合学会認定 長野松代総合病院 家庭医療後期研修プログラム 「まつしろ」 2025年問題対応 地域からも、院内コメディカルからも、他科ドクターからも・・ 「先生居ないと困るよ!」 の長野松代総合病院の総合医たち!! 各科専門医と総合診療科専 門医が一丸となり教育に携わ っています! 指 導 医 日本内科学会認定総合内科専門医7名/日本内科学会認定医6名/ 日本プライマリ・ケア学会専門医・指導医1名/日本プライマリ・ケア学会認定医・指導医7名 君の頭脳とハートを地域のために役立てよう!
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