D機関二期生の日常 ID:114277

D機関二期生の日常
おやま
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︻あらすじ︼
ほんの少し勉強ができるものの、それ以外で特に秀でたものはない
はずなのにいつの間にか中佐に目をつけられてしまっていた。
D機関二期生の、ちょっとずれた男の話。
目 次 D機関二期生の日常 │││││││││││││││││││
1
D機関二期生の日常
貧しくもなく突出して富んでいるわけでもない、流通会社の三男坊
として生まれた俺は先日徴兵命令を受けた。
自分で言うのもあれなのだが、俺は人よりも少しだけ勉強が得意
だっため運良く大学にも通うことができたのだ。
そしてその徴兵命令はこの度大学を卒業する、そんな矢先のことで
あった。
嫌だなぁと鬱々としながらもそんなこと誰にも言えるわけなく、ぼ
んやりと思ったわけなのだが何のご縁か俺は一人の紳士に声を掛け
られた。
よく分からないが、その人は﹃結城中佐﹄という。
結城中佐は颯爽と俺の目の前に現れ、﹁とりあえず試験に受けてみ
ろ﹂と言うだけ言って去ってしまった。
1
その時俺は頭が大変おめでたく、﹃若い軍人とやらには試験という
ものがあるんだなあ。嫌だなあ﹄と妙に納得して、彼の言う指定の場
所までのこのことやって来てしまったのだ。
そこからが地獄である。
真冬の海に突然放り込まれいきなり寒中水泳大会がひらかれるは、
粉々に分解されたラジオを目隠ししながら元に戻してみせろという
は、訳の分からない無理難題を結城中佐に押し付けられて、ちょっと
大変なところに来てしまったのではと思う。
そしてそれを他の奴らも感じ取ったのか、一緒に試験を受けていた
者たちは一人、また一人と辞めていった。
その頃にはいくら阿保な俺でもこの試験が﹃普通の試験﹄ではなく
﹃スパイ﹄を育てるためのものだと理解したのだがもう遅い。
軍の機密にどっぷりと浸かり込んでしまった俺は、そう簡単にここ
﹄なんて言葉は決して言えなかった。
から逃げられることもできず、まず結城中佐が怖すぎて﹃俺もやめた
いです∼
そして今日はいつもと違い、結城中佐に個人授業だと真夜中に起こ
どうせだったら俺も早めに脱落しとけば良かったと後々後悔する。
!
された。
一体なんなんだ。
俺はもう日中の課題が辛すぎて、眠たくて眠たくて仕方がないん
だ。
そう思ったが暗闇に浮かぶ結城中佐の顔があまりにも怖すぎて笑
うしかなかった。
それから何故か目隠しをされて車に乗せられ早一時間。
辿り着いたのは森の中だった。
目隠しを外されて、こんな所で何すんだと思っていると結城中佐が
俺に一枚の紙を渡す。
﹁これを解いて明日の昼までに指定の場所まで来い﹂
﹁はあ・・・﹂
そう言って俺を残し、彼は車に乗って去っていった。
もう真夜中で辺りは暗い上に、遠くの方で野犬の遠吠えが聞こえて
2
くる。
と思った。
完全に置いて行かれたこの状況に、自分はもしかしたら結城中佐に
殺されかけているのでは
よなと街の老舗の菓子屋で大福を買った。
そしてその際にはやっぱり世話になったから菓子折りとか必要だ
足りない頭でふとそう思う。
辞表を出して、どこかの国に亡命してしまおう。
無にしてこの訓練を辞退してしまおうかと思いついた。
ちが湧き上がり、もういっそのこと結城中佐が怖いとか関係なく心を
そしてふつふつと﹃俺、何やってんだろう﹄というやるせない気持
ていて、何だか目頭が熱くなった。
奇跡的に何とか街に辿り着けたものの、その時にはもう日の出が出
りに右や左や歩いていく。
それから目隠しされていたものの、何となく感じた車のカーブを頼
号を解いてそれを偶然持っていたマッチで燃やした。
半ば諦めに近い感情を抱きながらも、俺は四苦八苦しつつ何とか暗
﹁とりあえずやろう・・・・﹂
?
結城中佐が大福を食べているイメージは決してないが形だけでも
渡しておこう。
そして暗号文に書かれた指定の場所、
﹃大東亞文化協會﹄という貿易
会社に辿り着いた。
そしてこれからどうしようかと建物を見つめていると、中から一人
の男が出てきた。
﹁お、結構早かったな﹂
誰だこの人。
自分よりも年上そうな男が扉を開いて俺を出迎えた。
薄いグレーのスーツを着た、外ハネの髪型の男は中々の色男で俺は
来る場所を間違えたのかと思った。
﹁どうも∼﹂
向こうは俺のことを知っているようなので、とりあえず流されるま
ま笑って挨拶する。
3
そしてそのまま建物に入った。
彼は自分のことを﹃甘利﹄と名乗ったので、俺も結城中佐から与え
られた﹃目黒﹄という姓を名乗る。
﹂
﹁悪いけど、結城さんはまだ来てないよ。それまで暇潰しにゲームで
もしていかないか
席までずるずると連れて行き座らせた。
後で知ったのがこの人は神永さんと言い、彼は引きずるように俺を
きた。
内の男の一人が立ち上がって俺のもとにやって来て肩に手を回して
妙に嫌な予感がして腰を低くしてそう断るが、ポーカーをしていた
てきな﹂
﹁いいからいいから。どうせ時間もあるんだし、せっかくだからやっ
﹁いやいや、俺普通に待ってますよ﹂
真昼間から暇なのだろうか。
いる。
中に入れば煙草の煙をふかした若い男達が卓上でポーカーをして
それから何故か甘利さんに食堂に連れていかれた。
?
最早めちゃくちゃである。
﹁え、俺ゲームとかすごい弱いんですけど。金もあんまり持ってない
し﹂
﹁大丈夫大丈夫﹂
と思っていると、真向かいに座る真ん中分けを
俺の右隣に座る優しそうな顔をした小柄な青年が笑いかけてくる。
いや、何が大丈夫
﹂
慣れました
﹂
?
うに腹が黒くなってしまうのだろうかと恐々とする。
俺の先輩にあたる男達を見つめ、あの訓練を終えるとこの人らのよ
らしい。
を終えていて、今はちょうど結城中佐から﹃課題﹄を与えられている
二期生の同期から聞いたのだが一期生の彼らはもうとっくに訓練
実井さんが﹃訓練﹄のことを知っているならば、その可能性は高い。
人なのだろう。
そこでようやく気付いたのだが、おそらく彼らはD機関の一期生の
本当なのに。
心の底からそう言ったのだが、実井さんが﹁またまた﹂と苦笑する。
﹁いや、全然ですねぇ。俺落ちこぼれで着いていくのがやっとなんで﹂
随分印象の違う人だと思う。
人当たりの良さそうだが、平気な顔で裏切っていくため見た目とは
﹁訓練はどうですか
すると横に座っている実井さんが話しかけてきた。
果たして覚えられるだろうか。
福本、三好、田崎、甘利、神永、実井、小田切、波多野。
ちなみに始める前に軽い自己紹介をしてもらった。
本さんからもらったヒントをもとにコールする。
ここにいる人は総じて性格が悪いのだなぁと思いながらも、俺も福
ではなかった。
そんな訳で始まったポーカー大会だが、いかんせんただのポーカー
﹁色々あって﹂
﹁何で大福
した男が俺の買ってきた大福の紙袋に気付いて首を傾げた。
?
?
4
?
でも俺にはもう関係ない。
俺はここを辞めて亡命すると決めたのだから
﹁いや、本当です。俺何回も死にかけたし。運が良いんですよね﹂
そしてそう言えば、ゲームを見ていた神永さんが﹁お前そんな感じ
でよく試験突破できたな﹂と言った。
﹁ですよねえ﹂
それに同意すれば真向かいの波多野さんに﹁この先やってけんのか
よ、こいつ﹂というような目で見られた。 正直俺は国への忠誠心もないし、自分ならこれくらいやれて当然だ
という自負心もないため正直やっていけないと思う。
するとその時、食堂の扉の外でこつこつという足音がきこえた。
おそらく結城中佐だ。
﹁あ、俺そろそろ行きますね。ありがとうございました﹂
俺は机に置いていた大福の紙袋を手に取り、先輩方に挨拶してから
その場を去った。
食堂の外の廊下にはやっぱり結城中佐がいて、俺を一瞥するとにや
りと笑った。笑っても怖いとはどういうことだろうか。
﹁ついてこい﹂
﹂
そして執務室のようなところまで連れて行かれて、彼と対面する。
まるで個人面談のようだ。
﹁意外と早かったな﹂
いや、もう早く帰りたすぎて。
そう正直に言えるほど俺の心臓に毛は生えていなかった。
﹁ところで貴様、何か変なことでも企んではいないだろうな
そしてそう言われてギクリとする。
なるほど。
結城中佐には俺の考えていることを分かっているらしい。
﹂
結城中佐の狼のような鋭い眼光に見つめられて、俺の口は勝手に動
?
5
!
!
いていた。
﹁いやいや、まさか。そんなことないですよ∼
俺、もう少しここで頑張ってみようかな
!
結城中佐が呆れたような目をして俺を見ているが気にしない。
大方何でこんな調子の良い奴が試験受かってるんだとか思ってい
そうだ。
まぁ、そんな俺をスカウトしたのは結城中佐なのだが。
すると彼は俺の手に持つ紙袋をみて口を開いた。
﹁ところでその手にぶら下げてるものはなんだ﹂
﹁あ、お土産です﹂
退職する際の菓子折りとして買ってきたが、そんな馬鹿正直に言え
るわけもなく俺はさっと嘘をつく。
﹁たわけが﹂
しかし結城中佐はそう言って何故か罰金として俺のなけなしの金
を奪っていってしまった。
解せない。
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