トランプ大統領の就任と今後の経済政策の行方

マーケット・レター
1/3ページ
日本アジア・アセット・マネジメント株式会社
2017年1月24日
2017年1月25日
トランプ大統領の就任と今後の経済政策の行方
z
トランプ大統領は就任演説で米国第一主義を表明
トランプ大統領は就任演説で米国第
主義を表明。雇用、エネルギ
雇用 エネルギー、貿易に力点置く経済政策の基本方針を示す。
貿易に力点置く経済政策の基本方針を示す
z
金融・エネルギー業界と深い関係にあるホワイトハウスの上級スタッフや主要閣僚が、減税策や規制緩和を後押しへ。
z
経済政策の詳細は大統領施政方針演説や予算教書で公表へ。2017年は所得税・法人税の減税策が注目される。
z
米国経済は完全雇用に近い状態に。今後は利上げ加速や政権の保護主義傾向が強まるリスクに留意する必要。
トランプ大統領は就任初日に基本方針を公表
ドナルド・トランプ氏は1月20日、米国の第45代大統領に
図1:就任初日に公表されたトランプ政権の基本政策
雇用・成長 今後10年間で2,500万人の新規雇用を創出し、年4%の経済成長を実現。
就任しました。就任演説では、貿易や税制、移民、外交な
成長促進策としてまず税制改革に取り組む。
所得税の引き下げ・簡素化や、法人税の減税を実施。
どの分野で「米国第一主義」を進める方針を示しました。
新規の連邦規制導入を一時停止し、雇用拡大を妨げる規制を精査・撤回。
就任初日からトランプ大統領はオバマケア(医療保険制
エネルギー 米国内でのエネルギー生産を促進し、エネルギーの独立を果たす。
度改革法)の見直しに向けた大統領令に署名したほか、
オバマ政権が導入した気候行動計画(地球温暖化対策)など有害で不要な
環境規制を撤廃。
推
推定50兆米ドルの未開発の石油・ガス埋蔵資源を活用。
ド
ガ
蔵資
特に政府所有地の埋蔵資源の開発を進める。
ホワイトハウスのホ ムペ ジ上で 雇用 成長やエネル
ホワイトハウスのホームページ上で、雇用・成長やエネル
ギー、貿易、外交・国防、治安・移民などに関する政権の
クリーンな石炭技術により米国の石炭産業の再活性化を図る。
基本方針を公表しました(図1)。
エネルギー生産からの歳入を道路や学校など公共インフラの建設に充当。
経済政策では雇用やエネルギー、貿易に力点
貿易
環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱。
「雇用・成長」分野では、今後10年間で2,500万人の新
北米自由貿易協定(NAFTA)は再交渉。
相手側が応じなければ離脱の意向を通知。
外交政策の中心は力を通じた平和構築。
(イ
(イスラム過激派組織の打倒や米軍の再構築など)
ム過激派組織 打倒や米軍 再構築など)
規雇用を創出し 年4%の経済成長を実現する方針を示
規雇用を創出し、年4%の経済成長を実現する方針を示
外交・国防
外交
国防
しました。トランプ政権は経済成長の促進のため、所得税
治安・移民 治安維持のため法執行機関の権限を強化。
や法人税の引き下げを含む税制改革に取り組むほか、雇
用拡大を妨げている規制を緩和する意向を示しています。
「エネルギー」分野では、環境規制の撤廃や政府所有
地でのエネルギー開発などを通じて、米国内で石油・ガス
不法移民や犯罪組織、麻薬の流入を止めるため国境に壁を建設。
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
図2:トランプ政権の主要人事
≪ホワイトハウス上級スタッフ≫
などのエネルギ 生産を促進する考えが示されました エ
などのエネルギー生産を促進する考えが示されました。エ
ネルギー生産から得られる政府の歳入を公共インフラの
建設に充てるとの言及もなされました。
「貿易」分野では、環太平洋経済連携協定(TPP)からの
離脱と北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉の方針が表
明され、保護主義色が強い通商政策が打ち出されました。
主要閣僚は金融・エネルギー業界と深い関係
また、トランプ政権を固めるホワイトハウスの上級スタッフ
(首席補佐官や上級顧問)や主要閣僚(国務長官、財務
長官、商務長官、エネルギー長官など)は、金融業界や
エネルギー業界との深い関係にあり、トランプ大統領が進
める減税や規制緩和を後押しするとみられます(図2)
める減税や規制緩和を後押しするとみられます(図2)。
バノン首席戦略官・上級顧問
プ リーバス首席補佐官
ゴールドマン・サックス出身
トランプ陣営の選挙戦最高責任者
共和党全国委員長
ライアン下院議長など
共和党主流派と友好な関係
クシ ュナー上級顧問
トランプ氏の娘の夫
≪トランプ政権主要閣僚候補≫
テ ィラーソン国務長官
ムニューチン財務長官
エクソン・モービルCEO
プーチン露大統領との深い関係
ゴールドマン・サックス出身
トランプ陣営の選挙対策財務責任者
ロス商務長官
コーン国家経済会議委員長
著名投資家
ゴールドマン・サックス社長兼COO
ペ リー・エネルギー長官
マティス国防長官
前テキサス州知事
元中央軍司令官
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
当資料は、レッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社が作成した情報を基に受益者の皆様に提供する目的で日本アジア・アセット・マネジメント
が作成した資料であり、投資の勧誘を目的としたものではありません。当資料中のいかなる事項も、将来の運用成果等を保証あるいは示唆するも
のではありません。投資した資産価値の増減は全て受益者の皆様に帰属します。投資信託をお申し込みの際は、「投資信託説明書(交付目論見
書)」の内容を必ずご確認のうえ、ご自身でご判断ください。 IT500021NT170124aC
マーケット・レター
2/3ページ
経済政策の詳細は施政方針演説などで公表へ
ただし、トランプ政権の経済政策は、税制改革の具体像
図3:今後の主な政治・経済スケジュール
2017年
1月 大統領就任(1月20日)
やインフラ投資計画などの面で、現時点では詳細が不明
投資計画
面 、現時点
詳細 不明
2月 大統領の施政方針演説(日程未定)
な点も多く残されています。今後は、2月までに上下院合
大統領が予算教書を議会へ提出(日程未定)
同会議で行われるトランプ大統領の施政方針演説や、議
会へ提出される予算教書において経済政策の詳細が明
3月 連邦債務法定上限引き上げ期限(3月15日)
らかになると考えられます(図3)。
4月 予算決議の成立期限(4月15日)
2017年の経済政策では税制改革が注目される
大統領就任から100日経過(4月29日)
経済政策 中 も 金融市場 と
経済政策の中でも、金融市場にとって目先の注目材料
先 注 材料
5月 G7首脳会議(5月26-27日)
となるのが所得税率や法人税率の引き下げを図る税制改
減税法案
の議会審議
7月 G20首脳会議(7月7-8日)
革の行方です。元々、減税に対してはライアン下院議長
10月 2018年度(2017年10月~2018年9月)スタート
など共和党主流派も前向きな姿勢を示してきたことから、
イエレンFRB議長の任期終了(2月3日)
今後、トランプ政権と共和党主導の議会との協議によって
減税案の骨格作りが進む可能性が高いとみられます。
フィッシャーFRB副議長の任期終了(6月12日)
2018年
中間選挙(11月 上院議員の1/3 全下院議員が改選)
中間選挙(11月、上院議員の1/3、全下院議員が改選)
減税案の早期成立には議事妨害の回避が重要
もっとも、トランプ政権が進める減税案の議会審議には
必ずしも障害がない訳ではありません。1月3日に開会した
米国の新議会では、下院においては共和党は435議席中
241議席の安定多数を維持している一方、上院では共和
党は過半数をわずかに上回る議席を保持するに留まって
います。米国の上院では、野党は時間制限なしの長時間
演説による議事妨害(フィリバスター)が認められており、
共和党の上院議席は議事妨害の打ち切りに必要な60議
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
図4:米議会(下院・上院)の議席配分
≪下院議会(435議席)≫
≪上院議会(100議席)≫
ライアン下院議長(共和党)
ペンス上院議長(副大統領)
法人税・所得税の減税に前向きな方針
元インディアナ州知事
共和党:241議席
共和党:52議席
民主党:194議席
民主党:48議席
席に届いていません(図4)。今後、トランプ政権が減税案
を早期に成立させるには、野党からの議事妨害をいかに
回避するかが重要な点と言うことができます。
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
図5:米議会での減税案の審議プロセス
財政調整措置が減税案の早期成立のカギ
トランプ減税案(法人税・所得税減税)
これに対して、米国の予算審議プロセスには、野党によ
予算決議の審議・承認(4月15日まで)
「財政調整措置」という制度が設けられています。2018年
込まれれば 審議時間が20時間に限られる財政調整措
込まれれば、審議時間が20時間に限られる財政調整措
置によって減税案の早期可決が現実的になると考えられ
ます(図5)。実際、過去には2001年と2003年に成立した
ブッシュ減税が財政調整措置を活用して法案のスピード
審議がなされたなどの経験があります。
財政調整措置による
減税案のスピード審議
度予算の大枠を決める「予算決議」の中に減税案が盛り
予算決議に減税案が
含 まれる場合
含 まれない場合
議事妨害の回避
野党の議事妨害
下院・上院の
過半数の賛成で
減税案は承認
上院の審議難航
(野党との協力
が必要に)
予算決議が不成立の場合
る議事妨害を回避し、予算のスピード審議を図るための
一方、予算決議に減税案が含まれない場合や、予算決
議自体が不成立となる場合には 野党の議事妨害により
議自体が不成立となる場合には、野党の議事妨害により
上院の審議は難航することが予想されます。
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
(作成)レッグ
メイソン アセット マネジメント (注)予算決議は次年
度予算の大枠を決める青写真。予算決議に減税案が含まれれば、
財政調整措置により野党の議事妨害を回避し、法案のスピード審議
が可能となる。
当資料は、レッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社が作成した情報を基に受益者の皆様に提供する目的で日本アジア・アセット・マネジメント
が作成した資料であり、投資の勧誘を目的としたものではありません。当資料中のいかなる事項も、将来の運用成果等を保証あるいは示唆するも
のではありません。投資した資産価値の増減は全て受益者の皆様に帰属します。投資信託をお申し込みの際は、「投資信託説明書(交付目論見
書)」の内容を必ずご確認のうえ、ご自身でご判断ください。 IT500021NT170124aC
マーケット・レター
3/3ページ
図6:米国の消費者信頼感と企業活動指数
米国経済は底堅さを増しつつある
2016年11月の米大統領選挙前は不透明感のあった米
100
国経済も、トランプ政権の誕生が決まった選挙後は底堅さ
95
を増しつつあります。
90
米国の消費者信頼感指数は、大統領選挙前の2016年
85
10月には87.2と2015年9月以来の低水準にあったものの、
80
2016年12月には98.2と約13年ぶりの高水準に上昇しま
した(直近2017年1月は98.1、図6)。また、米国企業の
企業活動を表す景気指数も、製造業では新規受注や雇
用の改善により2014年12月以来の高水準へ回復したほ
か、非製造業でも安定的な活動拡大の動きがみられます。
米国経済は完全雇用に近い状態にある
イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長は1月18日の
講演で、現在の米国の雇用環境は「完全雇用(※)に近
い」状態にあるとの見方を示しました。2016年12月時点
の米国の失業率(4.7%)は、インフレを引き起こさない中
立的な失業率(自然失業率=4.8%)と同程度にあると推
14
(中立=50)
14
11
レ圧力を生む可能性が高まると考えられます。
5
れ、米国経済の底堅い成長と利上げ継続が進む環境で
は、米ドル高がトランプ政権にとっての頭痛の種となりそう
です。トランプ政権の財務長官候補のムニューチン氏は1
月19日の公聴会で、長期的な米ドル高維持の重要性を
認める発言をしているものの、過度な米ドル高が進んだ場
合には 通商政策等の面でトランプ政権の保護主義傾向
合には、通商政策等の面でトランプ政権の保護主義傾向
が強まるリスクにも留意する必要があると考えられます。
17 (年)
16
図7:米国の失業率の推移
(%)
失業率
労働需給の緩和
(インフレ鈍化圧力)
4.7%
4
労働需給の引き締まり
(インフレ上昇圧力)
3
自然失業率
2
95 96 97 98 99 00 02 03 04 05 06 07 09 10 11 12 13 14 16 (年)
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
(期間)1995年1月~2016年12月
(期間)1995年1月
2016年12月
(注)自然失業率はインフレを引き起こさない長期的に持続可能な失
業率の水準(議会予算局による推定値)。
ていることを改めて示しました(図8)。FRBは今後、緩和的
また トラ プ政権 経済政策が計画通りに実行に移さ
また、トランプ政権の経済政策が計画通りに実行に移さ
15
10
6
合にはFRBがタカ派姿勢を強める可能性があります。
製造業景気指数
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
(期間)2014年1月~2017年1月(景気指数は2016年12月まで)
(期間)
年 月
年 月(景気指数は
年 月まで)
低下が労働需給 引き締まり(賃金上昇)を通じ イ
低下が労働需給の引き締まり(賃金上昇)を通じてインフ
ランプ政権の財政刺激策によってインフレ圧力が増す場
57.2
54.7
45
7
な金融政策の正常化を緩やかに進めるとみられますが、ト
非製造業景気指数
50
政権の経済政策が実行に移される過程では、失業率の
期的な中立水準である3%近辺へ引き上げる考えを持っ
17 (年)
16
55
8
委員会(FOMC)参加者が政策金利を2019年末までに長
15
60
つつあります(図7)。今後、雇用創出を重視するトランプ
また、イエレン議長は1月18日の講演で、連邦公開市場
87.2
消費者信頼感指数
65
9
利上げ加速や保護主義傾向の強まりがリスクに
98.1
75
定され、米国の雇用環境は金融危機前の状態を取り戻し
(※)完全雇用とは働く意思と能力のある労働者が全員働いている状態。
2016年11月 米大統領選挙
(1966年1Q=100)
図8:FOMC参加者による米政策金利の見通し
3.5
(%)
政策金利の長期的な中立水準(3%近辺)
3.0
2.875
2.5
FOMC参加者の
政策金利見通し(中央値)
2.0
1.5
2.125
1.375
1.0
0.5
政策金利
(FF金利誘導目標)
0.50‐0.75%
0.0
13
14
15
16
17
18
19
(年)
(作成)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント
(作成)レッグ
メイソン アセット マネジメント
(期間)2013年1月~2016年12月
(注)政策金利見通しは2016年12月時点。政策金利の中立水準は
イエレン議長が言及したもの。
当資料は、レッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社が作成した情報を基に受益者の皆様に提供する目的で日本アジア・アセット・マネジメント
が作成した資料であり、投資の勧誘を目的としたものではありません。当資料中のいかなる事項も、将来の運用成果等を保証あるいは示唆するも
のではありません。投資した資産価値の増減は全て受益者の皆様に帰属します。投資信託をお申し込みの際は、「投資信託説明書(交付目論見
書)」の内容を必ずご確認のうえ、ご自身でご判断ください。 IT500021NT170124aC