実質賃金は春季労使交渉を経て再び上昇へ

景気循環研究所レポート
実質賃金は春季労使交渉を経て再び上昇へ
2017 年 1 月 6 日
安倍首相は「物価上昇に
1 月下旬頃から実質スタートする春季労使交渉を前に、政府は、企業ト
後れを取らない賃上げ」
ップに賃上げへの取り組み強化を求めている。安倍首相は 1 月 5 日、経済
を要請
3 団体の新年祝賀パーティーの挨拶で、「物価上昇に後れを取らない賃上
げがあってこそ、デフレから脱却し、持続的な経済発展が望める」と述べ
た。政府は 4 年連続となるベースアップ(ベア)の実施と同時に、「同一
労働同一賃金」を掲げる働き方改革を通じて、家計の所得環境のさらなる
改善を図る方針である。
ベアに連動する所定内給
労働者の賃金は緩やかな増加基調を辿っている。厚生労働省「毎月勤労
与の伸び率が物価上昇率
統計」によると、労働者 1 人当たりの現金給与総額は、14 年以降、小幅
を下回る
ながら概ね前年比プラス圏内で推移している。しかし、安倍首相が指摘し
た通り、賃上げのペースは物価上昇に後れを取りつつある。16 年 11 月の
実質賃金指数は前年比 0.2%低下し、15 年 12 月以来 11 か月振りに前年同
月を下回った。ベースアップ率に連動する所定内給与(一般労働者)の上
昇率も、足元でインフレ率を下回っている(図 1)。一般労働者の所定内
給与は、ベースアップが実現した 14 年の半ば頃以降、小幅ながら前年比
プラス圏内で推移してきた。その間、原油安の影響などから消費者物価上
嶋中 雄二
景気循環研究所長
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
シニアエコノミスト
宮嵜
昇率が急速に鈍化し、16 年春頃には前年比マイナスに転じたこともあり、
実質ベースの所定外給与は比較的高い伸びを維持してきた。しかし、足元
にかけては、原油相場の反転に生鮮食品の価格高騰の影響もあって、消費
者物価上昇率は急反発している。インフレ率を上回る賃上げが実現しない
限り、労働者の実質的な所得環境の改善には繋がらない。
図 1. 所定内給与の上昇率がインフレ率を下回る
浩
シニアエコノミスト
03-6627-5132
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
2.5
(前年比、%)
2.0
圭亮
1.0
シニアエコノミスト
03-6627-5133
0.5
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
11月
0.6
東京都千代田区大手町 1-9-2
大手町フィナンシャルシティ
グランキューブ
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.3
0.0
0.0
-0.2
-0.5
所定内給与
(一般労働者、月次、左目盛)
-1.0
-1.5
10
景気循環研究所
ベースアップ率
(年次、右目盛)
消費者物価指数
(月次、左目盛)
1.5
福田
(%)
11
12
13
14
15
16
17
(年)
(注1)消費者物価指数は帰属家賃を除く総合、消費税率引き上げの直接的な影響を除く。
(注2)所定内給与は事業所規模5人以上、調査産業計。
(注3)ベースアップ率は中央労働委員会調査、但し16年のみ連合調査。
(資料)厚生労働省「毎月勤労統計」、総務省「消費者物価指数」、中央労働委員会「賃金
事情等総合調査」、日本経済団体連合会・東京経営者協会「昇給・ベースアップ実施状
況調査結果」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
1
-0.4
-0.6
2017 年 1 月 6 日
賃上げ要求は過去の
物価を反映
一般に、春季労使交渉における労働側の賃上げ要求は、前年の物価動向を
色濃く反映する(図 2)。16 年は、前年の低インフレを反映して賃上げ要求
幅が低水準だったため、経営側の賃上げ容認姿勢にも関わらず、賃上げ水準
は前年を下回った。17 年についても、春季労使交渉全体に大きな影響力を持
つ金属労協の統一要求は、足元の物価を反映して、前年と同一水準の「月額
3,000 円以上」とする方針を固めている。賃上げ要求が物価の後追いにとど
まっている以上、経営側が要求額により近い賃上げ額を回答しない限り、物
価上昇率を上回る賃上げ率、すなわち実質賃金の上昇は実現しえない(図 3)。
経営側の賃上げ回答
経営側の賃上げ回答スタンスを大きく左右する短期の景気循環は上向いて
に景気回復の追い風
おり、幅広い企業で製品需給の改善と在庫過剰感の後退が確認されている(図
3)。16 年 11 月に前年比マイナスに転じた実質賃金は、17 年の春季労使交渉
を経て、再び前年比プラス基調で推移しよう。
図 2. 春季賃上げ要求は前年のインフレ率を反映
8
(前年比、%)
(前年比、%)
10
6
春季賃上げ率(要求ベース、年度、右目盛)
8
4
コアCPI(四半期、左目盛)
6
2
4
0
2
-2
0
-4
-2
85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17
( 注)コ アCPIは消 費者物 価指数 (生鮮 食品を 除く総 合)。 消費税 率の引 き上げ 分を含 む。
直 近は 16年10-11月 平均。 春季賃 上げ率 は主要 企業平 均。
( 資料) 総務省 「消費 者物価 指数」 、厚生 労働省 「民間 主要企 業春季 賃上げ 要求・ 妥結状 況
につい て」を もとに 三菱 UFJモ ルガン ・スタ ンレー 証券景 気循環 研究所 作成
(年度)
図 3. 経営側の賃上げ回答スタンスが実質賃金を決める ①
104
102
100
98
96
94
92
90
88
86
84
82
(%)
(10年=100)
3
4
5
6
7 ②
8 (%)100
9
90
10
80
11
70
12
60
13
14
50
実質所定内給与(一般労働者、月次、左目盛)
在庫率(四半期、右逆目盛①)
春季賃上げ妥結額÷同要求額(年度、右目盛②)
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17(年)
(注1)実質所定内給与=所定内給与÷消費者物価指数(帰属家賃を除く総合)。 当研究所季節調整値。
(注2)在庫率=期末棚卸在庫残高÷(売上高×4)×100。金融・保険を除く全産業。当研究所季節調整値。
(資料)厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況について」「毎月勤労統計」、総務省「消
費者物価指数」、財務省「法人企業統計」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(以
上)
みやざき
ひろし
(17.1.6 宮嵜
浩)
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2017 年 1 月 6 日
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