お礼にもらった壺が 高価だったら?

山村 行弘
暮らしの法律
Yamamura Yukihiro
弁護士。第一東京弁護士会所属。
一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談などを手がける。
協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所)
第
55回
お礼にもらった壺が
高価だったら?
相談者の気持ち
つぼ
知人の引っ越しを手伝ったお礼に、
大きな壺をもらいました。
ところが、後日高価なものであることが判明し返してくれと
言われました。返さなければならないのでしょうか?
引っ越しを手伝ったお礼に
定めています。ここにいう要素の錯誤とは、そ
壺をあげる行為は、贈与契約
の錯誤がなかったら当該意思表示をしなかった
(民法 549 条)に当たります。
と言え、かつ、一般の人を基準としても同様と
言えなければならないということです。
この贈与契約は、財産を譲る
側(贈与者)と受け取る側
(受贈者)
の意思の合致
また、本件の錯誤は、壺が安物だと思ってい
があれば成立し、必ずしも契約書を作成する必
たという法律行為
(贈与)
の動機に関するもので
要はありません。もっとも、例えば酒に酔って
す。動機の錯誤については、取引の安全を守る
気が大きくなり、勢いで物をあげると口約束し
ため、動機が意思表示の内容として表示されて
てしまったケースのように、その履行を強制す
いなければならないと考えられています。
本件において、壺が高価なものであったとい
るのが酷な場合もあります。
そこで、民法では書面によらない贈与は撤回
うことは、価格にもよりますが、それが分かっ
することができると規定されています
(同法 550
ていれば、贈与はしなかったでしょうし、一般
条本文)。ただ、書面によらない贈与でも、履行
の人を基準としても同様と言えるでしょう。し
の終わった部分は撤回できません
(同条ただし
たがって、贈与者が、贈与の際に
「この壺は安
書)
。本件のような動産の贈与の場合、履行と
物なので遠慮なくどうぞ」等と言っていたので
は引渡しを指します。
「壺をもらった」
というこ
あれば、その動機が表示されていたと言えます
とですので、引渡しは完了しているものと考え
ので、錯誤無効が主張できることとなり、この
られます。そうである以上、贈与者は、書面に
場合は、壺を返す必要があります。
ただし、錯誤の主張は、表意者に重大な過失
よらない贈与を理由として、壺の贈与を撤回す
ることはできません。
があった場合はできないこととされています
(同
では、贈与者は、壺の価値を勘違いしていた
法 95 条ただし書)
。少しの注意を払えば壺が高
こと(錯誤)を理由に贈与契約の無効を主張でき
価なものと分かるような場合は、贈与者に重過
るでしょうか。民法 95 条本文は、法律行為の
失があると言え、錯誤無効の主張ができず、受
要素に錯誤がある意思表示は無効とすることを
贈者は壺を返す必要はありません。
2016.12
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