第54回中学生作文コンクール 兵庫県 小野市立旭丘中学校 母の笑顔と朝顔と 文部科学大臣賞 三学年 廣瀬 佑宜 今年も庭先で朝顔が咲いた。母が好きな花だ。育てやすいし、上へ上へとの び る ツ ル 。 夏 の 朝 、 蝉 の 鳴 き 声 が 聞 こ え 出 し 、『 今 日 も 一 日 、 暑 苦 し い ん だ ろ うなぁ』という鬱陶しい気持ちとは裏腹に、朝露をうけて凛と咲く姿は、心に さわやかな風を届けてくれる。僕はビー玉のような滴を湛えた朝顔を見ながら アイスキャンディーを頬張った。朝顔に水をやりながら母が呆れ顔で言う。 「また、朝っぱらからアイス食べて!お腹壊すよ!」 「 大 丈 夫 だ よ 。 コ レ く ら い 。」 「 健 康 な と き に は 、 健 康 の 有 難 み に 気 付 か な い も ん よ 。」 またいつもの母の口癖が始まった。 母は三年前、卵巣摘出手術を受けた。入院し、退院してからも長い間、仕事 に行けなかった。 「 暫 く 家 で の ん び り す る わ ね 。」 笑顔の母とは対照的に、僕は不安で堪らなかった。 僕の家は母子家庭で、母の収入だけで成り立っている。 『母がこのまま仕事に行けなくなってしまったら僕たちはどうなってしまうの だ ろ う 。』 路頭に迷うのは目に見えている。 『 も し か し た ら 、 こ の ま ま 母 が 死 ん で し ま う か も し れ な い 。』 そう思うと胸が張り裂けそうになった。僕は、本当に情けない顔になっていた のだと思う。 「そんな顔しなくても大丈夫よ。お母さんね、仕事を始めた頃からずっと 〝 生 命保険〟に加入してるから。手術代も入院費も、こうやって会社を休んで て も 、 そ の 分 の 生 活 費 を カ バ ー 出 来 る の 。 有 難 い わ よ ね 。」 母は手術痕をさすりながら笑って言った。この頃からだ。 「 健 康 っ て 普 段、 ま っ た く 気 に 留 め な い け れ ど、 病 気 に な っ た と き に 改 め て 健 康 の 有 難 さ を 知 る の よ 。」 と、母がやたらに言い出したのは……。 健康なときは、その有難さに気付かない。まったくその通りだ。病気や事故 というのは何も、なりたくてなるものじゃないし、起きてほしくて起こるもの じゃない。偶然に偶然が重なって不幸にもそうなってしまうものなのだ。誰だって 、 (公財) 生命保険文化センター 第54回中学生作文コンクール い つ も 幸 せ で あ り た い し、 健 康 で い た い。 当 た り 前 の 感 情 な の だ。 だ け ど、 も し不運にも病気や事故に遭った場合、少しでも金銭的に安心したいと思うのが 、 人の思いなのかもしれない。家族がいればなおさら、そう思うのではないだろ うか。そのときに、少しでも家計への負担を減らすために相互扶助という形で 生 命 保 険 は 存 在 し、 成 り 立 っ て い る。 健 康 な と き に は、 健 康 の 有 難 み に 気 付 い て いなくても、これから起こりうる不測の事態に対応するために生命保険に加入 することは大切なことなのだ。 朝顔の花言葉は「固い絆・愛情」だと聞いたことがある。母が朝顔に水を や るように僕は母から沢山の愛情をもらっている。そしてその水は、母からだ け 注 が れ て い る の で は な い 。 周 り の 人 た ち か ら も 沢 山 、僕 に 注 が れ て い る の だ 。 愛情という名のシャワーを、周りの人たちから沢山浴びて、僕はぐんぐんと 成 長する。朝顔のツルのように……。 「 ま だ 、 ア イ ス 食 べ て る の ? お 腹 冷 や さ な い で よ 。」 朝顔に水をやり終えた母が笑いながら部屋に入ってきた。僕は、最後の一口を 慌てて頬張った。 太 陽 の 光 を い っ ぱ い 浴 び て 、キ ラキラ輝いている朝顔が、僕を見ながら笑った 。 (公財) 生命保険文化センター
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