立花響と偽・施しの英 雄 東雲兎 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので す。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を 超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。 ︻あらすじ︼ 彼は一般人だった。 彼は施しの英雄だった。 彼は、一体何者なのか。 彼は何者でもないのだ。 彼はカルナにならなければならないもの。 そして彼はとある少女の呼びかけに応じ、戦場へと舞い降りた。 これはそんな彼の全てを救おうとするお話。 プロローグ ││││││││││ 目 次 出会い ││││││││││││ 1 時は移ろい人は育つ ││││││ 悲劇かはたまた喜劇か │││││ 悲劇へのカウントダウン ││││ 6 11 17 24 Fateという作品をご存知であろうか ただ、肉体が凄かろうと、俺という中身はどれだけ取り次ぐろおうとも、ただの一般 それは既に聖杯戦争で経験済みである。 オレははっきり言ってチートだ。 した状態だ。 今オレがいるのは月の聖杯戦争とルーマニアの聖杯大戦、そして北米神話大戦を経験 オレはその人に転生したのだ。 名をカルナと言った。 オレがなった人物は前世で、そのあり方を尊敬してやまなかったある人だ。 今、なぜその話をしているのかといえば、オレがその作品の登場人物となったからだ。 その存在はもはやカテゴリとして存在している。 の都度派生作品を生み出している作品である。 ゲームから始まり、マンガとか、アニメとか、小説とか、いろんなところに進出しそ ? プロローグ 1 プロローグ 2 人だ。つまり俺は賞賛に値する人間ではないのだ。 やっていた事も所詮オリジナルの真似事でしかない。 けれども、ジナコはそんなオレを必要としてくれた。 結局、オレ程度では魔力切れで彼女を優勝までは押し上げられなかったが、それでも 聖杯戦争唯一の生存者とする事は出来た。 悲しいがこれもカルナではなく俺であったからだ。おそらくカルナならば彼女を優 勝まで導けただろう。 なんとも口惜しい限りだ。 それにカルナの名を敗北という泥で汚してしまった。 それが最大の後悔。 今度こそ、俺はオレとして彼の名に恥じないように戦うのだと誓ったが、その時はマ スターを奪われてしまった挙句に令呪まで奪われてしまった。 しかしその奪った相手にオレは力を貸した。 なぜなら助けを請われたから、天草四郎にオレの力を、カルナの力を欲されたから。 その聖杯大戦では、マスターはのちに救う事はできたが、天草四郎は救う事はできな かった。 また後悔。いや、俺程度が人を救うなど烏滸がましいにもほどがあるか⋮⋮ 3 それでも、オレは施す。なぜならオレはカルナであるからだ。彼の名を語る以上、そ れは義務と言っても良い。幸いにも、俺も人に何かをする事で幸福感を得る人間であっ たから、別に気にすることなく何かを他者に与えられた。 生前から因縁のあったアルジュナと戦った時、俺は彼に対して申し訳ない気持ちで いっぱいになった。 なぜなら俺はカルナではないから、彼が求めていたのはカルナだというのに、俺とい う出来損ないと戦わざるおえなかった。 アルジュナは俺の事をカルナではないカルナと称したが、俺は彼に遠く及ばない。 アルジュナとの戦いは結局、横槍によってつかなかった。なぜかと言うと、俺がその 横槍によって倒れてしまったからだ。 別にその横槍を恨んではいない。 オレが恨むのは俺自身だ。 カルナの力は強いが、それを扱いきれなかった俺が悪いのだ。 結局、俺はカルナになれなかったのだ。 プロローグ 4 ○ そこは地獄だった。人々は異形から逃げ惑い、異形はその人々を炭へと還す。 異形の名をノイズといった。 ノイズはただ人間を殺戮する為だけにこの場にいた。 そんなノイズに、対抗する影がふたつ。一人は剣、もう一つは槍だった。しかし槍は 唐突に動きを鈍くする。 そんな槍は会場と言う名の地獄に取り残されていた一人の少女に気づいた。ノイズ たちもその少女に気がつき、襲いかかる。 槍は少女を庇い、ノイズたちを防ぐ。 だがしかし、防いでいる最中、飛び散った破片が少女を襲った。 破片が突き刺さった胸から血飛沫をあげて地面へと倒れ伏す。 それに気取られた槍もまた一瞬の隙を突かれ深傷を負った。 その傷を見て自身がもう二度と戦えない事を悟り、ただ一度のみの唱を奏でる事を決 めた。 彼女にとってそれは死を意味すること。 それでも槍にはためらいはなかった。 その中、倒れ伏す少女、立花響は微かに残る意識の中、こうつぶやいた。 そう、施しの英雄は宣言した。 ﹁安心しろ少女よ。必ず君を助けよう﹂ その槍を軽く一振りするのみでノイズたちは跡形もなく消し飛んだ。 許せ﹂ ﹁お前たちに恨みなどはないが、彼女の脅威となり得る。故に消えてもらうほかない。 炎を纏い、不死身の英雄は高らかに槍を掲げる。 聞き届けられるはずのなかった声は確かにその英雄に届いた。 直後、紅蓮が迸る。 ﹁承知した。名も知れぬ少女よ﹂ ﹃たすけて﹄ 5 出会い ﹁⋮⋮あれ、わたし⋮⋮いき、てる⋮⋮ ﹁ん ﹂ 目覚めたのか、名も知れぬ少女よ﹂ その先には真っ白な天井があった。 もう二度と開かないと思っていた瞼が開き、光を取り入れる。 ? どうした。困惑しているようだが⋮⋮ なんというか⋮⋮なんとも言い難い格好をした人物が目の前にいた。 ﹁ああ、まだ動かないほうがいい。む ﹂ ? た者だ﹂ ﹁わたしの⋮⋮呼びかけ ﹂ ? ﹂ ﹂ まずい、なにも心当たりがない。一体なにの話をしているのだろうか ﹁⋮⋮あ ! ? ? ﹂ ﹁なんと説明すればいいのかわからないのだが、オレは君の呼びかけに応じて馳せ参じ 直後に虚をつかれたような顔をする青年。そして参ったとばかりに頭を掻いた。 ﹁えっと⋮⋮どちらさまでしょうか ? ? ? ﹁君は死の淵に瀕したその時、たすけて。と口にしなかっただろうか 出会い 6 確かにそんなことをした様な気がする。しかしそれが何か関係があるのだろうか そう首を捻っていると、青年はため息をつき、すまないと謝ってきた。 ? う認識でいてくれ﹂ ﹁あ、もしかして、呼びかけって、さっきのたすけてって言葉ですか ﹂ ﹁ああ、物分かりのいい娘だ。オレの不自然な説明で理解できるとは﹂ !? ? もしかして私を助けてくれたんですか ! ﹂ 私、実は今までとっても失礼な事をしていたのではないだろうか 大丈夫だったんですか ああ、あの人形たちの事か。問題ない。あの程度なら簡単に片付けられ ﹁というかノイズは ﹂ ﹁ノイズ⋮⋮ る﹂ !? いま、彼はなんと言った ﹂ ﹂ ﹁ノイズを⋮⋮片付けられる ノイズって、人体に触れると一瞬で炭化させるって話でしたよね ﹁ああ、何か問題でもあったか ﹁お、大ありですよ !? ? ﹁⋮⋮へ !? ? ? ? ? ? ﹁む、そこまでおおそれた事ではない。当たり前の事を当たり前の様にしたまでだ﹂ ﹁いえいえ、それほどでも⋮⋮ってええっ ﹂ ﹁どうもオレは口下手でな、うまく説明できない。オレは君の危機に駆けつけた者とい 7 ! それをどうやって ﹂ ﹁落ち着け。傷に障るぞ ﹁⋮⋮へ ﹂ ほら水でも飲むといい﹂ ﹁なに、簡単な話さ。オレは人間じゃないからな﹂ そうやって平常を取り戻した私はもう一度問いかける。 元を通る。 そうやって差し出された水の入ったコップを受け取り一気に煽る。冷たい感触が喉 ? ! まさか幽霊⋮⋮ 目の前の青年は一瞬のうちに空間に溶けた。 なのでた、祟らないでください ! ほ、本当に幽霊だったとは⋮⋮ なんでもありません ﹂ はサーヴァントと呼ばれる存在だ。サーヴァントは使い魔の一種であり⋮⋮﹂ ﹁ああ、怖がらせてしまったか。すまないそういうつもりではなかったのだが⋮⋮オレ ! ﹁に、人間じゃないって、ど、どういう事⋮⋮﹂ いや、もともとあんまり使わないんだけれども。 本日二度目の衝撃発言。流石の私も頭がこんがらがってきた。 ? ﹁い、いえ ! ! ﹁こうして消える事も出来る。む、どうした青ざめた表情をして﹂ 出会い 8 ﹁オレは悪霊か何かなのか 呆れられた。 ○ ﹂ ﹂ てるなって思ってた私にはまだ問題がある訳で⋮⋮ ﹁あの、カルナさん﹂ ﹁カルナでいい立花響﹂ その問題の一つが彼な訳だ。 ﹁じゃあ私の事も響でいいです﹂ ﹁どうして、私を助けてくれたんですか ﹁どうしてとはまた不思議な質問だな。何故その様な事を問う ﹂ お父さん、お母さんが病院に来て、未来も見舞いに来てくれて、なんというか愛され ? のか。 それが最大の疑問だ。何故私を助けてくれたのか。そしてなにも見返りを求めない のかなって﹂ ﹁だって、言ってしまえば、私達無関係じゃないですか。そんな私をなんで助けてくれた ? ? 9 それが少し不気味だった。 ﹁なに、君はあの時たすけてと言っただろう ﹂ たすけてと言われたからたすけた⋮⋮ ﹁それ、だけなんですか ﹁ああ、それ以外になにがある﹂ だから助けた﹂ ああ、理解した。この人は真性のお人好しだ。 ﹂ 助けられたかはわからないが。と苦々しく零す彼に私はポカンとしてしまった。 ? ﹁私、今こんな体ですし、お礼とか出来ませんよ ? ﹁もとより見返りを求めての行動ではない﹂ ならば私が取るべき行動はただ一つ。 ﹁カルナ﹂ ﹁なんだ﹂ ﹁ありがとうございます﹂ ? ? 少し嬉しそうな彼に、私は微笑んだ。 ﹁⋮⋮そうか﹂ 出会い 10 悲劇へのカウントダウン 特異災害対策機動部二課、それは世間から秘匿された対ノイズ兵器、シンフォギアを 保有する政府機関である。 彼らは先のノイズ戦で多くの職員を失い、そしてシンフォギアを纏う装者の1人が戦 闘不能となった。 さらにはシンフォギアの元になる聖遺物の中でも最上位に位置する完全聖遺物、ネフ シュタンの鎧も失われた。 途方もない損害である。 そんな二課のトップである風鳴弦十郎は荒い画像を難しい顔をしながら睨んでいた。 その映像には、真っ白な髪の青年が炎を纏い、不思議な槍を持ってノイズを殲滅する姿 が見てとられた。 機材の反応から言えばその青年からは聖遺物に酷似したものが発せられていた。 そう弦十郎は背後から声をかけてきた女性に応えた。 ﹁そうであってくれると良いのだが﹂ ﹁新たな希望⋮⋮になるのかしらね⋮⋮﹂ 11 彼の後ろにいるのは櫻井了子。シンフォギアシステムを開発した第一人者である。 ﹁彼は一体何者なのだ﹂ ﹂ ﹁さぁね。奏ちゃんの事を庇ってくれたところから悪い子ではないんだろうけどね﹂ ﹁外国のシンフォギア装者という線は そしてその側には常にカルナの姿があった。 い、なおかつ短距離ならば歩けるまでに回復した。 立花響はリハビリに励んでいた。彼女は驚異的な回復力を見せ、いまでは松葉杖を使 ○ 弦十郎は脳裏にその炎を纏い神々しくノイズを殲滅する青年の姿を焼き付けた。 一体何が目的で、このような行動に至ったのか。 謎が謎を呼ぶ。 ﹁確かにそうだな﹂ ﹁限りなくゼロに近いわ。そもそもこの戦闘に介入させるメリットがないわよ﹂ ? ﹁問題ない。心配をするならば、自分の心配をしろ。早く学校とやらに戻りたいのだろ ﹁ごめんねカルナ。付き合わせちゃって﹂ 悲劇へのカウントダウン 12 う ﹂ ? ﹁なにか欲しいものはあるか ﹁なんだ ﹂ 可能な限り叶えよう﹂ ﹁あ、じゃあお言葉に甘えて、ひとつお願いがあります﹂ の義務だと。 自分の出来ることは限られている。だが、求められるのならばそれを叶えるのがオレ 響は謙遜だと思ってはいるものの、カルナは本気だ。本気でそう思っているのだ。 ﹁む、そのようなつもりでは⋮⋮それにオレ程度ができることなど高が知れている﹂ たいんだ﹂ ﹁もう、カルナはいつもそれ。でも気遣ってくれてるだよね。その気持ちだけでありが ? ない。 カルナにとっては救った者が幸せを噛みしめることこそが最大の報酬なのかもしれ へへっ。と何故か得意げに自慢する響に、顔を綻ばせるカルナ。 ﹁自慢の親友です﹂ ﹁そうか。良き友だな﹂ ﹁うん、未来⋮⋮友達が待ってるからね﹂ 13 ? ○ ﹁えっと、この人が⋮⋮﹂ ﹁私を助けてくれた人だよ。未来﹂ オレは何故こうなった。と考えずにはいられなかった。目の前には痛いげな少女が 警戒心丸出しでこちらを恐る恐る見据えていた。 オレは人とコミュニケーションをとるのが苦手だ。その相手が警戒しているのなら ば尚更だ。 しかし断るわけにもいかなかった。何故ならばこれが立花響の願いだったからだ。 それが立花響がオレに請うた内容だった。 ﹃彼女、小日向未来と顔を合わせて欲しい﹄ ﹁響、この人少し失礼じゃないかな ﹂ しかし、立花響に苦笑され、小日向未来は顔を引きつらせ、響に耳打ちした。 そこらへんの気遣いは出来るつもりだ。 とも、どこかでそのしわ寄せが来るからだ。 何故なら彼女がこちらを警戒しているからだ。なにも無理やり表面上を取り繕おう ﹁カルナだ。よろしくする必要性はない﹂ 悲劇へのカウントダウン 14 ? え、聞こえてました ﹂ ﹁すまない。こういったことには疎くてな。どう対処すれば良いのかわからない﹂ ﹁へ !? 来と顔をあわせると、彼女はクスリと笑いをこぼした。 またなにか変なことをしでかしてしまったのだろうか ? ﹁うぇっ なんでこっちに飛び火するの ﹂ !? ダメな奴だ。 も不器用なのだ。カルナならばもう少しうまくするだろうに。俺はどうしようもなく む、また知らず識らずのうちに人に嫌な思いをさせてしまった様だ。何故オレはこう ! る。もう少し人を警戒すべきだ﹂ ﹁気 に す る こ と は 無 い。寧 ろ 君 の 反 応 こ そ が 本 来 の あ り 方 だ。対 し て 響 は 無 防 備 す ぎ ていただいたのにあんな仕打ちや言動をしてしまって⋮⋮﹂ ﹁いえ、真面目な方だったんだなってわかったんです。先ほどはすみません。響を救っ 来は首を振りそれを否定する。 そう問いかければ、小日向未 彼女は必死にオレに頭をあげる様に懇願してきた。頼まれたので頭をあげ、小日向未 そう言ってオレは頭を下げる。それに慌てたのは何故か小日向未来だった。 ﹁ああ、すまない。別に聞こうとしたわけではないんだ。許してくれ﹂ ? 15 悲劇へのカウントダウン 16 ○ こうして、カルナと小日向未来との会合は終わった。そしてその数週間後、立花響は その病院から退院を果たした。 その先にどんな悲劇があるとも知らずに。 悲劇かはたまた喜劇か 響は俯きながら、家への帰路につく。その最中で、周囲の学生からヒソヒソと冷たい 視線が向けられる。 家に帰れば、心のない中傷の書かれた張り紙や落書きが塀や玄関を埋め尽くしてい た。 響はただいまと呟いて、玄関をくぐる。出てきた親に笑顔を向ける。せめて親にだけ ﹂ でも気丈に振舞わなければ、という幼い子供心が彼女を突き動かした。 ﹁お母さん。カルナは あったとしても。 その相手がたとえ人の善意と悪意が混ぜこぜになった正義感から来る人々の総意で カルナは退院してからずっと彼女を守護していた。 いっぱいになる。 私じゃ、買い物拒否されちゃうからとかすかに呟く母親に彼女は申し訳ない気持ちで ﹁えっとね、お買い物に行ってもらってるのよ﹂ ? 17 悲劇かはたまた喜劇か 18 彼女、立花響はあの地獄から生還したひとりだ。 本来ならば、祝福されるべき事であるが、しかし世論はそう甘くはなかった。 ひとつのメディアが悪意を持った報道をしたのが始まりだった。 生き残った者たちは死んだ者たちを殺したのだと。 瞬く間に広がった悪意は形を変え善意となった。生存者たちは殺人をした罪人。ゆ えに亡くなった者たちのためにも排斥せねばと。 なんという悲劇か。正義感こそが彼女の最大の敵となりえてしまった。 自身の部屋へと引きこもり、ふと響は外を見やった。 そこには顔も知れぬ男がいた。そして男の手には石が握られていた。 またかと響は次の瞬間に鳴り響くであろうガラスの破砕音に身構えた。 しかし、それを防ぐ者が男の後ろから現れた。 カルナだ。 カルナは男に何かを諭すと、男は舌打ちしてその場を去った。一体何を話したのだろ うか クラスメイトからの哀しみに満ちた叫びを。 着替える事なく、力なくベッドに横たわり、そして、思い出す。 響はとりあえずお礼を言わなくてはと思ったが、体が動かなかった。 ? ﹃なんであんたが生き残ったのよ ﹁そんな訳はない﹂ ﹄ ﹁私⋮⋮生きていない方が良かったのかな⋮⋮ 今もありありとその光景が蘇る。 !! ﹂ ? ﹂ だが、生きている者がその生をかみしめる事になんの不都合がある 物も犯せぬ絶対の権利とオレは思うのだ﹂ そしてそれは万 ? どうにでもなってしまう。それが元をただせば悪意であろうとも。 ﹁響よ、そも、彼らがお前を忌避するのは単に周りに流されたからだ。人は一時の迷いで なんでもないようにその英雄は言い放った。 ﹁へ ﹁それは単に間が悪かった。ただそれだけだろう﹂ ﹁カルナ⋮⋮でも、みんな。なんで生きてるんだって言ってたよ⋮⋮﹂ カルナを何度も視線が往復する。 に来ていたのか。先ほどまで窓の外にいたはずなのにどんな瞬間移動だ。と窓の外と 突然聞こえた声にガバリと顔を上げる。そこにいたのはカルナだ。いつの間にここ ? 19 ﹁何が⋮⋮言いたいの ﹁││││っ ﹂ ﹂ ﹁生きていてくれてありがとう響。お前のお陰でまだオレは他者のために在れる﹂ お前たち カルナは真っ直ぐその目を響に向けて、ただ自分の意思を述べた。 言われたのでな。素直に口にするとしよう﹂ ﹁ふむ、本来ならば言うべき事でもないのだが、昔とある者に〝お前は一言足りない〟と ? ﹂ ﹁⋮⋮違うよ。多分私嬉しいんだ﹂ ﹁嬉しい ﹁うん、嬉しい。 ねぇ、ちょっとだけ、胸貸してくれるかな ﹁ありがと﹂ ﹂ ﹁すまない、泣かせてしまったか。どうもオレは口下手だ﹂ ひとすじの輝きが頬を伝う。 ! !! ける。 ﹁││ぁああっ ﹂ ベットから立ち上がり、カルナへと寄りかかった響は自分の頭をカルナの胸に擦り付 ? ? ﹁無論だ。それでお前の役に立てるのならば﹂ 悲劇かはたまた喜劇か 20 直後、封じ込められていた感情が涙となって溢れ出す。辛かった。苦しかった。誰に も認められないという事が、たまらなく痛かったのだ。 ﹂ カルナはそんな彼女を優しく抱擁した。 ○ ﹁カルナさん。響はどうですか ﹁でも、響はたぶん私を恨んでるんです。私、響に遠ざけられてますから﹂ 識した。 不器用に慰められて、未来は苦笑をもらした。やはりこの人は優しいのだと改めて認 ﹁⋮⋮ありがとうございます﹂ いい﹂ ﹁そんなことはない。彼女もお前のお陰で今まで耐え抜いてこられたのだ。胸を張ると ﹁私⋮⋮何にも出来ない﹂ 用件は当然彼女の親友である立花響についてだ。 とある公園にて、小日向未来はカルナと会合していた。 ﹁ああ、今頃家にてゆっくりと眠っていることだろう﹂ ? 21 なんで、私 ﹁それは違うと宣言しよう。オレは人を見る目はないが、何を思っているかくらいはわ それなのになんで⋮⋮ ! かる。彼女は君に憎しみという感情は抱いていない﹂ ﹂ 私は響をあの地獄に送り込んだんですよ を責めないの ﹁でも !? オレだ﹂ ﹁⋮⋮え ﹂ ? そんな彼が少し困ったような顔をして、自分が悪いのだと言ってのけた。 当たり前のようにやってのける。 ような人だ。他者を助け、隣人を慈しみ、まるでおとぎ話の聖人みたいなことを平気で この男は何を言っているのだろうか そんな疑念が尽きない。彼は文字通り太陽の ﹁彼女にも言ったが、それはただ間が悪かっただけだ。それに彼らに責められるべきは ? ! ? に感じた。それを誤魔化すために、未来は前々から質問しようと思っていたことを口に 今回カルナが答えたのが響であったというだけ。その事実が未来の頭を殴られた様 だ。 そうだ。あの場にはもっと多くの生きたいと、助けてほしいと願った者がいたはず に抑えられていただろう。そう考えずにはいられない﹂ ﹁傲慢かと思われるかもしれないが、オレがもう少し早く馳せ参じていれば、被害は格段 悲劇かはたまた喜劇か 22 した。 ﹁カルナさんひとつの聴いてもよろしいですか ﹁ならお言葉に甘えて⋮⋮ ﹂ ? カルナさん。カルナさんは一体何者なんですか そう、彼女は問いかけた。 ﹂ ﹁なんだ。オレの答えられる範囲ならいくらでも答えよう﹂ ? 23 時は移ろい人は育つ 燃える様な夕焼け、その世界の中で、私、立花響とカルナは共にそれを眺めていた。 地面に写る影法師がゆらゆらと揺らめいて幻想的な雰囲気だ。 ﹁ああ、美しいな﹂ ﹁うん⋮⋮﹂ ばくばくと心臓が脈打つのがわかる。それがとてもうるさく感じた。 意を決し、自身の気持ちを伝えようと言葉にする。 ﹁カルナ。私は⋮⋮あなたのことを⋮⋮﹂ そこで夢が覚めた。 ﹂ !!! 二段ベッドの下にいた未来から苦情を言われるまであと3秒。私にとって、高校入学 ポフポフポフと枕が可愛らしい音を立てる。 ﹁なんつう夢見てんだ私っ 時は移ろい人は育つ 24 初日は騒がしい朝であった。 ﹂ その後、息を切らしながら、助けた猫を抱え、学校へとひた走る。 遅刻遅刻っ ﹁半分は響のドジだけど、もう半分はいつものおせっかいのせいでしょ ﹁うはぁ⋮⋮入学初日から遅刻とか私呪われてるかも⋮⋮﹂ 心体ヘトヘトになり、床に倒れこむ。 ○ 騒ぐ私の隣にはカルナはいなかった。 ﹁みぎゃぁっ !! ﹁人助けと言ってよ未来。人助けは私の趣味なんだからぁ⋮⋮﹂ ち、私は口を尖らせる。 ﹂ そう、鋭い指摘をしてきたのは、同じ部屋に住む事になっている未来だ。寝返りをう ? ! 25 ﹁カルナさんの真似でしょ ﹁ぶー、いじわるぅ﹂ ﹂ 憧れてるからって流石にやりすぎだと思うけど ﹁そういう事じゃないの⋮⋮あ、翼さんの新しいCD明日出るんだ﹂ ﹁え、ホント ﹂ ? ここに来るまでもずっとベッタリだったでしょ﹂ ? ﹁いいじゃん。カルナは嫌がってなかったんだしぃ﹂ ﹁そろそろカルナさん離れしたら ゴロゴロと転がり未来の元へとたどり着き、後ろからハグをする。 ? ! ﹂ ﹁興奮しすぎて寝れなくなってもしらないよ ﹁いーのいーの ! ﹂ ? ﹂ 応えてくれたカルナを覚えていられる。絶対にだ。 そう確信できる。たとえ地獄を経験しようとも、破れかけた記憶であろうとも、私に そして、それ以上にカルナとの出会いは決して色褪せる事はないだろう。 その時の記憶は今も鮮烈に覚えている。 であった。 あの会場に行った時から私は彼女、風鳴翼の⋮⋮正確にはツヴァイウィングのファン 新しく入ってきた情報に興奮して、未来からチラシをひったくる。 !? ﹁あー明日楽しみだなっ 時は移ろい人は育つ 26 ベッドへと思いっきりダイブし、そのまま顔をうずめる。 ﹁ちくしょう まだ死にたくねぇよ ! ﹂ ﹁やはり、通常兵器ではダメなのか⋮⋮ ! ﹂ そんな中で兵士たちが絶望にまみれながら呟いた。 置く事で物理攻撃を回避するというデタラメな力を前に無力化されていた。 しかし彼らの攻撃はノイズの能力である位相差障壁という自らの身を異なる次元に ノイズ⋮⋮それが兵士、特異災害対策機動部一課の相手であった。 そこは戦場だった。だがしかし、兵士たちが相手をするのは決して人間ではない。 ○ ﹁カルナ、今頃なにしてるんだろ⋮⋮﹂ ていると、なぜかカルナがそばにいるように感じられた。 ベッドの上でとける私の髪を弄る未来。その景色を夕焼けが包み込む。太陽を浴び ﹁いいじゃん∼∼﹂ ﹁またでた⋮⋮まったくもう。ホントにカルナさん離れしたほうがいいって﹂ ﹁あーカルナニウム不足だよ∼﹂ 27 ! ﹁くそ、誰か助けてくれ⋮⋮ ﹂ 女にはそれがさっぱり理解できなかった。 翼は青年の残した爪痕に鳥肌がたった。一体なにをすれば、こんな事をできるか、彼 その場へと遅れながら到着したヘリの中に、少女、風鳴翼がいた。 た。 そして、ノイズの殲滅を確認した青年は飛び立ち、そのまま夜の虚空へと溶けていっ た。ジュウと、溶ける大地に兵士たちは戦慄を覚えた。 槍に炎を纏わせ、軽くそれを振るう。そうすれば目の前の大地がノイズごと焼き払っ ﹁炎よ﹂ アグニ 降り立った。 星、いや紅蓮の炎をまとったそれは戦場のちょうど中心、ノイズと兵士たちとの間に ﹁承知した。オレが果たそう、その乞いを﹂ その時だった、空の星が煌めいたのは⋮⋮ ! 翼は天羽々斬を無意識のうちに握りしめて、その光景をただただ目の当たりにしてい た彼を忘れてはいなかった。 二年前にも現れたあの青年を、彼女は覚えていた。そして、今も。大切な友人を救っ ﹁あの男⋮⋮一体⋮⋮﹂ 時は移ろい人は育つ 28 29 た。
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