降圧薬療法開始時期の - e

光 俊 彦
近年、 作 用 機 序 の 異 な る 各 種 の 降 圧 薬 が 開 発 ・
て、降圧薬の投与が必要であるかどうか、また必
れている。その意味では、まず個々の症例におい
岡 博 昭・
導入され、単に高血圧患者の血圧値を下げるとい
要であればその開始時期につき、適切な判断がな
降圧薬療法開始時期の
決め方
う面では、比較的容易にその目的を達することが
圧薬投与の是否に疑問が投げかけられている。し
よる副作用などのマイナ ス 面 を 考 慮 し た 場 合 、 降
治療方針を決定するためには、患者の血圧を正
血圧の測定
騒音、衣服による上腕の圧迫などによる影響がな
しては、患者を一〇分以上安静にした後、寒冷、
動脈硬化などの合併症の 進 展 に 及 ぼ す 影 響 を 考 慮
い状態で、各診察時二回以上測定し、安定した測
確に把握することが必要である。血圧の測定に際
したり、患者の意欲や快適感など生活の質が損な
定値の平均を記録する。また、少なくとも二回以
たがって、高血圧患者の治療に際しては、単に血
われることのないように配慮するなど、より長期
上来院させて測定を繰り返し、初診時の緊張によ
圧値を正常化させることにとどまらず、心肥大や
おける収縮期高血圧などに対しては、薬物療法に
されねばならない。
松石
可能となってきた。一方、軽症高血圧や高齢者に
トピックス
的、総合的な視野に立った治療方針の決定が望ま
特集・ACE阻害薬と高血圧治療トピックス
81 CLINICIAN,91No.398
高血圧治療
①1988年米国合同委員会による高血圧の段階的治療指針
(文献1)より一部改変)
精密検登 專錫蕪紹会
または
第3 第4選捉蘂髪適撫
機序の異麿番第3選叛薬壱趨鶴
談丸は
第2選叛薬の麦更
機序の巽な1る第2選擢薬壱趨力露
諜丸は
第工選釈薬の増量 変更
の講疹宛魏馨
葉は鉱
籏丸丸
瀦象蜜
雛薬麹療法
家丸は β遼籔薬
AC嚢聡審薬
c裁謝霧蘂
誘
〆霧誕綬
食壌鰹隆 飲瀬翻銀
イ本露葺ノト鷹一ル’
飽の弔簸管第危険霞子
の郷鋼
(208)
CLINICIAN,91No.398 82
る血圧への影響を除外する 。
降圧薬治療の開始時期および第一選択薬
非薬物療法はいうは易く、行うは難しで、必ず
並行して非薬物療法を指 導 す る べ き で あ る 。 一 九
場合でも、その効果を高 め 投 与 量 を 減 ら す た め に 、
圧できることもまれではなく、降圧薬を投与する
本案では第一選択薬として、従来より用いられ
考のため、図①に米国合同委員会による段階的治
わ
一的な治療法を適用するのは得策ではないが、参
使用可能な現況において、全ての高血圧患者に画
は、降圧薬の投与を開始する。数多くの降圧薬が
しも十分な効果をあげるとは限らない。いずれに
八八年の米国合同委員会による報告でも、非薬物
り
療法の重要性が再確認されている。
てきた利尿薬、β遮断薬に加え、アンジオテンシ
非薬物療法の重要性
拡張期血圧が一一五㎜取以上、あるいは収縮期
ン変換酵素︵ACE︶阻害薬や儲拮抗薬などの使
しても、以上のような非薬物療法を一∼二ヵ月施
血圧が二〇〇㎜取以上を呈するような重症高血圧
用を可としている。
近年の降圧薬の発達によっても、降圧治療にお
に対しては、合併症の進展を防ぐ意味からも、速
降圧薬の選択に当たっては、個々の症例におい
るいは収縮期血圧が一六〇㎜取以上を示す場合に
やかに有効な降圧薬による治療を行う必要がある
て、その病態に合ったものを使用するべきである。
行した後、なお拡張期血圧が一〇〇㎜取以上、あ
が、そうでない場合には、まず減塩、体重減量、
ける非薬物療法の役割は減ずるものではない。軽
運動、飲酒制限などの生活指導を行い、一∼二ヵ
例えば、活動性の高い若・中年者で頻脈など交感
症高血圧では、非薬物療法のみで正常血圧まで降
月の経過観察の後に、降圧薬投与の適応の有無を
神経系の充進が推測されるような場合にはβ遮断
療案を示す。
決定する。
(209)
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②WHOと国際高血圧学会による軽症高血圧の診療指針
(文献2)より一部改変)
2回以上診察、3回以上血圧を測定し
拡張期血圧の平均が90∼104mm取
次の4週間の間に日をかえて
少なくとも2回血圧を測定
4週間後
虹圧90笛mHg未満
拡張期血圧90∼104mm}㎏
男3カ月問隔で血圧測定
一→葬薬物療法開始、
血圧の経過観察
1
v
3カ月後
拡張期面圧
拡張期血圧
95∼99醐㎏
→非薬物療法
の強化、
の強化、
の強化、
危険因子があれば
薬物療法を考慮
薬物療法開始
▼
(210)
▼
血圧
拡張期血圧
惣㎏
90∼95囎㎏
物療法
→雰薬物療法
経過観察
6カ月後
↓
10伽組㎏以上
→非薬物療法
↓
v
一なし
危険因子なし
危険因子あり
拡張期血圧95∼99mm地
→危険因子の有無に
かかわらず薬物療法
り療法を続け
釜過観察
血圧を経過観察
→薬物療法を考慮
を考慮
E圧
拡張期血圧
拡張期血圧
磁地、
90∼94m磁地、
90∼94搬m聴、
CLINICIAN,91No.398 84
50歳以下
高脂血症
喫煙
糖尿病
器疾患の危険因子たり得ることが疫学的調査によ
り示されている。しかしながら、第一選択薬とし
てよく用いられる利尿薬は、高脂血症、耐糖能障
害など代謝系に及ぽす副作用により、冠動脈疾患
の危険因子を増加させることが懸念されており、
少量投与を心がけるべきであろう。
図②にWHOと国際高血圧学会による軽症高血
の
圧の診療指針を示すが、基本的には、非薬物療法
にて血圧値が十分に正常化しない場合には、合併
症や他の危険因子の有無を考慮して降圧薬投与の
お
である。表③に孚霧が挙げた諸危険因子を、わが
収縮期高血圧
(211)
85 CLINICIAN’91No.398
適応を決めるという即虫ωの考え方を踏襲したもの
する場合には、薬物治療による血圧の正常化を考
拡張期血圧九〇∼九九 ㎜ 取 、 収 縮 期 血 圧 一 四 〇
高齢者によくみられる収縮期高血圧 ︵収縮期血
えるべきである。
∼一六〇㎜取程度の軽症 高 血 圧 と い え ど も 、 循 環
軽症高血圧
適応となる。
国の実状に則するように修正したものを示す。軽
男性
薬やACE阻害薬が使い易く、高齢者にみられる
高血圧、脳卒中などの家族歴
症高血圧といえども、これらの危険因子を複数有
心肥大などの主要臓器障害
低レニン性の高血圧には利尿薬や鉱拮抗薬がよい
③軽症高血圧患者における薬物治療の
開始条件
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圧一六〇単㎎以上、拡張期血圧九〇㎜取以下︶は、
ことが示されている。しかし、それを薬物的に治
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療することにより、有益な結果が得られるか否か
は明らかに さ れ て お ら ず 、 現 在 、 そ の 点 に 関 す る
ω凶9ぎ9Φ国匡R辱ギo讐鋤ヨ“SHEP︶。した
疫学的調査が進行中である︵琢ω8日コ旨Φ旨9−
の
がって現時 点 で は 、 収 縮 期 血 圧 一 七 〇 ∼ 一 八 ○ ㎜
取以上の者 を 対 象 に 、 患 者 の 自 覚 症 状 や 副 作 用 の
発現など安全性に十分注意しながら、病態に即し
た降圧薬を選択して緩徐な降圧を心がけるのが妥
当な考え方であると思われる。
︵東京大学 内科学︶
*︵東京大学 講師 内科学︶
文献
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CLINICIAN,91 No.398
(212)
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