7月12日号 レアルは為替介入で上昇一服も17年財政目標

グローバル・マクロ・
トピックス
2016/
7/12
投資情報部
シニアエコノミスト
折原 豊水
レアルは為替介入で上昇一服も17年財政目標を好感
 ブラジル政府は2017年度の基礎的財政収支目標を発表、財政改善策により16年実績や市場予
想を上回る改善を目指す。公的部門の資産売却等が中心だが、増税の可能性も排除せず
 ただ、すでに発表されている歳出の伸びを実質でゼロとする憲法改正案(PEC)の成立を前提と
している点に留意、PECのみルセフ大統領弾劾成立後に先送りする可能性も
 レアルは年初来高値を更新後、中銀が5月下旬以来のリバース(為替)スワップを実施。今後も
為替のボラティリティ抑制のため為替介入が行われる可能性に留意。一方、財政改革の進展や
中銀のタカ派的な姿勢、景気回復期待がレアルを下支えするとみている
2017 年 度 基 礎 的 財
政収支の改善策を発
表、市場は好感
テメル暫定政権は7/7、2017年度(17年1~12月)の基礎的財政収支(プライマ
リーバランス、財政収支から利払い等を除いたもの)の目標を発表した。17年の赤字
額は1,390億レアル(GDP比▲2.0%)と16年の1,705億レアル(GDP比▲2.8%)から赤
字幅の縮小を見込む。市場の一部では1,500億レアルを見込んでいたが、それを上
回る改善となる。18年は同GDP比▲1.1%、19年は同±0.0%への改善を目指す。市
場は今回の発表をおおむね好感している。
政府は上記の目標を達成するため、554億レアル(GDP比0.8%)の財政改善策を
行うとした。詳細は今後発表される見込みだが、公的部門の資産売却や株式売却、
コンセッション(公営施設の運営権を民間に売却する等の仕組み)入札によりまかな
うとしている。また、景気回復が遅れ、歳入が想定を下回った場合には、増税の可
能性も排除しないとしている(なお、政府の経済成長率の想定は16年の前年比▲
3.1%から17年は同+1.2%と、景気回復を予想)。
すでに発表されてい
る財政に関する憲法
修正案の 成立が 前
提となっている
注目されるのは、上記の財政改善策は政府がすでに発表している歳出の伸びを
消費者物価の伸びで割り引いた実質ベースでゼロとする憲法修正案(PEC)が今
後、議会で成立して2017年以降導入されることを前提としている点だ。ただ、PECの
審議は議会の一部で反発が生じるリスクがある。一方で、8月下旬にはルセフ大統
領の弾劾裁判の判決を控えている。このため、連邦上院の弾劾支持を得るために、
上記の基礎的財政収支に関する財政改善策のみ議会の承認を取り付け、PECの
審議を弾劾裁判後に先送りする可能性もある。そうした場合、8月末までに議会への
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
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グローバル・マクロ・トピックス
提出が必要な2017年予算案については、PECが成立し歳出の伸びが抑制されるこ
とを前提として予算を作成する可能性がある。
ルセフ大統領の弾劾
裁判控え、議会との
駆け引き続く
政府はすでに連邦公務員の給与引き上げ、州の連邦債務の返済一時先送り、リ
オデジャネイロ州への緊急融資、ボルサファミリア(低所得世帯向け現金支給)の支
給額引き上げ等を実施してきた。政権に対する議会や国民の支持を取り付け、弾
劾裁判や財政改革をスムーズに行うことを目指してカードを切っている形だ。この結
果、今のところ議会との関係は良好となっている(なお、職務停止となっていたクー
ニャ下院議長は、7/7自ら辞任を申し出た。後任は近々にも下院本会議で選出さ
れ、議会運営の正常化に寄与しよう)。ただ、こうした議会対策は今後数年間にわ
たって財政負担になる可能性があり、一連の財政改革を成功させ、財政再建を進
める必要がある。引き続きテメル大統領代行の政治力が試されていると言えよう。
ブラジルの2017年度の基礎的財政収支目標
15 年度
1 6年度
1 7年度
実績
見込み
目標
10 億レアル GDP比( % ) 1 0億レアル GDP比( % ) 1 0億レアル GDP比(% )
歳入
1248.6
21.2
1286.9
20.8
1357.0
20.0
歳入移転
204.9
3.5
209.0
3.4
229.8
3.4
歳入(ネット)
1043.7
17.7
1077.9
17.4
1127.2
16.6
歳出
1158.7
19.7
1248.3
20.1
1321.6
19.5
裁量的歳出
917.2
15.6
979.7
15.8
1067.6
15.7
基礎的財政収支
▲116.7
▲2.0
▲170.5
▲2.8
▲194.4
▲2.9
財政改善策
55.4
0.8
基礎的財政収支
▲139.0
▲2.0
(注)7/7発表時点、今後17年予算案等で修正される可能性がある。年度は1~12月
出所:ブラジル財務省資料よりみずほ証券作成
レアルは年初来高値
更新後、中銀が為替
介入を実施
ブラジルレアルは6/30、1ドル=3.18レアルと年初来高値を更新した。英国の国民
投票における欧州連合(EU)離脱派の勝利を受けたグローバルなリスクオフが和ら
いだことや、ブラジル国内では、中銀のインフレレポートにおいてタカ派的な姿勢が
維持され、政府の財政改革とともに政策に対する信認回復に向けた動きが続いて
いることが寄与した。
ただ、7/1にはブラジル中銀が5/18以来となるレアル売りドル買いに相当するリ
バース(為替)スワップ入札を5営業日連続で行い、累計25億ドル実施となったこと
で、7/7には3.36レアル台まで下落した。テメル暫定政権下で任命されたゴールド
ファイン中銀総裁のもとでは初めての入札である。ただ、7/8は入札を見送ったこと
や、既述の17年の基礎的財政収支の改善案の発表を好感し、一時3.2レアル台ま
で反発している。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
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為替スワップの残高
を巡り、当局の為替
スタンスに留意が必
要
今後のレアルは中銀が為替介入を再開しており、やや上値が重くなる展開か。ス
ワップ残高は596億ドル程度あり、そのうち、9/1に77億ドル、10/3に82億ドル、以
後、11/1から2017年1月2日まで毎月初めに100億ドル強のスワップの満期を控えて
いる。規模が大きいだけに満期が近づく前に一部をロールオーバーして為替への
影響を和らげる可能性がある。今のところ、金融当局からレアル高をけん制するよう
な目立った発言は出ていない。今回の介入はあくまで為替のボラティリティを抑制
するための対応とみているが、金融当局の為替に対するスタンスをうかがううえで、
今後のリバーススワップ入札のペースやスワップの満期対応が注目される。
もっとも、財政改革や
景気回復期待がレア
ルを下支え
他方、テメル暫定政権が議会と協調して、一部修正しつつも財政改革法案が成
立する可能性がある。また、8月に予定されるルセフ大統領の弾劾裁判で罷免が成
立すれば、テメル氏が正式に大統領となり、8月下旬にスタートする10月の大型地方
選挙で与党民主運動党(PMDB)等が野党労働者党(PT)に有利な戦いをすること
ができるとみられる。ファンダメンタルズ面ではインフレ圧力の緩和や財政改革期待
等により、消費マインドが改善し景気悪化ペースが和らぐ兆しがある。こうしたことが
レアルの下支えとして見込まれる。
リスクとしては、世界経済の減速懸念や投資家のリスクオフにより、原油価格の急
落や人民元安が加速することが挙げられる。ブラジル国内では、テメル暫定政権下
でも幹部の汚職疑惑が続くことが挙げられる。
米ドル・ブラジルレアルの推移
ブラジルレアルと中銀の為替スワップ残高
(日次:2013/1/1~2016/7/8)
(1ドル=レアル)
ドルレアル(逆目盛)
200日移動平均(逆目盛)
1.0
+10%かい離(逆目盛)
2.5
14年半ば~
原油価格下落
4.0
2.5
3.0
3.5
4.0
↑レアル上昇
↑スワップ・レアル買い(ネット)
4.5
11
4.5
13
14
15
16
▲
▲
▲
▲
▲
▲
0
20
40
2.0
14年秋~
ペトロブラス
汚職疑惑
3.5
(10億ドル)
中銀の為替スワップ残高(右逆目盛)
1.5
15年夏場
米利上げ観測、
人民元ショック
15/9格付け
ジャンクに
政権交代期待
原油価格上昇
2.0
3.0
(1ドル=レアル)
▲10%かい離(逆目盛)
1.5
↑レアル高
(月次:2011/1~2016/7)
ブラジル・レアル(左逆目盛)
12
13
14
15
16
(年)
(注)スワップ残高はドル売りポジションはマイナス、ドル買いはプラス
表記、スワップ残高は7/7、レアルは7/8まで
出所:ブラジル中銀、ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
(年)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
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60
40
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金融商品取引法に係る重要事項
グローバル・マクロ・トピックス
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