消費拡大に向け、求められる将来不安の払しょく

Research Report
http://www.jri.co.jp
≪2016~2017年度日本経済見通し≫
2016年6月29日
No.2016-002
アベノミクス「3つの変調」を探る
― 消費拡大に向け、求められる将来不安の払しょく ―
調査部 マクロ経済研究センター
《要 点》
◆ わが国景気は足踏みが長期化。日本経済に一定の効果をもたらしたとされるアベノミ
クスだが、足許では、①円高による企業収益への下押し圧力増大、②消費の低迷長期
化、③インバウンド需要の陰り、など変調ともとれる動きが看取。今後はこれらの動
きが、景気を見通すうえでどのように影響するかを見極めることがポイント。
◆ 企業の想定を超える円高が進む状況下、2016年度の企業収益は頭打ち感が強まる見込
み。英国のEU離脱の影響については、直接的影響は限定的ながら、マーケットでの
円高・株安の動きが、企業の景況感や消費者マインドの重石に。一方、収益が伸び悩
むなかでも、設備投資は収益動向に依存せず、必要な更新投資を進める企業は多く、
人手不足をカバーするための省力・合理化投資ニーズも堅調。また、所得雇用環境も
人手不足が続くなか、人員確保に向けて企業は人件費を維持する姿勢を堅持。投資や
所得雇用が先行き腰折れする可能性は小。
◆ 個人消費の低迷持続は、株価低迷による資産効果の減衰や、これまでの度重なる需要
喚起策による需要の先食いが影響。加えて構造的な消費抑制要因も。雇用者報酬は着
実に増加する一方、社会負担や税負担の増加に伴い可処分所得は伸び悩み。負担増
は、一部政府支出の増加という形でマクロ経済を下支えする側面がある一方、社会保
障などの先行き不透明感から、若年層では将来不安が増大し、消費を抑制。
◆ 堅調に推移してきたインバウンド需要は、円高による購買力低下などから、けん引役
の中国人観光客の客数、一人当たり消費額ともに増勢が大きく鈍化。費目別では、い
わゆる「爆買い」と称される家電製品・高級品の大量購入は一巡し、今後消費額の大
幅な増加は期待薄。もっとも、足許では化粧品・医薬品など非耐久財や、サービスな
どへ需要がシフト。アジア新興国の所得拡大が続くとみられるなか、需要構造の変化
に対応することで、インバウンド需要は今後も底堅い拡大が期待可能。
◆ 以上より、維持・更新を中心とする堅調な設備投資や、人手不足を背景とする所得雇
用環境の改善に、補正予算の執行など政策面からの下支えも加わり、わが国景気は
2016年度および2017年度ともにゼロ%台半ばのプラス成長となる見込み。アベノミク
ス変調の評価を踏まえると、わが国が優先的に取り組むべき課題は、将来不安払しょ
くを通じた個人消費の拡大。そのためには、成長戦略の加速、社会保障の効率化、税
制面での改革などを通じて、財政の健全化に向けた道筋を示すことが重要。
日本総研
Research Report
<
目
次
>
1.現状
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(1)アベノミクス後低迷脱却の動きも、足許では足踏みが長期化
(2)アベノミクスに変調の動き
2.分析
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(1)円高による企業収益への影響
(2)個人消費の低迷長期化
(3)インバウンド需要の陰り
(4)官公需、物価
3.見通し
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
官公需下支えのもと民需が持ち直し緩やかなプラス成長へ
4.総括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
将来不安払しょくによる個人消費の持続的拡大がカギ
本件に関するご照会は、調査部・マクロ経済研究センター下記担当者宛にお願いいたします。
●国内経済総括
●家計部門、雇用賃金
●ファンダメンタルズ
●企業部門、外需
●現状分析
下田
小方
村瀬
菊地
成瀬
伊藤
裕介
尚子
拓人
秀朗
道紀
綾香
(
(
(
(
(
(
Tel:
Tel:
Tel:
Tel:
Tel:
Tel:
03-6833-0914
03-6833-0478
03-6833-6096
03-6833-6228
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03-6833-6967
Mail:
Mail:
Mail:
Mail:
Mail:
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[email protected][email protected][email protected][email protected][email protected][email protected] )
日本総研
Research Report
【現状】アベノミクス後低迷脱却の動きも、足許では足踏みが長期化
(1)わが国景気は足踏みが長期化。実質GDP成長率は、このところ一進一退の状況が持続(図
表1-1)。「アベノミクスに陰り」とも一部で指摘されるものの、安倍政権の発足とともに
2013年に本格始動したアベノミクスを振り返ると、それ以前のわが国の景気低迷からの脱却
を図る動きとして以下3点が指摘可能。
①金融市場における円安・株高への転換
日銀の異次元金融緩和に加え、日米金融政策の方向性の違いを背景とする両国金
利差の拡大、わが国貿易収支の赤字持続なども重なり、為替相場では大幅な円安が
進展(図表1-2)。これを受けて、株価も大幅に上昇。
②企業収益と雇用の改善
円安による輸出企業の採算改善などを背景に、企業収益はリーマン・ショック前
を上回る過去最高の水準まで拡大(図表1-3)。企業収益の増加は所得雇用環境の
改善にも波及し、なかでも雇用者数は過去最高を更新。
③長年続いたデフレ基調からの脱却の動き
物価面では、価格の変動の大きい食料(酒類を除く)やエネルギーを除くコアコ
アCPIが、アベノミクス始動後プラス基調に転じるなど、長引くデフレから脱却
する動き(図表1-4)。
(図表1-1)実質GDP成長率(前期比年率)
(図表1-2)為替相場と株価
(%)
10
(円/ドル)
(円)
22,000
130
円安・株高
5
120
0
110
▲5
100
20,000
18,000
16,000
その他
外需
民間在庫投資
設備投資
個人消費
実質GDP
▲10
▲15
14,000
90
80
▲20
2012
13
14
15
(%)
2.5
(千万人)
5.8
経常利益(全産業、左目盛)
雇用者数(右目盛)
8,000
2012
13
14
(資料)日本銀行、日本経済新聞
(図表1-3)企業収益と雇用者数(季調値)
(兆円)
20
10,000
日経平均(右目盛)
70
16
(年/期)
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」
18
12,000
ドル円(左目盛)
15
16
(年/月)
(図表1-4)コアコアCPI(前年比)
2.0
5.7
16
1.5
1.0
14
5.6
12
10
0.5
0.0
5.5
▲0.5
8
6
5.4
4
▲1.0
▲1.5
2
2005 06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
5.3
16
(年/期)
▲2.0
2010
11
12
13
(資料)総務省「消費者物価指数」
(資料)財務省「法人企業統計」、厚生労働省「労働力調査」
-1-
日本総研
14
15
16
(年/月)
Research Report
【現状】アベノミクスに変調の動き
(1)このように、アベノミクスは一定の効果をもたらしたものの、足許ではそのアベノミクスに
「変調」ともとれる動き。まず、為替相場においてはドル・円相場が円高方向へ転化したこ
とで、景気の好循環メカニズムの起点とされる企業収益は、製造業で下押し圧力が高まる状
況(図表2-1)。
(2)一方、個人消費については、2014年4月の消費税増税により大きく落ち込んで以降、足許ま
で低迷が持続。消費者マインドに改善がみられないなか、家計の消費支出は総じて横ばい圏
での推移が続いているほか、販売側の統計をみても、主力の飲食料品や衣料品の販売が伸び
悩み(図表2-2)。こうした状況を受けて、景気動向を端的に示す鉱工業生産指数は、在庫
調整が長引き、一進一退が長期化(図表2-3)。
(3)さらに、アベノミクスを契機とする円安により盛り上がったインバウンド需要にも陰り。ア
ジア諸国での所得増・ビザ緩和なども追い風となり、訪日外国人観光客数は年間2,000万人
超まで拡大したものの、その増加ペースは足許で大幅に鈍化(図表2-4)。
(4)今後のわが国景気を見通すうえで、これらの動きがどのように影響するか見極めることがポ
イントに。そこで以下では、アベノミクスの変調ともとれる、①円高による企業収益への下
押し圧力増大、②消費の低迷長期化、③インバウンド需要の陰り、の3点を中心とした分析
を通じて、2017年度までの景気動向を展望するとともに、わが国経済が抱える課題を考察。
(図表2-1)企業収益(季調値)
(%)
(図表2-2)消費者マインドと消費関連指標(季調値)
経常利益(右目盛)
30
売上高経常利益率(左目盛)
27
【非製造業】
24
【製造業】
6
4
100
18
95
15
(兆円)
90
▲2
12
▲4
9
6
▲6
3
▲8
▲10
2008
0
▲
11
14
2008
11
14
120
115
110
105
100
95
90
3
85
45
40
35
(2010年=100)
百貨店・スーパー販売額(季調値)
合計
衣料品
飲食料品
2013
14
15
(資料)内閣府「消費動向調査」、総務省「家計調査」、
経済産業省「商業動態統計」
(年/期)
(資料)財務省「法人企業統計」
(図表2-3)鉱工業生産指数と出荷・在庫バランス
(2010年=100)
鉱工業生産指数(季調値、左目盛)
104
100
96
94
改善
92
90
(%)
70
観光客
前年比(右目盛)
15
2,500
10
2,000
1,500
▲5
84
出荷・在庫バランス
(右目盛)
40
総数
30
20
外国人客数
その他 (季調値年率、
商用客
左目盛)
観光客
10
0
▲ 10
2012
13
14
15
(資料)経済産業省「鉱工業指数」
(注)出荷・在庫バランス=出荷前年比-在庫前年比
1,000
▲10
500
▲15
0
16
(年/月)
▲ 20
▲ 30
▲ 40
2013
14
15
(資料)日本政府観光局「訪日外客統計」
(注)前年比総数の直近は4・5月の推計値から算出。
-2-
60
50
3,000
(万人)
0
86
80
(図表2-4)訪日外国人客数
3,500
5
88
16
(年/月)
4,000
25
(%ポイント)
20
98
82
35
30
102
実質消費支出(住居等除く、左目盛)
50
消費者態度指数(右目盛)
105
21
2
0
(2010年=100)
110
日本総研
▲ 50
16
(年/期)
Research Report
【円高と企業収益】年初からの円高進行で、16年度企業利益は頭打ち
(1)購買力平価との対比でみると、異次元緩和を拡大した2014年秋以降、ドル円相場は購買力平
価を大きく超えて円安が進行(図表3-1)。こうした大幅な円安の進行は、大胆な金融緩和
を中心としたアベノミクスがもたらす景気・物価の押し上げ効果を過大評価していたことを
示唆。昨年末からの円高は、行き過ぎた円安の是正という側面も。足許では、英国のEU離
脱を巡る国民投票の結果(離脱派が勝利)を受け、マーケットでのリスク回避の動きも強
まっており、為替相場が購買力平価を大幅に上回るような円安水準への復帰は、当面、期待
し難く、むしろ円高地合いが長期化する公算大。
(2)円高の企業収益への影響を、日銀短観の経常利益計画を基に試算すると、2016年3月時点で
の1ドル=117円という想定為替レートのもとでは、2016年度は増益も見込まれたものの、
足許の円高水準が定着すれば下方修正は不可避で、105円を割り込む水準での推移が続けば、
前年度比減益となる公算(図表3-2)。
(3)なお、英国のEU離脱の影響については、輸出や海外現地法人売上高に占める英国のシェア
を踏まえると、直接的な影響は限定的とみられるものの、英国・EU間の離脱交渉が難航す
るとみられるなか、マーケットでの円高・株安の動きが、企業の景況感や消費者マインドの
重石となる見込み(図表3-3)。こうした影響により、2016年度のわが国実質GDP成長率
は▲0.2%ポイント程度下押しされる見込み。加えて、中期的にみると、英国をEU地域の
戦略拠点としている企業は、事業戦略の大幅な見直しを迫られる可能性も(図表3-4)。
(図表3-1)ドル円相場と日米購買力平価
(円/ドル)
プラザ合意(1985/9)
280
(%)
12
260
10
240
(図表3-2)日銀短観・経常利益計画
(3月調査、前年度比)
想定為替レート
119円/ドル
8
220
想定為替レート
117円/ドル
6
企業物価基準の購買力平価
200
4
180
2
160
0
140
▲2
2015年度
2016年度 2016年度
2016年度
2016年度
(実績見込み) (計画) (110円/ドル) (105円/ドル) (100円/ドル)
(資料)日本銀行「短観」などを基に日本総研作成
(注1)2015年度(実績見込み)、2016年度(計画)は、過去の修正パ
ターンを基に調整。
(注2)2016年度(110円/ドル、105円/ドル、100円/ドル)は、マクロモ
デルにおける円高の影響などを基に試算。
100
80
ドル円(月中平均)
60
1980
85
90
95
00
(資料)日本銀行「企業物価指数」
米労働省「生産者物価指数(PPI)」
05
10
100円/ドル
のケース
110円/ドル
のケース
▲4
120
105円/ドル
のケース
15
(年/月)
(図表3-3)地域別輸出と海外現地法人売上高
(図表3-4)EU域内の現地法人企業の各国シェア
英国除く
英国 EU,9.6%
3.3%
外側:EU域内の現地法人企業数に占める各国シェア(2014年度)
内側:EU域内のGDPに占める各国シェア(2014暦年)
アジア
43.5%
米国
20.1%
英国,1.7%
【輸出(
2015年)
】
【
海外現地法人売上高
(
2014年度)
】
その他
12.6%
米国,30.0%
英国除く
EU,8.8%
アジア
53.3%
スペイン
4.1%
ベルギー
3.9%
英国
24.3%
14%
イタリア
5.6%
フランス
10.9%
その他
16.0%
(資料)財務省「貿易統計」、経済産業省「海外事業活動基本調査」
その他
15.5%
オランダ
14.2%
(資料)経済産業省、IMFを基に日本総研作成
(注)GDPのシェアは購買力平価ベース。
-3-
日本総研
ドイツ
21.6%
Research Report
【円高と企業収益】収益が伸び悩むなかでも設備投資は底堅く推移
(1)設備投資についてみると、企業収益や景況感の下振れが、これまで緩やかながら持ち直して
きた設備投資を下押しする可能性。とりわけ、企業収益の減少は、企業の成長期待の低下な
どを通じ、能力増強投資を下押しする公算(図表4-1)。
(2)もっとも、設備の老朽化などを背景に、足許では、潤沢なキャッシュフローのもと、収益動
向に依存せず更新投資を進める企業は増加しており、収益の減少による更新投資への下押し
影響は比較的軽微(同図表4-1、図表4-2)。また、人手不足を背景に、省力化・合理化投資
への需要に底堅さも。こうした需要が下支えすることで、設備投資が腰折れするリスクは小
と判断。
(3)所得雇用環境についても、企業収益の下振れを背景に、改善傾向が腰折れする可能性は小。
足許では、人手不足などを背景に、非製造業が所得雇用環境の改善をけん引(図表4-3)。
(4)労働分配率の動きをみると、足許で利益が伸び悩むなかでも、人手不足下での人員確保に向
け、企業が人件費を維持している姿勢が看取可能。ちなみに、既往の利益増加に比べ賃金の
上昇が遅れたことから、労働分配率は実質賃金と労働生産性の水準が示す均衡労働分配率と
比べ低水準(図表4-4)。企業が労働分配率を低水準に維持するために、人件費抑制を強化
し、結果として所得雇用環境が腰折れする懸念は小。
(図表4-1)経常利益の変動が目的別設備投資
に与える影響(大企業・製造業)
(%ポイント)
0.5
(図表4-2)設備の平均経過年数
(年)
17
0.4
15
0.3
14
0.2
13
12
0.1
11
0.0
10
能力増強
維持・補修
<22.2%>
<24.4%>
(資料)財務省、日本政策投資銀行を基に日本総研作成
(注1)大企業製造業の経常利益(前年比、1期先行)と、目的別設備
投資額(前年比)の弾性値を試算。前年の経常利益が1%増加
した場合、当年の目的別設備投資を何%増加させるかを示す。
(注2)推計期間は2000~2014年。それぞれ統計的に1%水準で有意。
(注3)<>内は、2015年度計画における投資全体に占めるシェア。
(%)
4.0
全産業
製造業
非製造業
16
(図表4-3)雇用者報酬増加率と人手不足感
(2016年1~3月期)
(%ポイント)
雇用者報酬(前年比、左目盛)
人手不足
▲30
雇用・人員判断DI(右逆目盛)
3.5
▲25
2.0
1.5
▲20
▲15
▲10
0.0
製造業
非製造業
(資料)日本銀行「短観」、厚生労働省「毎月勤労統計」を基に
日本総研作成
(注)雇用者報酬は、現金給与総額指数×常用雇用指数。
7
1980
84
88
92
96
00
04
08
12
(資料)内閣府「民間企業資本ストック」などを基に日本総研作成
(年)
(図表4-4)労働分配率
(%)
74
均衡労働分配率
労働分配率
72
70
68
64
62
60
58
56
1.0
0.5
8
66
3.0
2.5
9
▲5
0
13
16
(年/期)
(資料)財務省「法人企業統計」、内閣府「国民経済計算」などを基に
日本総研作成
(注)労働分配率=WL/PY=W/P(実質賃金)×L/Y(生産性の逆数)
W:一人当たり賃金、L:就業者数、P:GDPデフレーター、Y:付加価
値額。実質賃金と労働生産性の共和分ベクトルを推計し、均衡労働
分配率を推計。
-4-
1986
89
92
95
98
01
04
日本総研
07
10
Research Report
【消費低迷の背景】可処分所得の伸び悩みが消費を下押し
(1)個人消費は、低迷が長期化。雇用情勢の改善は続き、賃金も小幅ながらプラスに転じたもの
の、消費統計は、需要側、供給側ともに横ばい圏内で推移(図表5-1)。
(2)個人消費低迷の背景としては、循環的・一時的要因から、まず、昨夏以降の株価の伸び悩み
を指摘可能。2013年から2015年半ばにかけて、家計部門全体で毎期平均前年差49兆円にのぼ
る株式評価益が発生していたものの、2015年下期に失速し、2016年1~3月期には同29兆円
の減少に(図表5-2)。これに伴い、これまで消費を押し上げてきた資産効果が減衰し、足
許では、消費を下押しする逆資産効果が発生。
(3)加えて、家電エコポイント、消費増税前駆け込み消費などによる耐久消費財需要先食いの反
動も残存。家計部門の実質主要耐久消費財のストックは、エコカー補助金などの制度が始
まった2009年以降、従来のトレンドから大幅に上振れ(図表5-3)。2014年時点では2割以
上上回る水準に。
(4)一方、個人消費低迷の構造的な要因としては、年金・医療保険料などの社会負担や税負担の
増加に伴う可処分所得の伸び悩みを指摘可能。家計の収入の大部分を占める雇用者報酬は、
アベノミクス始動後、着実に増加したものの、家計の収入から税や社会保険料などの支払い
を差し引いた可処分所得は、負担増を反映し伸び悩み(図表5-4)。
(図表5-1)需要側と供給側の消費統計
(図表5-2)株価と家計部門の株式評価益(前年差)
供給側消費統計(日銀・実質
消費活動指数(旅行収支調
整済))
需要側消費統計(総務省・消
費水準指数(除く住居など))
(2013年=100)
110
105
評価損益前年同期差(左目盛)
日経平均株価(右目盛)
シミュレーション(円)
120
20,000
100
15,000
80
(兆円)
100
10,000
60
40
5,000
95
20
0
0
90
2013
14
15
16
(年/月)
(資料)日銀、総務省を基に日本総研作成
(注1)需要側・供給側ともに、うるう年の影響を調整。
(注2)供給側消費統計の直近値は、旅行収支を調整していない指数
の前月比で先延ばし。
▲ 20
▲ 40
2012
200
150
14
15
16
(資料)日本銀行、日経NEEDSを基に日本総研作成
17
(年/期)
(図表5-4)雇用者報酬と可処分所得(季調値)
(図表5-3)家計の主要耐久財実質残高
(兆円)
250
13
(2012年=100)
106
その他
情報・通信機器
個人輸送機器
家庭用器具
家具・敷物
94~08年トレンド
雇用者報酬
105
可処分所得
104
103
102
100
101
100
50
99
0
1994 96
98
00
02
(資料)内閣府「国民経済計算」
(注)2005年価格基準。
04
06
08
10
12
98
14
(年)
2012
13
14
15
(資料)内閣府「国民経済計算」を基に日本総研作成
-5-
日本総研
16
(年/期)
Research Report
【消費低迷の背景】若年層の将来不安も消費を抑制
(1)社会負担関連では、年金や健康保険料率が継続的に引き上げられたほか、税関連でも、配当
所得税の軽減措置の撤廃(2014年1月)や、所得税の最高税率引き上げ(2015年1月)など
の増税措置が実施されたことで、家計負担は大幅に増加。家計の収入に占める税・社会負担
の割合は、25%程度まで上昇(図表6-1)。
(2)個人消費に医療・介護保険の公的支出(一般的には政府消費に計上)などを加えた家計現実
最終消費は、個人消費と対照的に趨勢的に増加(図表6-2)。高齢化に伴い医療・介護へと
需要がシフトするなか、税・社会負担は、目立たない形で公的社会保障支出の増加を通じマ
クロ経済を下支えしている側面も。もっとも、これと表裏一体で、社会保障制度を維持する
ための家計負担の引き上げが、可処分所得を圧迫し、その他の消費活動の重石となるという
構図。
(3)このように税・社会負担が継続的に引き上げられるなか、将来の負担増に対する防衛意識も
高まっており、とりわけ、将来不安が強い若年層で、消費性向の低下傾向が鮮明に(図表
6-3、6-4)。社会保障制度に対する信頼が揺らぎ、現在の給付水準を長期的に維持できるか
不透明になっていることも、若年層の防衛意識を強め、個人消費を下押ししている可能性。
こうした将来不安を払しょくすることができなければ、個人消費の力強い拡大は期待し難い
状況。
(図表6-2)個人消費と家計現実最終消費
(兆円)
(季調値)
(図表6-1)家計の収入に対する
税・社会負担の比率
(%)
26
(兆円)
税負担
社会負担
家計の収入に対する税・社会負担の比率
24
個人消費(左目盛)
320
360
家計現実最終消費(右目盛)
22
20
310
350
300
340
290
330
280
320
18
16
14
12
10
1994 96 98 00 02 04 06 08 10
(資料)内閣府「国民経済計算」を基に日本総研作成
(注)税負担は、所得・富等に課される経常税(支払)。
12
14
(年度)
270
1994
97
00
03
06
09
12
(資料)内閣府「国民経済計算」を基に日本総研作成
(注)個人消費は、民間最終消費支出。
(図表6-3)今後の生活の力点として「貯蓄や
投資など将来に備える」をあげた者のシェア
310
15
(年/期)
(図表6-4)世帯主年齢階層別の
消費性向(総世帯)
(%)
130
90
(%)
60
20~29歳
30~39歳
50
35歳未満(左目盛)
35~59歳(左目盛)
60歳以上(右目盛)
85
(%)
80
125
120
40~49歳
40
75
115
70
110
65
105
50~59歳
30
60~69歳
20
70歳以上
10
60
100
2003
0
2003 05
07
09
11
13
05
07
09
11
(資料)総務省「家計調査」(総世帯)
(注1)勤労者世帯。60歳以上は無職世帯と
勤労者世帯の加重平均。
(注2)後方4期移動平均。
15
(年)
(資料)内閣府「国民生活に関する世論調査」
-6-
日本総研
13
15
(年/期)
Research Report
【インバウンド変調】高額品から非耐久財・サービスへ需要がシフト
(1)インバウンド需要においては、訪日外客数は増加基調が持続しているものの、足許で伸びが
鈍化。また、1人1回当たりの旅行消費額は減少に転じており、訪日外国人旅行消費額は昨
年後半以降、増勢が鈍化(図表7-1)。とりわけ、1人当たりの旅行消費額・訪日客数とも
に大きい中国の旅行者数・消費額の増勢鈍化が、全体の旅行消費額を大きく下押し。
(2)訪日中国人の旅行消費単価を来訪回数別にみると、円高による購買力の低下などから、2~
3回目のリピーターの消費額が大きく減少(図表7-2)。また、来訪回数別のシェアをみる
と、消費単価が底堅く推移する4回目以上の訪日客のシェアが低下しており、全体の旅行消
費額の伸びの鈍化に作用(図表7-3)。
(3)費目別にみると、カメラ・時計や家電製品などの、高額品の購入金額、購入率は足許で減少
(図表7-4)。円高や中国当局による国外での消費に対する規制強化などを背景に、いわゆ
る「爆買い」と称される、家電製品、高級品の大量購入は一巡しつつあり、今後は、これま
でのような消費額の大幅な増勢は期待しにくい状況。
(4)もっとも、2014年10月の免税制度拡大の恩恵もあり、化粧品・医薬品・トイレタリーなど
は、購入金額、購入率が増加・上昇しており、インバウンド需要の中心は、「爆買い」に象
徴される耐久消費財から、非耐久消費財へとシフト(同図表7-4)。また、ゴルフ場・テー
マパークなどのサービス消費が増加傾向にあるなど、モノからコトへの消費行動の変化の兆
しも。アジア新興国の所得拡大が今後も続くなか、インバウンド需要は底堅い増加基調が続
くとみられるものの、こうした消費行動の変化に対応し、幅広いインバウンド需要の取り込
みを進めることが、これまで以上に重要に。
(図表7-1)訪日外国人旅行消費額(前年比)と
実質実効為替レート
(%)
(%)
120
▲24
100
▲20
80
▲16
60
▲12
40
▲8
20
▲4
0
▲40
▲60
▲80
2011/2
元高・円安
18
17
300,000
16
250,000
15
12
13
14
15
14
8
150,000
12
16
100,000
16
(年/期)
32.3
80
8.9
15.5
23.1
8.3
10.9
20.6
7.3
13.8
7.3
4回目~
3回目
18.1
2回目
20.1
1回目
40
53.9
50.4
58.3
56.6
36.7
0
2012
13
14
15
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」
16
(年)
13
12
11
10
(年)
(図表7-4)訪日中国人の費目別購入金額・購入率
(1~3月期)
16.7
19.5
1回目
2回目
3回目
4回目~
人民元レート(右目盛)
2012
13
14
15
16
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、Thomson Reuters
(注)人民元レートは1~3月期平均。
(図表7-3)訪日中国人の来訪回数
(1~3月期)
21.8
20
19
350,000
200,000
4
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、日本銀行
60
20
400,000
0
その他旅行者数要因
その他1人当たり消費額要因
中国人旅行者数要因
円高
中国人1人当たり消費額要因
旅行消費額
実質実効為替レート(前年比、右目盛)
▲20
(%)
100
(図表7-2)訪日中国人1人1回あたり旅行消費単価
(1~3月期)
(円/元)
(円)
カメラ・ビデオカメラ・時計
電気製品
化粧品・医薬品・トイレタリー
医薬品・健康グッズ・トイレタリー
ゴルフ場・テーマパーク(右目盛)
(千円)
(千円) (%)
(%)
<購入率>
<購入金額>
120
18 90
9
16 80
8
100
14 70
7
80
12 60
6
10 50
5
60
8 40
4
40
6 30
3
4 20
2
20
2 10
1
0
0
0 0
2012 13 14 15 16
2012 13 14 15 16
(年)
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」
(注)2014年から「化粧品・医薬品・トイレタリー」は分類変更により、
「化粧品・香水」と「医薬品・健康グッズ・トイレタリー」に分割。
-7-
日本総研
Research Report
【官公需/物価】公共投資の増加が景気下支えに作用
(1)景気を見通すうえで、その他の変動要因として公的部門についてみると、足許では、2015
年度補正予算や16年度予算の前倒し執行などが本格化しつつあり、公共投資の先行指標であ
る公共工事請負金額は大幅に増加(図表8-1)。今後は、熊本地震の復興関連補正予算の執
行も始まるとみられることから、公共投資の増加が景気下支えに作用する公算。
(2)一方、物価動向については、2014年度の消費税率引き上げに伴う影響がはく落するなか、原
油安を背景とするエネルギー価格の下落を受けて、コアCPIは2015年度入り後、伸びが大
きく鈍化し、足許では2ヵ月連続の前年比マイナス(図表8-2)。
(3)先行きは、原油価格が持ち直しに転じるなか、エネルギーの下押し圧力が今後減衰するとと
もに、コアCPIは騰勢を取り戻していく見通し。もっとも、為替は円高基調が続くとみら
れるなか、輸入物価の下落が物価上昇に対する重石に。
(4)加えて、日銀の金融政策は、量的・質的金融緩和導入時こそは、企業マインドや消費者マイ
ンドにプラスに作用したものの、その後影響力は減衰し、足許では外部環境の悪化もあり、
効果を発揮できない状況(図表8-3)。また、需要面をみても、景気の低迷長期化を背景に、
マクロ的な需給バランスの改善が足踏み。こうした状況を受け、企業の物価見通しは低下傾
向が続いているほか、家計の物価見通しも伸びが小幅にとどまるとの見方が増えるなど、イ
ンフレ期待も伸び悩み(図表8-4)。こうした状況を踏まえると、物価は今後プラスに転じ
た後も、上昇ペースは緩やかなものにとどまる見込み。
(図表8-1)公共工事請負金額と公共投資
(兆円)
(年率、季調値)
(兆円)
25
名目公共投資(左目盛)
公共工事請負金額(1期先行、右目盛)
(図表8-2)コアCPIと原油、ドル・円相場(前年比)
(%)
4
エネルギー除くその他
消費税率引き上げの影響
140
その他
耐久消費財
120
生鮮除く食料
エネルギー
100
コアCPI(左目盛)
80
(%)
3
16
24
2
15
23
1
22
13
60
0
14
40
▲1
20
▲2
21
12
20
11
19
10
0
↓前年対比円高
▲3
原油輸入価格
(円建て、右目盛)
▲4
2010
11
12
13
14
15
16
(年/期)
(図表8-3)日銀金融緩和後の各種指標推移
(各イベントの前月=100)
②追加緩和決定(14/10)
120 ①異次元緩和(13/4)
115
2012
(%)
1.8
株高
円安
105
1.2
100
0.8
95
0.6
80
75
-2
0
2
4
-2
0
2
4
15
16
-2 0 2 4
(各イベントの当月=0/月)
(資料)内閣府「景気ウォッチャー調査」、「消費動向調査」、
Bloomberg L.P.
(注)景気ウォッチャー調査と消費者態度指数は季調値。株価と為替は
月末値で、直近は2016年6月28日実績値。
▲40
17
(図表8-4)企業や家計の物価見通し
企業の物価見通し(左目盛)
200
180
5年後
3年後
家計の1年後の物価見通し
(回答割合、右目盛)
+5%以上
+2%~+5%
+2%未満
1年後
160
140
120
(%)
100
80
0.4
日経平均株価
ドル・円相場
景気ウォッチャー調査(企業動向関連、現状判断DI)
消費者態度指数
85
14
1.4
1.0
90
13
1.6
③マイナス金利
導入決定(16/1)
110
弊社予測
▲20
▲60
18
(年/期)
(資料)総務省「消費者物価」、Bloomberg L.P.などを基に日本総研作成
(注)予測のエネルギーはガソリン+光熱水道。
▲5
(資料)内閣府、建設業保証を基に日本総研作成
ドル・円
(右目盛)
0.2
60
0.0
40
(0.2)
20
(0.4)
0
2014
15
16
(年/期調査)
(資料)日本銀行「短観」、内閣府「消費動向調査」
(注)家計の物価見通しは、消費動向調査の該当四半期最終月実績。
直近は2016年5月調査。
-8-
日本総研
Research Report
【見通し】官公需下支えのもと民需が持ち直し緩やかなプラス成長へ
(1)以上の分析を踏まえてわが国経済を展望すると、①2015年度補正予算や16年度予算の前倒し
執行を受けた公共投資の持ち直し、②人手不足などを背景とした所得雇用環境の改善、③設
備の老朽化などを背景とした更新投資の増加、などが景気下支えに作用するなか、震災のマ
イナス影響や在庫調整が一巡するにつれて、景気は持ち直しに向かう見通し(図表9-1)。
(2)2017年度に向けても、消費増税延期により下振れ要因がなくなるなか、景気回復基調が続く
見込み。もっとも、税・社会負担の増加などを背景に個人消費の増勢は力強さを欠くとみら
れるほか、公共投資による押し上げ効果も一巡する見込み。インバウンド需要も増勢は続く
ものの、これまでのような力強い伸びは期待し難いことから、景気回復ペースは緩やかにと
どまる見通し。
(3)以上の結果、2016年度は、年央以降の持ち直しや官公需を下支えに、また、2017年度は、官
公需による押し上げ効果が減衰する一方、民需の回復基調が続くことで、それぞれ、ゼロ%
台半ばのプラス成長となる見込み。
(4)物価については、原油価格の低水準での推移に伴うエネルギー価格の前年比下落が、当面下
押しに寄与。もっとも、原油価格に底打ちの兆しがみられるなか、今後物価は騰勢を取り戻
していく見通し。ただし、円高・インフレ期待の伸び悩みなどを背景に、上昇ペースは緩や
かなものにとどまる見込み。
(5)こうした景気・物価見通しにおける下振れリスクとしては、以下3点を指摘可能。
①欧州(政治):英国のEU離脱を問う国民投票の結果は「離脱」となり、同国の先行き
不透明感は一段と増す方向。他の欧州各国でも、今回の結果を受けてE
U懐疑論が勢いづく恐れがあり、金融市場の混乱を招く可能性も。
②中国(経済):ハードランディングにより、世界経済が大幅に減速。金融市場の混乱を
通じたマイナス影響のほか、財輸出やインバウンド需要でも影響は大。
③米国(政治):大統領選挙が本格化するなか、クリントン、トランプいずれの候補が当
選しても、内向き志向が高まる恐れ。円高の進行、TPP再交渉となれ
ば、わが国経済には無視できない影響となる可能性。
これらのリスクが連鎖的に発生すれば、円の急騰・株価の急落、海外経済の減速が景気を
大きく下押しし、デフレ圧力が再び強まる事態に。
(図表9-1)わが国経済および物価などの見通し
(前期比年率、%、%ポイント)
2015年
10~12
2016年
1~3
(実績)
実質GDP
▲ 1.8
4~6
2017年
7~9
10~12
1~3
4~6
2018年
7~9
10~12
1~3
2015年度 2016年度 2017年度
(予測)
1.9
▲ 0.8
1.1
0.9
0.7
0.4
(実績)
(予測)
0.4
0.3
0.3
0.8
0.4
0.5
個人消費
▲ 3.2
2.6
▲ 1.0
0.7
0.5
0.3
0.2
0.2
0.3
0.3
▲ 0.2
0.2
0.3
住宅投資
▲ 4.1
▲ 2.9
2.6
2.8
0.8
▲ 3.8
▲ 3.4
▲ 1.9
0.4
0.7
2.4
0.4
▲ 1.6
設備投資
在庫投資
5.2
(寄与度)
(▲ 0.7)
▲ 2.6
(▲ 0.4)
2.2
(▲ 0.3)
2.4
(▲ 0.2)
2.2
( 0.0)
2.1
( 0.2)
2.0
( 0.0)
1.9
( 0.0)
1.8
( 0.0)
2.0
( 0.0)
2.0
( 0.3)
1.8
(▲ 0.3)
2.0
( 0.0)
政府消費
2.9
3.0
0.5
0.6
0.6
0.6
0.6
0.6
0.6
0.6
1.5
1.3
0.6
公共投資
▲ 13.8
▲ 2.9
3.4
7.9
3.1
▲ 0.2
▲ 1.3
▲ 2.8
▲ 7.6
▲ 7.4
▲ 2.7
0.2
▲ 2.0
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
(▲ 0.0)
公的在庫
(寄与度)
(▲ 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
輸出
▲ 3.1
2.4
▲ 0.4
2.8
2.4
2.3
2.3
2.5
2.6
2.7
0.4
1.5
輸入
▲ 4.3
▲ 1.6
3.2
2.9
2.8
2.6
2.4
2.3
2.4
2.6
▲ 0.1
1.4
国内民需
(寄与度)
(▲ 2.0)
( 0.6)
官公需
(寄与度)
(▲ 0.1)
( 0.5)
純輸出
(寄与度)
( 0.3)
( 0.7)
(▲ 0.6)
( 0.5)
( 0.6)
( 0.1)
( 0.0)
2.4
2.5
( 0.6)
( 0.6)
( 0.5)
( 0.3)
( 0.3)
( 0.4)
( 0.4)
( 0.2)
( 0.4)
( 0.3)
( 0.1)
( 0.1)
( 0.0)
(▲ 0.2)
(▲ 0.2)
( 0.2)
( 0.3)
( 0.0)
(▲ 0.6)
(▲ 0.0)
(▲ 0.1)
(▲ 0.1)
(▲ 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
(▲ 0.0)
( 0.1)
( 0.0)
(▲ 0.0)
(前年同期比、%)
名目GDP
2.2
0.9
0.9
0.5
1.0
0.7
1.1
0.9
0.8
0.9
2.2
0.8
0.9
GDPデフレーター
1.5
0.9
0.6
0.3
0.3
0.2
0.4
0.3
0.4
0.5
1.4
0.4
0.4
0.0
▲ 0.1
▲ 0.4
0.1
0.3
0.8
0.8
0.8
0.9
0.9
0.0
0.2
0.8
消費者物価指数
(除く生鮮)
完全失業率(%)
円ドル相場(円/ドル)
原油輸入価格(ドル/バレル)
3.3
3.2
3.2
3.2
3.1
3.1
3.1
3.1
3.1
3.1
3.3
3.2
3.1
121
115
108
100
98
98
99
100
101
101
120
101
100
46
33
42
47
48
51
54
57
59
61
49
47
58
(資料)内閣府、総務省などを基に日本総研作成
(注1)2016年4~6月期の個人消費の落ち込みは、「うるう年要因」による2016年1~3月期の高い伸びの反動が含まれている。
(注2)海外経済の見通し(CY16→CY17)は、米国:+1.8%→+2.3%、ユーロ圏:+1.3%→+1.0%、中国:+6.6%→+6.5%。
-9-
日本総研
Research Report
【総括】将来不安払しょくによる個人消費の持続的拡大がカギ
(1)前頁までの分析より、アベノミクスの変調とも取れる動きについて整理すると、
①「為替相場の円高方向への転換による企業業績への影響」については、収益が下押し
されるものの、企業の設備投資や所得雇用環境は今後も底堅く推移。
②「個人消費の低迷長期化」は、株価低迷を背景とするマインド悪化や様々な喚起策に
よる需要先食いの面がある一方、高齢化に伴う負担増や将来負担への不安感増大など
構造的なマイナス要因が大きな重石となっており、今後も増加ペースは緩やかに。
③「インバウンド需要の陰り」については、円安・中国景気の拡大などを背景に需要が
急増する局面は一段落。もっとも、アジア新興国の所得拡大が今後も続くなか、需要
構造の変化に対応することで、今後も底堅い拡大が期待可能。
(2)以上を踏まえると、今後わが国においては、低迷が続いている個人消費を、将来不安を取り
除くことで持続的な拡大トレンドへと転換させることが最大かつ最優先の課題。そのために
は、持続的な経済成長の実現に向けた取り組みを一段と加速させるとともに、財政の健全化
に向けた道筋を示すことが重要。
(3)これまでのアベノミクスを振り返ると、まず、金融政策(第1の矢)は、量的・質的金融緩
和の導入当初こそは、過度な円高・株安の是正など一定の成果を収めたものの、追加対応を
重ねるごとに効果は減衰。さらに、財政政策(第2の矢)も、その効果は一時的な需要創出
にとどまっており、政府債務の累増が若年層の将来不安を強め、個人消費の下押し要因と
なっている可能性。こうした点を踏まえれば、成長率の持続的な引き上げには、第1、第2
の矢に頼った従来の政策をあらため、第3の矢である成長戦略を推し進める姿勢をより明確
に示すことが必要。秋に策定される予定の新たな経済対策においても、一時的な景気押し上
げ効果にとどまれば、わが国の厳しい財政状況を一段と悪化させる恐れがあることから、持
続的な成長に資する使い道を熟慮する必要。
(4)これまで打ち出された成長戦略をみると、方向性としては概ね正しく、一定の成果がみられ
る一方、実現に向けた取り組みがなかなか進まない分野もあり、それらの分野で、具体的な
取り組みを一段と加速させることが必要。例えば、労働市場改革についてみると、長時間労
働の是正や働き方の多様化などを進め、女性の活躍や成長分野への労働移動を促進していく
という方向性は妥当なものの、既存の雇用制度との両立に向けた議論や、実現に向けた法制
度の整備といった具体的な取り組みは、十分に進んでおらず。また、インバウンド需要にお
いても、宿泊施設拡充のための容積率の緩和や民泊の活性化に向けた環境整備が検討されて
いるが、客室稼働率の上昇を背景に宿泊料の高騰が続いている現状を踏まえれば、こうした
取り組みの迅速な実現とともに、実効性を高めていくことが必要(図表10-1)。
(5)こうした取り組みを通じて、わが国の潜在成長率を引き上げることができれば、安定的な税
収増の実現が可能となり、財政健全化に向けた道筋もより明確に。ちなみに、経済成長率の
引き上げが財政に与える影響を試算したところ、名目GDP成長率を安定的に+2.0%(弊
(図表10-1)客室稼働率とCPI宿泊料(季調値)
(2010年=100)
(%)
64
客室稼働率(左目盛)
62
CPI宿泊料(右目盛)
(%)
2
115
(図表10-2)国・地方の基礎的財政収支
名目GDP成長率:+3.0%
名目GDP成長率:+2.0%
名目GDP成長率:+1.0%
0
60
110
58
56
105
54
52
▲2
▲4
▲6
試算
50
100
48
46
44
95
2009
10
11
12
13
14
15
16
(年/月)
(資料)観光庁「宿泊旅行統計」、総務省「消費者物価指数」
(注)季節調整値は日本総研作成。
▲8
2000 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20
(年度)
(資料)内閣府、財務省などを基に日本総研作成
(注1)税収は、JRIレビュー 2015 Vol.9 蜂屋勝弘「税収の増加ペースと
税収弾性値に関する考察」を参考に、税収弾性値を1.22と想定し試
算。歳出などは、2016年1月時点の政府見通しを参考。
(注2)2019年10月に消費税率の10%への引き上げを実施(軽減税率も
導入)すると想定。
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日本総研
Research Report
【総括】社会保障の効率化や税制改革も不可欠
社見通しは、2016年度+0.8%、17年度+0.9%)に引き上げることができれば、2019年10月
に延期された消費税率10%への引き上げ実施も加味すると、国・地方の基礎的財政収支の名
目GDP比は、2020年度に現在の水準から半分以上圧縮され、▲1.1%まで削減することが
可能(前頁図表10-2)。
(6)もっとも、世界的にも最悪の水準にあるわが国の財政状況を踏まえると、実現可能なレベル
への成長率の引き上げだけではわが国財政の再建を達成するのは困難であり、別のアプロー
チからの取り組みも不可欠。
(7)具体的に求められる取り組みとしては、第1に、社会保障支出の便益効率の向上。若年層の
将来不安を和らげるには、社会保障による支援を厚くすることが必要であるものの、現在社
会保障の多くを占める高齢者向けの支出を削減し、若年層向け支出に充てる対応をとった場
合、代わって高齢者が自己負担の増加を通じて消費抑制を強める恐れ。単なる削減・振り向
けではなく、パイの取り合いとならないよう、いかに「便益効率の向上」を図るかが重要。
(8)具体的には、「混合診療型」で健康支援や予防医療などの市場拡大を促し、支出の中心をそ
れらの分野に移していくことで、一人ひとりの健康寿命を延ばすことができれば、高齢者の
負担を増やすことなく将来の医療費を抑制することが可能に(図表11-1)。また、個人の生
涯にわたる健康・診療情報を統合・蓄積・活用する仕組みを整備することは、新たな健康商
品・サービスの開発だけでなく、診療精度の向上や重複検査の回避などを通じた医療費の抑
制につながるものと期待。こうした取り組みで捻出される財源の一部を、保育・教育の充実
など若年層向けの支出に振り向けることで、財政に過度な負担を強いることなく、若年層の
将来不安を和らげるとともに、個人消費の拡大に結びつけることが可能に。
(9)第2に、増税措置による歳入増加への取り組み。わが国の成長力強化に向けては、海外から
の投資を呼び込むためにも、法人税の引き上げは難しい状況にあることから、消費税・所得
税・資産課税など他の税目を中心にバランスをどう図るかを検討していくことが必要。消費
税については、他の税と比べ景気動向に左右されにくい比較的安定的な財源であり、2019年
10月に延期された消費税率10%への引き上げは、確実に実施することが必要。将来不安が若
年層の消費を下押ししている現状を踏まえれば、消費増税を年金・医療を中心とした社会保
障の充実に使用するという現在の枠組みにしばられず、保育・教育など現役世代・将来世代
向けの支出を拡充する目的で、消費税率の上積みを検討することも一案(図表11-2)。将来
不安が和らげば、増税による個人消費の落ち込みは、ある程度避けられる可能性も。一方、
所得課税や資産課税についても、累進的な金融所得課税の検討や、相続税の引き上げ余地な
ども含め、どのように税負担の見直しを進めていくか議論を深めていく必要。
(図表11-1)総保険医療支出の内訳
その他
予防・公衆衛 (OECDベース、2012年)
(図表11-2)当初の消費増税分の使い道
(兆円)
2.2%
生サービス
2.9%
医療財(処方
薬、一般薬
など)
22.2%
合計 14.0
14
12
2.8
10
社会保障の充実
合計 8.2
8
1.4
長期医療系
サービス(介
護など)
9.1%
その他
7.3
6
診療・リハビ
リテーション
サービス
63.6%
4
2
(資料)OECD "Health Statistics"
(注)ただし、OECDベースの総医療支出は、介護、予防・公衆衛生
サービスを中心に、過小推計となっているため、注意を要する。
詳しくは、JRIリサーチ・フォーカスNo.2015-025 西沢和彦
「日本の医療費は公表値よりさらに高い」などを参照。
3.4
3.0
後代負担の軽減
(赤字削減)
基礎年金国庫負担
3.2
0
2016年度
2018年度
(資料)財務省
(注)2016年度(8%)、2018年度(10%)で増税分が満額になると想
定。軽減税率は考慮せず。
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日本総研
Research Report