週次レポート 平成 28 年 6月 13日 円高圧力の継続と歯止めをにらむ 米

週次レポート
平成 28年 6月 13日
円高圧力の継続と歯止めをにらむ
米日の中銀会合、英投票、世界金利低下の過熱焦点
今週の為替相場は、ドル/円、クロス円での円高圧力継続と歯止めをにらんだ展開が予想されよう。週間予
想はドル/円が 1
04.80
-108.2
0円、ユーロ/
円が 11
8.3
0-121.90円。23日の英国における EU離脱を問う国
民投票の不透明感が高まるなか、リスク回避の円高が警戒されやすい。14-15日の米 FOM
Cでの利上げ見送
り観測も、ドル安・円高の材料となる。一方、FOMCで 7月以降の利上げが示唆されたり、15-16日の日銀政
策会合での追加緩和や緩和地ならし、世界的な金利低下の過熱調整などで反動円安の可能性も残されている。
円高・債券高が過熱、ドル建て円債価格は 2番天井攻防
「3年前にアベノミクスが始まって以来、日本国債を買い越しているのは日銀と外国人投資家である。こ
の 3年間で日本国債の外国人保有比率は 2倍以上となり、2015年末時点では日銀の保有高を除くと外国人投
資家は日本国債の 1
8.2%を保有している。従って、日本国債と円の脆弱さは高まっており、グローバルな資
金フローの影響を受けやすくなっている。この状況では円は構造的に弱い通貨になりつつある」――。
米国の大手運用会社幹部は、中長期的なリスクとしてこのような警告を発する。しかし、足元では英国の
EU離脱懸念に伴う安全逃避や米 FRBの利上げ遅延などにより、世界的に長期国債金利の低下が加速してきた
(債券価格は高騰)。日本では改めてリスク回避による債券高・円高・株安が進展している。
その中で外国人投資家による日本国債投資で判断材料となる「ドルベースでの日本の債券価格指数」は、
過去最高値を巡る重要攻防に直面してきた。日本の債券価格指数(ブルームバーグ・EFFAS
=欧州証券アナリ
スト協会連合会の債券指数、10年以上)は 10日、ドル換算で 4.144ドル前後となり、2012年 11月以来の高
値を更新してきた。
前回の複合デフレによる円高・債券高(金利は低下)を受けたドル建ての過去最高値が、20
12年 7月から
9月の 4.22ドル前後となっている。今後は一気に過去高値を突破し、一段と円高・債券高がオーバーシュー
トしていくか。あるいは過去最高値圏で頭打ちから高値横這いに移行し、歴史的な 2番天井とクライマック
スを形成。ジワリと前出の米国金融筋が指摘するような「日本国債と円の脆弱性」が表面化してくるアリの
一穴となるか、重要な分岐点に直面している。
短期的には 23日の英国投票まで不透明感が残り、為替相場ではドル/円、クロス円で円全面高の波乱余地
が警戒される。14-15日の米 F
RBによる FOMCでは利上げ見送りが予想され、ドル安・円高の仕掛け材料と
なりやすい。ドル/円の月足テクニカルでは、180カ月移動平均線 1
05.26円前後、150カ月線 1
02.12円前後、
120カ月線 100.
07円前後などが次なる下値メドとして意識されている。
もっとも 1
5日の米 FOMCでは、7月以降の利上げ余地が示唆される可能性は消えていない。現在の米国で
は英国問題によって過剰に長期金利が押し下げられており、国外要因による金利低下の行き過ぎは、1)不動
産・自動車ローンなどの局地バブル醸成、2)
先行き反動調整や、FRBによる利上げ地ならし再開の場合の急
激な金利の反転上昇リスク、3)
米国での先行き悲観心理の拡大と期待インフレの低下――といった弊害を招
いてしまう。1
5日の FO
MCで過度に利上げ遅延メッセージを強調すると、現在の金利低下バブルが助長され
るため、微妙に 7月以降の利上げに含みを残すシナリオも残されている。その場合は材料出尽くしとあいま
って、米債金利の上昇とドル反発が後押しされる。
同時に 14-15日の FOMCのあとには、1
5-16日に日銀の金融政策決定会合が予定されている。FOMCの直後
に日本で円高・株安が激化するようであれば、16日の日銀会合で混乱歯止めに向けた追加金融緩和措置が想
定されよう。その他の注目ポイントは以下の通り。
<米国の経済指標>
米国の経済指標は 5月の雇用統計が大幅悪化となって以降、低迷リスクが警戒されている。今週も 14日の
5月小売売上高や 17日の住宅着工件数について、前月改善の反動減速が意識されやすい。15日の鉱工業生産
も、自動車販売の改善一服や生産部門の雇用減少などで下振れが懸念される。
一方、15日の PPI
(生産者物価指数)
、16日の CPI
(消費者物価指数)といったインフレ指標は、原油反発
とドル高一服、緩やかな賃金回復などによる下げ止まりが焦点となる。最新 6月指標となる 15日の NY連銀、
16日のフィラデルフィア連銀の各製造業景況指数についても、FRBの利上げ遅延観測や資源反発、ドル高一
服などが下支え要因となりそうだ。
<英国の EU離脱を問う国民投票>
英国では 23日に EU離脱を問う国民投票が予定されており、それまではリスク回避の株安・円高やポンド
安、欧州経済への打撃懸念によるユーロ安の混乱が懸念される。引き続き日々の世論調査の結果にも、一喜
一憂となる不安定さが続く。
もっとも英国では 2014年のスコットランド独立を問う住民投票、昨年の英国の総選挙ともに、事前の世論
調査とは異なり、市場安定化を促す投票結果となっていた。今回も最終的には EU残留の現実判断が優勢にな
る可能性が高い。そのため 23日にかけては、投票後の一旦の「悪材料出尽くし」を見据えたドル/円、ポン
ド/円、ユーロ/
円などでの下値仕込み買い(円売り)のタイミングも焦点となる。
<日銀の金融政策決定会合>
15-16日の日銀による金融政策決定会合については、現状維持の失望、あるいは追加緩和でも「緩和効果
や緩和手段の限界露呈」などにより、円高の材料として警戒されている。しかし、ここに来て安倍晋三首相
の有力ブレーンである本田悦朗内閣官房参与、中原伸之元日銀理事が、揃って日銀の 6月緩和に期待感を表
明している。両氏ともに消費税増税の延期を皮切りとした「アベノミクス再点火」の再起動ボタンとして、
日銀の資産買い入れ増強を重要視している。両氏ともに 4月の日銀会合では「緩和の必要なし」と指摘し、
実際に日銀は緩和を見送った経緯があり、日銀の信認回復行動は無視できない。
しかも日本では 7月 10日に参院選が迫るなか、野党は日銀のマイナス金利が「預金者や高齢者を苦しめて
いる」として政権攻撃の材料としている。日銀からすると、金融政策を政争の具にさせないため、あるいは
国民による日銀批判の高まりで政策手段が狭まることを回避させるため、参院選前にマイナス金利の弊害を
除去させておく、工夫努力の必要性が高まっている。
<中長期スパンでのリスク回避の円高緩和>
足元では根深い世界減速懸念などで、リスク回避の円高圧力が強まっている。一方で世界経済に 6カ月程
度の先行性を有する OECD景気先行指数では、最新 4月に「先進国+主要新興国」が 3カ月連続で前月比プラ
スに転じた。20
13年 12月からの長期悪化トレンドに歯止めが掛かっている。地域別では 4月に米国が 20
14
年 7月以来の上昇となったほか、中国も改善しており、今夏から秋にかけての世界経済の底入れに微かな先
行期待シグナルが点滅し始めた。
また、日本では昨春以降、原油安や内外経済の減速などもあり、物価下落と円高の負の共振連鎖が再燃し
てきた(インフレは通貨安、デフレは通貨高の各要因)
。しかし、最新 5月の国内企業物価指数は、消費税を
除いたベースで昨年 6月以来の前月比プラス化へと転じている。同時に期待インフレと相関性の高い内閣
府・景気ウォッチャー調査では、5月に「景気の先行き判断」が 4カ月ぶりに前月比プラスとなり、やはり
昨年 5月以降の悪化トレンドが底入れしてきた。今後、英国の国民投票というノイズが除去されたあとは、
日本での期待インフレの低下・物価下落・円高という負のスパイラルが緩和される環境が整備されつつある。
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