【週】 先週のマーケットの動きを コンパクトに紹介!

週次レポート
平成 28年 7月 11日
根強い円高と当座の歯止めをにらむ
日本の政策対応、FRB政策動向、米中指標など焦点
今週の為替相場は、根強い円高圧力と当座の歯止めをにらんだ展開が予想されよう。週間予想はドル/円が
100.00-103.80円、ユーロ/円が 109
.80-1
16.80円。日本では 10日の参院選で与党が勝利したことで、
「ア
ベノミクス再点火」に向けた景気対策が注目材料となってきた。28-29日の日銀政策会合に向けては、追加
緩和を含めた政策期待が円高抑制や円反落を支援する可能性をはらむ。一方で米 FRBの利上げ遅延がドル安、
中国などの世界減速が円高の要因となるなか、FRB幹部発言や米中の指標なども注目される。
日銀会合は 28-29日、緩和期待が円高制御も
「今年の年初からは、2016年のグローバルな投資テーマとして『円安の行き過ぎ修正と日銀の緩和手段の
限界』などが先にありきの形で、海外ヘッジファンドなどから円高仕掛け(円ロング・ポジションの積み上げ)
が一つの投資ブーム、ファッションのように盛り上がってきた。当然、今年の年初段階から、6月の英国投
票はリスク回避のターゲット材料として逆算されている。過去の投資ブームの賞味期限や英国投票というイ
ベントの終了、1
-6月期の半期決算などを踏まえると、半年で『ひと相場の一段落』となる可能性を秘めて
いる」――。
日本の財務省元財務官は、7-12月の年後半相場に関してこのような見通しを示す。そのうえで「そうし
た投資戦略からすると、1ドル=100円割れは一つの達成感や円の売られ過ぎ修正一巡のメルクマールとなる
かもしれない」という分析を行っている。
一方で英国の EU離脱ショックの行方には不透明感が強く、簡単にはポンド安やリスク回避の円高は収束し
ない、という見方も根強い。欧州での金融機関不安や米 FRBの利上げ遅延観測、中国・英国発の世界減速懸
念、日銀の緩和手段と緩和効果の限界論といった問題も残存したままだ。6月 24日から続く「1ドル=100
円割れ」攻防でも、明確な達成感や円高クライマックスには疑心暗鬼のムードが漂っている。
その中で日本に関しては、1
0日の参院選で与党が勝利となり、アベノミクスの継続が国民の信認を得た。
民進党による「日銀マイナス金利政策の撤回」という公約にも国民の支持は広がらず、政府による財政出動
や日銀の追加金融緩和といった脱デフレ策が再強化されやすい環境になっている。
すでに 11日には 10兆円超の大型経済対策と追加補正予算、財源としての新規国債の追加発行といった動
きが具体化され始めた。新規の国債発行は、日銀による国債買い入れ増強などの追加緩和期待を喚起させつ
つある。28
-29日の日銀金融政策決定会合に向けては、日銀の追加緩和を含めた政策期待が、円高抑制、あ
るいは円の売り戻しの支援材料として注目されやすい。
しかも為替相場の中長期的なトレンドに影響を及ぼす経常収支では、日本の黒字再拡大のトレンドが一服
となってきた。最新 5月に黒字は前年比-2.4
%減の+1兆 80
91億円となり、2
2カ月ぶりに縮小へと転じて
いる。円高や世界減速が輸出に打撃となる一方、原油反発などでの輸入減少に歯止めが掛かっている。経常
収支は 201
4年 1月の-1兆 4561億円という赤字をボトムとして、黒字再拡大へと転換。円安や所得収支の
黒字拡大、原油急落による輸入急減もあり、今年 3月には+2兆 9862億円にまで黒字が膨張してきた経緯が
ある。
過去に経常収支と為替相場には、1
2カ月から 1
8カ月程度の時間差で相互に影響を及ぼす相関性が指摘さ
れてきた。最近では 2
014年 1月からの経常赤字縮小と黒字拡大が、タイムラグを経て「18カ月後」の 20
15
年 6月から円高・ドル安への圧力を強めている。それが現在は、円高が経常黒字の再減少を促す市場調整が
機能し始めている。今年 3月での経常黒字拡大ピークが、先行き「円高圧力の絶頂期通過」と「円高エネル
ギーの減退」につながっていく潮目の変わり目が注目されよう。その他の注目ポイントは以下の通り。
<参院「改憲勢力」3分の 2超えの影響>
10日の日本の参院選では与党が勝利し、憲法改正に前向きな勢力は、改憲発議に必要な全議席の 3分の 2
を超えた。外国人投資家などの間では、
「安倍晋三首相は政治的な悲願である憲法改正に傾注し、経済政策は
軽視と慢心が一段と強まる」、「中国などの周辺国を刺激し、東アジアで地政学リスクが高まる」といった影
響が警戒されている。改めてリスク回避の円高・株安の材料となり得るものだ。
しかし、安倍首相は国内外での「改憲警戒」を和らげるために、経済政策の大型化による経済重視姿勢の
アピールに打って出ている。同時に憲法改正が現実の可能性として目前に迫ってきた以上、経済再生とデフ
レ完全脱却の有言実行により、1)国民の安倍政権「軍拡タカ派」警戒を完全払拭させる、2)年末などに想定
される衆院総選挙で、堂々と「憲法改正」を争点に掲げる、3
)安倍首相は改憲悲願に向けて、2
018年 9月
までの自民党総裁任期の延長を狙う――といった丁寧な配慮を強め、経済政策面での緊張感付与の効果も期
待されている。
<米雇用統計改善を受けた FRBの金融政策>
前週末の米 6月雇用統計は大幅な改善となった。それでも大幅悪化となった 5月分が一段と下方修正され
たことや、失業率、賃金の伸び悩みなどにより、米 FR
Bの利上げ遅延観測に大きな変化は見られていない。
今週も FRB幹部の講演などで、雇用や利上げに慎重姿勢が見られると、ドルの戻り売り要因となる。
一方で前週末の米国株市場では、雇用改善の中での利上げ遅延期待により、米国株は大幅上昇となった。S
&P500などは、改めて過去最高値の更新攻防に直面している。米国では 1
0年債金利が過去最低を更新する
なか(債券価格は高騰)、住宅や住宅関連株、不動産市場に再加熱が見られている。その中で過度に利上げ遅
延メッセージを強化させると、資産バブルを増幅。先行き倍返しの反動的な混乱や景気急減速といったハー
ドランディングの芽を増幅させてしまう。そのため F
R
Bによる実際の利上げはともかく、FR
B幹部から利上
げ遅延への過度な楽観論を牽制するようなタカ派(引き締め重視)発言が出てくる可能性に注意を要する。
<米国の経済指標>
米国市場では今週、雇用統計の改善を受けた経済指標が注目される。14日の生産者物価指数(PPI)
、15日
の消費者物価指数(C
PI)については、原油反発やドル高一服などによる物価の下げ止まりが焦点になる。15
日の小売売上高については、金利低下の影響や住宅・自動車販売の良好さ、ガソリンスタンドの売上復調な
どが下支え要因となりそうだ。
一方、最新 7月分の指標となる 15日の N
Y連銀製造業景況指数、ミシガン大学消費者信頼感指数に関して
は、6月 23
-24日の英国における EU離脱を問う国民投票での離脱派勝利ショックが悪影響となる。また、
米国株市場では 11日から決算発表が本格化する。英国ショックなどが下振れ要因となり、決算内容に一喜一
憂となる不安定相場が警戒されよう。
<中国の経済指標>
中国市場では 13日に貿易収支、15日に小売売上高や鉱工業生産、4-6月期の GDPといった重要指標が相
次ぐ。最近の中国指標は減速が一服となっており、今後の政策期待などもあって、過度な中国懸念の一服が
期待されやすい。前週末 10日に公表された中国の物価指標に関しても、過度なインフレ懸念とデフレ不安を
抑制させる内容となっていた。中国の指標が落ち着いた内容となれば、豪ドルや NZドル、ブラジル・レアル
といった資源国通貨の自律反発の流れを支援していく。
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