週次レポート 平成 27 年 3月 16日 ドル高とクロス円の円高「綱引き」持続

週次レポート
平成 27年 3月 16日
ドル高とクロス円の円高「綱引き」持続
日米中銀会合、米指標、米株と原油など焦点
今週の為替相場は、根強いドル高とユーロ/円などクロス円での円高圧力との綱引き持続が想定されよう。
週間予想はドル/円が 1
19.50
-122.5
0円、ユーロ/
円が 124.30
-131.
80円。17-18日の米 F
OMCでは利上げ
地ならしの前進が注目されており、中長期スパンでのドル高見通しは根強い。一方で利上げ警戒による米株
安や、ドル高と裏表の原油安などはリスク回避の円高要因となるほか、日銀政策会合での追加緩和期待の後
退や米指標悪化、米国のドル高牽制などは、短期調整のドル安や円高を促す余地がある。
ドル/円、対ユーロでのドル高に「出遅れ修正」余地
「欧州中銀(ECB)
のドラギ総裁にはマイナス金利幅の拡大を狙った追加緩和策の温存説があり、それが米ゴ
ールドマン・サックスによる 13日のユーロ安見通し下方修正につながっている」――。
米系証券出身の在香港ヘッジファンド幹部は、このような解説を行う。ゴールドマン・サックスは 13日、
ユーロ/
ドルの 1年後の見通しを 0
.95ドル(1月予想時は 1.08ドル)
、2016年末を 0.85ドル(1
.00ドル)、201
7
年末を 0.8
0ドル(
0.90ドル)とそれぞれユーロ安方向に引き下げた。これまでに米 FRBはデフレの水際阻止
のため、2008年から 3度の量的緩和(QE)
増強を行ったほか、日銀はデフレ完全脱却に向けて 2013年から 2
度の量的質的緩和の強化を断行している。やはりデフレ封じ込めに全力を注ぐドラギ総裁が、追加の緩和措
置と実質的なユーロ安誘導の長期化を画策する可能性は排除できない。
もっとも同幹部は、
「個人的には 1ユーロ=0.9ドル前後が良いところと見ている」と指摘するほか、短期
的にもユーロ安に過熱警戒感が高まってきた。ユーロ/
ドルのテクニカルでは、フィボナッチ分析で 2000年
のユーロ最安値から 200
8年のユーロ最高値に至る上げ幅の“61.8%押し”1.121
3ドル前後を下抜け、次な
る下値メドとして 7
6.4%押しの 1.0
073ドル前後が視界に入っているが、同レベルまでには 1.0
500ドル前後
の節目や、2003年 1月の安値 1.0
336ドル前後といった節目抵抗線が残されている。短期的には 1
7-18日の
米 FOMCでの材料出尽くしなどを受けて、ユーロが一旦の下げ止まりとなる余地も消えていない。ここに来て
ロシアのプーチン大統領に健康不安説が浮上してきたことなども、欧州周辺の地政学リスク緩和を通じたユ
ーロの買い戻し材料として注視される。
一方、ドル/円はユーロ/ドルを含めたドル全面高がドルの下支え要因となっているが、ユーロ/円を中心と
したクロス円での円高圧力により、ドルの上値が抑えられている。前週からは原油相場が根強い世界需要減
退と過剰供給の見通しやドル高などを受けて再下落しており、豪ドルや NZドル、カナダ・ドルなどの資源国
通貨の戻り売り圧力が高まっている。
しかも原油安のほか、米 FRBの利上げ警戒などによる米国の株安が、クロス円ではリスク回避による円高
要因となってきた。今週も原油と米株の続落、さらには日本株の調整下落次第でクロス円主導の円高余地が
残る。しかもユーロや資源国通貨が調整反発に転じるようなら、今度はドル全面高が一服。ドル/円でも、短
期的にドル安・円高が強まる余地が残されている。
その反面、中長期スパンでは、対ユーロなどでのドル全面高に対して、ドル/
円はドル高の出遅れ感が広が
ってきた。ユーロ/ドルの直近のユーロ高値(ドル安値)
は 2月 4日の 1.
1534ドル前後であったが、同日から
3月 16日までにユーロは対ドルで-7.
8%の下落となっている。それに対して円は-3
.1%の下落にとどまっ
ており、ドル/
円では追随円安(ドル高)の潜在エネルギーが蓄積されてきた。
昨年もユーロ/
ドルは 7月 22日前後の 1.3
5ドル割れからユーロ安・ドル高が加速されたが、当初ドル/円
はユーロ/円などでの円高により、しばらくは円高局面やレンジ横這いが続いた。その後、
「約 1カ月遅れ」
にあたる 8月 20日前後から、ジワリとドルがレンジ上放れへと移行。8月 20日の 10
2-103円前後から、10
月 1日の 110円トライまで、遅行ドル高が波及した実績を有している。その他の注目ポイントは以下の通り。
<日銀の金融政策決定会合>
日銀は 16
-17日、金融政策決定会合を開催している。日本では現在、原油急落などで消費者物価指数(CP
I)
の一時的な前年比マイナスの可能性が高まっているが、物価下落の中でも日銀が現状維持を決めると、短期
調整的な円高材料となりやすい。さらに現在は賃上げや株高などにより、デフレ脱却の機運が高まってきた。
日銀の黒田総裁が先行きの景気回復や物価の再上昇に強気姿勢を示すと、当面の緩和期待が後退。世界的な
金融緩和競争が激化する中で、日銀の追加緩和観測が後退すると、短期的にクロス円主導での円高が後押し
される余地が残されている。
<米国の FOMC>
米国の FRBは 17-18日に FOMCを開催する。2月の雇用統計の改善もあり、声明では「忍耐強く低金利を維
持」の文言削除の可能性が高まってきた。もっとも現在のドル高局面で、過度に 6月利上げの観測を高める
と、ドルの一段高が米国の外需悪化やインフレの低下、株価の下落を後押しさせる副作用を招く。すでにド
ル高自体がインフレ抑制効果を有しており、FRBが一段のドル高リスクを勘案し、慎重なペースでの利上げ
を強調するハト派(
金融緩和支持)
トーンの可能性も消えていない。その場合は短期的なドル安要因となる一
方、米国株や原油相場の反発がクロス円での円安(ユーロなどの欧州通貨や資源国通貨の上昇)を促す余地を
秘めている。
ただし、FRBの利上げ時期が 9月に先送りされたとしても、ドルの先高余地がドルの押し目買い地合いを
支援していく。F
RBは「忍耐強く」の声明削除により、今後は毎月の指標を確認しながら、フリーハンドで
利上げの時期を判断することになる。今後は毎回の F
OM
Cのたびに利上げ地ならしの前進が警戒されることに
なり、ポジション調整によるドル安を経ながらも、ドルは緩やかに下限を切り上げていく展開が想定される。
<米国の経済指標>
米国の指標は、寒波や世界減速、ドル高、医療保険改革(オバマケア)を受けたヘルスケア負担の上昇など
により、伸び悩みが目立っている。今週も 16日の NY連銀、19日のフィラデルフィア連銀による各製造業景
況指数や 17日の住宅着工件数などの下振れが警戒されやすい。
ただし、前週の週間・新規失業保険申請件数は改善(
申請は減少)するなど、最新 3月指標では寒波影響の
一段落も見られ始めた。13日公表の最新 3月ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は悪化したものの、
「1
年後のインフレ期待」は 3.0%となり、2月の 2.8%から上昇。9月以来の高水準を回復している。原油安や
ドル高、賃金低迷の中でも米国のインフレ期待は修復傾向にあり、緩やかながらも米国債金利とドルの下限
切り上がりトレンドがサポートされる。
<日本の賃金改善と脱デフレ>
日本では春闘が大詰めを迎えるなか、大企業を中心に賃金の引き上げが目立ち始めた。賃上げは日本の物
価上昇と脱デフレを後押しさせるもので、1)円高・デフレの逆流回転持続(
デフレは通貨高、インフレは通貨
安要因)
、2)
日本の株高支援によるリスク回避の円高抑制(海外勢は日本株投資で賃上げを重視)
、3)
日本の家
計所得改善による外貨建て資産投資の拡大――などの経路を通じ、ドル/円を中心とした円安トレンドを維持
させる。過去にも日本の給与総額が改善してくると、半年から 1年程度のタイムラグを経てドル高・円安が
後押しされる相関性を有している。
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